第8話 時を越えて
倉橋よりこ その3
神様、私、何か悪い事しましたか?
私がいつもの様に翔ちゃんの寝顔を見に行ったら、今日は珍しく、本当に珍しく起きてて、「部屋で話そう」とか言ってくれた。
私、凄く嬉しくて、本当に嬉しくて、でも急にそんな事言われたから緊張しちゃって上手く笑えなかった。
そしたら、私の不細工な顔を見て、翔ちゃん面白くないって顔をした。
それがいけなかったの?
もっと上手く笑えば良かったの?
でも、翔ちゃん、構わず私を部屋に入れてくれたから、大丈夫だと思った。私の気にし過ぎだって。
だからそれで安心して、そんな事気にならなくなっちゃって、そのまま普通に翔ちゃんとおしゃべり出来ると思ってたのに。
久しぶりに見た翔ちゃんの顔が余りに格好良くって、見惚れてて、そんな私を見られて、つい俯いてしまった。だって仕方ないよ。本当に好きな人に見られると恥ずかしくってそうなっちゃう。
それがいけなかったの?
それで翔ちゃん怒ったの?
何で急に「コナクテイイ」とか言うの?
私、分けがわからなくなって、それに翔ちゃん北澤の事を急に言い出すから、昨日の事を見られたと思って、北澤に「付き合って」とか「キスしよう」とか言われてたから、それを勘違いされたと思って、それで全然違うって言おうと思って、それを言いかけたら、翔ちゃん勘違いしちゃって、北澤と私が恋人だと思われて、そしたら翔ちゃん「無しにしよう」っていうの。
そんな事言われて、私頭の中がグチャグチャになっちゃって、どうしていいかわかんなくって、取り合えず違うよって言わなくちゃと思って、頑張って大きな声出して、翔ちゃんにわかって欲しくて、頑張って違うよって言ったのに「キス」も違うよって言ったのに。
でも、急に「そういや今日は翔ちゃんとしてないな」とか思っちゃって、そしたら突然翔ちゃんとキスしたくなって、翔ちゃんの唇をから目が離せなくなって、じっと見てしまった。
私、昔から変な子だから、昔からそういう事あって、お母さんに気をつけなさいって言われてるのに、今日もやっちゃって、そしたら翔ちゃん、急に凄い怒り出した。
そうだ、私が途中で話を切っちゃったからあんなに怒ったんだ。
翔ちゃんって、見た目通りに頭が良くって凄く繊細でプライドが高いから、そういう所がまた格好良いんだけど、でも、だからあんなに怒ったんだ。
私ってば昔っから馬鹿だから、そういうの分からなくて、翔ちゃんが何に怒ってるのか分からなくて、それがまた翔ちゃんを怒らせちゃって、最終的に私が泣いてごめんなさいするまで怒ったまんまだったんだ。
でも、それでも。
神様、酷いよ。
神様、私ってそんなに悪い子なの?
最初は、本当は冗談だと思った。もしかしたら、悪い夢の真っ最中なのかもとも思ったよ。
だから、もうそんな冗談止めて欲しくて、冗談でも本当に辛いから止めて欲しくて、翔ちゃんの冗談に笑ってる振りをした。
でも、そしたらもっと翔ちゃんを怒らせちゃって......。
でも、だって、「祝おう思った」とか「お幸せに」とか「来なくていい」とか、酷いよ、酷過ぎるよ。
そんな、そんな酷い事言われたら、本当に、もう本当にどうしていいかわからなくなって、途方にくれちゃって、そうして私は、駄目だってわかってるのに、「もうしない」って決めてたのに、それでも、それでも。
「笑ってしまった」んだ。
別に楽しいわけじゃない。
嬉しいわけでもない。
ましてや面白いわけなんてあるもんかっ!
当たり前だ。
大好きな、本当に大好きな翔ちゃんに「お前の顔なんて見たく無い」とか「もう関係無い」とか「他人」だとか言われて、辛いだけだよ。
私って小さい頃からそうなんだ。
本当に辛い事とか、途方に暮れちゃってどうしていいか分からない時「笑って」しまう癖があるんだ。
実は私、小さい時はいじめられっ子だった。
幼稚園の時に、顔が人形みたいだからだそうで、あだ名は「チャッキー」って付けられてた。
知ってる「チャッキー」? 古いホラー映画に出てくる、人を殺しまくる気持ち悪い人形の名前。
年上の男の子が付けたんだけど、始めは皆、何それ? って感じだった。
私も何それ? だったんだけど、変わったのは、その男の子がその古いホラー映画を皆に見せた時からだ。
私も見た時はびっくりした。だって本当に気持ち悪いんだもの。それに凄く残忍で酷い性格をしている。この男の子、こんな人形と私が同じだって言うの? って思った。
ショックだった。
でも、そんなの大した事なかった、それよりショックだったのは映画を観終わった後だった。
映画を観終わった友達の皆は、私の事「チャッキー」って呼ぶようになって「気持ち悪いからこっちくんな」とか「死ね」とか「怖い」とか言って来た。
私は必死に「違うよ、チャッキーじゃないよ」って言うけど皆聞いてくれない。
ついに泣き出してしまったんだけど、それでも止めてくれなかった。それどころか「チャッキーが泣いた」とか言われて「今だ、やっつけろ」って叩かれた。痛かった。体も痛かったけど心も痛かった。
そして、それから皆は私に会う度に「チャッキーだ、チャッキーが来た。気持ち悪い。皆、泣かせろ、やっつけろ」っていうの。
それで泣いちゃったらまた叩くんだ。
それが毎日毎日続くものだから、ある時泣かなくなって「笑う」ようになった。
そうして「笑う」ようになったら、それからは不思議に「チャッキーだ」って言われなくなった。
心底よかったって思った。これで良かった。って思ったの。
でも、暫くしたら、今度は「笑うな」っていうの。何も無いのに「笑うな」って。
今度は叩かれる事は無かったけど、皆が私を気味悪がって近寄らなくなっちゃった。
それが小学校の半ばくらいまで続いた。
その間、傍にいてくれたのは翔ちゃんだけ。庇って助けてくれたのも翔ちゃんだけ。
それで、私が「笑う」と、翔ちゃんは「笑っちゃ」駄目だよ。いけないよって、凄く、優しく優しく言ってくれた。勿論「楽しい時は笑ってもいいよ、悲しい時は泣くんだよ」とも言ってくれたけど。
「チャッキー」で苛められてた時も、翔ちゃんは『「よりちゃん」は可愛いよ、気持ち悪くなんかないよ』って言ってくれた。
それは多分翔ちゃんは優しいから、私の事可哀そうに思ってくれて、それで嘘をついているんだって思って「じゃあ、結婚出来る?」って聞いたら。間を置かずに「出来るよ」って言ってくれた。
でも、それでも嘘だと思った私は「じゃあキス出来る?」って聞いたら出来るよってキスしてくれた。
凄く嬉しかった。
あの日の事は忘れない。翔ちゃんは忘れても、私は忘れない。
それで、本当に、本当に嬉しくて、翔ちゃんとキスがどうしても毎日したくなって。
小学生になってから、毎日学校に一緒に行くようになると、私は朝早く起きて、凄く早い時間に翔ちゃんを迎えに行く様になった。
迎えに行くのに、早い時間に行く必要なんて無いのは当たり前で、翔ちゃんのお母さんは偉いねって言ってくれたけど、本当は私悪い子だ。
だって、ずっと皆に内緒で彼にキスしていたんだから......。
今でこそ、私って実はかなり可愛いんだって知ってるから、自分の容姿に自信を持ってる。
でもそんな事があって、男の子が凄く嫌いになっちゃったから、翔ちゃん以外は、良くて生ゴミ、それ以外は不燃ゴミや燃えるゴミくらいにしか見れないようになっちゃった。
それなのに
それなのに
痛いよ。
打ったお尻も痛かったけど、そんなの気にならないくらい心が痛いよ。
私の事忘れちゃったの?私の癖、忘れちゃったの?
「倉橋さん」だなんて酷いよっ!そんな事今まで一度だって言った事無いのに......。
「もう出て行け」だなんて「向こうに行け」だなんて、どうすればいいの?
どこに行けばいいの?
私がいる所は、翔ちゃんの傍だけだよ......。
気が付けば、校門の中に入っていた。
あんなに悲しいのに、枯れる位涙を流したのに、笑っていた自分が憎い。
彼に嫌な思いをさせてしまった自分が憎い。
でも、それよりも......。
しなくちゃいけない事。
私はいつしか立ち止まり、一点を見つめ昨日の事を思い出していた。
顔から笑みが消えていくのがわかる。
ここで、昨日、北澤と一緒に帰った時から全てが狂ったんだ。
そして私は、「一つの事」を考える様になっていた。
それはとても甘美で心地の良い考え。
「時間を戻せたら......。」
一人ごちる。
そう、私はいつしか決意していた。
私が必ずやり遂げなければいけない事。
彼の、翔ちゃんの為に......。
そう
それは
タイムマシーンの開発である。
タイムマシーン万能説。
今気が付いたのですが、元ネタ銀魂みたいですね。
9ヶ月以上気が付きませんでした。
オリジナルだと思ってたのに……凄くがっかりしました。
けど、この使い方はしてないからおkという事で。
まあ、どっちにしろ読んで頂いてる方にはどうでもいい事だと思いますがね、一応記しときます。