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遠いあの日の約束  作者: 藍凪みいろ


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第10話 帰還


 その後、セレクとティーナは救助の船が来るまで、ボートの上で他の乗客達と航海士と共にひたすら待ち続けた。


 他のボートに乗る乗客達もティーナ、セレクと同じく寒さで体が震えたが、冷たい夜の海に沈んでいった者達に比べたら大したことはない。皆、そう強く思っていた。



 ボートで救助を待ち、無事、救援船に乗ることが出来たティーナは救援船の中でリアーナと再会を果たし、リアーナと共に家に帰って来た。


 帰って来たティーナの姿を見るなり、母親であるリゼッタはティーナを弱々しく抱きしめる。


「ティーナ、良かったわ。無事で……」


 いつもの母親からは想像も出来ない程の取り乱しようにティーナはずっと我慢していた気持ちが込み上げてきた為、泣きそうになる。


 しかし、何とか堪えながら、声を絞り出し、目の前にいるティーナにとってたった一人の母親に自分の気持ちを伝えるべく口を開く。


「お母さん、ごめんなさい。私、お見合いが嫌で、嫌って言っても聞いてくれないお母さんに嫌気がさして……」

「いいのよ。貴方の気持ちを聞かずに一方的に勧めた私が悪かったのよ」

「お母さん……」

「リアーナ、ティーナを最初から最後まで見守ってくれてありがとう」


 リゼッタはティーナの隣に立っていたリアーナに礼を言い頭を下げる。


 リアーナはそんなリゼッタを見て、慌てながら、リゼッタに告げる。


「頭を上げてください。奥さま、私はティーナ様の侍女という役目を果たしただけですから」

「それでも貴方がティーナの側で、最後まで見守っていてくれたこと。それは感謝しなければならないことだと思うから」


 リアーナはリゼッタの言葉に強く頷き返す。


「はい」

「それと、ティーナ。お見合いは破棄したわ。ティーナ、これから、もし、貴方が本当に好きだと思える人と巡り会えたら、その時は私にも教えてね」

「ええ、教えますよ。お母様」


 ティーナは思う。

 自分がこうして死ぬことなく生きて帰って来れたのは、生きることを最後まで諦めなかったからであり、カイルが私とセレクの背を押してくれたからでもある。


 いつか、またカイルと会うことができたら、その時は船の中で話せなかったことも沢山、話したい。勿論、セレクも一緒に。


(カイル、私は貴方という人に出会ったことをきっとこの先、ずっと忘れないわ)



「セレク、無事だったか……!」


 安堵の顔を浮かべ、帰って来たセレクの元に駆け寄って来たのは、セレクの父親であるルイスであった。


 セレクは父親の顔を見るなり、我慢していた何かが切れたように泣きそうになりかける。


「父さん、俺、何も出来なかった……」


 セレクは押し殺していた気持ちを溢しながら、目の前にいる父親を見る。


「俺が、あいつの代わりに船に残れば、カイルは…… ティーナと共に生きることが出来たはずなのに。俺が死なずに済んでよかったのか……」


 セレクは後悔していた。 

 あの時、俺がカイルの背を押して、ボートに乗せていたら、あの船の中に残り、船と共に沈み行くことになったのは自分であったはずだと。


 そうすれば、カイルが死ぬこともなかったかもしれないし、母親にも会うことも出来たであろう。


「何があったかは深くは聞かないが、死んだら夢も何もかも叶えられなくなるんだぞ」

「父さん…… 俺、画家になるっていう夢を認めてもらいたかったのに、父さんや母さんに認めてもらえなくて、置き手紙だけ残して家出をした」

「ああ」


 セレクの父親であるルイスは泣くのを懸命に堪えている息子セレクの姿を見て、心が痛んだ。


 セレクが何を見てどんな出会いがあったのか。

 ルイスは知らない。


 けれど、セレクがこうして無事、家に帰って来れたのは、誰かの犠牲があってのことだとわかっていた。


「生き残った俺はあいつの為に、何が出来るだろうか。俺は夢を叶えたい……!」

「ああ、もう、お前の気持ちは充分、過ぎるほど、わかっている。好きにしなさい」



 久しく話していなかった旦那からかかってきた一本の電話。その電話は大切なたった一人の息子に関わることであった。


『もしもし』

『もしもし、久しぶりだな……』

『ええ、久しぶりね。どうしたの?』


 カイルの母親であるアリーネの問いに電話の相手である元旦那は推し黙る。


『すまない。かけて早々に申し訳ないんだが、カイルがお前に会いに行く為に、アルディニック号に乗っていたんだ』

『え、それって昨日、沈没した船じゃない……』

『ああ、そうだ』


 数年前、離婚し、離れて暮らす元旦那からの言葉に「嘘よ、そんなことある訳ないじゃない」と声を漏らすアリーネ。


『誤っても許されることではないが、俺がもっと早くカイルが家を出て行ったことに気付いていれば、こんなことには……』

 

 電話越しの元旦那の声は震えていた。

 電話相手の元旦那である彼の話しによると、あの子はどうやら、私に会いに行こうとしていたらしく、置き手紙を残して豪華客船と騒がれていた〈アルディニック号〉という船に乗ったらしい。


「嘘よ…… なんで、どうして……」


 彼は言った。公表された死者名の欄に、カイルの名前が載っていたと。私は酷く悲嘆した。


 けれど、もう、あの子は戻って来ない。

 あの子は私に会うことが出来ないまま帰らぬ人となってしまった。


「カイル……」


 アリーネは泣き崩れながら、力尽きたようにその場に座り込んだ。


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