第16話 ロータスVSサンフラワー ~決死の最終兵器!~
リリィ・アンダーソン その6
昨日の倉橋は傑作だった。
「あははっ!」
知らずに声に出る。
だって良い気味。私を馬鹿にして、それに......私から翔太を取ろうとしたんだから......。
あの時の、翔太の幸せを願ってるって気持ちは本当。
本当だけど......でもやっぱり嘘。その幸せは私と分かち合って欲しい。
私がいない世界で翔太と誰かが幸せになるなんて考えられないっ――。
爽やかで美しい、いつも通りの朝。
いいえ、それでも昨日とは違う朝。
翔太は私が好き。勿論、私は翔太が好き。
でも、今まで言い出せなかった。翔太も何でか言ってくれない、告白してくれなかった。
……だから私が今日変えるの、今までの関係を......二人の明るい未来の為にっ!
昨日と同じ早い朝の通学路。
いつもより快眠出来たから早起きして来た。
だって心の準備は必要だし、翔太になんて言って告白しようか考え無いといけないしね。いきなりキスなんかしたらびっくりするかな?
それで「私は翔太の事が大好き」って「付き合って」って言うの、そしたら翔太は真っ赤になって言うの「僕も大好きだよ」って言ってもう一度キスをするの。そして自然と抱き合う私達、大きな彼にすっぽりと収まる私、不思議な対比。
……それって、ありね。
と、そこまで考えて、私が歩いている道の向かいから、こちらからは遠く、校門に歩いてくる人物に気が付いた。
――あれはっ!倉橋よりこ......。
良くもまあ、どの面下げて学校に来れるんだろう? 昨日あんな事があったのに恥ずかしく無いの?
お前なんかもう北澤先輩と付き合えば良いと思うよ。美男美女のカップルだし、イイトオモウナー、オニアイダナー、アコガレチャウナー。
で、私があんたの幼馴染の翔太を貰ってあげる。あんな豚だもんね。他にお嫁さんなんて貰えないよきっと。それにオタクだし変態だしね。ロリコンなんて救えないよねっ! ……私以外には。
え? 悪いねって? ううん、気にしないで倉橋よりこ。翔太が私の事を愛している様に、私も翔太の事愛しているから......だから気にしないでお幸せになっていってねっ!!!
そして私が相川リリィになってあげるわっ!
……相川リリィ。
予想以上に良い響きだわ......。
女の子が一人と男の子が一人がいいかな? ……でも翔太ったら変態だから私の魅力の前ではそんなもんで済むかしら?
――朝も夜も無く求められる私......そんな淫蕩な毎日に、日を追うごとに消耗していく私、そんな私に翔太は「ごめんねリリィ......でも君が余りに魅力的過ぎて、僕には抑える事が出来ないんだ」的な事を言うの、そしたら私が「いいの翔太、私が可愛すぎるからいけないんだよね? 私の方こそごめんね。でも......いいんだよ? 旦那さんの事受け入れるのが妻の役目だもんっ!」的な事を言う健気な私。そしたら翔太はそんな私にまた我慢が出来なくなり、そして昼から......。
「フヒヒッ。」
あ、思わず声が漏れちゃった。それにしてもベタ。全くのベタね。私って妄想のセンスないわー。しょーがないわー。だからそういうのは翔太にやって貰いましょ。
でも、ベタこそ王道、王道こそBetterよねっ! そうよね翔太っ? だって翔太昔同じ事言ってたもん。勿論、意味はわからないけどねっ!
それに私達ってベッタベタだもんねっ! ベタベタな私達のベタベタの生活、ベタベタな未来……色んな意味で。
いいわー。さいこーだわー。
そんな、ささやかで慎ましい、来るべき未来に思いを馳せていると、向かいの倉橋の姿が大きくなってきた。
どうやらこのまま行くと校門真ん前で鉢合わせするようだ。
まあ、いいけどね。
さて、どんな顔をして落ち込んでいるか見てやろう。
意地の悪い私は興味本位で彼女を注視した。
さぞや肩を落としてとぼとぼと歩いているだろうと思って見た彼女は、なんと......。
――スキップしているのだっ! しかも滅茶苦茶笑顔で。
「ふーんふふんふーん♪」
そして更に鼻歌交じりだ。
ていうか、高校生にもなってスキップして鼻歌って......それってどうなのっ!? 倉橋よりこっ!
程なく私に気が付いた倉橋。
「あら? リリィちゃん? おはようっ!」
……うおぉぉぉぉっ!
滅茶苦茶上機嫌だ。一体何があったの? 笑顔が眩しいよ。
ていうかリリィちゃんて......フレンドリー過ぎね? 昨日が初対面だろっ。
それにしても、化粧で誤魔化し切れていない目の隈も見えるし......。
「おはよう......倉橋さん......今日は随分ご機嫌ね。何かいい事あった?」
まあ、昨日翔太からあれほどの仕打ちを受けた彼女だ。まさか翔太絡みではあるまい。
という事は、別の何か......。
もしかして、本当に北澤先輩と付き合ったとかかなぁ? それだと嬉しいんだけど......。
「うふふ~、わかる~?」
わかるよ。
わからない方がどうかしてるよ。
「ねぇ、どーしてか教えて欲しい~?」
うわー。私何も言ってないに、自分から言ってきたよ。
こいつうぜぇ~。
でもちょっと興味があるから、取り合えず頷いておく。
「え~やだぁ、リリィちゃんったら知りたがりぃ~、んーどうしよっかな? プライベートな事だし~。」
やっぱこいつうぜぇっ!
「でもリリィちゃん、翔ちゃんの「親友」だもんねっ! 知る権利はあるもんね。」
そう言って、ゴホンと咳払いをして姿勢を正し間を置く倉橋。
うん?
翔太と親友? 私が? ……そうだけど、それと何が関係......。
「え~、本日。朝。私と翔ちゃんは、晴れてお付き合いする事に相成りましたっ!」
「えぇぇぇぇっ!?」
どういう事なの?
余りの急展開に付いていけないわっ!
あんた昨日翔太に振られてたじゃないっ!?
「え~なので、翔ちゃんの「親友」のリリィちゃんには教えておかないとね。あっ? ていう事は、私ともお友達だねっ。ヨロシクね ミ☆ リリィちゃんっ! これからも私達「夫婦」を末永く見守って......。」
「うおぉぉいっ!」
私は尚も続く、倉橋の戯言を中断させる為大声をだした。
周りの登校中の生徒も私達に注目し集まり出している。
ていうか夫婦って何よっ!? 早過ぎるだろっ? 先走ってんじゃねぇよっ!
「ちょっとっ! 嘘吐かないでよっ! 昨日の今日でそんな事になるわけ無いでしょっ!? あんた頭おかしいんじゃ無いの!?」
「ところがドッコイ、なるんですぅ~。」
何......を......?
スゥーッと息を大きく吸い込む倉橋。
「今朝キスしたからっ! 翔ちゃんとキスしたからっ! 好きだって言ったからっ!」
な......に......!?
顔を真っ赤にした倉橋。りんごみたいに赤くなってる。
周りの生徒もざわめき立つ。
ヤバイッ! これ以上無いくらいヤバイッ! でもっ!
「でも、翔太は寝てました。とか言うオチでしょ~。ウケル~。」
苦し紛れの言葉。というか、翔太が寝てたとしても笑えないよ。むしろ、ちょっと泣いちゃった。
「起きてたからっ! ていうか起こしたからっ! それに北澤とも違うって言ったし......。ってさっきからお前口悪いなっ! 頭おかしいってなんだよっ! そんな口が悪い奴に翔ちゃんの恋人とか務まらないしっ! お生憎様ねっ!」
「なっ......!」
……やっぱりこいつ私の気持ち知ってて声を掛けたんだなっ!
私の口が悪いってんなら、あんたは性格悪いよっ!
「そうですぅ~、口悪いですよぉ~。……でもねっ! 翔太は私の事が好きなんだからねっ! そんな私をひっくるめてなんだからねっ! そこんとこよろしくっ! ……それにそもそもキスしたはいいけど、返事は聞いたのっ?」
これも苦し紛れ。
けどっ! どうだっ!?
「はぁ? 馬鹿じゃない? 翔ちゃんはキスでいいんだよ? キスしたら私の物。……私寝ないで考えたのに、こんな簡単な事、朝まで気が付かなかったよ。本当、私ってばお馬鹿さん(テヘペロッ」
舌を出して可愛く自分の頭を軽く小突く倉橋。
周りの生徒はポカーンとしている。
それはそうだろう、状況も状況だし、それにそもそも倉橋の言っている言葉の意味がわからないってのもあると思う。
……でも。
「ぐぬぬ......!」
唇を思い切りかみ締める。少し血の味がするけれど構っていられない。
……そう、私には彼女の言っている意味がわかる。……悔しいけれどっ!
普通ならば倉橋の話は独善的、勝手な妄想、狂人の独り善がり、としか認識されないだろう。
それはその通りだと思う。普通は、普通の男はキスしただけでは恋人にならない。
勿論、彼女の様な物凄い美少女にキスされたら恋してしまうかもしれないが、この場合はそういう話では無い。
彼女がキスをしたのは翔太だ。翔太なら、それが例え物凄い不細工な女でも恋人になってしまうだろう。
――それはどういう事なのか。
何も難しい事では無い。極々簡単な事。単純明快な種明かし。
――つまり、翔太は、相川翔太という男の子は優しすぎるのだ。
優しすぎるから、キスだけで、それだけで関係を迫れる。
もし嫌がっても「私のファーストキスを捧げたのに」とでも言えば封殺出来てしまう。もしかしたら、体の一部を触らせるだけでも可能かもしれない。そして「お嫁にいけない」とでも言えば問題無いだろう。
しかも相手はあの倉橋よりこだ。それに翔太の幼馴染。昨日の態度から見ても憎からずに思っている事だろう。
何度もいうが、普通なら考えられない事......。でも翔太には翔太にだけは通用する必殺技だ......!
何年も彼の優しさに、その異常とも取れる寛大さに、甘えてっ! 甘えきって、溶かされ尽くした私が言うんだ間違いは無いっ!
でもそれって私だけが知っている事だったはずだ。何故知っているんだ?
……いや、流石は幼馴染といった所か......! やってくれるっ!
それに倉橋は本気だ。本気で翔太に恋してる。
仮にもし他の女が、冗談半分からかい半分な態度で接していれば、いくらあの翔太でもそれに気付いてその女と別れるだろう。それならば良い、それならば私が今度は本当の恋人として彼の物になるだけ。
でもこいつは違う。
こいつが恋人になってしまったら、もう後が無い。私なんかには付け入る隙など見せないだろう。
これは本当に不味い事になってしまった......。
ヤバイ。やば過ぎるっ!
何とかしないと......。もう一生翔太と付き合えない、愛し合えない。そんな私の未来は......。
――嫌っ!
そんなの絶対嫌っ!
そんな未来は認めない。
何か......何か手があるはず......。
――――そうだっ!
……あるじゃないか。
私がこの時の為に、もしもの時の為に用意していた、居ないかもしれない仮想敵を想定して作り上げていた「最終兵器」ッ!
――倉橋っ! 食らうがいいっ!!!
言い忘れていましたが、この小説は恋愛バトル小説でもあります。
タグが一杯なのでもう継ぎ足せませんが......。
流石に「金髪ロリ」と「デブオタ」のタグを外すわけにもいきませんしね~、困ったものですよ。実際。




