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第45話 妖精さんも大満足! はぐはぐもぐもぐ一ポンド特上ステーキセット(前)

倉橋みすず その2 前

「翔太さーん、おはようございまーす」


 翔太さんが門から出てくる所を見計らって、私は大きな声で、元気良く朝の挨拶をした。

 お姉ちゃんとチビ外人をはべらせた翔太さんは、ゆっくりと私に振り返った。


「あっ、みすずちゃん、おはよう」


 昨日の嫌な私なんてまるで無かったかの様に、クラクラしてしまう爽やかな笑顔と共に挨拶を返してくれた。

 だが、横に張り付く二人はそれとは真逆の態度で私を迎えた。


「あん? あんた諦めたんじゃないの?」


 チビ外人はニヤニヤとあざける笑みを湛えながら言った。


 開口一番最悪だこいつ。

 そもそも昨日のあれのどこに私が翔太さんを諦めたと思える部分があったのだろう、そんな訳無いのに……なんて、わかってるよわかり易い嫌味だよ、捻りが無さ過ぎておつむの程度が知れるな~オイ。


「え~? 何のことですかアンダーソンさん。私わかんないです~」

「チッ!」


 私の返しに、これ見よがしに舌打ちをされた。


「リリィ……」


 しかしそんなチビ外人を叱るでもなく、疲れた様に眉をハの字にして、困った顔で優しく頭を撫でる翔太さん。


 翔太さん、そんなゴミ女の頭なんて撫でる事無いですよ! 手にそいつの匂い付いちゃいますよ!


「みすずちゃん……どうしたのこんな時間に……珍しいね。いつもならもう学校に行ってるはずだよね?」


 お姉ちゃんのその台詞だけ聞けば何てことは無いのだが、どう解釈しても威嚇か牽制にしか聞こえない。それが私を刺し貫かんとするその鋭い眼光せいであるのは間違い無い。


「うん! 今日は~ちょっと寝坊しちゃって~」


 だが私はそれに気付かないフリをして能天気を装って返した。


 負けないんだからっ!


 等と思いつつ、流石はお姉ちゃん、その眼光だけで背中に嫌な汗をかいてしまう。


「へえ、そうなんだ。みすずちゃんでも寝坊とかするんだね」


 私とお姉ちゃんとのその水面下でのやり取りには気づかないで、翔太さんは驚いた風に言った。


「え~!? 何です~それ~? まるで私、凄く真面目ちゃんみたいじゃないですか~私意外と悪い子ですよ?」

「ええ? 悪い子なの? うーん、そうかぁ。昔から素直でいい子だったからついそう思っちゃうんだね。だけど、そうだな……やっぱり悪い子、ではないな、だってみすずちゃんってばこんなにいい子なんだもん」

「翔太さん……」


 私はそう言って屈託無く笑う翔太さんが愛おしくて、胸が苦しい程高鳴るのを感じた。


 は、はうぅ~。

 こ、この人は、人をキュン死させるつもりですか!?

 ジゴロだ、天然のスケコマシだ、この人。

 もしかして、こんな事他の誰かにも言ってるんでは無かろうか、だとすれば大問題だ。そうだとすれば誰もが彼に夢中になってしまうだろう。

 昨日の私のお手々でいいように翻弄される彼も可愛くて良かったが、こんなイケメンな翔太さんも最高。

 でも……本当、みすずは悪い子です。いけない事一杯してます。

 だから一杯叱って欲しい、一杯お仕置きして欲しい。

 そしたらみすずは貴方だけの良い子になれるから……。


「ねえ、翔太もう行こ? 時間無いよ」

「あ、そうだね」


 そうこうしていると、痺れを切らしたドチビのド低脳が、催促する様に翔太さんの制服をつまんでくいくい引っ張った。


「じゃあみすずちゃん、僕らもう行くね」

「あっ……」


 翔太さんはチビ外人にうんと頷き、私に軽く手を振ってから学校の方へと歩き出した。


 あ、待って……まだ話は終わってないよ。


「……そういやリリィ、今日はどうして僕の所に?」

「ああ、それはよりこに昨日のお礼と、後監視?」

「監視って……何それ?」

「ええ、まあ、色々ね」

「色々? ……ふーん」


 私を置いてきぼりにしてそんな会話をする二人。

 会話の最中、糞チビは翔太さんの手を極自然に握った。

 翔太さんも心得た物で、それをギュッと握った。

 そうする事で、チビ外人は翔太さんに連れられた子供に見える。そしてそれは自分は彼の物であると、彼の庇護下にあると、二人を見る人全員にそう宣言しているかの様にも見えた。

 お姉ちゃんは翔太さんが歩き出してからも冷え切った表情で私を睨んでいたが、翔太さんが呼ぶと忠犬宜しく嬉しそうに翔太さんの元へと駆けていった。私にはそんなお姉ちゃんのお尻からフリフリと大きく振られた尻尾が幻視出来た。


 置いてかれる。


 一人残された私に訪れるのは、孤独と寂しさの強烈な嵐だった。

 このまま何もせずにいたら、どこかへ吹き飛ばされてしまうかも知れない。


「ちょっと待って下さい」


 私は不安感に押しつぶされそうになりながらも、勇気を振り絞って翔太さんを呼び止めた。


 矮小を自覚しながらも、必死で嵐に抗う私に、果たして優しい太陽は暖かく照らしてくれるのだろうか……。






 たどり着いた駅前のファミレスの入り口で、私は息を整えた。

 足早に歩いてきた為息が少し上がってしまったのだ。

 さっきから目にも差し込んでくる程陽が傾いてきたので、私ははたと時計を確認した。

 大丈夫、まだこんな時間だ。

 学校で用事を済ませて来た為急いで来たのだが、まだまだ約束の時間には余裕がある。


 ペッポポぺぺーぺぺぺぺ~♪ ぺ~ぺ~ぺぺぺぺ……

 勢い勇んで扉を押し開け店内に入ると、いつまで経っても鳴り止まない来客を知らせるチャイムが流れた。

 店内を見渡すが、まだ誰も着いてはいないようだ。

 初めて来る店なのだが変わった店だ。

 何だろうこのチャイムは、まだ鳴り続けている。


 それは置いておいて、現状を説明しよう。

 今、私はこのファミレスで待ち合わせをしている。それも別れた男である健悟と、愛しの翔太さんの二人とだ。

 どうしてかといえば話は簡単で、健悟が付きまとわない様にと翔太さんに恋人の振りをして貰う為だ。


 年上の男の人と不用意に付き合ってしまい困っていた――勿論好きでも無いのに好奇心で、という所は特に強調したが――なのでようく考えた末、ついに昨日別れ話をしただけれど、レーンでしつこくされたりメールや電話も引っ切り無しに掛かって来て怖い。そこで彼氏役になって助けて欲しいと言った訳なのだ。

 結論から先に言うと翔太さんは快諾してくれた。

 とはいえ「何故僕みたいなのに頼むの?」なんて言っていたので、同い年では心許こころもとなくて駄目で、年上の男の人の知り合いが翔太さんだけしか居ないと言うと快く引き受けてくれた。誰かが困っていたら絶対に助けてくれる、そんな男性なのだ翔太さんは。


 当然誰にでもわかるだろうけれど、これはフェイクだ。

 いや、フェイクと言っても、健悟に付きまとわれて鬱陶しいのも事実だ。

 しかしそんな事は大した事では無く、真の目的は翔太さんとお近付きになるというもので、そうなるには持って来いの漫画やドラマではお馴染みの古典的なイベントなのだ。

 翔太さんもまさかそんなベタな方法を現実で使ってくるだなんて思うまい。そのまさかの思い込みの隙を突いた、我ながら素晴らしいアイデアだと思う。

 だが、チビ外人とお姉ちゃんはその狙いを正確に見抜いたようであり、当然の如く反対していたが、翔太さんが決めてしまうとそれきり押し黙ってしまった。

 翔太さんが決めた選択に口を挟む等愚の骨頂。昔からの不文律。

 それを見越した上での私のお願いは、目論見通り大した邪魔もなく叶った。

 計画通りである。

 しかし――


「イラッシャイマーセーゥ」


 目の前のファミレスの店員。

 こいつを見た途端、その計画に綻びが生じたと悟った。


「オーキャクサマー、ナンメイサマーデショーカーゥ」


 私の前に現れたこいつ、リリィ・アンダーソンことド金髪糞チビのせいでだ。

 つい動揺が顔に出てしまう。

 だが、乱れに乱れた心を何とか静めようと努力しながら、私は出来るだけさも何でも無い様に振舞うよう心掛けた。


「あの……一人で……」

「オーヒトリサマデースネー、オータバコハーオースイニナラレマースカーゥ」

「いえ……吸いません……」

「カシコマーリマーシターゥ」


 学校帰りでウチに帰らず来てるから思いっきり学生服なのにタバコって……。

 それに何その発音。お前そんなに片言じゃなかっただろうが。

 もしかしてからかわれている?

 そもそも何故ここに居る。私が場所を翔太さんに教えた時には何も言っていなかったじゃないか! 


「あの、後で二人来るんで……四人掛けの所に座りたいんですけど」

「ソーデースカー、カーシコマリマーシター、オーセキニゴーアンナーイシマースゥ」


 私の動揺を知ってか知らずか、何の感情もこもらないへんちくりんで感情を一切感じさせない無機質な片言で私に接するチビ外人。


 何だかおかしい……。


 私は言いようの無い不安感に襲われた。

 あんな馬鹿みたいで表情豊かだったチビ外人が、まるきり違った人物に見える。

 私は、もしかしたらこの目の前にいる金髪は、双子の姉妹か何かなのかも知れないと思い始めた。


 私は案内された四人掛けのテーブル席に腰掛けた。


「コチラメニューニナリマースゥ」


 私は出されたメニューを受け取り、開いて直ぐ目に映った「うきうきわくわく妖精さんの大好物、美味しい紅茶のケーキセット」を急いで頼むことにした。

 はっきりいってこいつには、さっさと目の前から消えて貰いたい。

 それはチビ外人かも知れないだとか計画がどうとか以前に、この耳障りな片言を聞きたく無いのだ。


 何だこの片言は、普通こんな訛り方しないだろう、一体どうやったらこんな発音になるんだよ。


「あっ、この紅茶のケーキセットでお願いします」

「ソレデーハゴチュウモンオーキマリノコロ、オーウカガイシマースゥ」


 うん? ああ、聞こえなかったか。


「あっ、いえ、この紅茶のケーキセットお願いします」

「ゴチュウモンオーキマリノコロオーウカガイシマースゥ」


 あれ?


「いやだから、この紅茶のケーキセットで……」


 メニューを指差しして伝えようとしたが、チビ外人に酷似したウェイトレスは目を戻した時には既にもういなかった。

 私は何だろうと思いながら、手持ち無沙汰で待っていると、それから二分程してまたやってきた。似非チビ外人の手には、オーダーをピッピッってやる機械があった。


 そうか、あれが無いと注文が取れないのか、だとしても、ケーキセットの一つくらいどうとでもなりそうだけれども、やはりファミレスともなればそう言ったマニュアルがしっかりと定められているのだろう。


 難儀な事だ。


 とはいえ、郷に入らば郷に従えとも言う。

 実はファミレスに入った経験が数えるほどしか無い私は、勝手もわからないに等しい。大人しくそのマニュアルに従おうでは無いか。

 ここで余計なトラブルはマズイし。


「ゴチュウモンハオーキマリニ、ナーラレマシタデショーカーゥ」


 相も変わらずみょうちくりんで無機質な片言だ。


「はい、この紅茶ケーキセットで」


 私は気にせず注文を告げた。

 しかし似非チビ外人は黙ったままでいる。


 あれ、聞こえなかったか。


「済みません、この紅茶ケーキセットで」


 私はメニューを指差し伝えた。

 だがそれでもこいつは黙ったままであった。


 おかしい……いくらなんでもわかるだろう。

 それかもしかしたら、この長ったらしくて恥ずかしい商品名を全部言わないと駄目だとか?


「あの、この『うきうきわくわく妖精さんの大好物、美味しい紅茶ケーキセット』を下さい」


 そう言うと今までマネキンの様に微動だにしなかった似非チビ外人は反応した。


 良かった。やはりそういうシステムなのか。


「ハイ、ウキウキワクワク……フッ……コウチャケーキセットデースネーゥ」


 ええっ! 今こいつ笑わなかった!?

 いや笑ってるよこいつ。にやにやしてやがるっ!

 というか紅茶ケーキセットって端折っちゃったよ!?


 チビ外人はそんな私の驚愕等全く気にした様子も無く、たどたどしい手つきで手に持っている機械をピッピと操作している。

 すると「アッヤベッ」と小さな呟きが聞こえた。


 ははぁ~ん、さては操作を間違えたな。


「ソレデーハゴチュウモンヲ、クーリカエシマースゥ」


 と思ったが違ったか。

 いや、間違っていたかどうかはわからないが、ともあれ大した問題では無いのであろう。

 常識的に考えて直ぐに修正出来るだろうし。


「イチポンドトクジョウステーキセットオヒトツ~、イージョウデヨーロシカッタデショーカーゥ」

「は? 一ポンド特上ステーキセット!?」


 しかし私のそんな楽観はすぐさま否定される事となった。


「いやいやいやいやっ! 何で!? 直せよ! てかケーキセットって言ったじゃん。ステーキセットじゃねえよっ! ケーキに紅茶付いてくる奴であって、肉にご飯付いてくる奴じゃねえからっ! 大体一ポンド(約450グラム)も食べられるかよ! というかお前押し間違えた奴そのまま読み上げてんじゃねえよっ! ケーキセットだつってんだろ!?」


 私はつい大声で叫んでしまった。

 我に返りはっと周りを見渡せば、非難するような視線が私に集まっているのがわかった。

 恐らく私が性質の悪いクレーマーか何かだと思われたのだろう。

 私は不服に思いつつ、仕方なしに声のトーンを落として言った。


「……ていうかありえないから、ケーキセットだから」

「はあ……オーキャクサマタイヘンモウシワケゴザイマセンデシタゥ」


 わざとらしく嫌そうに溜息を吐き、似非チビ外人はぎこちなく頭をゆるゆると下げた。

 それを見た周りの客は、やはり非難を浴びせる様な目で私を見る。


 何でだよ、こっちが溜息吐きたいよ。

 というかお前、その語尾に「ゥ」付けんの止めろ。じわじわ腹が立ってくるから。


「いや、わかってくれたらそれでいいから」

「ハイ、モウシワケゴザイマセンデシタ……ゥ」


 私もふうと溜息を吐いた。


 全く、私全然悪くないのに何であんな目で見られるんだろう。

 まさか、こいつそれを狙って……。


「ソレデーハゴチュウモンヲォクリカーエシマース、イチポンドトクジョウステーキセットオヒトツ~イジョウデヨロシカッタデショウカーゥ」

「なっ!?」


 んだと!?


「ステーキガヤーキアガルマデ、ショウショウオジカーンイタダキマースガヨロシカッタデショウカーゥ」


 しかも焼き加減を聞かないだと!?


「え? いやいやいや、あの……」

「ソーレデハシツレイシマースゥ」


 私の抗議をまるっきり無視してチビ外人は去っていった。


 ぐっ……やっぱりそうだ、あいつ……私の事からかっているんだ。あいつはあのチビ外人なんだ。冷静に考えて、そもそもあんな女が何人もいるはずないのだから。それに姉妹がいるという話も聞いたことは無いし。

 そうだ、私がここに来るのを知ってて、それでからかっているに違いない。

 糞っ! 翔太さんに言いつけてやるっ!


 そんな風に憤っていた私であった。

 しかし私のその被害者意識に偏った推測を、頭から否定するかのようにあいつは振舞った。

 具体的に言うと……。


「ゴチュウモンハオーキマリデーショーカーゥ」

「じゃあ、このハンバーグセットでお願いします」

「あっ、俺はこのエビフライ定食で」


 私の後ろ側の席の男の二人組みが注文をしている。


「ハイ……ゴチュウモンヲクリカエシマスゥ……エト……アッ……」


 それから暫く無言になり。そして――


「マッチャアイスクリームニ、ビールデヨロシカッタデショーカーゥ」


 そう、まるきり私と同じ失敗を演じてみせたのだった。

 だが、私と一つだけ違ったのは――


「……はい、それで……」

「ソレデーハショウショウオーマチクダサイィゥ」


 何と、チビ外人のミスを、注文間違いという初歩的で致命的なミスを指摘しなかったのだ。

 そしてあまつさえチビ外人が去った後に、後ろの二人組みがとんでもない事を言い始めた。


「うおおぉ、やべぇ、可愛いっ!! あの写真のまんまじゃん」

「だろ? お前がフォトショとか嘘を嘘と見抜けない~とか言うから実物を見せてやったけど、これでわかったろ?」

「おおぉ……マジでいたんだな、妖精って……絶対CGだと思ってたわ……確かあれで十七歳だったっけ?」

「ああそうだ。高二らしい、けどどう見ても幼女にしか見えないよなぁ……かくいう俺も最初はフォトショ乙とか何音ミクなんだよとか思ってたけど……まあ、現実を知った訳よ」

「やっぱ普通、そう、だよな。あんな可愛い子が、というか合法ロリが実在するだなんて思わないわな……あれ、もしかしてこの妖精さんの大好物って……」

「まあ、そういう意味だろうな。実際この店限定のメニューだしな」

「ああ糞っ! じゃあこれ頼めば良かった!」

「つってもどうせオーダー間違えるだろうから、まあ運だわな」

「そっか……」


 ええっ!? 何それ!?

 オーダー間違えるのが当たり前? 間違ってんだろ色々。

 それにフォトショ? 何? ネットに流出してんのチビ外人の画像。ネット怖ぇ!

……でも確かに言われてみれば、いや言われなくともチビ外人は可愛い。それはもう、最初画面越しに見た時は私も同じ様にCGでは無いかと疑ったぐらいだ。

 かといって、しかしそれは翔太さんにも言える事。あんな規格外の超ど級の美男子に釣り合うのは超美人のお姉ちゃんか、超可愛いとはいえそれでもギリギリ私くらいの者だと思っていたから、そういった意味での違和感が無くすんなりあのリリィという現実を受け入れる事が出来た。

 翔太さんの寵愛を横取りするあんなビチゲロ野郎の糞ビッチでなければ、もしかしたら私もすんなり素直にあの女を可愛いと思っていたかも知れない。


「俺……ここ通うわ」

「あのなぁ……簡単にいうけど、唯闇雲に常連気取っててもストーカーで訴えられるだけだからな」

「マジっ、で? あのにか?」

「いや、あの娘は何も知らない……訴えるのは……そうだな、オイ、俺の斜め後ろに居る男なんだが……駄目だ視線を動かさずに見ろ、知らない奴にバレたら最悪出禁(出入り禁止)だからな、そっとだ。そっと目を動かさずに視界の端っこを捕まえて……そうだ見えたか?」


 私はその斜め後ろの男とやらが気になったがこちらからは完全に死角であり、それにこんな物々しい話をしている男たちに気付かれる訳にもいかず、席を立って確認するという手段も取れなかった。


「あ、ああ……あのおっさんか、それにしても大げさな……」


 片割れには見えた様だ。


「ああ、あいつ、何だと思う?」

「何だとって……何だ? もしかしてファンクラブの会長とかいうなよな。現実でそんな……」

「そうじゃない、ファンクラブの会長はここの……それはまた教えるとして、あいつは、巡回中の私服警官だ」

「はっ?」

「……それもこの店専属のな」

「マジで言ってんのか?」

「つってもあの娘が出勤している間だけどな。いうなれば、あの娘専属のボディガードって所だな」


 ん?

 ボディーガード? いくら可愛いとはいっても、一般人に警官がボディーガード? んな大げさな、そんな事ある訳が……。

 はっは~ん。そういう事か。


「……ははっ、いくら俺でも騙されねぇし、馬鹿にすんなよな」

「……ふっ、ははっ」


 言われて男は、小さく声を押し殺して笑い出した。


 そう、つまりそういう事だ。さっきまでの話は男の性質の悪い冗談だった訳だ。

 何だ、少し本気にしてしまったじゃないか。


 男はひとしきり笑った後、呼吸を整えて言った。


「馬鹿に……か。もし本当にそう思うんなら話はここまでだ。もう二度とこの店には近付くな」

「なっ……って、もういいよ冗談は、つーかすんげぇつまんねぇから」


 こちらからは全く見えないが、多分もう片方の男が、さっきまで笑っていた男に漫才師のようなツッコミを入れたのだろう。ぺしっと軽い音が聞こえた。

 するとまたも押し殺した様な笑い声が聞こえた。今度は二人分だ。

 そしてそれきりその話題が二人の間に上る事は無くなった。

 私も詰まらないロリコンの戯言だと、捨て置く事にした。



 ほどなくして、チビ外人がやってきた。頼んでもいない1ポンド特上ステーキセットを乗せたワゴンを押してだ。

 何か文句を言ってやりたかったが、ここで騒ぎを起こして、もう間も無くやってくるであろう翔太さんに見咎められでもしたらことだ。

 私はチビ外人がまた何かやらかすのでは無いかと気が気でなかったが、今回は何事も無く、モタモタと手際悪くステーキセットを並べると、ペコリとお辞儀をして去っていった。


 やはり一ポンドのステーキとご飯とスープのセットは物凄い量だ。到底私一人で食べられる量では無い。

 健啖家けんたんかの翔太さんと二人で「あ~ん」をしながらであればまた別だが……。


 そうして私はステーキセットに手を付けるでもなく、フォークでちょんちょんと突いて時間が過ぎるのを待っていると、この店の来客を知らせる、あの馬鹿に長いチャイムがなった。

 私はふと腕時計を見た。すると時間は翔太さんとの待ち合わせの時間の五分前であった。

 なのでもしかしたらと期待して入り口を見た。

 しかしそこには残念ながら翔太さんでは無く、元彼である健悟が馬鹿みたいな顔をして立っていた。

 私は落胆すると同時に疑問に思った。


 何故だ。

 健悟との待ち合わせは一時間以上先のはず。


 そんな想定外の時間にやって来た健悟は、一応頑張ってお洒落しているらしいのだがちっとも似合っていない服装をしている。一体何系を目指しているのか、少なくとも私からすればダサくてだらしない格好をしている。

 性格も見た目そのままで、周りを気にして自分を持たず、そのくせ妙にプライドが高くて、ぶっちゃけ面倒臭い男である。見た目が中身を表す典型的なタイプだ。

 そしてそんなゴミ以下の存在価値しか持ち合わせていない自身の元彼を見て、更に計画の一部が破綻したのを知ったのも相まって、ズーンと憂鬱な気持ちになった。


 そもそも今回の計画とは、最大の目標である一つの事柄と、それからガードの固いお姉ちゃんとチビ外人を正攻法で封じて翔太さんといちゃいちゃ出来る理由が欲しかったというのも大きい。

 だからもう健悟とか本当どうでも良い訳であり、はっきりいって別れ話の打ち合わせと称していちゃいちゃしたかっただけであり、もう本当、翔太さんと一時間以上二人だけでいちゃいちゃしたかっただけなのである。大事な事なので三度言ったが、詰る所、私は翔太さんといちゃいちゃしたかっただけなのだ。

 そして健悟はそれを白紙のパーにしてしまったのだ。


 健悟は、幸いなのかリリィでは無く他の店員の案内を受けてこちらに歩いてきた。

 私は無意味な抵抗と知りつつ、身を縮こまらせて隠れたが、やはり無駄だったようだ。


「あっ、みすちぃ」


 目ざとく私を見つけた健悟は店員の案内を断り、それから私の隣に座ろうとした。


「あっ、そっちに座って」


 だが私の隣は翔太さんだけの物。当然健悟は向かいに座らせた。


「健悟、随分早かったんじゃない?」


 私は不機嫌を隠す事も無く、恨みを込めて言った。


「だって……みすちぃに早く逢いたかったから……一応連絡したんだけど」


 ああ、そういや電源切ってたな。

 けどどちらにせよ出なかったし、メールも読まなかっただろうしね。


「ていうかみすちぃも早いね、何で?」

「それは……」


 翔太さんといちゃいちゃしたかったからだが、言わないでおこう。

 ところでそのみすちぃって何なんだいつも、気持ちわりぃなマジで。

 六つも年下の女子中学生をきめぇ愛称で呼んでんじゃねえぞ、この野郎。お前みたいなのは、その汚ぇ粗品にこびり付くチ〇カスを食べて日々生きている蛆虫野朗だ。軽々しくきめぇ愛称定着させようとしてんなコラ。


「みすちぃ、彼氏出来たってマジで? 何なのそれ、俺と付き合ってたんじゃないの?」


 ああ、直球で来たな。

 まあ、あれだ。

 素直に「お前とは付き合ってたつもりは無い」って言ってやってもいいのだが――実際腕を組んだくらいで、エッチは勿論キスだってしていない、何度かそういう雰囲気になった事はあるのだけど、何故だか急に気持ち悪くなって駄目だった訳だが、今にして思えばそれは翔太さんの存在が私の中で大き過ぎた為だろう。なのでこいつとは一緒に健全に遊園地とかカラオケとかで遊んだだけなのだ――それだとこの計画の一番の要が潰れてしまう恐れがあるのでそれは言えない。


「うん、その……それは、そういうのは翔太さんが来てからにして欲しい……」


 だもので私は出来るだけ申し訳なさそうに言った。

 こうでも言っておかないと本音を漏らしてしまいそうだから。

 

「それが新しい彼氏の名前?」

「うん……」

「……ねえ、みすちぃ。俺の何が駄目だったの? 教えて欲しい。 ……俺はぶっちゃけみすちぃの事めっちゃ好きだから……その……俺が直せる所は…………俺、頑張るから。何でもするから」

「それは……」


 ああめんどくせぇ。

 あんたの駄目な所?

 全てにおいて翔太さんに劣っている所だよ。

 それに何だその打算的な喋り方。何それ、それで同情心を掻き立てようとしてるの?

 どうせ影じゃ友達とかにJCとやれるチャンスがどうとか言って自慢してるんでしょ? 私にいいように言われて我慢してんのもそういう目的の為でしょ? あんたの普段の自尊心が高そうな態度の端々から簡単に推測出来るわ。女子中学生だから簡単に騙せるとか思ってそうだしね。

 しかしどう言った物か……振るだけなら簡単なんだけど、それだと最悪計画に支障が出てしまうし。これは困った。



 ペッポポペペ~ペポポポペ~♪


 そこへ三度また同じメロディが鳴った。

 私はどうにかその場を誤魔化す為、ともかく注文でもと店員を呼ぼうとした所だったが、これ幸いと店の入り口を見やった。

 そしてそこに居たのは、嬉しい事に翔太さんであった。


 ナイスタイミングだ。


 私は手を挙げ、翔太さんを招こうとしたのだったが……。


「あー! 翔太だ」


 しかしそこで余計な邪魔が入った。

 チビ外人の大きな声が上がったのだ。

 チビ外人は嬉しそうにいつもの調子で翔太さんに駆け寄った。。


 というかお前、バイト中だぞ?


 案の定、二十代後半に見える、先輩っぽい女性ウエイトレスに睨まれている。


「どうしたの急に、今日来るって言ってたっけ?」


 その事に気付かないのか、チビ外人は続けてそう言った。


「うん、言ったよ」


 翔太さんはチビ外人とは違い普通の声で言った為聞こえなかったが、チビ外人が馬鹿声で返事をしたので容易に想像出来る。


「えー! そうだったっけー!?」


 言ってたよ。

 思いっきり今日このファミレスに来るって言ってたよ。


 しかしそんな私の心の叫びは届くはずも無く、にこやかに会話している二人。


 くそうっ! チビ外人超嬉しそうじゃねーか。

 あっ、今翔太さんがチビ外人の頭を撫でたっ!

 何でだよちくしょーっ!


 そして先ほどとはまるきり違い、危なげなく翔太さんを案内しだした。

 二人は当然こちらに向かって来るだろうと思っていたが、その案内された席は私達の座っている席とは違った。


「おいっ!」


 私はつい声を荒げてしまった。


 やっぱりあいつわざとか?


 その声に驚く翔太さん達を含めた店内に居る全員。


「あんた……来てたの?」


 だが私の疑心を否定するようにまるで幽霊でも見たかの様なチビ外人の態度。


 何言ってんだこいつ。お前が案内して、お前のせいでの一ポンドステーキセットだろうが。


 喉まで出掛かった言葉を飲み込む。

 もう既に翔太さんが来ているのだ。大人しくしていなければ……。


「あっ、ごめんなさい。つい大きな声でちゃった。テヘペロー」


 こつーんと自分の頭を小突いて大げさに可愛らしさをアピールし誤魔化した。

 やる人がやれば痛々しい仕草ではあるが、ある一部の選ばれし女の子には武器となり、そして私がやればまた格別。特に翔太さんの様なアニメ好きな人には抜群の効果を表すだろう。

 一年に及ぶ研究の末生み出された成果である。


 そういえば昨日、お姉ちゃんがしていたが、私的には美人系がするより、私の様な超可愛い女の子がする方が良いに決まっている。


「み、みすちぃ?」


 ち、そうだった。こいつ居たんだった。


 健悟は付き合っている時には絶対に見せた事の無い私を見て、驚き戸惑っている。

 こんな奴に私のこういう所を見せたくは無かったのだが、まあいいか。どうせ別れるんだし。


「あっ、みすずちゃんやっぱり先に来てたんだ……えっと、それでそちらは彼氏の……」

「翔太さん。彼氏は翔太さんですよ」

「あっ、そうだった……」


 思わず間違いそうになるという翔太さんのおっちょこちょいに、場の雰囲気が一気に和やかに……なった気がする。

 翔太さんは回り込んで私達が座っている席の前に立って、健悟に挨拶をした。


「あの……初めまして。僕、相川翔太って言います。高校二年生です」

「えっ、その、えっ、こいつ?」


 健悟は無礼にも程がある、人差し指で翔太さんを指して、あまつさえ翔太さんをこいつ呼ばわりしたのだった。


 何おばけを見たような顔してんだよ。

……大方、翔太さんの美男子振りにビビッてんだろうけれど。


 私はそんな不躾な健悟を怒鳴り散らしてやりたかったが、計画の為ぐっと堪え、翔太さんを私の隣に座って貰うよう促し、翔太さんも素直に私の隣に座った。

 私と翔太さんの距離が近付く。

 同時に高鳴る胸の鼓動。

 これだけでも今回の計画をくわだてた意味があると言ってもいいだろう。

……だがまだだ!


「んで、注文は何?」


 翔太さんにくっついて来たチビ外人が言った。

 そのチビ外人を見て健悟がポカンと大口を開けて驚いた様子で見とれた。


 それもそうだろう、さっきの二人組みのロリコンが言ったように、また私も認めたくないとはいえ、チビ外人は無茶苦茶可愛いと思う。

 私だって自信があるし、実際無茶苦茶可愛いのだから、それ故に健悟の自慢の為に色々と友人とその彼女に会わせられた。

 しかし彼の知り合いには私の様な可愛い子は居なかった。まあだからこその自慢なのだが……。

 だもので恐らく彼の人生で二番目に可愛い子であるこいつに見とれるのも仕方の無い事なのだ。


「……ってあんたステーキなんて食ってんのね、流石セレブは違うわね」


 チビ外人は心底羨ましいのか、溜息混じりに言った。


「あ? これはお前が」


 そこまで言って、またもや私の隣には翔太さんが居るという事実を失念している事に気が付いた。チビ外人の無法っぷりに切れそうになるも、何とか辛抱する事が出来た。

 チビ外人は自分を指差し小首を傾げて「私?」と心底不思議そうな顔で言っていたが、ここは無視しよう。


 というか忘れてんのか? マジか?

 どうなってんだ一体。


 因みに流石の私も特上ステーキセットの値段は結構痛い。

 以前なら健悟に払わせていたのだがもう別れちゃうから駄目だ。といって翔太さんに払わせるなんて言語道断。そんな事させてしまった暁にはめでたく面倒くさい妹キャラとしてしか認識されなくなるだろう。しかも翔太さんは悔しい事にチビ外人に相当貢いでいて、いつもお小遣いが余り無いらしいので尚更だ。


「ちょっとーお腹が空いてたからつい頼んじゃったんですー。あっ、翔太さんは一杯食べる女の子嫌いですか?」


 チビ外人の例があるんだ。

 まさか嫌いではあるまい。


「そんな事無いよ。だってリリ……僕の知り合いの女の子も沢山食べるんだ。このステーキセットくらいなら五食は軽いかな? 食べてる所もとっても可愛いんだ。沢山食べる女の子って絶対良いよ」


 う、うおおおぉ! 元々良く食う女だとは思っていたけど、チビ外人そんな食うんか? すげぇ!

 それに沢山食べる女の子が可愛いって、やっぱり思ってた通りだ。じゃあ私も食いしん坊キャラを……でもそれだと太ってしまうし、悩ましいっ!


 てかチビ外人はデブれっ!


「もうやだー翔太ったらー、可愛いだなんてー」


 チビ外人が本気で照れて、嬉しそうに翔太さんの肩をペチペチ叩いた。

 そしてその迂闊な行動によって、翔太さんが誤魔化したリリこと知り合いの女の子が、今ここにいるアンダーソンという名札を付けたウエイトレスである事が誰の目にも明らかとなったのだ。

 そんな事されたら健悟に翔太さんとの関係を悟られてしまう恐れがある。


 わざとか……?

 だとしてもこの際どうでもいいか、計画に支障は無さそうだ。


 それはそうと少し気になったのだが、先ほどまでの無機質な片言はどこへ行ったのだろう。

 これではいつものチビ外人の喋り方じゃないか。

 やはりからかわれていたのか、とも思うが、後ろで「嘘だろ? リリィちゃんが人の言葉を話した!?」「おい、そんなに珍しいのか?」「ああ、珍しいなんてもんじゃない。こんな事は初めてだ。後で会長に連絡しないと……」「お前、そのネタどこまで引きずるんだよ」という会話が聞こえたので違うのかとも思う。

 ともかくも、何故だか知らないがこいつは突然、女神に生命を与えられたビグマリオンや人形ひとかたに彫られる事で自由に動けるようになったピノッキオの様に、何の問題も無く正常に話をし立ち振る舞う事が出来るようになったのだ。


「あのっ、それで注文は何にするんですか?」


 さっきからチビ外人に見とれている健悟が鬱陶しくもなってきたので、チビ外人にさっさとどっかに言って貰おうと急かした。


「あっ、そうだね。僕はクリームメロンソーダにしようかな?」

「ふぇーい、クリームメロンソーダねー、りょーかーい。てか翔太さぁ、こんな甘い奴飲んでたらまた太るんじゃない? ちょっとは気を付けなさいよ、せいじんびょーとかヤベーってガッテンで言ってたし。……んで? そっちの人は?」

「俺はコーヒーで」

「コーヒーつってもブレンドとかキリマンとかモカとかある訳、具体的に言いなさい」

「……じゃあブレンドで」


 健悟はムッとした表情になった。

 私はその元恋人(笑)を見て、愛情は元々無かったものの、もはや友情すら感じない、知り合い以下のいうなれば路端に転がるゴミであるかの様に思えた。

 器の小さい男だ。

 男としては致命的であるとさえ思う。

 ほんとこいつは、右腕だけが恋人の、黄ばんだパンツをカピカピにする事しか出来ないニート以下の〇ーメン製造機だ。イカ臭くってしょうがない。

 それに比べて翔太さんは、あんな失礼な事言われても嬉しそうにニコニコしているというのに、まあ、翔太さんに比べられる男も可哀想であるので、ここら辺で止めといてやろう。


「はい、んじゃ注文繰り返しまーす。クリームメロンソーダお一つ、ブレンドコーヒーがお一つ、以上で宜しかったでしょうか」

「うん」

「えへへ、何だかこっぱずかしいわね……それではご注文をお持ちするまで少々お待ち下さい。……後、みすずちゃん? 舐めた真似したら容赦しないかんね」


 キッと私を睨み、屁のツッパリにもならない捨て台詞を吐いてから「失礼致します」とペコリと頭を下げた。そして女の私でも可愛いかもと思ってしまう照れ気味の笑顔を翔太さんに見せ颯爽と去っていくチビ外人。

 その一連の仕草動作は先ほどとはまるで別人だ。 

 周りの客もそんな彼女がとても珍しいのか、皆が皆度肝を抜かれたっていう風な顔でチビ外人を見ている。

 私もさっきまでの対応からは想像も出来ない、嘘の様に流暢になった日本語でやり手っぽいウエイトレスとして立ち振舞っているチビ外人が信じられなかった。

 翔太さん唯一人だけはそんなチビ外人を親が子を見守るような、そしてどこか誇らしい顔で見ていた。


 私もそんな風に見てもらいたいという、短絡的かつ我侭に近い欲求が沸いてくる。


 だが――

 それはこの際うっちゃって良い。

 チビ外人の変わり身は驚きだし、実際店内はザワザワと落ち着かない感じになってしまっているが、それもうっちゃって良い。

 問題なのはこれから、これからどう目標を達成するかが肝なのだ。

 その目標の前では、どんな事象も瑣末さまつであるといえよう。


「翔太さん、あのっ」


 声を掛け、翔太さんの興味をこちらに移す事に成功した。

 翔太さんは本来の目的を思い出した様で、健悟に向き直った。


「あ、ああごめん。それで……貴方は?」


 折角翔太さんが話しかけてくれているのにも関わらず健悟はしかめっ面になり、黙っていた。

 その様子に翔太さんは続けて声を発する事が出来ずにいた。

 すると健悟が沈黙をやぶり、徐に言った。


「……あのさ」


 健悟はむっとした表情のまま私達二人を交互に見て言った。


「君達付き合って無いでしょ?」




 かくしてその健悟の言葉で、私と翔太さんの拙く浅はかな企みは儚く費えた事を知ったのだった。



 ふふっ、しかしまあ、残念には思わない、何故なら私にとっては全くの好都合なのだから――






 ふーむ、中途半端な所で切ってしまってサーセン。

 ちょっと文字数が多すぎるんですよね。

 後は年初にでもうpします。

 それと、タイトルについてですが、特上ステーキセットのフルネームです。

 しかし……かの妖精さんがステーキセット一つごときで満足する訳無いだろっ! いい加減にしろっ!!!


 それでは皆様良いお年を~


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