焼き肉の
灯台からは夏川の運転となった。夜道だが、交通量も少なくほぼ一本道なので、運転に慣れていなくても大丈夫だろう。
「今夜はうちで焼き肉の予定だけど、異論のある人?」
後部座席の水上が聞いた。異議は出なかった。
「満場一致ということで。軍資金も支給されている」
水上は財布から一万円を取り出し、ひらひらさせた。
「ゆきっつぁん、ゆきっつぁんじゃないか」
助手席の天水が振り返ってそう言った。仲良しかよ、と水上は思った。さすがに夏川は振り返らない。
「実はもう一枚」
さらに五千円札を一枚取りだした。
「にごりえ」
と天水が言い、古泉に目を向ける。
「大つごもり」
続いて古泉が言って、水上の方を見た。
「十三夜」
と、水上が言ったあと、三人の視線は夏川に集まった。
「え? なんの話ですか?」
「五千円札の人の代表作は?」
天水がヒントを出した。
「代表作というか、たけくらべくらいしか知りませんけど」
「よし」
古泉が何か納得したようだ。しばらく走ったところで水上が、
「夏川、次の信号右折してくれ。スーパーに寄るから」
「うまく駐車できるかどうか……」
「この時間だったら車も少ないだろ。まあ頑張れ」
スーパーに着いた。車は前向きに駐めた。
「各自、焼き肉で食いたい物を持ってきてくれ。俺はかご持って歩いてるから」
それぞれが好きなコーナーにばらけた。水上が、地元のスーパーを懐かしがって色々見ていると、横からかごにカップアイスが投入された。天水の仕業だった。
「お前はこれをホットプレートで焼くのか?」
「まっさかー、食後のデザートだよ」
「食後の前に食事のことを考えてくれ」
「りょーかーい」
ふざけつつも、ちゃんと人数分のアイスを持ってきたので強くは言えなかった。
次にかごに入れられたのは、夏川が持ってきたお茶だった。脂肪の吸収を抑えるやつだ。
「必要かと思いまして」
「まあ、そうだな。できれば先に食材を持ってきてほしかったな」
「そこは先輩方に任せようかと」
「もっと積極的にいけよ」
「じゃあ、肉持ってきます」
水上は無難な野菜をかごに入れはじめた。古泉はきっと鶏肉を持ってくるだろう、と思った。
「水上」
ピーマンに手を伸ばしたとき、古泉に呼ばれて振り向いた。かごには総菜コーナーにあるからあげが入れられた。
「焼き肉で食いたい物って言わなかったか?」
「焼いたらおいしい。揚げてもおいしい。それが、鶏肉」
「蒸したら?」
「おいしい」
「うん。もういいや」
そんなこんなで、買い物は終わった。無駄に時間がかかった。