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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十一章 勇者ミレーヌ

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第七十八話 青騎士の覚悟

第七十八話 青騎士の覚悟


 ルクス侯爵が応接室を出る時、小さく手を振ってくれた。


 上級貴族なら、平民の働きを当然のものとして受け取る人も多い。

 けれどティニー嬢には、そういう傲慢さがなかった。


 小さく手を振った仕草も、領主というより、年相応の少女のものに見える。

 きっと怖いはずなのに、必死に気丈に振る舞っているのだろう。


 応接室の扉が閉じたあとも、彼女の小さな背中が頭に残っていた。

 豪奢なドレスも、侯爵という肩書きも、今の彼女を守ってはくれない。

 この城が落ちれば、真っ先に狙われるのは彼女なのだ。


 僕がティニー嬢くらいの年だった頃は、まだヤオやミンやミレーヌと遊んでいた。


 それでも、彼女はルクス侯爵なのだ。

 燃える城と、怯える領民と、残された兵士達の命を背負っている。


 僕より五歳くらい幼いのに、あんなふうに立っていなければならない。

 そう思うと、胸が少し痛んだ。


 「カチュアさん。ルクス侯爵のご家族はどうされているのですか?」


 僕が尋ねると、カチュアさんは少しだけ表情を曇らせた。


 「ルクス侯爵の御父上は、前の戦争で戦死されました。侯爵のご兄弟は皆、養子に行かれておりましたので、家督相続権を国王陛下から与えられているのはティニー様お一人になります」


 そう語るカチュアさんの口調は重かった。


 ティニー嬢の性格といい、カチュアさんの忠誠心といい、亡き侯爵の人柄が育てたのだろう。

 剣の柄を握るカチュアさんの手が固いのは、亡き主と幼い主君の両方を想っているからかもしれない。


 「ティニー様の御父上は愛妻家で、まだお若かった事もあり、ティニー様以外にお子様はおられません。この戦争を生き残れば、ティニー様は王族のどなたかを婿に迎えて家督を継がれるでしょう」


 ティニー嬢の結婚相手も、きっと家や王家の都合で決められるのだろう。

 好きな相手を選ぶ自由など、最初から彼女にはないのかもしれない。


 可哀そうだと思った。


 もしミレーヌが、好きでもない相手と結婚させられるようなことになれば、僕はきっと国を捨ててでも手を取る。

 そう思える僕は、たぶん恵まれているのだ。


 「カチュアさんは、ルクス侯爵の家臣なのですよね?」


 「ええ。私は先祖代々ルクス侯爵家に仕える騎士の家系です。ティニー様が赤子の頃からお仕えしています」


 なるほど。


 カチュアさんにとって、ティニー嬢はただの主君ではないのだ。

 妹のように見守ってきた相手でもある。


 だから、カチュアさんはティニー嬢を見る時、時々慈しむような目をするのだろう。


 きっとカチュアさんは、ティニー嬢が歩き始めた頃も、初めて言葉を覚えた頃も知っている。

 侯爵として振る舞う今の姿だけではなく、泣き虫だったかもしれない幼い姿も知っているのだ。


 もしルクス城が落ちれば、カチュアさんは最後までティニー嬢のそばにいるのだと思う。

 たとえ、それがどれほど残酷な役目だったとしても。


 そんな事は、させたくない。


 そのためにも、黒幕を早く見つけなくてはいけない。


 僕は立ち上がり、カチュアさんに声をかけた。


 「これから僕達は街に出て調査をしたいと思います。何か良い情報が手に入るかもしれません」


 僕がそう言った時、カチュアさんが歩み寄った。

 剣を握る手が強くなる。

 決意を込めた瞳が僕を射抜いた。


 「私も同行しよう。その方が、貴公達も動きやすいであろう」


 「カチュアさんは、ルクス侯爵のそばにいなくて良いのですか?」


 「……私がここにいても、ティニー様に何もしてあげられない」


 カチュアさんの声は、今までで一番小さかった。


 応接室の外では、遠く鐘の音が鳴っている。

 厚い壁に遮られていても、その音は低く響いていた。

 城がまだ戦場であることを、嫌でも思い出させる音だった。


 騎士としては、侯爵のそばを離れるべきではないのかもしれない。

 けれど、ただ扉の前に立っているだけでは、ティニー嬢を救えない。


 その迷いが、彼女の表情に滲んでいた。


 「このまま座して落城を待つ気はない。ティニー様のために、私にもできることがあるなら動きたい」


 そう言うカチュアさんは、騎士として振る舞っている。

 けれど、その横顔は僕とそう年の変わらない少女のものだった。


 主君を守る騎士として。

 幼い頃から見守ってきた少女を救いたい一人の人間として。


 その二つの思いが、カチュアさんをここに立たせているのだろう。


 「わかりました。僕達はこの街に不案内ですし、同行していただけるとありがたいです」


 「任せてもらおう。私はこの街で生まれ育った。地理には明るいぞ」


 「頼らせていただきます」


 カチュアさんは小さく頷き、腰の剣を確かめた。


 ティニー嬢のそばを離れることに、迷いがないわけではない。

 それでも、ただ城の中で待つよりも、今は動くべきだと決めたのだろう。


 扉の向こうでは、兵士達が慌ただしく行き交う足音がしていた。

 負傷者を運ぶ声。武具の触れ合う音。誰かが命令を飛ばす声。

 応接室の静けさは、もう遠いものになっていた。


 僕達はカチュアさんを加え、手引きした者の痕跡を探すため、騒然とした城下へ向かうことにした。


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