第壱戦 信長、未来に行くの変
1582年、本能寺、1人の武将が寺に火を放った。
「これで儂も終わりだのう・・・光秀よ、主には儂がどう写っておる?」
武将の独り言も虚しく、炎の渦に飲み込まれる。
「ああ、熱い、見よ、光秀、これが儂、天下人になり損ねた武将の最期よ、こんなにもあっけなく終わるとは、思いもしなかったじゃろうて。」
死にゆく様に、燃える寺の外に居るであろう家臣につぶやく、しかし家臣にその声が届くことはとうとう無かった、武将は燃える炎のなか、塵一つのこさずに消えて行った。
◇
-2015年6月21日京都本能寺-
「うおおお!!ここが本能寺かぁ!!」
1人の青年が興奮して言う、彼の言動に呆れたように隣を歩いている女が口を挟んだ。
「光宏、あんたちょっと興奮しすぎじゃない?いくら京都の観光だからって20歳にもなる大人がはしゃぎ過ぎ。」
「イイじゃんか!俺の先祖が下克上した所なんだから!!」
「はいはい、そうね、明智くん凄いねー」
明らかなお世話だったが、からかわれた青年、明智光宏は嬉しそうにしていた、すると、光宏の隣を歩いている女、柴田市花が何かに気づいた
「ねぇ、あれ、何かの撮影かな?」
市花が指を指す先には、現代にはいない筈の、髷姿の若い男が挙動不審に辺りを見渡している、すると、男はこちらに気づいたようで、一目散にこちらに向かって来た
「そこのちんけな格好をしている二人!此処は何処じゃ!?」
気迫のある訪ね方をされて驚く二人だったが、市花が質問に答えた
「えっと、京都の本能寺ですけど・・・」
「なんじゃと!?本能寺な訳が無かろう!本能寺は儂と共に燃えたはずじゃ!そうじゃろ!?」
「ひっ・・・」
余りの剣幕に市花が小さく悲鳴をあげた、そこに我に帰った光宏が答える
「あの、どちら様で?」
「何を言っておるか!儂は天下人、織田信長じゃ!」
男はさも当たり前の様に答える、光宏は歴史が好きで織田信長の大ファンなのだろうと解釈した
「それで、信長の大ファンなのは分かったけど、余り叫ぶと周りの迷惑になるからさ、ほら、市花だって怯えてるし」
「おお、女子がおったか・・・んん!?」
ふと、何かに気づいたかのように市花をのぞき込む信長に市花はたじろぎながら尋ねる
「な、なんですか?」
「お市か!?じゃが何故ここに?勝家はどうしたのじゃ?」
どうやら信長は盛大な勘違いをしているようだった
「な、なんで御先祖様の名前を?」
「先祖じゃと?そこの男、今は何年じゃ?」
「えっと、2015年だけど」
「なんと!となるとここは2005年後か!」
光宏の答えに信長は一瞬驚いた、が、プレゼントを貰った子供のようにはしゃいだ様子で言った。
「いえ、暦がちがうので433年後です」
「今の天下人は誰じゃ?」
「あの、戦国時代は1603年に徳川家康の政治によって終わってます」
信長の質問に多少困惑しながら答える光宏、しかし信長の質問は止まらない。
「ほう!あの古狸がか!あやつならやりおるとは思っておった!そうかそうか、して、戦の無い国にしてくれたのかの?」
「そうですね、あれから色々ありましたが、戦は無くなってます」
「おお!儂の夢にまで見た平穏の世を作り上げたと申すか!儂の夢は我が同士によって叶えられたか!」
「まあ、そうですね」
「して、そこな女子は名をなんという?」
突然ターゲットを光宏から市花に変える信長、光宏は安堵した様子だった、が、興奮気味の信長に市花はたじろいでいた。
「わ、私ですか!?」
「主以外に居なかろう」
たじろぐ市花に対し、信長はさも当たり前のように言い放った。
「柴田市花です」
「そうか、妹にそっくりじゃ…」
信長は、遠い目をして呟く。
「妹?」
市花の疑問に対し、光博が答える。
「信長の妹のお市は柴田勝家の所に嫁いだんだよ」
「あ、それで私を妹と勘違いを」
二人がなるほどと、頷いていると信長は少し声のトーンを落とし、深刻そうな顔で呟いた
「ふむ、ここが未来となると、儂はこれから暮らす場所を探さなくてはいかん、しかしそれ以前に、この格好をどうにかせねばのう・・・」
「あー、それなら一旦服を買いに行きましょう」
こうして未来に来てしまった信長は現代の服を買いに行くのだった。