第弐戦 信長、服を買いに行くの変
「ほお!ここが仕立て屋か!」
信長は目を輝かし興奮しながら言った
「まあ、学生だからあまり金無いし、安いとこだけど、ていうか、TNIQLOだけど・・・」
「ツニクロとかダサくない?」
「仕方ないだろ?近くにあって、しかも安いんだから」
「まあ、そうなんだけどさ、てか、あまり男性用の服の値段とか解んないし」
「1着1000?2000円じゃね?」
「え!?安くない!?」
無情にも服の金銭感覚は違うのだ、女子はお洒落な生き物なんだとつくづく思う光宏だった、とそこに割って入る様に信長が声をかけた
「ほれ!これなんかどうかの!」
「ぶっ!?」
信長の手に持っている服を見て思わず光宏は笑ってしまった、となりの市花も笑いを堪えているのか目尻には涙が溜まっていた。
「どうじゃ!?儂の感性も捨てたもんじゃ無かろう!?」
2人が笑って居るのに気付かないのか、自慢げに話す信長、だが、その空気は空回りである、無理もない、信長が手にしているのは黒いブリーツの入ったロングスカートだった。
「うふっ、たっ、確かに、ふふっ、時代的には袴見たいに見えっ、ふふふふっ、もっもうダメ!ふふふふふふふふっ、あはははっ!!」
何とか笑いを堪えて説明しようとした市花だが、スカートを合わせている信長を見て限界が来たのか、盛大に笑ってしまうのだった。
「何じゃ!?何が可笑しいのじゃ!?」
流石に2人が笑っているのを見て何かがおかしいことに気が付いた信長だったが、肝心の何がおかしいのかわからないようだ
「あ、あのーお客様、そちら婦人用になります・・・」
店員が察したのか、信長に声をかける、決して笑いは表に出さない、仕事が出来る人だ
「何と!これは袴ではないのか!」
信長は店員の一声によりやっと2人が笑っている理由が分かった様で、驚きの声を上げた
「紳士服はあちらになります」
「そうか!よきにはからえ」
店員に御礼?を言い、言われた方向に行く信長、2人もようやく笑いが冷めたのか、信長を追う
「して、どのような仕立てをすれば良いのじゃ?」
信長は勝手に選ばず、2人に任せる様だ、流石戦国武将、同じ失敗は繰り返さない、未だに手にスカートを持っているのを除いて
「身長は、160くらいか?だとすれば、ジーンズよりチノパンの方が良いかな?」
「いえ、そこはチノパンより黒のジーンズに黒いブーツを履かせて、上は白いシャツに暗めのジャンパーでしょ、背が低めで脚が短く見えるからズボンと靴を同一色にして、上の中を反対色、それを馴染ませるように上着をチョイスしなくちゃだめよ!」
流石女子である、お洒落なコーディネートを指摘され、光宏は目が点になっていた。
「どうかの!」
試着室から出てきた信長は自身満々と仁王立ちして、2人に問いかける・・・が
「うんうん、似合って、ふはっ!」
ここに来てまさかの第2波であった、コーディネートは完璧だ、しかし、2人は気づいてしまったのだ、今のファッションに身を包み、自慢げに仁王立ちでドヤ顔を決めるちょび髭の丁髷、笑うなと言う方が無理な話である
「ぼ、あはっ!帽子も買いまひゃひゃひゃ!ひーっひーっ!!」
アドバイスしながらも笑い転げる市花、笑い過ぎて過呼吸になっている、大丈夫だろうか
「合計4760円になります、5000円お預かりします、240円のお返しになります、ありがとうございました」
何とか服を買った信長、黒いジーンズに濃いグレーのレザーシューズ、白いシャツにクリーム色の革ジャケット、そして、髷を隠すための紺色のハンチング帽、随分とカジュアルだが、お洒落な20代に見える、見違える様だ
「これで完璧じゃの!」
「前から思ってたんだが、47歳にしては若く見えるな・・・」
「それがのう、不思議な事に若返っておるのじゃ」
「え!?」
「それでの?なんじゃが、住むところが無くての、どちらかの家に住まわせてくれんかの?」
「「ええぇ~!?」」
京都の真ん中に、ふたりの驚きの声がこだまするのだった。