表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/53

第23話 職人の朝

倉橋よりこ その5



樽職人の朝は早い……。


ベタ惚れ編、はじめました。

 私の朝は目覚ましに頼らない。


 いつも朝5時ぴったり目が覚める、もう何年もこうしているから体が自然と起きられる様になっている。

 目が覚めた私は、居ても立ってもいられなくてベッドから飛び起き、翔ちゃんと私のお弁当の調理に取り掛かる。

 特別な日だから、今日は翔ちゃんの好きなものばかりをお弁当箱に詰めていく。

 そして身支度を終え、彼の家に。


 呼び鈴を鳴らしそのまま中に入る。


 翔ちゃんのお母さんは、何だか困ったような、何か言いたそうな顔をしていたけれど、私、何かいけない事したのかな? でも特に何も言われなかったから気にしない事にする。


 二階に上がり彼の部屋へ、今日は鍵は掛かっていない。珍しい事もあるものだ。

 ピンク色の座布団も無い。おまじないは止めにしたのかな?


 部屋に入ると彼の可愛い寝顔が見えた。


 今までは唯、凛々しくて格好良いって思ってただけだけど、昨日の事があってからそれだけじゃないって思うようになった。想いが通じ合えた彼が食べちゃいたくなるほどいとおしくて、ついつい可愛いって思ってしまう。



――昨日の事。


 翔ちゃんに告白して、色々あって大変だったけど、でも結果的にやっと翔ちゃんと付き合う事が出来た。


 ついでにリリィちゃんも彼女になっちゃったけど、私は気にしない。


……本当は嘘。気にしないわけ無い。


 でも、あの時が翔ちゃんと付き合えるチャンスだったし、格好良くて優しくて魅力的な翔ちゃんの事だもん。他の女の子が放って置く訳無いもんね。それにもしあそこで私が駄目だって言ってたらリリィちゃんに独占されただろう。

 だから私は先手を打って「気にしない」って言ったんだ。

 それでリリィちゃんが諦めてくれたら良かったんだけど、その私の意図に正確に気付いた彼女は「我慢する」っていう選択肢を取った。

 それって正直凄いと思う。


……私以外にあんなが居たなんて......。


 だから私はそんな彼女に敬意を表して先を譲ったんだ。

 本当は嫌だったけど、でも翔ちゃんのファーストキスは10年前に貰ったからね。


……私の方が上だよリリィちゃん。


 翔ちゃんが私の事好きだって思ってくれるんなら、少しくらいなら我慢しよう。あんなに苦しむ程私の事想ってくれるなんて、翔ちゃん......。それに彼からしてくれた愛の告白や口付けの甘美さと言ったら筆舌に尽くしがたい。頭がふわふわしてしまい記憶が曖昧だ。どうやって家に帰ったかも覚えていない。


 それにこんな関係普通じゃないって思うから、もしかしたらリリィちゃんは嫌になって翔ちゃんから去って行くかもしれない。

 だったら私の勝ちだ。


 嫌な関係だけれど、私って正直普通じゃないから、普通じゃ無いくらい翔ちゃんの事好きだから、きっと彼女に比べてそれほど我慢する事は嫌では無い......と思う。翔ちゃんが私だけを見てくれる様になる為の試練だと思えば、気持ちが軽くなるんだ。

 だからこの我慢比べは私の勝ちだね。

――リリィちゃんっ!



 なんて。

 そんな嫌な事もあるけれど、それでも10年来の夢が、翔ちゃんの彼女になるっていう夢が叶ったんだ。

 そして今日はその翌日。

 私が彼の彼女になれた最初の日。特別な日。


 あ、彼女になったのは昨日だ......。

 でもっ! 新しい私達の生活の第一日目であるのには違いない。

 なら、今日は「翔ちゃん記念日」ねっ! そうですよね!? マチ先生......!


 私が翔ちゃんの物になれた事を世界中に教えてあげたい。

 そして世界中の人から祝福されたいっ!

 これっていわゆるリア充ってやつだね。

 リア充爆発しろっ! って言ってる人の気持ちが今までわからなかった私だけれど、今ならわかる気がする。

 だってこんなに幸せなんだもん! そんな私の事を羨ましがる人がいるのは当然だよね?


 ごめんねみんなっ!

 私幸せになるからねっ!

 でも爆発はしないよっ!



 そんな事を思いながら、まだ眠っている翔ちゃんとその一部を確認して、今日の彼の健康状態を見て取る。


 何だか今日の翔ちゃん元気が無いみたい。どうしたのかな? いつもなら元気にそびえ立っているのに......。昨日体調が悪かったみたいだからそれでかな? でも、体調が悪いなら、それはそれで今日は翔ちゃんの看病をすればいいだけだよね。彼女として!


 だから心配しながらも、私はいつも通りの部屋の探索を始める。


 タンスの中の下着の位置だとか、エッチな本の場所だとかを確認していく。エッチな本はいつもの所に無くて、翔ちゃんの枕元にあった。大分散乱している。


 昨日までは散らかっていても何も触れないし出来ない私だったけど、今日からは彼女になったんだから、片付けてあげないとねっ。


 本を勉強机の上に積み上げて置いた。今日は胸の大きな子が載っている雑誌を持ってきたので、小さな女の子の漫画雑誌の間に挟んでおく。これで翔ちゃんも「元」に戻ってくれるといいんだけど......。


 そして金髪のウィッグを探してみた。

 昨日リリィちゃんに言われたので探してみたけれど、全然見つからなかった。一体どこに隠してあるんだろう? この部屋でわからない事が無い私だったのに、こんな事は初めてだ。

 仕方が無い。今度翔ちゃんにそれとなく聞いておくか......。


 私は諦めて、翔ちゃんが眠っているベッドの横に置いてあるゴミ箱を見やった。


 今日はいつもより量が多い。


 そして私は翔ちゃんの元気が無い理由を悟った。


……それなら仕方が無い。


 不純物が混じるといけないので、手を突っ込んで他のゴミの存在を確かめる。

 どうやら今日はソレ以外は何も無いようだ。


 今日はついている。


 そうでない日は何かしらのゴミが混じっている事もあるから、そんな時は持って来たビニール袋によりわけるのだけれど、今日はその必要が無いみたい。ベッドの上にも無いみたいだからこれで全部だろう。

 ゴミ箱に溢れんばかりに入っているしっとり湿った、或いはべチャべチャに濡れている丸められたソレを見つめる。


 私は喉を大きく鳴らした。

 これは私の朝の楽しみの一つだ。はしたない事だとわかっていても、どうしても止められない行為。しかも今日は純度100%

 であれば止められるわけは無いだろう。倫理など、ソレの前には悲しいくらいに無力だ。


 私はゴミ箱に、ゆっくりと誘われるように顔を近付けて、大きく息を吐き出し、それから胸一杯空気を吸い込む。


 栗の花の香りと翔ちゃんの匂い。


 二つの香りのアンサンブル。痺れる程ハードな演奏だ。それと同時にしっとりと歌い上げる奇蹟のデュオでもある。海外の音楽アーティストも裸足で逃げ出すレヴェルのクウォリティ。きっと野外ライブを開いたら、少なくとも53万人を越える来場者が集まるだろう。エスアンドジーも真っ青だ。


 胸一杯にソレの香りを吸い込んだ後、私は体の力が抜けてしまい心ならずも顔を離した。頭もクラクラしてしまい、その場にへたり込んでしまった。ソレの香りに酔ってしまったようだ。

 今日は量も純度も鮮度もある特上の純トロだ。中毒性が特別高い禁断の果実。一度知ってしまったら恐らく生涯抜け出せないだろう。


――そう。

 もう私は抜け出せない所まで来てしまっている。

 翔ちゃんってば......私をこんなにして、一体どうするつもりなの?


 心ゆくまで楽しんだ後、ゴミ箱の中身をゴミ袋に移す。正直勿体無いとは思うけれど、鮮度が命のソレを楽しむ為には致し方無い事だ。いずれは熟成された物の味わい方も覚えられるかもしれないけれど、それを嗜むにはまだ私は子供過ぎると思う。


 移し終わり、空のゴミ箱を除菌のウェットティッシュで磨き上げる。その姿はきっと人から、こだわりの仕事をするワイン樽職人の様に映るだろう。

 そして私はこの仕事を、誇りを持って「磨き」と呼んでいる。

 樽(ゴミ箱)の雑菌を繁殖させては鮮度と純度を失う事になってしまう。ここ1年ほど前から続けている仕事だ。

 私が「磨き」を行う様になってから雑臭が消えて、よりフルーティーでワイルドな香りを楽しめるようになった。その香りの為には欠かせない仕事である。


 でもこの部屋に来る理由が無い、学校が休みの土曜日曜は「磨き」が出来ない、なので月曜の朝の樽(ゴミ箱)は雑臭がして、仕方なくビニール袋に取り分けて楽しむのである。それでもやはり雑臭はするし、熟成では無く、単純に古くなってしまったソレは香りが数段落ちる。


 だけど、今日から私は翔ちゃんの彼女だ。土日に来ても全然問題無くなったんだ。

 これからは毎日、鮮度の高いソレを堪能できる。


――翔ちゃんありがとうっ!



 それにしてもどうして今日はこんなに多いのだろう。

 いつもならあってもゴミ箱に半分くらいなのに、半分どころか一杯にあるなんて......。


 いえ、本当はわかってる。理由なんて簡単だ。


 それはリリィちゃんの昨日のキスが原因だろう。


 あれってディープキスってやつだよね?

 リリィちゃんのディープキス......凄かった......。私の今までのキスがノーカンになってしまうくらいだと思った。

 ううん。そんな事は無い。そんなわけ無いってわかってるんだけど、でもそれくらいに感じてしまう程の激しさだった。


 あの初心うぶそうな、無垢で子供みたいな外見の彼女からは、想像もつかない様な情熱的な口付け。

 だけどリリィちゃんって全然「遊んでる」感じじゃない。

 髪の色はあんなだけれどあの綺麗なブロンドは元々だろうし、スカートの丈も学校指定の寸法だし、見た感じ真面目で校則通りの彼女だ。

……という事はあのキスはリリィちゃんにとっての普通なんだ。

 そうだよね......。外人さんだもんね。進んでるよね。キスとか挨拶でしちゃうぐらいだもんね。


 でもいくら進んでるって言ってもあれは無いよ。

 リリィちゃんってば昨日のあの時、翔ちゃんの太ももに座ってお尻を揺すってたし......。

 いくら私が初心だからって、リリィちゃんが何してたかくらいわかってるんだからねっ!


 彼女は私と同じ翔ちゃんの「女」だから、少々の事は許しちゃうけど、それでもあんなの卑怯だよ。

 だって翔ちゃんアレだもん。小さい女の子が好きな男の子だもんっ。

 なのにリリィちゃんみたいな小さな外見の女の子があんな事したら、絶対私の知らない所で翔ちゃんが我慢出来なくなって、アレしちゃうかもなんだからっ。

――そんなの不潔だよっ!


 それに彼女......生えて無い。

 昨日お風呂場で見ちゃったんだからっ! 酷いよリリィちゃんっ!


 背が低くて、ロリータフェイスで、胸が小さくて、痩せてて、生えてなくて、更に金髪の小悪魔っ娘とかっ!

 無敵じゃん! 最強じゃん! チートじゃん! 俺Tueeeじゃん! 私にはどうしたって太刀打ちなんて出来ない領域だよっ!

 そんなリリィちゃんが、アレな翔ちゃんにあんな事したらこの量も納得出来るよっ!


……翔ちゃん、昨日はお楽しみでしたね。


 まあ、愚痴っても始まらない。ポジティブシンキンが一番だ。兎に角私も頑張らないとね。

 翔ちゃんは別に小さな女の子だけ好きってわけじゃないんだから、私が持ってる大人の女の魅力を翔ちゃんにアピールしないと......。


――じゃあ先ず、手始めにリリィちゃんにならってディープキスから始めよう。


 私はそう思い、眠っている翔ちゃんに近寄った。

 あどけない寝顔、熟睡している様だ。まだまだ起きる気配は無い。


 それはそうだろう、もしこのくらいで起きるなら、今まで10年間私がキスし続ける事なんて出来なかったんだから。

 昨日も翔ちゃんを起こすのには苦労した。何十分も揺さぶって声を掛けてやっとだった。

 だから少しくらいなら大丈夫。だからキスしよう。直ぐしよう。


 これからする事を思うと、ついつい鼻息が荒くなってしまう。


 でも構わず私は翔ちゃんにキスをした。





 剃るでもなく、抜くでもなく、生えていないという覚悟……!


 ぶつ切りサーセン。

 長くなったので分割......ですが、次は5月の12日か13日。

 よりこのパートはまだ暫く続きます。


 お暇つぶしにどうぞ。

 オタッシャデー!


    ↓↓あ、ランキングお願いします。実際懇願!↓↓

     ↓アタシいま体温何度あるのかなーッ!?↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ