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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第二十章 平家転生

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第百六十二話 第三の道

 第百六十二話 第三の道


 だから僕は、綺麗ごとを言うことにした。


 正直に言うと怖い。

 ロッテに嫌われるかもしれない。

 クヌートには怒鳴られ、フェリシアには憐れまれるかもしれない。

 

 でも、このままじゃいけない。

 

 アルスラン帝国の人々。

 そしてフミン族。

 憎しみに囚われた平家。


 このまま進めば、誰も救われない。

 

 確かに復讐が成功したあとは、甘美な果実の味がするだろう。

 でもその後に残るのは、深い悲しみだ。

 アルスラン帝国の人々は、フミン族を永遠に許さないだろう。

 

 だから、嫌われようが貶されようが、止める。


 「このままだと、アルスラン帝国だけじゃなく、無実のフミン族の人たちも殺されてしまう。みんなは、それが正しいと思うの?」


 僕の言葉に、クヌートが静かに目を伏せた。


 「それは仕方がないことじゃないか?」


 「クヌート」


 ミレーヌが名前を呼ぶ。

 けれど、クヌートは目をそらさなかった。


 「俺たちは所詮、余所者だ。博愛主義を唱える宗教家でも思想家でもない。マナジ教徒を滅ぼしたところで、第二、第三のマナジ教ができるだろう。俺たちには魔王を倒すという目的がある。些末なことに構っている暇はない」


 クヌートの言葉は冷たい。

 けれど、それは現実的でもあった。


 魔王を倒し、世界を平和にするのが勇者の務めなら、アルスラン帝国の内情に口を出す暇はない。

 そう考えるのは、間違いではないのかもしれない。


 ここまでは想定内だった。


 「じゃあ、魔王を倒せば全部終わりなの?」


 僕はクヌートを見る。


 「違うよね。目の前にいる人たちを見殺しにしていい理由にはならないよ」


 自分でも分かっている。

 勇者だからといって、すべてを背負うことなどできない。


 分かっているんだ。


 でも、ここでこの争いを見過ごすことが、勇者のすることだとは思えなかった。

 少なくとも、僕はミレーヌにそんな選択をしてほしくなかった。


 クヌートはしばらく黙っていた。

 やがて、小さく息を吐く。


 「ユキナとミレーヌがどうしてもアルスラン帝国とマナジ教を助けたいというなら、俺たちは協力する」


 その言葉に、僕は少しだけ安堵した。

 けれど、次の言葉で胸が重くなる。


 「だが、具体的にどうするんだ? ユキナに代案はあるのか?」


 クヌートの疑問は正しい。


 ただ反対するだけでは何も変わらない。

 復讐は駄目だ。

 戦争は駄目だ。

 無実の人を巻き込むのは駄目だ。


 それだけでは、何も救えない。


 僕は庭園の池に目を落とした。


 復讐を止めろと言うだけなら、誰にでもできる。

 でも、フミン族がこれからもアルスラン帝国の中で蔑まれ続けるのなら、同じ恨みはまた生まれる。


 必要なのは、憎むなという言葉ではない。

 憎まなくても生きていける場所なのではないか。


 だから僕は、代案を示すことにした。


 僕の前世の知識が導いた答え。

 それは、ヘブライ人がモーゼに導かれてエジプトから出た物語だった。

 

 アルスラン帝国の迫害から逃れ、相争わせないために。

 フミン族が自分たちの尊厳を保てる方法。

 戦わせない。

 憎ませない。

 アルスラン帝国も、フミン族も、平家も傷つかない方法。


 「生き残ったフミンの民を移住させよう」


 僕は言った。


 「そこで、フミンの民の国を作るんだ」


 「ユキナ、正気か!?」


 クヌートが思わず声を上げた。


 驚くのも無理はない。

 自分でも、かなり無茶苦茶なことを言っている自覚はあった。


 けれど、このままフミンの民がアルスラン帝国にいれば、戦争に巻き込まれる。

 マナジ教が戦争をけしかけるのを止めることもできない。


 幸い、平家には行政能力に優れた官僚や政治家、軍人たちが揃っている。

 平清盛を納得させられれば、不可能ではないはずだ。


 いや。

 かなり無茶苦茶だ。


 けれど、平家は一度フミンの民に文字を教え、町を作らせ、船を造らせた人たちだ。

 復讐のために使っている力を、今度は逃がすために使えれば。


 そう考えると、完全な夢物語ではないように思えた。


 でも、これが最善だと思った。


 「アルスラン帝国にいるフミンの民を、全て引き連れて、あてもない旅に出るって言うのか?」


 クヌートは畳みかけるように言った。


 「水と食料だけじゃない。寝る場所も、休む場所も必要だ。病人だって出る。老人や子供には馬車も必要だ。そんな金と余裕がどこにある?」


 「でも、このままじゃアルスラン帝国は最悪の戦争に突入するよ」


 僕は感情に訴えた。

 けれど、自分でも説得力に欠けることは分かっていた。


 それでも諦めたくなかった。


 前世の物語のように、フミンの民が生き延びる道がどこかにあると信じたかった。


 「クヌート兄さま。ユキナの言うことも、一理あると思います」


 フェリシアが口を開いた。


 「フェリシア、どういうことだ?」


 「このまま何もしなかったら、アルスラン帝国はシリカ国に攻め入ります。ですが、今のアルスラン帝国にシリカ国を攻略する力はありません。長期戦になるでしょう。シリカ国も、そんな戦争は望まないはずです」


 フェリシアは、ただ希望を口にしているわけではなかった。

 彼女はクヌートと同じように、現実を見ていた。

 だからこそ、無謀な移住案の中に、わずかに実現できる筋を探してくれている。

 

 「シリカ国にとっても、アルスラン帝国との全面戦争は避けたいはずです。ならば、フミン族の移住を支援することは、戦争を避けるための取引材料になります」

 

 フェリシアはそう言って、僕を見て頷いた。


 その瞬間、僕はフェリシアの言いたいことに気が付いた。


 そうだ。


 お金を出してくれて、馬車どころか船だって用意できる国がある。

 シリカ国なら、事情を説明すれば助けてくれるかもしれない。


 幸いなことに、僕たちにはフミン族のロッテがいる。

 しかもロッテはシリカ語も話せる。


 それなら、交渉できるかもしれない。


 無謀な夢物語だと思っていた案に、ほんのわずかだが道が見えた気がした。


 けれど、問題は山積みだった。


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