ボツ
私の直観が当たった。君が私の元を訪れることはなかった。
木枯らしが舞う季節になると、私はまるで吸い寄せられたみたいに、西新井を巡った。君が通っていたであろうパチンコ屋や本屋に行った。偶然、君に会えることを私は期待していた。君が住んでいるはずのアパートの101号室は別の男が住んでいた。
私は向島へと向かった。君が通ったであろう道を私はたどった。けれども君とすれ違うことはなかった。
私は大葉自動車の顧客になった。君はそこにもいなかった。君が自動車の専門学校に通っていることを社長が私に告げた。
私は校門の前で恋人を待つ女学生のように授業の終了を待った。夕暮れ時になって君が通った。
「先生お久しぶりです。あの時は逃げ出してごめんなさい。次に先生に会ったら謝ろうと決めていたんです」
「別に謝らなくったっていいのよ。そんなことはどうだっでいいの」
私たちは人通りの少ない路地へと入った。
「この度はどうかしたんですか。まさか偶然ってわけじゃないでしょう」
君は落ち着いた口調で言った。
「家族にもあれを読ませたの」
「はい。僕が前に進める方法がそれしか見つからなかったから。結局のところ、僕は全てに甘えていたんですよ。僕には生活力が無くてそれを補おうと虚勢を張っていた。ただそれだけなんです」
私はポケットに入っていた銀玉を君の手に握らせた。君の瞳に涙が宿るのを私は感じた。その直後に私の目の前も、水中ゴーグルの隙間に水が入ったみたいに歪んだ。
君が私の手を握り返した。救われたのは誰でしょうか。