第1話 漫画やラノベではかなり使い古された異世界召喚されました
(さて、どうしたもんか)
右手には圏外のスマートフォン、左手には何もない、ポケットには開封済みのガム、そして前方には言葉の通じる外国人の数々。
陸は自分の置かれた状況をもう一度確認する。外観は石作りの広場、そして流暢過ぎる日本語を話す外国人。
鎧とかローブの服装、何かの動物の耳や尻尾を生やしているからコスプレパーティーかと陸は最初思ったが先ほど見たのは8月のカレンダー。ハロウィンまではかなり先だ。
「だがあれ確実に直で生えてるよなー。耳とか尻尾動いてるし」
陸がじーっとそれらを生やした人たちを見ているとそれに気が付いたのか一人の女性が速足で去っていく。
「これじゃー変態だろ俺」
だがそれだけでない。通り過ぎる人々が陸のことを奇妙なものを見るように通り過ぎていく。
ため息をしながら装備を確認する。
近場のユ〇クロで買ったジーンズにギャルゲーを買ったときの付録であるヒロイン痛Tシャツ。
普通のセールで買った安物スニーカー。
後は先ほど述べたスマートフォンとガムのみ。
確かに銀座を歩いていたらここは秋葉原じゃありませんよ?と言われんばかりの勢いだ。
だが全員がそういう目で陸を見ているわけではない。
「これってあれだよな」
ため息を付き、
「異世界に飛ばされたってやつ」
陸が光に包まれて目を開くとそこはベンチの上だった。
先ほどまで部屋の中にいたのに何でベンチ⁉って陸は思う前にその石造りの建物、馬車、そして外国人、亜人と言うのだろうか。ゲームでよくある中世ヨーロッパの街並みに歩いている異種族が歩いている図を思い出す明らかにおかしな状況が起きているのだ。
「ゲームに吸い込まれたかと思ったがあのギャルゲーにこんな街なかったがギャルゲーに出てきた種族がチラホラいるから【異世界漂流記の恋物語】に近い異世界、つまりパラレルワールドに飛ばされたと考えるのが妥当か?それでも信じがたい現象に変わりはないんだが」
陸はよくわからない状況を自分なりに把握しようとした。目を開くまで1分も経過していないことからすぐさま異世界だと理解したわけだがいろいろと考えた結果問題点が浮上した。
「金が一銭も無い」
元々財布を持っていなかったがそもそも使用されている通貨が違う。よくファンタジー漫画で見るような売店で通貨を見たが銀や銅を使用していたところから金貨、銀貨、銅貨を使用する世界だと推測した。
ということはわかったが陸が直面している問題の捉え方に問題があった。
「異世界って飛ばされたら確か金銭って困らないのがセオリーだよな?なのにゼ〇使みたいにそばに飛ばした金持ちの張本人がいるわけでもないし、ノ〇ノラみたいにゲームですべてが決まる世界ってイベントが起きないし俺どうやって資金調達すればいいんだよ」
引きこもり予備軍であるがコミュ力は無駄にあるオタク少年陸には真面目に働くという選択肢はでなかった、いやむしろ人に養われる予定の近年稀にみるクズ思考だった。
(とりあえず歩いて情報収集でもするか?一応この町の住人に日本語は通じるみたいだし)
酒場でも探してみるか?と街を探索しようと足を歩めようとしたとき
「や、やめてください」
と近くの裏路地から声がした。
その声が気になり陸はその裏路地に足を運ぶ。石作りと言うこともあってか手入れをしていないからなのかところどころから草が生えている。
その裏路地の少し先。そこにファンタジー世界で良く見る野党に絡まれている白色の髪の毛をした女の子がそこにいた。
「おい、金目の物置いていきな」
「お、お金なんて持っていません」
(おいおいこれってもしかしてギャルゲーで言うイベントか⁉けどセリフがテンプレすぎんだろ悪党達……)
その光景を肩を落とし呆れながら物陰から覗き見る陸。悪党の人数は二人でその内一人はモミアゲと繋がった髭を生やした大柄の筋肉質な男、もう一人は細身で小柄だがいかにも悪人面である。
一方女の子は獣人というのだろうか耳と尻尾、そしてあまり身分が高いとは言えないボロボロの服を着ていた女の子がそこにいた。
(なにあの子⁉獣耳の美少女⁉まさか生で拝める日が訪れようとは異世界様深く感謝しておりまする!!!)
そんな残念な感想を陸は思いながら目を輝かせる。
「じゃあ、これはなんだろーな?」
小柄の悪党が女の子が持っていた袋を取り上げた。小柄の悪党はその袋から明らかに値打ちがありそうな青色の宝石がブローチを取り出した。
「へー上質なブローチ持ってるね君」
「か、返してください!それはお母さんが残したブローチなのです!」
女の子は悲しそうに取り返そうとするが小柄の男は奪い返されかけると大柄の悪党に薬をパスするなどして完全に遊ばれている。
(一応俺が助けるって選択肢が妥当だろう……だが相手が悪い。明らかにケンカ慣れしている悪党が一人ならまだしも二人ときた。これで負けたらゲームオーバーだろうし人を呼んで助けるのが定石だろう。最近のギャルゲーはかっこよく登場してもゲームオーバーのパターンあるし。うん、そうしよう)
明らかに見捨てる気満々のヘタレは大通りで人を呼ぼうとその場からフェードアウトしようとする。
「へーでも【貧民】のお前を助けようとする人なんているのかなー?」
その言葉を聞き陸は足を止めた。
「ああ、お前みたいな奴を助ける平民も憲兵もいやしねーよ」
「だよな!」
がははははと笑う悪党。
(憲兵ってのはつまりこの世界の警察ってことだよな……)
陸は拳握りしめ振り返る。
明らかな怒りを示していた女の子の目が悲しみの表情に変わる。いや、その眼はすべてを諦めたようなそんな色をした。そして女の子は奪い返すのをやめ手をだらんと下した。 それを見て勝利を確信したかのように悪党達がにやける。
つまり誰も彼女を助けないということだ。
そして
「返してあげな」
陸がそう声を発した。
「え……」
女の子が顔を上げた。
「あ?誰だよテメェ?」
「ただの通りすがりだ」
陸が物陰から姿を現して悪党たちを睨み付けたがそのオタクTシャツの所為でその姿はかっこ悪く見えてしまう。
一応かっこいい登場の仕方をした陸であるがその声に反応した悪党二人の悪人面を見て若干ビビる陸。
(やっべー超怖ぇーー)
否、かなりビビっていた。だが陸は震える手足を無理やり押さえつけ睨み返した。
(けど、ビビってても仕方ねーよなーこうでもしないとあの子ブローチ奪われちゃいそうだったし)
「ふーん、誰か知らねーけどこいつは見ての通り貧民だ。その貧民が普通持ってるはずがない薬を持ってるたから俺が憲兵に届けてやろうと思ってな」
小柄の男は白々しくそう言った。見た目と先ほどの言動からして憲兵に届けるわけがないのは周知の事実だ。
「へーでもお前らも結構貧相ななりしてるよね」
ビビッている姿を見せないように陸は不敵な笑みを浮かべながら言う。その言葉を聞いた女の子は顔を上げ悪党は怒りを見せた。
「ちっ、お前は痛い目をみたいようだな」
大柄の男がそう言いながら指をポキポキと鳴らしながら陸を見下す。陸は冷や汗をかきながら心では人を呼ばなかったことに涙を流した。陸は内心(やっべーぶっ殺される‼)と思いつつも一つ手を思いついたようだ。
「本当は使いたくねーんだけどお前らがその子から手を引く気がないのなら仕方ねー後悔しても知らねーぞ?」
そう悪党二人に聞こえるようにそう言って陸は耳にかけた眼帯の紐に指を通す。
そしてワザと恰好を付けて眼帯を外し、そして閉じていた右目をゆっくりと開いた。
陸のその眼は驚くべきことに碧色に輝きその場の空気を飲み込む錯覚を得る。そんな澄んだ色をした碧色の眼をしていた。
「な、なんなんだよその眼は」
先ほど笑っていた悪党二人だが笑顔が消え、大柄の男もそのプレッシャーに気が付いたのかそう言った。小柄の男もそれに気が付いたのか身構えている。
(やっぱ俺の身体能力が上がってるとか何か特殊な能力が付いたとかそういう事は全くなさそうだな)
自分の身体をくまなく確認した陸は再び悪党を再び見る。
(大男は腕に自信があって小柄の方は……火が得意?料理人ってわけじゃないだろうし、異世界だからやっぱ魔法とかそのあたりか?……少しハッタリでも仕掛けてみるか)
陸はその二人を観察しまるで未来予知をするかのように行動を予測した。そして陸はハッタリを仕掛けるためのセリフを考えていると
「右目が碧色の瞳……もしかして碧眼の賢者様?」
女の子がぽつりとつぶやいた。
「誰だよそれ」
陸はその発言にツッコミを入れる。だがその発言に二人の悪党が恐怖に襲われていた。
「ま、まさかあの伝説の⁉」
「いや、そんなはずはねぇ!碧瞳の賢者は五十年前の戦争で死んでいるはず」
どうやら陸を誰かと勘違いしているようで二人の悪党が口を揃えて驚いている。陸は自分だけ話についていけずちょっとだけぼっち感を覚えていたとき閃いた。
(もしかしたらハッタリのネタに使えるかもしれない)
陸は腰に手を当てて不敵な笑みで笑いながら言った。
「もし俺がそうだったらどうする?」
陸の世界だったら完全なる中二病拗らせたオタクにしか見えないがこの異世界に置いては十分なハッタリとして機能したようで悪党二人を委縮させた。だが大柄の悪党はそれに屈しないというかの如く陸を睨み返した。
「だったらやられる前にやるだけだ‼」
そして大柄悪党は陸に跳びかかるように右ストレートで殴りにかかる。
(やっぱ結局殴ってくんのかよ⁉……でもお前の才能はわかっていたから避けられる)
陸は大柄の悪党の右の大振りをギリギリで回避すると金的、つまり男の大事なところに陸は全力で蹴りを入れた。
「はぉう‼」
気持ち悪い声を出しながら大柄の悪党はその場に崩れ去る。そして陸は流れるように小柄の悪党に接近する。
「く、来るなあぁぁ」
小柄の悪党は陸に向かって火の玉を飛ばす。だがそれも察知していたかのごとく陸は火の玉を転がりながら回避した。そして陸は立ち上がると拳を作り小柄の悪党を殴る素振りを見せて小柄の悪党の目の前で両手をパチンと叩く。
要するに猫だましである。
「ひっ」
陸は小柄の悪党が目を瞑った隙を狙い小柄の男が左手に持っていたブローチを奪い返すと女の子の手を握った。
「逃げるぞ。大通りまで逃げればたぶんあいつらも手は出せないと思うから!」
「は、はい!」
そのまま大通りまで女の子の手を引きながら陸は全力で走った。
まだこれだけだとなんのストーリーかわからないと思いますので長い目で見てくれると幸いです。
第2話は5月の6日の18時投稿予定です。