プロローグ 「仲良し主従」
登場人物のお知らせ
ケイ・フォン・ノード
本作の主人公。
メイドのキュリアと共に帝都のヴァレリア騎士養成学校(通称ヴァ学)に約一年遅れで入学する。ボケかツッコミかで言えばボケの方。大体いつも薄く笑っている子。
キュリア・トーデス
ケイのメイド。
ヒロインと言えなくもないが、どちらかというと相棒的な立ち位置の人。ボケかツッコミかで言えばボケの方。大体いつも無表情な子。
シルフィ・ノード
ケイのオトン。
エリス・フォン・ノード
ケイのオカン。
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【力が、欲しくはないかい?】
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いきなりわけがわからないな。これは夢…だろうか?
【そうだね、私は今君の夢の中にいるよ】
そうですか、それで、貴方は一体誰なんですか?
声だけして姿が見えないと、まるで僕が独り言言ってるみたいじゃないですか。
【あぁ、悪いが姿は現せないんだよ】
【私はそちらの世界にはいないからね】
すごいな僕の夢。
異世界人(?)が出演しましたよ。
【まぁ、夢の住民が語る与太話だと思ってくれればいい】
【どうせ私はこれ以降出番はないだろうからね】
【それで、再度問うが―――力が、欲しくはないかね?】
くれるって言うのなら貰いたいですよ?
【君は…正直だねぇ】
【普通はもう少し躊躇したりしないかな?】
【こう言っては何だが、私かなり正体不明なのだがね?】
別にあって困るものではないですからね。むしろ、ないと困るものでしょうし。
あ、でも、力と引き換えに何か寄越せって言うのならお断りしますよ?
僕はそこまで力に飢えているわけではないですからね。
そもそも、夢の中での与太話なんでしょう?
だったら深く考えず自分に正直に答えるさ。
【……ふふ、そうか】
【では、君に力をあげよう】
【是非ともその力で―――世界の一つでも救ってみてくれたまえ】
【そうしてくれると客席にいる私も楽しめるからね】
………?
何か変わった…のか…?
【さぁ?】
【変わったかもしれないし、変わっていないかもしれない】
【まぁ、どうせ夢の中での与太話さ、あまり期待するものではない】
【では、そろそろお別れの時間だ】
【君に―――良き幻想が訪れん事を】
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―――帝都グラン・メルト街道―――
―――馬車の中―――
「………て………さい、……様」
………うん?
誰かが寝ている僕を揺すり起こしている。
「早く起きて下さい、ケイ様」
「………んぁ~…おはよう、キュリア」
誰かと思えば僕のメイドではないですか。
まぁ、そもそも彼女と僕しかいないのだから当たり前ですが。
「はい、おはようございます。
そして、起きたんならさっさと布団から這い出てくださいね。
今日はいい天気なのでシーツ類を外で干しますから」
相変わらず表情の変化に乏しい子ですね。
いい天気とか言うのならもう少し晴れやかそうにしてはどうなんでしょうか…。
「…そんな事よりキュリア、僕は今日変な夢を見ましたよ」
僕は今さっきまで見ていた夢の事を話そうとした。
「変な人が変な夢を見てもそれは当然の事ですよ?」
「キュリア…君は僕の事をどう思ってるんですか?」
そのままだと僕は変な人って事になっちゃいますよ?
「大層変な人。略して大変人と思っておりますよ?」
僕は彼女にとって「大」が付くような変人でしたか。
「ではキュリア、君の言うところの大変人が普通に変な夢を見ましたよ?」
「しつこいですね……はぁ、で、どんな夢だったのですか?」
そんなあからさまに嫌そうな顔しなくても…手短に話しましょうか。
「異世界人からなにやら力を貰う夢でした」
「言ってる事の半分も理解できませんので、この話無視してもいいですか?」
「嗚呼、神よ…。僕のメイドは何故こうも僕に素っ気無いのでしょうか?」
「主にケイ様の普段の行いのせいかと…とりあえず早く起きてくれませんか?」
話をする事もできず僕は僕のメイドの手により僕のシーツを剥ぎ取られる。
ひどい。主からシーツを剥ぎ取るメイドなんて聞いた事がないよ。
まぁ、いい。どうせいつもの事だし。
僕はそのまま馬車の中にある木剣を持って外に出る。
朝の日課である木剣の素振りをするためだ。
………………………。
………………。
………。
「九十八、九十九、百、と」
毎朝朝食の前に素振りを百回。
冒険者である両親と世界を渡り歩いていた頃から続けている日課だ。
流石に十数年間続けている日課だけあって、この程度では息一つ乱れない。
「ケイ様、朝食の準備が出来ました」
まるで見計らったかのようなタイミングでキュリアがそう言った。
「僕も丁度日課が終わったところで……キュリア君、これは一体何かな?」
「なんと! ケイ様はサンドイッチをご存知ないのですか!?」
「…失礼。聞き方が悪かったですかね……では改めて問いましょう。
貴女がサンドイッチと言い張る物に挟まれているのは何でしょうか?」
「なんと! ケイ様はパンをご存知ないのd…」
「同じネタを何度も連発しないで下さい。
なんでパンとパンの間にパンが挟まれているのですか?」
僕には食パンを三枚重ねただけのように見えるのですが。
「そこに目をつけるとは流石ケイ様、お目が高い。
これは私がサンドイッチを元に作り出した新料理―――その名もパンドイッチです」
………………………。
「……あぁ、そういえば食料が殆ど底を突いていたのでしたね」
「ケイ様、いきなり素に戻らないで下さい。
まるで私が可哀想な子みたいになっちゃうじゃないですか」
「安心しなさいキュリア。どんな君でも―――君は僕のメイドですからね」
「良い事言ってるように見せかけて、さり気なく私を可哀想な子認定しましたね?」
「さぁ、お喋りはここまでです。早くご飯にしましょう」
「………(逃げましたね)」
僕とキュリアは馬車に戻り、キュリアの作ったパンドイッチを仲良く食べる。
「あぁ、口に入れた途端芳醇なパン本来の味が口いっぱいに広がりますねぇ」
「何やってるんですかケイ様?
ジャムはありますから普通に一枚づつ食べたらどうです?」
「折角キュリアが手作りしてくれたんですから、そのまま頂きますよ」
「……それは嫌味ですか?」
「ただの好感度上げですよ」
「……そうですか」
仮に僕がハーレムなんか目指すとしたら、その中に彼女にはいて欲しいですからね。
そんな事を考えながら僕は無心でパンドイッチを食べる。
モグモグ。(食べる音)
くっちゃ、くっちゃ。(食べる音)
ズキュゥゥゥン!!(食べる音)
「相変わらケイ様は特徴的な食べ方をなさいますね。
どのような食べ方をすればそのような音が出るのでしょうか?」
「目障りな相手から恋人を奪い去る気持ちで食べていれば出せますよ」
「何やら私のパンドイッチが穢されたように感じますので謝ってもらえますか?」
「僕は普通に食べていただけなのですが?」
「ボロ泣きするまで殴り続けていいですか?」
「ゴメンなさいでした。反省してませんしこれ以降も続けますけど許して下さい」
キュリアが食べていたパンを置き、
その右手に万感の力を込めて握り拳を作る。
「それで謝ったつもりですか?」
「ある意味対応を誤ったかもしれませんね?」
「確かに、人は過ちを犯す生き物です。
ですが安心して下さい。ケイ様の過ちは私が正してあげましょう―――物理的に」
「あ、顔はなしでお願いしm…(ガスッ!)」
「何か言いましたかケイ様?」
「………キュリア君、人を殴る時は極力顔は避けないといけませんよ?
あざが残りますからね。やるならボディにいきましょう。顔面はアウトです」
「なんと! ケイ様は顔面セーフと言う名言をご存知ではない!?」
「それは特殊な状況下(スポーツ時)における特殊な事例ですねぇ」
「さて、そんな事より早く食べて帝都へ行きましょう」
「……そうですねー」
キュリアがわかりやすく話題を変えてきたけど、
特に続けたい話題でもなかったのでそのまま話を終えて食事へ戻る。
モグモ…ズキュゥゥゥン!!(食べる音)
くっt…ズキュゥゥゥン!!(食べる音)
ズキュゥゥゥン!! ズキュゥゥゥン!!(食べる音)
ガスッ!(殴られる音)
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―――馬車にて街道を移動中―――
ふと、御者として馬車を運転しているキュリアが、何の前触れもなく僕に話しかけてきた
「しかし、ケイ様も大変ですね」
「うん? それはどういった意味で言ってるのかな?」
「そのままの意味ですよ。他意はありません」
「まぁ、そうですね。
父上のおかげで僕も学校に通えるようになったのは嬉しいのですが、
まさかそれが帝国一の騎士養成学校だったとは…
…正直に言うと、僕は普通の学校に行きたかったのですけどね」
そもそも僕は父上や母上と違って剣の腕はそこまで高くないのだが…。
「その上世界中を冒険していたせいで、
入学通知書が発行されてから一年後に届きましたからね」
「どうしましょうかキュリア? 僕は入学する前にダブりが確定しましたよ?」
っというか、既に今年の入学式も三日前終わっていますし。
「入学はまだしていないのですから留年とは言わないのでは?」
「どちらにしても、
一つ年下の人達と僕は学ばなければないらないのは変わりませんがね」
「嫌なんですか年下? 若くてピチピチですよ?」
「十六歳と十七歳にそこまで若さに差はないと思いますよ?
二十九と三十なら話は別ですが」
それに、僕の守備範囲は五歳児から四十半ばまでなので何も問題はない。
「まぁ、何にしてもヴァレリア騎士養成学校のある帝都には、
もう昼過ぎくらいには着くんですから、今更何を言っても遅いですよ」
「そうなんですよね…一人だけ十七歳だからって、イジメられない事を祈りましょう」
「あ、そういえば言い忘れていましたが私もヴァ学に入学しますよ?」
………はい?
「え? いや、それは初耳ですよキュリア?」
「それはそうでしょう、言い忘れていたのですから」
そこで開き直らないで欲しい。
「何故貴女まで入学できるんです? 入学届けは僕の分しかありませんでしたよね?」
「さぁ? 多分シルフィ様かエリス様のどちらかが働きかけてくれたのでしょう」
「あぁ、それは多分間違いなく母上の方でしょうね。
確か帝国の貴族出身だと父上が前に言っていましたし」
裏で何かやったのでしょうね。
確かそこそこ偉い所の出身だったはずですし。
「しかし、キュリアがいてくれるのなら、
例えイジメられてもボッチにはならなくて済みそうですね」
「安心して下さい。ケイ様がイジメられたら全力で見て見ぬふりしますので」
「君は本当に僕の期待を裏切らないゲスい根性してますね。地獄に落ちて下さい」
「ご期待に添えたようで何よりです。
三年間の素晴らしいボッチライフを堪能して下さい」
今日も今日とて僕とキュリアは仲良しです。
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