20. 高性能な王座
「ってまあ、そのくらいで逃げ切れたりはしないよね……」
暗黒城正面。久しぶりに帰ってきた俺の両腕には、二人の召喚術師が抱きついていた。
「お師匠! 絶対放しちゃダメですよっ。まったく、シュウトさまは少し油断したらすぐいなくなるんですから!」
「わかっていますよ、レーナ。シュウトさん、私を置いていくなんて許しませんよ」
完全に密着しているレーナとアリカが邪魔で上手く歩けない。さっきからレーナの豊満バストとアリカの控えめバストの感触がやばいし、もう逃げないからどいてくれよ、二人とも……。
ギルダム中央村にレーナたちを置いていこうとした俺だったのだが、結局、『地獄骸』たちと出発してからそれほど経たないうちに、気付いたレーナたちに追いつかれ、それからはずっとこんな感じだった。
女子二人に容易く追いつかれるとは、と普通の人は思うだろう。だが、彼女らはまさかの方法で移動したのだ。そう、アリカの牛たちの小脇に挟まれるという、物的な扱いの移動方法によって……!
レーナとアリカを完全に荷物扱いして爆走してきた牛たちは、遠目から見れば新手の郵便屋さんに見えないこともなかった。いや、実際は見えないけども。気持ち的にね。
どうでもいいことだが、あの筋肉質の牛たちにもちゃんと名前があるらしい。『生娘を守る闘牛』ということだが、彼らが守っているのがアリカだということを考えると、つまりアリカは……。
「ところで、アリカって何歳?」
「へ? な、なんです? 脈絡なさすぎて怖いですよ、その質問」
唐突に年齢を訊ねた俺のことを、アリカは不審そうな目で見てきた。
いや、俺としては微妙に繋がっているというか、なんというか。
「私は二十四歳ですよ。ちなみに、レーナは十七歳です」
アリカは怪訝そうな顔を崩さなかったが、特に年齢について聞かれることが嫌なわけではなかったようで、普通に答えてくれた。アリカはレーナと比べるとだいぶお姉さんだと思っていたが、実際の年齢を聞いてみると、俺よりは年下だった。
まあ、俺より年齢が高くても、タメ口に抵抗が出てきてしまうし、ちょうどいいともいえる。そんな小さな疑問を一つ解決しつつ、俺たちは後方にアンデッド軍団の一部と牛を引き連れて、暗黒城へ入場を果たしたのだった。
「暗黒城の防御は厳重にしろ。今の簡易塀だけじゃ、いざって時はどうしようもない。必要なのは、確かな城壁と防御兵器だな」
暗黒城五階の王の間にて、俺は『地獄骸』に指示を出していた。当面の問題は材料。だが、それにはすでに手を打ってある。
あらかじめ、城の周囲でいくつかの文字召喚を行っておいたのだ。
召喚したのは、『失敗した錬金術師』二体である。
彼らの能力、それは周囲の素材を木材や石材に変質させるというものだ。
もちろん名前の通り、金にだけは変えられない。別に「金にも変えられる」という設定にすれば、おそらく、金に変質させることも可能なのだが、なんとなく仕事としてモンスター設定を考えていた身としては、そういう欠点があった方が愛される気がして、そんな要素で構成してしまった。
とにかく、『失敗した錬金術師』の能力があれば、骨を生み出すモンスターたちと組み合わせることで、簡単に塀を作ることができる。軽い骨でまず形をかたどって『失敗した錬金術師』の能力を使えば、それほど多くの人員を使わずに、工事を進めることが可能だろう。
「……よし、とりあえずはこんなとこだろう。にしても、『地獄骸』。わざわざこの王の間で話す必要あったのか? 別に下でやればよかったんじゃ?」
すると、『地獄骸』は首を横に振った。
「今のうちにお見せしておきたいものがあったのです、召喚主。どうぞ、こちらへ」
そう言って『地獄骸』が立ったのは、あの豪華な王座の真横だった。彼は俺を呼んで王座を示す。座れということだろう。
「嫌だ。そこに座ったら、魔王に認定される」
「そう仰らず。実はこの王座、ただの王座ではないのです」
「ただの王座じゃない?」
そう言われてしまえば、好奇心も出てくる。
俺は嫌々ながらも、その王座に座ってみた。
すると、目の前に大きなウィンドウのようなものが表示される。
「うわぁ! なんだこれ!」
俺が驚きの声を上げると、『地獄骸』は、はっはっはと笑ってみせた。
「それは魔法を用いて作られた、戦略考案魔法具なのですよ。召喚主」
「戦略考案魔法具……?」
俺が改めてウィンドウを覗くと、そこには何やら地図らしきものが映っている。丘のようなものから、村のような表示まで。しばらく眺めて、俺は気付いた。
「これは……周辺の地図か?」
「いかにも。設定を変えることによって、我らの現在地、今まで行った村の場所、仲間や敵、召喚モンスターの位置を全て表示することができます」
「な、なんてハイテク機械……いや、魔法具だっけ? でもなんで、わざわざこの王座にこんな機能をつけたんだ?」
「こうでもしないと、召喚主が王座に座ってくれないだろう、と配下の技術アンデッドたちが頭を悩まして、付加価値をつけたようですな」
「えー、なにそれー……」
そこまでして、俺をここに座らせたいのか。
だが、この機能はこれからのことを考えると、非常に大事なものだと思う。
どこかの勢力とまともにぶつかれば、きちんと指揮を執る必要が出てくるだろう。その時の戦場把握に、この王座はぴったりだった。完全にアンデッドたちの思惑通りである。
「釈然としないが……でも、この機能はありがたい。これから使っていこう」
「はっ。配下のアンデッドたちも喜ぶでしょう。召喚主がやっと王座に座ってくれた、と」
「……別の場所に作り直すという手は?」
「応じないでしょうな」
「召喚主なのに、そういうとこ歯向かってきたりするよね……」
なにはともあれ、また一つ、俺は強力な魔法具を手に入れたようだった。
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