再会・再開?
七瀬は帽子を飛ばされないように苦労しながら、僕をヘリの中に押し込む。
僕の髪はヘリの巻き起こす風でボサボサだ。
ヘリの中を見回すと、ヘルメットにフライトジャケット姿の白人が数名いた。
物珍しそうに僕を見ている。
おそらく、彼らはアメリカ海軍の兵士なのだろう。
七瀬が「よいしょ」と僕の隣に座った。
兵士により扉が閉められ、ヘリのエンジン音が大きくなる。
僕は窓に手を付き、外を見た。
公園にいた大勢の人たちが、ヘリの周りを取り巻いている。
携帯端末で写真を撮っている人も多い。
その中、ヘリはゆっくりと上昇を始めた。
頭を窓に押し付け、小さくなっていく人を見下ろしていると──。
「おい、大人しく座ってろ」と七瀬が僕を座席に引き戻し、
「短い時間だから我慢してろ」と何かを僕の顔に被せた。
目の前が真っ暗だ。
「これ、何なの!」と僕は抗議した。
「これからどこへ行くかは、機密事項だからな。十分ちょっとだから、辛抱してくれ」
七瀬の言葉の直後、今度はヘッドフォンみたいな感触の物を装着され、声も聞こえなくなった。
感じるのは小さくなったヘリの騒音と、振動だけだ。
息をするのもちょっと苦しいが、我慢できないほどではない。
七瀬に何か話しかけるにも、声も聞こえそうにないので、僕は黙っていた。
まあ、我慢するだけで、麗ちゃんに会えるなら、気楽にいよう。
そんなことを考えた。
しかし、生まれて初めてのヘリコプター搭乗がこんなじゃ、もったいない気もする。
外の景色を眺めたかったなあ……。
真っ暗でいると、時間が経つのも長く感じる。
まだかなあ、と退屈さが我慢できなくなった頃、耳の圧迫感がなくなり、凄まじい騒音が僕の耳を襲った。
その後、マスクか何かも外され、やっと外が見えるようになった。
僕は隣の七瀬に「もう着くの?」って訊いたが、ヘッドセットをしている七瀬には聞こえないようだ。
七瀬は僕にヘッドセットを渡し、ジェスチャーで頭に付けろと指示した。
ヘッドセットをすると騒音も軽減された。
外を見ると、海の上だった。
穏やかな波が、光を反射し鰯の鱗みたいにきらめいている。
一体、ここはどこなんだろう?
十分くらいだから、まだ東京湾かなあ?
そんなことを考えていたら、遠くに羽子板のような形の船が見えた。
その形がどんどん大きくなっていく。
ヘリはその船に近づいているようだ。
見ると、その艦上には戦闘機がたくさん載っている。
これって、航空母艦だよね!
「航空母艦だよ! 航空母艦!」
空母を指差し、七瀬の袖を引いたが、七瀬は面倒臭そうにうなずくだけ。
興奮してしまったが、七瀬には既知の事実なのだろう。
訴えても仕方がなかった。
僕は初めて間近に見る空母に心臓がバクバクだ。
ヘリは降下を開始し、艦上の戦闘機が徐々に大きくなった。
僕は顔をグルグル動かし、その光景を目に焼き付けようとした。
やがて、着地の衝撃があり、ヘリの騒音がゆっくりと収まっていく。
外では整備兵らしい人たちが、足早に何か作業をしている。
彼らがヘリから離れると、一瞬の振動の後、ヘリが沈み始めた。
どうやら、ヘリが降りたのは昇降機の上だったようだ。
分厚い空母の甲板の断面を横に、ヘリは薄暗い艦内に降りていった。
◇◆◇
甲板の下に降りると、兵士が急いで降りろとばかりに、手で慌ただしく指示した。
シートベルトを外し、急いでヘリを降りる。
七瀬と僕は兵士に背を押され、昇降機の外に出た。
そのヘリは再び甲板上に上がっていき、陽の光が届かなくなった艦内はさらに暗くなった。
僕はほの暗い艦内を見回す。
艦内照明に照らし出されるのは、格納された戦闘機群。
壁際で縦になっている戦闘機もある。
そんな薄暗がりの中、奥の方に異質な物体があった。
バスほどの大きさの楕円形の物体。
大きさは違うが、僕はこんな形状の物体を過去にも見たことがある。
あれは……。
「何、ぼうっと突っ立ってるんだ。お前がお待ちかねの人物がいるぞ」
七瀬が僕の肩を叩き、楕円形の物体を指差す。
その物体から降りてくる人影が見えた。
僕は、その人影に向かって走った。
運動不足のせいか息が切れる……。
けど、ようやく逢えるんだ……。
その人物の前に辿り着いた。
僕が見上げると、長身のその人物は僕を見下ろし、
「やあ」と笑った。
それは、久々に目にする僕の苦手な笑顔だった。