#1 長い夜
ここは世界的な少子化により、人口が限りなく減ってしまったとある国…
少子化の原因は、『霧』による不眠の呪いのせいらしい。人々から「安眠」という幸福が失われてから、どれくらい経っただろう…
今、この国では長い夜は畏怖の象徴とされている。
この世界の希望。
それは宮廷安民術士の少女と婚約者の王子に託された…
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???「兄さん、今日も眠れないの?」
兄の部屋を覗き込むその人物の名は、
ルツ・アルベルト(14)
最近は一睡もできていないという双子の兄、アッシュのことが心配で仕方ないらしい。
アッシュ・アルベルト(14)
彼は「世界を救う程の夢力(魔力)を秘める天才」と持て囃されながらも、霧による「不眠デバフ」の呪いに苦しめられていた。
アッシュ「ルツか…何だよ!また俺のこと嘲笑いに来たのか?」
目の下のクマにより悲壮感が漂う兄さんの胆力は、全盛期の6年前とは比べものにならぬ程衰えていた。
父上の跡を継ぐという立場上、微かな弱みすらボクに見せまいとする、兄さんなりの虚勢…
それが痛々しかった…
ルツ「ほら、兄さん。どんな不眠も解消されるという魔羊の首飾りだよ(*´꒳`*)」
ルツが絵を描くと、不思議なことに描いた絵の通りに首飾りが実体化して現れた。
アッシュ「お前…それは恋人を呪い殺すと言われる王国未承認の呪具じゃねぇか!!悪夢にうなされるとかいう…」
ルツ「そうさ。…兄さん、もう2年以上まともに眠れていないでしょう?背に腹は変えられないよ。ほら、悪夢は不眠に勝るって言うじゃない!」
アッシュ「使わねぇよ! …オレはジュリア先生の唄じゃないと眠れねえんだよ。スケッチなんかして、、魔力の無駄遣いすんなよな!」
オレと違ってルツは、1日10分程度は眠れているようだ。
ルツ「またそんな事言って…先生はもういないんだよ。残念だけど…。明日はエマが帰ってくるから安眠術、効くといいね」
先代宮廷術士のジュリア先生を失ってから6年…
当時まだ8歳だった俺とルツ、そして連れ子?というか弟子のエマは、この日を境に安眠とはかけ離れた生活を余儀なくされていた。
そういえば先生が生きていた頃は3人でよく遊んでいたっけ。
先生の加護を失ったアイツは、落ちこぼれで庶民生活を続けながら無名の劇団に所属したって聞いたけど…
何故お城を去ってしまったんだろう…
ルツ「エマはね。劇団での下積みを経て12歳になってから急に、夢力に目覚めたんだって。不思議だよね。そこから2年間、術士養成学校のカリキュラムを修了してお城に召集を受けたみたいだよ。」
アッシュ「ちっ…親父公認のエリートかよ。アイツの下手くそな演奏と唄なんかで眠れるかよ、、」
俺は当時エマに酷いことを言ってしまったことが、ずっと心残りだった。
アイツ…元気かな。。
そうだ。久々に会ったら「おめでとう」って言ってやろう。そうしよう…
その夜、オレはいつもの様に「眠れないと分かっていながら」ベッドで横になっていた。
オレは夜が嫌いだ。
不眠という悪夢の前には、どんな血筋も身分も肩書きも関係ねぇ…って思い知らされる。
その日に使い切った夢力は、いい睡眠によらなければ絶対に回復しない。
つまり今のオレは、ルツや親父と違って一切の魔法が使えない。
このままではこの国は…
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0時を回った頃、ふいに城内の霧が濃くなり、息苦しくなる…
血のように真っ赤な霧だ、、こんなこと初めてじゃないか?!
何があった?!
それにこれは、、パイプオルガンの音色だ…
不安を掻き立てられる、初めての音。
なのに懐かしさを感じる。
あれ…この旋律は、、先生⁉️
先生、、やっぱり生きていたんだ、、よかった。
オレ、先生の唄じゃないとダメなんだ。先生はあんな場所で死んじゃいけない人だったんだよ…。
慌てて部屋の外に出ると、見張りの兵達が全員倒れていた…
アッシュ「死んでる…だれが!!」
ルツも部屋から飛び出してくる。
ルツ「兄さん、この音色は、、」
その表情を見る限り、おそらくルツもオレと同じことを察しているんだろう…
…親父が危ない!!
親父の寝室に向かうが、誰もいない…
というかこのお城で起きているのはオレ達だけか?!
親父の居場所として他に考えられるのは…
怪しいパイプオルガンが鳴り響く玉座に向かう…
扉を開けると、霧の向こうに微かに見える、見覚えのあるシルエット…
その人物には角が生えており、まるで母親のような懐かしさを感じる…
???「遅かったわね、アッシュ。このお城はもう終わりね。エマを引き渡しなさい?」
その人物の足元に横たわるのは…親父?!
なんだ…これは、、
何が起きている…
次の瞬間、玉座に響き渡るハープの音色。
心地いい…それに懐かしい、護られる感覚。
俺の周りの霧が薄くなっていく…
後ろを振り返った瞬間、桜色の羊の大群に襲われ、俺とルツは羊たちの背中に倒れ込んでしまった。
襲いかかる睡魔…
「眠い」という感覚は、、いつ振りだろう。
そこからの記憶が、ない。
オレは実に6年振りに安眠という快楽を貪っていた。
俺は…
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エマ「ねぇ起きて?王子…」
アッシュ「……お前かよ。」
寝起きのオレの顔を覗き込むこの悪趣味な女は、見習い宮廷安眠術士のエマ・リースレット(14)。
6年振りだ…
ジュリア先生の弟子…ということ以外、血筋や素性が謎に包まれているこの女の心の内は、どうも読みきれない…
エマ「今日は王子にお知らせがあります。今夜から王子は、私の子守唄によって安眠が約束されるでしょう。よかったですね。」
アッシュ「なっ、何?!お前の子守唄だって?馬鹿にするな!!俺は先生の唄以外は受け付けない身体なんだよ。」
ルツ「そんな言い方はないんじゃないか?兄さん。ボク達は、エマの安眠術に助けられたんだからさ。」
アッシュ「…あの羊は、、やはりエマの仕業か。でもこいつの術なんて先生の足元にも及ばないだろ、、」
あれ…おめでとうって言うはずだったのに、、
ところで、ここはどこだ?!
移動している?
船の上…らしい。
ルツ「落ち着いて聞いてね、兄さん。あの赤い霧、覚えてる?」
アッシュ「…思い出した!!あの霧は何だったんだ?!」
ルツ「あれは国交が断絶してから1000年になる、魔海の向こうの世界からのものらしいよ。詳しいことは分からないけど…あの霧で父上は。。。」
な、、、何だって?!
アッシュ「ちょっと待てよ!寝起きでいっぺんに話さないでくれ!親父はどうなったんだよ…」
ルツ「…とにかく我がアルベルト王国は侵略されて、兄さんとエマは国家転覆罪と国王殺害の罪に問われてるんだよ。もちろんボクもね。」
アッシュ「……おい!ルツ!!俺は冗談なんか聞き流せる状態じゃないぞ!殺害ってなんだよ?!」
ルツ「父上は…かろうじて死んではいないと思うよ。それより、、新国王に就任したのが、ジュリア先生なんだ。先生が生きていたんだよ。」
そんな…じゃあやはりあの、角が生えた人物が先生だったっていうのか?!
エマ「先生はね、もう寿命が残り僅かで私の身体に乗り移りたいんだって!その為に私を誘拐して育ててくれたんだよ!」
アッシュ「お前…久しぶりに顔見せたと思ったら、何言ってるんだよ!!」
エマ「私はね、先生の力になりたい。でもアッシュとルツが殺されちゃうのは嫌だから、2人を逃してから先生の元に行こうかなと思って…」
ルツ「とにかく早まるな…って説得してるところだよ。兄さんからも言ってやってよ!」
エマが…死ぬ?!
先生の身代わりに…?!
オレは、、
(#2 へ続く)




