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転生先は老婆⁈

作者: 山田裕子
掲載日:2026/08/11

「公爵令嬢ヴィオレット・グランドール!これらの罪でそなたに入牢を申しつける!」


ジェラルド殿下の声が響く。


なぜこんなことになったのか。

殿下のおっしゃる罪状に心当たりはない。

言い返そうにも、先ほどの飲み物に何か入っていたのか、声が出ない。

周到に準備された冤罪だった。


牢に入れられ、考える。

お父様はどうするだろう。

おめおめと嵌められた娘を切り捨てるだろうか。

病に倒れた陛下の代わりに隣国との交渉に出かけて、宰相である父はしばらく帰ってこない。

そのタイミングを狙ってこの断罪劇を起こしたのだろう。

そんなに私が憎いのか。

何年も殿下の婚約者にふさわしいよう、努力と研鑽を重ねてきたのに。

我が家の権勢も削ぎたいのだろう。

対抗勢力の家門の子息や令嬢がいた。

王子の手先となってこの冤罪を仕組んだのだろう。

そんなことをして国内で争っている場合ではないのが、わからないのか。


牢内で出される食事には手を付けなかったが、渇きに耐えられず、水を飲んだ。

喉が焼けつくように熱い。

最初から排除する予定だったのね。

牢内で自害でもしたと、言いつくろう気かしら。

ああ、目がかすみ、呼吸ができない。意識も遠のいていった。


ずっと眠っていたような気がする。

目覚めると、白いまばゆい世界にいた。

美しく光輝く女性がいらした。

お名前を聞かなくてもわかる。

女神エルフィーナ様だ。


「辛い人生だったわね。

ずいぶん眠っていたのよ。

あなたの傷ついた心が癒されるまで。」


「私が死んだ後、どうなったのでしょう?」


「国がいろいろな勢力に分かれ、国内は乱れたわ。

大勢の人たちが死に、国土は荒れた。

隣国が攻めてきて、王家は滅びました。

ジェラルド王子も死んだわ。

あまりにもたくさんの人が死に、国が滅びそうになったので、

しかたなく時間を巻き戻しました。

すべての始まりのあの断罪の少し前まで。」


「でも私には、やり直したという記憶はありません。」


「そうでしょう。あなたの心はあの時点で疲れ果てていた。

とてもやり直せる状態ではなかったわ。

あなたがやり直しても、良い結果にはならなかったと思うわ。

それで、他の魂をあなたの体に入れたの。」


「それは......。」


「仮に第二のヴィオレットと呼ぶわね。

彼女はあなたの代わりにジェラルド王子がでっち上げた冤罪を覆したわ。

また仲間とともに、貴族が勢力争いよりも、隣国の侵略に備えるよう働きかけたの。

一度目の時に起きた内戦も防げたし、おかげで隣国からの侵略もなくなった。

やり直して正解だった。」


「すごい人ですね。私には、そんなことできなかった......。

もう少し私が賢く動いていれば......。」


「異世界の女性政治家だったらしいの。

政治的手腕がすぐれていたみたいね。

あなたとは、年齢も経験も違うのよ。

気にすることはないわ。」


「それで私は、これからどうすればよいのでしょうか?」


「彼女は、幸せな結婚をして、公爵家の女当主として暮らしていたわ。

でも最愛の夫が天に召されるとき、自分も行くと言い出したの。

やり直しの功労者だから、ある程度のわがままは聞くつもりよ。

ただ私たちの教えでは、自殺はよくないこととされているでしょう?

地位も名誉もある彼女にそれはしてほしくないの。

だからもともとの体の持ち主のあなたに、彼女の残りの人生を生きてもらおうと思って。」


「私が、残りの人生を生きる......。」


「大丈夫。何も心配のない幸せな生活だから。

子供も孫もいい子ばかりよ。

仕事もこの前引退して、息子に譲ったから、悠々自適の生活ができるわ。

どう?

自分の体に戻って、人生を楽しんでみない?」


「私が元の体に戻ることで、第二のヴィオレットさんの望みがかなうなら、

戻ります。」


「記憶がないと不便だから、第二のヴィオレットの記憶も入れておくわね。

残りの人生を楽しみなさい。」


そう言い残すと、エルフィーナ様は消え、私も意識を失った。



目が覚めると、ベッドに寝かされていた。

ここは、母の寝室だった部屋か......。

父は後添えをもらわなかったから、私が母の部屋を使うことにしたんだわ。

第二のヴィオレットの記憶が、もともとの記憶と混ざり合う。

死んだ夫は、第二のヴィオレットが付いて行きたくなるような人だった。

優しく穏やかだが、国の危機にはヴィオレットとともに先頭に立って活動した。

子や孫は、そんな夫に似て優しく思いやりのある子たちだ。

ヴィオレットを大切にしてくれるだろう。


ふと手を見ると、少ししわの寄った年寄りの手だ。

さすがに公爵家当主だったからか、手入れが行き届いていてしみはないようだ。

立ち上がって、鏡を見る。

老婆?

ヴィオレットの記憶でわかってはいた。

でも実際に見ると少しショックだ。

これは、60代後半の女性の顔だ。

私は年をとるとこんな顔になるのか。

この年齢からすると、残りの人生は、長くて二十年、もしかすると十年くらいかもしれない。

やりたいことをやろう。

もう煩わしかったしがらみもない。


そうだ!海を見に行こう。

私はまだ、海を見たことがない。

湖より大きいとしか知らない。

それから幼いころに習った絵を描き、楽器を弾こう。

急がないと、私も天に召されてしまう。

後悔ばかりの前の人生をやり直すのだ。

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