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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十九章 マナジ教団

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第百五十話 暗殺者集団の影

第百五十話 暗殺者集団の影


 僕たちはしばらく、『フミン族の歴史』の前で言葉を失っていた。


 ロッテは泣いてはいなかった。


 けれど、目は赤い。


 ミレーヌはそっとロッテの手を握り、僕は何を言えばいいのか分からないまま、古びた本のページを見つめていた。


 けれど、ここで止まるわけにはいかない。


 僕たちはフミン族の歴史を知るためだけに、大図書館へ来たわけではない。


 マナジ教。


 魔王を崇拝し、アルスラン帝国を内側から壊そうとしているかもしれない邪教。


 その手がかりを探さなければならなかった。


 「もう少し、関連する本を探そう」


 僕が言うと、ロッテは小さく頷いた。


 「はい。私も、知りたいです」


 その声はまだ震えていた。


 でも、逃げようとする声ではなかった。


 僕たちはそれから、関連する本を何冊も開いた。


 古代史。


 宗教史。


 反乱記録。


 アルスラン帝国建国史。


 フミン族に関する記述は、多くの場合、短く冷たかった。


 反乱。


 盗賊化。


 鎮圧。


 掃討。


 そういう言葉ばかりが並んでいる。


 そこには、彼らが何を奪われたのか、どんな思いで抵抗したのかはほとんど書かれていなかった。


 「勝った側が書いた歴史、ということなのかな」


 僕が呟くと、ミレーヌは悔しそうに唇を噛んだ。


 「でも、それじゃあロッテたちの気持ちはどこにも残らないよ」


 「だから、こうして少しずつ探すしかないんだと思う」


 僕はそう答えた。


 やがて、フミン族の虐殺について書かれた別の本に、気になる記述を見つけた。


 虐殺を逃れたフミン族の一部が、復讐のために暗殺者集団を作ったという。


 その集団は、アルスラン帝国の要人を何人も暗殺した。


 さらに後の時代になると、その一部が魔王信仰と結びついたという噂がある、と書かれていた。


 「これ……」


 僕はページに目を落とす。


 マナジ教という名前はない。


 けれど、魔王信仰。


 暗殺者集団。


 アルスラン帝国への復讐。


 断定はできない。


 でも、どこかでマナジ教につながっている可能性はある。


 「フミン族の人たちが、魔王を信じるようになったってこと?」


 ミレーヌが苦しそうに尋ねる。


 ロッテの表情が強張った。


 僕は慌てて首を横に振る。


 「そうとは限らないよ。少なくとも、この本には一部としか書かれていない。フミン族全体がそうだったわけじゃないはずだ」


 「でも……」


 ロッテが小さく呟いた。


 「全部を奪われて、誰も助けてくれなかったら……魔王でも何でもいいから、力が欲しいと思う人はいたのかもしれません」


 その言葉は重かった。


 僕は何も言えなかった。


 魔王信仰など、許されるものではない。


 僕は魔王信仰を許せない。


 それは変わらない。


 魔王に縋れば、きっとまた誰かが傷つく。復讐のために別の誰かを殺せば、奪われた側だった人間が、今度は奪う側に回ってしまう。


 そんなものを認めてはいけない。


 でも。


 もし僕がフミン族として生まれていたら。


 病気で寝たきりだった前世の僕のように、ただ奪われていくのを見ていることしかできなかったら。


 もし、目の前で家族を殺されて、ミレーヌまで奪われて、それでも誰も助けてくれなかったら。


 その時の僕は、本当に「正しく」いられただろうか。


 助けてくれる神もいない。

 訴えを聞いてくれる国もない。

 剣を取る力もない。

 ただ、憎むことしか残されていない。


 そんな時に、闇の中から手を差し出されたら。


 たとえそれが魔王の手でも、僕は振り払えただろうか。


 そう考えた瞬間、背筋が冷えた。


 魔王信仰は間違っている。


 けれど、そこに落ちた人たちを、最初から邪悪だったと切り捨てることはできない。


 僕も一歩間違えれば、そちら側にいたかもしれないのだから。


 「この本を書いた人か、研究を引き継いだ人に話を聞ければいいんだけど……」


 僕が呟くと、ロッテは奥付を確かめた。


 「かなり古い本です。著者はもう亡くなっていると思います。でも、同じ系統の研究書はあるかもしれません」


 「じゃあ、それも探そう」


 僕たちはさらに本を探した。


 けれど、これ以上はっきりした手がかりは見つからなかった。


 分かったのは、フミン族の歴史が人間族によって深く傷つけられていること。


 そして、その傷の中から、復讐と魔王信仰が生まれる余地があったということ。


 マナジ教を追うには、ただ邪教を探せばいいわけではない。


 この国が積み重ねてきた罪と、そこから生まれた憎しみも見なければならないのだ。


 図書館を出た時、外は少し夕方に近づいていた。


 白い建物の影が長く伸び、丘の下に広がる街には、相変わらず人と荷馬車が行き交っている。


 遠くでは、兵士たちが整列して東の城門へ向かっていた。


 開戦前夜。


 その言葉が頭に浮かぶ。


 彼らを戦場へ送ろうとしている皇帝。


 その影で糸を引いているかもしれないマナジ教。


 そして、歴史の底に沈められてきたフミン族の怨み。


 全部が、少しずつ一つの線でつながり始めている気がした。


 「ユキナさん」


 ロッテが小さく言った。


 「私、もっと知りたいです。フミン族のことも、マナジ教のことも」


 僕は頷く。


 「うん。調べよう。ちゃんと知ろう」


 ミレーヌもロッテの手を握った。


 「ボクも一緒に知るよ。知らないまま、誰かを助けるなんて言えないから」


 その言葉に、ロッテは少しだけ泣きそうな顔で笑った。


 僕たちは図書館をあとにした。


 次は、シグレさんやセシルさんたちと情報を合わせる必要がある。


 暗殺者集団。


 魔王信仰。


 そして、マナジ教。


 まだ何も断定はできない。


 けれど、手がかりは確かに掴んだ。


 無意味な戦争を止めるためにも、僕たちは早くマナジ教へ辿り着かなければならない。


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