レム・イルネス
新しい登場人物
レム・イルネス
赤髪でスタイルのよい美人(で同性に持てそう)な女性。
ヴァレリア騎士養成学校の一年生で、ルームメイトになるキュリアを迎えに来た。
今回の話の被害者。
ミリアーナ・フォン・ヴァレリア
黒髪ロングの女性。
ヴァレリア騎士養成学校の校長。
ケイの母・エリスとは学生の頃からの親友。
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―――帝都グラン・メルト―――
―――北門入口付近―――
「ケイ様、帝都が見えてきましたよ」
「おぉ、アレが帝都グラン・メルトですか。……思っていたより大きいですね」
そう大きい。
何が大きいって、まず帝都の周りをぐるりと覆い囲んでいる城壁が大きい。
高さ十メートルはあるだろうか?
そして、十メートルの城壁の向こうには三、四階建ての建物がチラホラと見える。
そんな中、一際大きな建物に僕の視線は吸い込まれていた。
「グラン・ミッシェル城ですね」
「あの城に皇帝様がいるんですねぇ、僕も一度は会ってみたいものです」
「ケイ様、それは本気で言っているのですか?」
「無論です。なにせ現皇帝はうら若き女帝だそうではありませんか。それに、
話を聞くところによると大層お美しいらしいですからね、会ってみたくはありますよ」
僕も一応男の子ですし、美人と言われてる人には会ってみたいですからね。
「なんならそのまま求婚でもしてみては如何ですか?」
「おやおや、冗談でもそんな事を言ってはいけませんよキュリア?
僕は冗談を間に受ける人間なので、本気で会った時に求婚しちゃうかもしれません」
僕なら本気でやりかねないと思ったのか、
心なしかキュリアが焦りながら言ってくる。
「うっ、いや、わかってるとは思いますけど、
冗談ですからね? 実行してはいけませんよ!」
「そんなに焦らなくてもいいですよ。いくら僕でもそこまで命知らずじゃありません」
そんな事したらその場で不敬罪で捕まりかねませんし。
それに、万が一皇帝がその気になっても、周りの貴族や王族連中が黙っていないだろう。
そうこうしているうちに北門へと到着する。
近くで見ると大きさがより実感できますね。
門を前にすると、目の前の門がこちらに倒れてきているような錯覚すら覚える程だ。
「そこの馬車の人、止まってくださ~い」
やや間延びした声で門番の兵士に呼び止められる。
その場で馬車を止めると兵士の方からこちらへ来てくれた。
「なんでしょうか?」
はて?
何か傍から見て不審に見えるような所でもあっただろうか?
「そんなに身構えないで下さい。単純な身元確認ですので」
そう言って兵士は身分証明書の提示を求めてきた。
「あぁ~、こういう場合は冒険者ギルドのギルドカードでもいいのでしょうか?」
今までは両親と一緒だったので、こういう入国審査みたいなのは親に任せっきりだった為
僕はいまいち勝手がわからないのだった。まぁ、分からない時は聞けばいい。
「あ、はい、結構ですよ」
「そうですか。えっと……じゃ、はいコレ。キュリア、貴方も出して下さい」
「こちらになります」
「はい、拝見します。えぇと……え? え! Aランク冒険者!?」
ちなみにここで補足すると、
冒険者には当然のようにランク分けが有り。
いくつものクエストの完了を持ってランクが上がる。
ちなみにS、A、B、C、Dにランク分けされている。
Aランクともなると数年単位でクエストを受けまくってやっとなれるランクだ。
「あの、失礼ですがお二人の年齢も窺っても?」
「僕も彼女も十七ですよ」
「十代ですか! それでAランクとは大したものですね…」
「それほどでもありませんよ」
実際のところは両親がバカみたいに世界中を冒険してクエストをこなし、
それに付き合っている内にチームメンバー扱いされていた為ランクだけが上がったのだ。
僕自身がクエストを達成した事は実はなかったりするくらいだ。
「それでは、そろそろ僕達も中に入れてもらってもいいですか?」
「はい、手間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いえいえ、それでは引き続きお仕事頑張って下さいね」
「はい! この帝都にお尋ね者が入ってこないよう頑張ります」
元気の良い返事を聞きながら僕は門を通っていく。
すると、門を入ってすぐの所に馬小屋があった。
これは冒険者などが旅に出たりする時に馬をすぐ調達できるようにと、
ある程度大きな街にならどこにでもある光景だ。
また、外からきた冒険者達の馬を買い取ったりもしてくれる。
今回の用事は後者だ。
これからしばらくは帝都に住むのだから馬車はもう必要ないだろう。
手早く交渉を進め、結局は馬一頭銀貨三百で売れた。
大体買う時は銀貨五~六百なので半額で売れたと思っていいかな?
正直、お金は割と潤沢にある。
おおよそ金貨が百余り程だろうか?
両親と別れる時に生活費として金貨五十、
その上で父上がみんなに隠していたへそくり五十枚、合わせて計百枚である。
後は元から僕とキュリアが持っていた金だ。
ちなみにこの世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白銀貨の四種類があり、
それぞれの価値は、銅貨百=銀貨、銀貨百=金貨、金貨百=白銀貨、となる。
ちなみに普通に生活するなら家族四人で金貨十枚もあれば何不自由なく一ヶ月暮らせる。
僕とキュリア二人分でなら一年と半年くらいは余裕で暮らせる金額だ。
「さて、それではキュリア、ここからは歩きで行きますよ」
「ちなみに聞きますがどこに行くおつもりなのですか?」
「そんなものヴァ学に決まってるじゃありませんか?」
何を言ってるのだろう?
しかし、キュリアの方も僕と全く同じ顔。
つまり、コイツは何を言ってるのだろう? と言う顔をしていた。
「あの、ケイ様。一つお尋ねしてもいいですか?」
「……? なんですか?」
「ケイ様はヴァ学が帝都のどこにあるかご存知なのですか?」
「………………あ…」
「知りませんよね? なにせ初めて訪れたわけですし。
…それでは、改めて問いましょう。ケイ様はどこに行かれるおつもりですか?」
くぅ、なんて嫌味ったらしいメイドなんでしょう。
しかし、確かに失念していましたね。これからどうしましょう…?
すると、背後から若い女性に声をかけられた。
「ふふ、どうやらお困りのようだね?」
「「いえ、別にお困りではないのでお引き取り下さい」」
「え? ちょ! まっ!?」
それだけ言い残して足早に立ち去ろうとする僕とキュリア。
僕はただなんとなく彼女が自信満々に現れたので、
その自信を叩き折ってやろうと思ったが故の行動だ。
わかりやすく言うと悪戯心が湧いただけだ。多分キュリアも同じだと思う。
「ま、待った! 君らヴァ学の新入生だろう?
私は君らをヴァ学に案内する為にここに来たんだよ!」
「そうですか。では、次からは勿体ぶらずに最初からそう言う事を僕はお勧めしますよ」
「全く、私なんてどこの不審者が話し掛けてきたのかと思ってつい、逃走経路の確認ま
でしてしまいましたよ」
「ウッ! す、すまない。まさかそんな反応されるとは思ってなくて…その、ごめん」
僕らのダメ出しによってあっという間に女性は小さくなってしまった。
そして、挙句の果てには「ごめん」と謝罪までしてくれました。
いえいえ、貴女は多分何も悪くないですよ。ただ相手が悪かっただけですから。
「いえ、僕らも過剰に反応しすぎました」
「案内をしてくださるのですよね? よろしくお願いします」
「ぁ、ああ! 私に任せてくれ!」
なんとかすぐに元気を取り戻してくれたようだ。
それにしても彼女、目が覚めるような美人ですね。
しかし、なんと言うか……同性に持てそうな美人だ。
綺麗、と言うよりは凛々しいと言った方がしっくりくる。
スタイルもいいし身長も高い。百七十半ばの僕とあまり変わらない身長だ。
そして、なによりその髪が目立つ。燃えるような赤のロングポニーテール。
何やら妙な光沢を放っているし赤と言うよりは紅と言うべきだろうか?
「そういえば、貴女のお名前はなんと言うのですか?」
「ケイ様、人に名前を尋ねる時はまず自分からですよ?」
「いえいえ、キュリア。世の中にはレディファーストという言葉もあるのですよ?」
「あ、あの、喧嘩しないでくれ。私の名前はレム・イルネスだ」
「これはご丁寧にどうも、僕の名前はケイ・ノードです。
あぁ、あとついでに僕の背後にいるのは背後霊のキュリア・トーデスです」
「え? えぇと?」
さも当然と言わんばかりに嘘を吐く。
あまりの自然さに、レムは僕の言った事が嘘か本当か判断がつかないようだ。
「そんな心配そうな顔で見なくても私は背後霊ではありませんよ?」
「だ、だよね! い、いや、分かっていたよ冗談だってわかってた!」
どうもレムは素直すぎる気がする。
もう少し人の言う事を疑うという事を知った方がいいと思う。
じゃないと僕が延々嘘を吹き込んで遊んでしまいそうだ。
「ちなみに実は私は人間ではなく悪魔なのですよ?」
「えぇッ!」
………どうやら遊ぶのは僕だけでは済みそうにないようだ。
早めにレムが成長してくれる事を祈るとしよう。
その為に僕は協力を惜しまないだろう。
日夜彼女で遊b……彼女に訓練を施す事を僕は誓うよ。
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―――学校へ向けて移動中―――
「なるほど。つまりはレムもヴァ学の一年生、つまりは僕の同級生というわけですか」
僕とキュリアはレムと雑談しながら学校へと向かっていた。
「そう。そして、私はキュリアと寮でルームメイトになるから迎えに来たんだ」
「なるほど。……少し疑問なのですが、
僕のルームメイトさんは迎えに来てくれないのでしょうか?」
もしかして、僕ってば何もしてないのにルームメイトに嫌われてでもいるのでしょうか?
「いや、ケイは寮だと一人部屋なんだよ。
厳密には寮には二人部屋しかないけど、丁度ケイは一人だけ溢れたんだ」
「なるほど、そういうわけですか」
流石にさっきは僕の考えすぎでしたか。
まぁ、よく考えれば会ってもいないのに嫌われるわけもありませんね。
「あぁ、ケイ様は学校ではイジメられ寮では一人寂しく生きるのですね。お労しや」
「キュリア。勝手に人をイジメられっ子にしないで下さい」
「でも寮でボッチなのは事実ですよ?」
「一人の方が気楽でいいではないですか」
「またまたそのような…強がらなくても良いのですよ?」
「では僕が一人寂しいと言えば、キュリアは僕の部屋で寝泊まりしてくれるのですか?」
「土下座して「お願いしますキュリア様」って言えたら考えてあげますよ?」
そこまでさせた上で「考える」だけですか。
「本当に良い性格をしていますね。ご覧なさい、レムが怯えた目で貴女を見てますよ?」
「え、いや、その…」
「何を言ってるのです、あれはケイ様の境遇に同情した慈愛の目ではないですか」
「そ、その。喧嘩はしないでくれ二人共!」
僕達を止めようと、やや声を大にして静止を図るレム。だが、
「何をいきなり大声をあげているのですかレム?
周りの人々が驚いてこちらを見ていますよ?」
「レム様。公衆の面前であまり大声を出すと迷惑になりますよ?」
「あ、あれぇ? 君達喧嘩してたんじゃないのか?
そして、なんで私が悪いみたいになっているのだ!?」
嫌だなぁ、あんなのが喧嘩なわけないじゃないですか。
「今のはただのコミュニケーションですよ。
僕とキュリアは大体いつもこんな感じですから」
「まさか、メイドである私が主であるケイ様と喧嘩するわけがないではありませんか」
「そ、それにしてはどちらも本気で毒を吐いていたように感じるのだが…?」
「「気のせいですよ」」
「そ、そうか。私の気のせいだったか」
本当に遊びやすいお人だ。
将来詐欺などに引っかからないか、今から心配になってきますね。
「まぁ、あまり気にしない事を僕はお勧めしますよ」
「そうだな…努力しよう」
まぁ、努力してもあまり意味はないような気もしますがね。
「…そういえばレム様は授業に行かれなくてもよろしいのですか?」
ふと、僕も軽く気になっていた事をキュリアが問う。
今日は何の変哲もない平日。
つまり、今は午後の授業があっている時間のはずなのだが?
「私は校長先生に頼まれてここに来ているからね。
だから、今日は午後の分の授業を免除されているのさ」
そうなのか。それは良かった。
いや、まぁ、いくらなんでも欠席扱いにはならないだろうとは思ってたけどね。
「という事は今学校では午後の授業の真っ最中なのかな?」
「そうだよ。ちなみに原則的に午前は座学、午後が実技となっている」
へぇ、午前と午後で分けているのか。
「……少し聞きたいのだけど座学は何を習うんですか?」
「さぁ? 私も学生だからこれから先何を学ぶのかは知らないんだ。
でも、少なくとも今習っているのは、実践を想定した陣形や隊列などがメインだよ」
「そうですか、それは良かったです。
国の歴史の勉強なんかだったらどうしようかと思いましたよ」
なにせ僕は国籍上この国の人間ってだけで、
あまりこの国について詳しいわけでもないですからね。
「また、実技では模擬戦で実際にクラスメイトと戦ったり、
今はまだないけど、外に出てから魔物を倒すクエスト方式もあるらしいよ」
「へぇ、実際に戦って経験の中から学んでいくわけですか。
……どこそこの流派の型を練習したりはしないのですか?」
「原則的にそんなものはないはずだよ。
戦い方を型にはめ込んで制限しても合う人間と合わない人間がいるからね」
なるほど、本当に実戦に重きを置いた教育をしているのですね。
その後も色々と世間話をしながら歩いていると、あっという間に学校へ到着した。
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―――ヴァレリア騎士養成学校―――
―――校長室前―――
「さ、ここが校長室だよ。
私の案内はここまでだ。後の事は中で校長先生から詳しく聞いてくれ」
「はい、分かりました。それと、道案内ありがとうございました」
「どういたしまして。二人共、同じクラスになれるといいな!」
「はい、私もレム様と同じクラスになれる事を祈ります」
「僕も同感です」
「ああ。それじゃ、私は授業に戻るよ」
「おや? 今日の午後の分の授業は免除されていたのでは?」
「折角の実技の時間なんだ。免除されたからといって、私は出ないつもりなど毛頭ない」
「レムは生徒の鏡のような人ですねー」
本当に真面目ですね、わざわざ免除されたのに授業に出るとは。
…これでもう少し頭が良ければ完璧だったでしょうに…。
「それではな二人共!」
そう言ってレムは去っていった。
先程、グラウンドの方に生徒らしき人達がいたので、そこへ行ったのかもしれませんね。
しかし、まぁ…何歳になろうとも目上の人に会うというのは緊張するものですね。
まだ、部屋の前にいるだけなのに、少しお腹が痛くなってきたように感じます。
「それではケイ様、入りましょう」
「ええ、そうしましょうか」
そして、お互い一歩たりとも動かない。
「………何やってるんですか、早く入って下さい」
「いやいやキュリア。ここはメイドらしく貴女が扉を開けて下さい」
決して僕が緊張してるから、他の人に開けてもらいたいわけではありませんよ?
「メイドらしく丁重にお断りします」
「であれば、僕は主らしく命令します。扉を開けなさい」
「めんどくさいので普通にお断りします」
「貴方達は人の部屋の前で何を揉めているのかしら?」
そうこうしている内に校長室から女の人が現れた。
「別に何も揉めてなどはおりませんよ? ねぇケイ様」
「そうですよねキュリア。何か勘違いされているのではありませんか?」
「随分と慣れた感じで手のひら返して結託する子達ね…」
目の前の女性は何やら疲れたように呟いた。
「ところで、校長室から出てきたという事は貴女が校長先生ですか?」
聞くまでもなく校長なのだろうが、念のために確認しておく。
「ええ、私がこの学校の校長、ミリアーナ・フォン・ヴァレリアです」
「そうですか。それでは改めまして、お初にお目にかかりますミリアーナ校長。
僕の名前はケイ。そして、こちらにいるのは僕のメイドであるキュリアです」
「ケイとキュリアね…わかってはいたけど、やはり家の名は出せないのね?」
………そんな質問が出るという事は…。
「校長先生は僕の事、…いえ、正確には母上の事を知っているのですか?」
「ええ、なにせエリスと私は学生時代からの親友ですからね」
あの母上に親友なんてものがいたのか…素直に驚きである。
「ほほぉ、母上の親友ですか。…それはさぞご苦労なされたのでしょうねぇ…」
「ええ…そして、私は今正に、その息子にも苦労をかけられるのだと実感したわ」
「これは異な事を仰る。僕がそんな苦労のかかる子供に見えますか?」
「その口の達者さといい、とてもエリスを彷彿とさせるのだけど?」
心外な。僕のどこが母上と似ているというのだろう。
僕はこんなに素直で真面目な良い子だというのに。
「それは気のせいと言うものですよ校長先生。僕を母上と同じにしないで下さい」
「ケイ様はエリス様に輪をかけて性格が悪いですからね」
「キュリア。ここでそんな事を言うと僕が誤解されてしまいますよ?」
「……本当にあの子そっくりなのね……」
何やら校長先生が凄く気落ちしたような…何かを諦めたような顔をしておられる。
何か嫌な事でも思い出したのでしょうかね?
「はぁ…とりあえず今日のところは二人共先に寮で休んでいなさい」
「おや? 入学手続きなどはないのですか?」
「そんな物はとっくの昔に終わっているわよ。
貴方、自分が何日遅刻してきてると思ってるの?」
「三百六十八日と半日ほどでしょうかね?」
「そこは答えなくてもいいわよ…いいから早く行きなさい」
そう言って校長先生は校長室の中へ戻って行かれた。
「……あぁ、頭痛の薬はどこだったかしら…」などと、
中から声が漏れてきているのですが、校長先生はご病気か何かなのでしょうかね?
「それでは一応挨拶も済んだ事ですし、行きましょうかキュリア」
「はい」
僕とキュリアは校長室の前を後にする。
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―――ヴァレリア騎士養成学校―――
―――グラウンド前―――
「ケイ様。ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「おや、貴方から質問とは珍しいですね? 僕の何が知りたいんですか?」
キュリアは僕以上に博識なので、僕が質問される事など殆どない。
強いて言えば僕のプライベートな情報は彼女も知らないはずですが…。
「僕の好みはお淑やかな女性で、身長体重に興味はなく、
胸は巨乳でも貧乳でも無乳でもいけるオールラウンダーですよ?」
「そんなゴミ情報はどうでもよいです」
僕の嬉し恥ずかし☆プライベートが。
「何故、私達は今グラウンドにいるのでしょう?
私の記憶が確かなら学校寮へと向かっていた、と記憶しているのですが?」
なんだ。そんな事を気にしていたのですか。
「キュリア君。今、この学校の生徒達は何をしていますか?」
「確か午後からは実技の授業が行われているはずですね」
「その通りです、つまりこの学校に来れるような才媛・才女達が、
今まさに汗水流して未来の将兵へ向けて訓練をしている真っ最中です」
「中には少なくない男子もいると思いますが……まぁ、いいです。
つまり、その授業風景を覗きに行こうと言うのですね?」
………はい?
「何を言っているのですかキュリア君? そんな事して一体誰が得するというのです」
「え? いや、でも先程のケイ様の言葉からはその様に受け取れるのですが…?」
「そんな訓練など見ても意味はありません。
見学も一つの勉強というのは、体の弱い子達の為に大人が作ったでまかせです」
「それでは改めて問いますが、ケイ様は何をするおつもりなのですか?」
「全く、これだけ時間をかけても思い当たりませんか…。
正直今日のキュリアにはガッカリさんですよ僕は?」
グッ!!、と何かを堪えるように歯を食いしばるキュリア。
「おやおや、そんなに本気で食いしばると歯に良くありませんよ?
ほら、奥歯が一部欠けてしまっているではありませんか」
「………すいませんが無学な私にもわかるようにお教え願えませんかケイ様?」
キュリアは歯を食いしばる力を強めながら、絞り出すように質問する。
「そこまで言われては、僕も教えないわけにはいきませんね。
では、一から懇切丁寧に説明してあげましょう。あ、大丈夫ですよ?
『無学』な貴女にも分かりやすいように説明して差し上げますから♪」
「………(ピ…ピクッ! ピクピクッ!)」
おっと、これはいけませんね。マジギレ寸前ではないですか。
流石に遊びすぎました。ここからは真面目に行きましょう。
「それではまずは情報を整理しましょう。
まず、この学校の才媛・才女達は今、全員が全員この先のグラウンドで授業中です。
さて、ここで重要になるのは何の授業をしているかです。授業の内容は実技。
そして、当然実技を座学の時の私服のままで受けるはずがありません。
さらに言えば更衣室はグラウンドの脇に併設されています。
さぁ、ここまで来れば流石にキュリア君でも気付いたのではないですか?
そう、その通り。僕は―――女子更衣室へと向かっています!!」
「遺言はそれだけですかケイ様?」
おっと、マズイ。
これはもうプッツン通り越してブッチン逝っちゃってる声ですね。
「そんなわけで僕はひとっ走りしてきます。
キュリア君はそこで待機しててくれて構いませんよ」
それだけ言い残し、僕の持てる限りの脚力を持って逃走を図る。
「いえいえ、私もメイドの端くれです。
主の行く先には一生 付いて行きますよ?」
おぉっと、これはすごいですね。
あまりに怒気を孕み過ぎているせいか、本音と建前の両方が聞こえますよ?
そのまま一度も振り返る事なく全力疾走を敢行し、
ようやく 僕の聖域へと、到着する。
そして、一瞬の躊躇いもなく勢い良く扉を開け放ち。
「………ふぇ?」
「………Oh…♪」
今まさに服を着替えようとしていた レム・イルネスと数十分ぶりの再会を果たした。
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夜中、あまりに寝付けなかったので書いた、事実上の第一話。
只今、深夜四時位をお知らせします。深夜クオリティにご注意下さい。