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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十四章 船出

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第百五話 陽光に揺れる記憶

第百五話 陽光に揺れる記憶


 僕達は、今日から護衛する船へ向かった。


 港の桟橋に近づくにつれて、胸の奥が少しずつ高鳴っていく。


 遠くから見ても大きかった船は、近くで見るとさらに迫力があった。


 「うわあ……大きな船だね!!」


 思わず声が出た。


 全長は七十メートルくらいだろうか。細長い船体に、四本のマスト。帆はまだ畳まれているけれど、それでも海に出ればかなり速そうだ。


 前世の知識で言えば、クリッパーに似ている。


 大量輸送より速度を重視した船だ。


 今回は木材のような重くてかさばる積み荷はほとんど載せず、東方での買い付けに使う銀を中心に積むらしい。


 余計な荷を減らし、危険な海域を少しでも早く抜ける。


 理屈は分かる。


 けれど、銀を積んだ外洋船なんて、まさに宝船だ。


 シャムド男爵がどれだけ追い詰められているのか、改めて分かった気がした。


 「ゲームで見たのと全然違う」


 ぽつりと呟いてから、しまったと思った。


 「ゲームって?」


 隣にいたミレーヌが不思議そうに首を傾げる。


 この世界でゲームと言えば、チェスやカードのような遊びを思い浮かべるだろう。


 「ああ、うん。帆船のおもちゃがあるんだよ」


 僕は慌てて誤魔化した。


 「ユキナ、子供の頃から船が好きだったもんね。今度ボクと遊ぼうよ」


 「あはは。もう船を浮かべて遊ぶ歳でもないけどね」


 ミレーヌは、池や川に浮かべるおもちゃの船を想像したようだった。


 それでいい。


 僕は前世で、本物の船を見たことがなかった。


 ずっと病院のベッドの上にいて、体調のいい日にゲーム機を触るくらいしかできなかったからだ。


 画面の中で帆船を動かし、港から港へ交易品を運ぶ。


 それだけでも楽しかった。


 けれど、目の前にある本物の船は、画面の中のどんな船とも違っていた。


 潮の匂い。


 波に揺れる船体。


 軋む木材の音。


 白く畳まれた帆。


 それら全部が、僕の知らなかった世界だった。


 羨ましいと思わないで欲しい。


 病室で一日中ゲームをしていられる生活なんて、少しも羨ましいものじゃない。


 もし誰かが羨ましいと言うなら、僕はすぐにでも代わったと思う。


 「ユキナ?」


 ミレーヌの声で、僕は我に返った。


 彼女の緑の髪が、潮風に揺れている。


 その姿を見て、ふと思った。


 ミレーヌにも、前世というものがあったのだろうか。


 もしあったのなら、そこには僕の知らない時間がある。


 誰かと出会って、誰かを好きになって、僕の知らない人生を生きていたのかもしれない。


 そう考えると、胸が小さく痛んだ。


 馬鹿だと思う。


 今、ここにいるミレーヌはミレーヌなのに。


 過去があったとしても、それは僕がどうこう言えるものじゃない。


 それでも、少しだけ嫌だと思ってしまう自分がいた。


 陽光が海面に反射し、強い光となって僕の目を射した。


 眩しさに、思わず目を閉じる。


 その瞬間だった。


 ◆◆◆


 前世で入院していた病院の中庭。


 僕はベンチに座っていた。


 その日は珍しく体調が良くて、看護師さんに許可をもらって外に出ていたのだと思う。


 白い建物。


 消毒液の匂い。


 手入れされた花壇。


 遠くから聞こえる車椅子の音。


 病院の外なのに、そこもやっぱり病院の一部だった。


 その時、同い年くらいの女の子に声をかけられた。


 綺麗な長い髪をした子だった。


 大きな瞳。


 よく笑う口元。


 明るくて、人懐っこくて、こちらの遠慮なんて気にしないような子。


 「君、名前なんて言うの? ボクはね、未来。ミクって言うんだよ」


 「僕はユキナ。この病院に入院してるんだ」


 「そうなんだ。ボクも一緒だよ」


 そう言って、その子は僕の隣に座った。


 「よかったら、友達になって欲しいな」


 「え、でも僕は……」


 「ボクと友達になってよ。ね♪」


 断る理由を探しているうちに、彼女はもう笑っていた。


 その笑顔が、やけに眩しかった。


 ◆◆◆


 「ユキナ、ユキナ。どうしたの?」


 目を開けると、ミレーヌが僕の顔を覗き込んでいた。


 海面に反射した光がまだ眩しい。


 僕は何度か瞬きをして、今の光景が前世の記憶だったのだと気づく。


 忘れていたわけじゃない。


 でも、ずっと思い出せなかった記憶だった。


 「未来……ミク?」


 口から名前がこぼれた。


 「ミクって誰? ボクはミレーヌだよ」


 ミレーヌが少し困ったように笑う。


 「え、あ。ごめんね」


 どうしてだろう。


 前世で出会ったあの女の子の顔が、一瞬だけミレーヌと重なった気がした。


 同じなのかもしれない。


 違うのかもしれない。


 確証なんて何もない。


 けれど、あの子もミレーヌみたいに快活で、陽気で、こちらの心に遠慮なく入ってくる子だった。


 何度か中庭で話した記憶がある。


 病気のこと。


 好きな遊びのこと。


 退院したら何がしたいか。


 僕はあの頃、少しずつ心が荒んでいた。


 どうせ治らない。


 どうせ外には出られない。


 そう思いかけていた。


 でも、あの子が笑って話しかけてくれたから、僕はずいぶん救われたのだと思う。


 僕が死んだあと、あの子はどうなったのだろう。


 病気は治ったのだろうか。


 退院できたのだろうか。


 幸せになっていて欲しい。


 そう思った。


 「ユキナ、もしかして船に乗るの苦手だったりする?」


 ミレーヌが心配そうに僕を見る。


 「ユキナ、乗り物酔いするもんね。そういう時は、お父さんが調合した乗り物酔いによく効く煎じ薬だよ♪」


 「ミレーヌのお父さんのお薬はよく効くからね」


 「当然だよ。ボクのお父さんは世界一の名医なんだから」


 ミレーヌは、ふんすと胸を張った。


 その仕草が可愛くて、僕は少し笑ってしまう。


 ミレーヌはお父さんのことが本当に好きなのだと思う。


 マリータさんを亡くしてから、ミレーヌのお父さんは彼女を連れて僕の街へ移り住んできた。


 腕のいい医者で、薬学が中心だったあの街ではとても頼りにされていた。


 僕も何度か世話になったことがある。


 優しくて、でも患者の前では決して弱音を見せない人だった。


 「ユキナ、どうしたの? 本当に船が苦手なの?」


 「ううん。ミレーヌのお父さんのことを考えてた」


 「ボクのお父さんのこと?」


 「うん。今頃どうしてるのかなって思ってね」


 「今頃、たくさんの患者さんに囲まれて忙しくしてるよ♪」


 ミレーヌは迷いなくそう言った。


 その声には、父親への信頼が満ちている。


 この旅が一区切りしたら、ちゃんと挨拶に行かないといけない。


 ミレーヌを大切にしています。


 これからも一緒に旅を続けます。


 そう伝えられるように。


 そのためにも、まずはこの護衛任務をやり遂げる。


 僕は目の前の帆船を見上げた。


 白い帆を畳んだ四本のマストが、青空に向かって伸びている。


 海の向こうに、何が待っているのかは分からない。


 それでも、行くしかない。


 僕達は、シャムド男爵の最後の船に乗るのだから。

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