第5話 水面に咲く花とその偏執
倉橋よりこ その2
「昨日は良い日だった。」
私は、毎朝作っている彼のお弁当を作りながら一人ごちた。
だって、彼が私に微笑み掛けてくれたんだから。
私は鼻歌交じりで完成したお弁当をカバンの中に入れ、家を後にした。
彼の家まではあるいて5分と掛からない。
仲の良い両親達が、お互いの家が離れすぎるのを嫌って、出来るだけ近くに家を建てたのだ。
仲の良い両親同士。小さい頃に婚約している私達。
私は何て幸せなんだろうっ!
それに、昨日は彼が微笑み掛けてくれた。
最近あまり話す事も無くなってちょっぴり不安があった私達だけど、あの笑顔は私の事を愛してくれている証拠。
でも、彼と目が合うと物凄く恥ずかしくなっていつも目を逸らしてしまう。
昨日なんて、折角笑顔を向けてくれたのに、真っ赤になった私の顔を見られたく無くて俯いてしまった。
3年の北澤が声を掛けてこなかったらどうなっていた事か......。
それにしても、昨日の北澤は中々良い感じだった。普段は全然使えないのに珍しい事もあるもんだ。
何だかわけのわからない理由でクラブを休みにしてしまい。あまつさえ話したい事があるから一緒に帰ろうとか言われた時は、正直「はぁ?」って感じだったが、お陰で彼の愛を再確認出来た。
愚図は愚図なりに使えるという事も再確認出来たし。
まあ、その話とやらも、「俺と付き合って」とか「キスしよう」とかだった。
ていうか、付き合っては百歩譲って言ってもいいとして「キスしよう」はないだろう?
あまつさえ、「俺の事が好きなんだろう?」って言われた時には、本気で殴ってやろうかと思った。
でも、そんな事しない。
もしそんな事すれば彼に嫌われてしまう。
だけど、あんまりしつこいから、思わず笑顔で。
「うるさい。家に帰ってナニでもし○いてろっ、このカスっ!」
っていっちゃった。(テヘペロ
その時の北澤の顔ったら......。
今思い出しても笑えてくる。
最初何を言われているか分からないって顔だったのが、段々引きつっていって......そして......。
「ふふふっ。」
その時の北澤の情けない顔を思い出した私は、口に手を当てて思わず声に出して笑ってしまった。
犬の散歩をしていた近所のおばさんに「よりこちゃん何かいい事あったの?」って言われけど、
私は「内緒でーす♪」と可愛く返しておいた。
だって内緒だ。もし彼にそんな事バレてしまったら、きっと彼は北澤に対して怒ってしまう。
そんなの駄目だ。
彼にはいつも笑っていて貰いたい。
それにしても北澤にはいつもうんざりさせられる。
私がサッカー部に入部してから、毎日の様にモーションを掛けられて、正直ウザい。
それと、私が入部したての頃は度を越した後輩イジメが北澤達を中心とした先輩達によって行われていた。
そう、正義感の強い、「彼」が嫌いな「イジメ」だ。
勿論私としてはどうだって良かったが、もしその事実が彼に伝わってしまうと、イジメを放置している最低女と思われてしまう恐れがある。
何でこんな面倒くさい部活に入ってしまったのか後悔もしたが、後の祭りだ。
私はイジメが無くなる様、出来る限り努めるようにした。
具体的に何をしたかというと、主に主犯格である北澤の説得だ。
それなりに時間が掛かったが、美少女の私が、自慢の大きな胸を寄せて上目遣いで説得すれば、大抵どんな男でも一ころだ。
それから後に北澤は何を勘違いしたのか、私にすり寄って来るし、苛められていた部員達は私を女神か何かのように扱いだしたし、はっきり言って意味がわかんないし、キモいしウザい。
正直うっとうしかったが、まあ、なんだ。
そういうのも、「彼女」がそういう扱いを受けているというのは、「彼」的に鼻が高いだろうと思い放置している。
そもそも、私がサッカー部のマネージャーになったのだって、先生が何かの部活に入っていた方が内申が良いぞって言うからやっているのだ。
彼の未来のお嫁さんである私は、彼の自慢の「彼女」であるべきだと思っての行動だ。
それと、サッカー部のマネージャーってのは偶々だ。部活を探していた時に、偶々目に付いたのが、サッカー部のマネージャー募集ポスターだったからだけだ。
大体、サッカーのルールだって未だに良く分かっていないし。
えっ?嘘だろだって?
いや、本当の事だ。
ルールも知らないのにサッカー部のマネージャーになれるのか、という疑問もあるかもしれないが、そんなの私の可愛さの前には関係無くなる。面接みたいなのはあったけど、私がニコリと微笑めば一発合格だった。
そして、さっき言った事があってから、基本的に私は何もしなくても良い感じになった。
マネージャーの仕事は、私の他に居る男子マネージャーがやってくれるし、それでも手が足らない時は部員がそれぞれ受け持ってくれる。
だからルールなんて覚えないし、覚える意味も無い。
部員曰く、居てくれるだけでいいそうだ。
嘘の様な本当の話。
私はこれ幸いと、彼の机の、上から三番目の引き出しからこっそり抜き取った、明らかに私っぽいヒロインとのラブシーン満載の18禁小説が書いてあるノートのコピーを眺めて悦に浸っていたり。
(勿論、コピーを撮った後はちゃんと返したよ)
それに触発されて書いた。彼と私をモチーフにした長編恋愛小説を携帯小説サイトに投稿したりしていた。
(全20万文字越えの超大作。だけど感想は「独善的過ぎてついていけません」だとか「マジキチ乙www」とかばっかりだ。時として真実の愛というのは、一般大衆に理解されないものかもしれない、と思う今日この頃)
大体サッカーというのは理解出来ない所が多い。ボールを蹴って何が面白いのだろう。部室は汗臭いし嫌になる。同じ汗の匂いでも彼の物なら別だけど。
その汗臭い部室で行われるミーティングも、意味不明な宇宙言語で話しているようで、聞いてて眠くなるし。実際寝てるし。
まあ、彼らもサッカーの甲子園?みたいな所を目指して頑張っているんだろうから、そういう目的に向かって努力するという姿勢には、大いに共感するし応援したい。
私も彼、翔太ちゃん、いえ翔ちゃんと結婚して沢山子供を作って、老後を楽しむという60ヵ年計画を推進中だ。
お互い頑張っていきたいものだ。
と、
ここまで考えた所で彼の家に到着した。
60ヵ年計画の詳細は、また今度という事にしよう。
よりこちゃんは少しアレです。
因みに私はちゃんとサッカー知ってますよ。
ディスる気持ちは毛頭御座いません。
あくまでよりこちゃんが、と申しておきます。