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02. 文字召喚

「我らが召喚主しょうかんしゅよ。御身の言葉は絶対。いかなる命令であろうと必ずや遂行してみせましょう」


「えー」


 俺、軽く引き気味です。

 だって、俺を召喚主と呼んだのは、骸骨の頭に腐りかけの腕が八本。ローブを着ているが、腹の辺りが破けており、そこから二つの大きな瞳が覗いているという完全な怪物なのだから。


「あのー、召喚主って?」


 恐る恐る聞いてみる。頭部の骸骨を見て喋ればいいのか、お腹の目を見て喋ればいいのかもわからないけれど、とりあえず頭部を見ることにした。そんなことも知らないのか! と態度が変わったりしないことを祈りながらの質問だったが、怪物は恭しい態度を崩さないまま回答する。


「我らは崇高なる文字召喚によって顕現することを許された、大変光栄な立場。そして、文字召喚を行ったあなたさまは、我ら暗黒の民の主ということになります」


「文字召喚……って単語も気になるけど、今、暗黒の民って言った?」


 妙に聞き慣れた単語が出てきて、俺は思わず訊ねる。ずっと見ていれば、頭が骸骨でも腕が八本の恐ろしい姿でも慣れるかも……と思ったけど、さすがにそんなことはない。すごく怖い。


「はっ。我らは暗黒の概念世界に存在するモンスター。暗黒の民と呼ばれる種族でございます」


 やっぱり、間違いない。暗黒の民、それは俺が関わっていたゲームに出てくる設定だ。暗黒の概念世界という場所に住み、普段は実体を持たない。それは目の前の怪物が言ったのと一致していた。


 そうとわかると、なんだか目の前の怪物にも見覚えがあるような気がしてくる。

 骨の頭蓋に腕が八本……。


「って、お前、俺が考えたモンスターじゃないか!?」


 そうだ。思い出した。

 さっき黒い光に包まれてどこかに消えてしまった、俺が制作した紙資料。

 その中に書いてあったモンスターのうちの一体だ。

 確か名前は、『地獄の骸と腕』である。


「その通りでございます、召喚主さま。文字召喚とは、文字によって記述された外見・内面的特徴をそのまま持ったモンスターを生み出す魔法。つまり、ここにいる120体の暗黒の民は、全てあなたさまの配下なのです」


『地獄骸』はそう言って、また畏まった風に頭を深々と下げた。俺でも上司にここまで頭を下げない。なるほど、話が見えてきた。思い出してみれば、あの設定資料は暗黒の民をまとめたものだった気がする。だから、ここにアンデッドみたいな奴らばっかりが密集してしまったのだ。


 どうせなら、可愛い女の子モンスターが多い種族が良かったと思わないでもないが、自分の作ったモンスターたちだと言われると、暗黒の民もなかなか可愛い気がしてくる。


「それで、召喚主さまはこれから何をなさるおつもりでしょうか? 我々を一度にここまでの数、召喚したとなると、どこかの町の襲撃計画でもあるのですか?」


 物騒なことを口にする『地獄骸』。俺は慌ててそれを否定した。


「いや、そんな殺伐としたことはしないって! 俺はこの世界に来たばっかりで何もわからないんだ。当然、今後の予定もまだ決まってない」


 辺りを見回すと、人間型骸骨のモンスター『雑魚と呼ばれる死後』や、玉座に座ったままの『堕落した王冠』などが期待を込めた瞳でこっちを見ていた。襲撃するんだろ? そうなんだろ? とばかりに目を輝かせている。


「血気盛んすぎだろ、お前ら……。ちょっと落ち着いてくれ」


 俺の制止にみんな、しゅん、と落胆した表情を浮かべた。モンスターの癖に感情表現が上手い。顔が骸骨の奴なんかは表情すらわからないけれど、落ち込んでる感じはよく出ていた。


「まずは町を目指したい。今日、泊まる場所もないし。普通に草原にモンスターいるかもしれないから、護衛用に強い数匹だけ残して、あとの暗黒の民には帰ってもらえるかな?」


 俺がそう提案すると、


「…………」


『地獄骸』はものすごい威圧感と共に沈黙した。怖すぎるって。


「お、怒ってるのか? 俺、なんか変なこと言った?」


 威圧感に恐怖しながら問いかけると、『地獄骸』は少し何かを考えた後、重そうな口をゆっくりと開いた。どうやら、怒っているわけではなさそうだ。


「――申し訳ございません。召喚主」


「……え?」


『地獄骸』の口から出てきたのは、まさかの謝罪だった。もしかして、長い時間顕現することはできないから同行は不可能、とかだろうか。それなら納得である。別に謝る必要もない。文字召喚術というのは聞いたことがないが、そこまで万能なものでもないだろう。


 と、思っていたのだが……。


「我らは一度顕現してしまうと、死ぬまで消滅することは叶わないのです」


「は?」


 真逆である。そして、その意味は色々な問題を孕んでいる。

 一度呼び出したら、ずっとこの世界に顕現し続けるということからわかることは二つ。


 恐らく、文字召喚術は超強力かつ、有用な魔法であるということ。この世界の国家のあり方はわからないが、周囲を観察する分には中世辺りの世界観だ。そんな世界に、異形のモンスターを容易く作り、顕現させるこの魔法。冗談じゃなく、町を襲撃などしようものなら、あっさり征服できてしまいそうだ。その辺りは他にどの程度のレベルの文字召喚術師がいるかにもよるのだが。


 そして、もう一つわかること。それは。


「この外見の奴ら120体を引きつれてその辺歩いたら、すごく目立たない?」


「まず、注目の的でしょうな」


「というか、町に入れてもらえるかね……」


「無理でしょうな」


「くっそおおおおおおおーーーーー!!」


 俺は一人で叫び声を上げる。こんなアンデット系の奴ら120体も連れて歩くなどパッと見、ただの魔王だ。どうすんだこれから。マジで。


「それなら、まずは我らが拠点を作って差し上げましょう。そうすれば、衣食住には困らなくて済むはずです」


『地獄骸』の提案はなかなか的を射ている。簡単な拠点があれば、当面は生きていけるだろう。百体以上もいれば、一日である程度のものは作れるはずだ。骨を無限に作り出す能力とか持たせた奴もいるから、簡単な建築物を作ろうとしたとしても素材には困らない。他の奴らも応用次第で、色々なものが作れそうである。


「仕方ない……そうしようか」


 俺が首を縦に振ると、『地獄骸』は、その場にいる暗黒の民全員に号令をかける。


「聞いたか! 我が召喚主のご命令を! 迅速に、堅牢な暗黒城を建築するのだ! かかれ!」


 その号令に対し、120体のモンスターたちは一斉に雄叫びを上げる。その雄叫びは地面を揺らし、木々を揺らした。大丈夫かな、とちょっと心配になるほどである。


「あの……暗黒城とかはやめてね……。魔王と勘違いされても困るし。簡単な奴でいいから……」


「わかっておりますよ、召喚主!」


『地獄骸』も謎にテンションを上げて、モンスターを役割ごとのいくつかの集団に分け始めた。そういえば、『地獄骸』はゲーム内でSS級、S級、A級、B級、C級、D級に階級分けされた中のS級だったなー、S級は指示出しもできるんだなーと、俺はなんだか妙に感じる不安から逃避するようにそんなことを考えていた。


「マジで暗黒城とか作らない、よね……?」




〈今回のモンスターデータ〉

・『地獄の骸と腕』S級

頭部は骸骨、腕は八本。腹の辺りにはさらに二つの瞳がある。

人間から奪ったローブを着ており、そのいかつい外見に反し、部下のことを気に掛ける世話好きな面もある。


・『雑魚と呼ばれる死後』D級。

全身が人間の骸骨で出来ている。よくいる最底辺モンスター。いくら生前強かろうと、お金があろうと、今はただの雑魚。


・『堕落した王冠』A級

基本的に王座から動かない、骸骨系モンスター。草原とかでも平気で玉座を設置して座る。そういう設置仕事をするのは、だいたい『雑魚と呼ばれる死後』である。けど本気で戦うと強いから、部下たちも逆らえない。

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