第15夜 「やりますねぇ」から始まる正面衝突
砂漠遺跡が、悲鳴を上げた。
トオールが踏み込んだ瞬間、空気が殴られる。
拳が振るわれる前から、衝撃だけで砂柱が弾け飛ぶ。
「来るぞっ!」
トーノの叫びが遅れて響いた。
「必殺――泥返泥!!」
泥が、拳になって襲いかかる。
逃げ場を塞ぐように広がり、質量と魔力が同時に叩きつけられた。
――直撃。
視界が揺れ、身体が石壁に叩きつけられる。
遺跡の柱が砕け、砂煙が舞い上がった。
「先輩っ!」
トーノの声が遠い。
瓦礫の中。
俺は、ゆっくりと立ち上がる。
服は裂け、身体に鈍い痛みが走る。
だが――骨は折れていない。
砂を吐き出し、口元を拭ってから、俺は笑った。
「……やりますねぇ」
その一言で、空気が変わった。
トオールが目を細める。
理解したのだ。
今のは、効いていないと。
「いいねぇ……」
「だが、まだだ!」
トオールの全身から、魔力が噴き上がる。
質が変わる。
重さが、鋭さが、次元を超える。
「奥の手だ!」
両腕を広げ、咆哮。
「中性微粒子!!」
見えない衝撃。
防御も回避も意味を持たない、直進する破壊。
俺は一歩、前に出た。
「本気出してどうぞ」
魔力を解放する。
いや、歪める。
体内に刻まれたスキルが応える。
――スキル《YAJU》起動。
――派生技、展開。
≪必殺――仏地破≫
正面突破。お互いの力がぶつかる。
不可視の奔流と、圧縮された一撃が正面衝突する。
轟音そして、衝撃波で遺跡が根元から崩れ落ちる。
トオールが、初めて大きく後退した。
「……っ、はは……!」
それでも笑う。
拳を震わせ、吼えた。
「馬鹿野郎!お前俺は勝つぞお前!!」
二つの“力の解放”が、同時に世界を歪めた。
トオールの全身が赤黒く発光する。
筋肉が軋み、魔力が血管のように浮き上がる。
「――解放だ」
低く、だが確かな宣告。
「これが――俺の本気」
踏み込み。
大地が沈み、砕け、めくれ上がる。
「必殺――泥返泥・壊!!」
泥でも、拳でもない。
“前線そのもの”が質量を持って突っ込んでくる。
破壊の概念が、一直線に押し寄せた。
同時に――
俺も、前に出る。
再びスキル《YAJU》が、限界まで拡張される。
派生回路が焼き切れる寸前まで、魔力を流し込む。
「行きますよ!」
足を踏み鳴らす。
≪必殺――仏地破!!≫
正面。逃げずにぶつける。
互いに一歩も引かない、まさに男の意地のぶつかり合い。
二つの必殺が、激しく衝突する。
――轟。
光も、影も、一瞬だけ意味を失う。
次の瞬間、
衝撃が爆発した。
衝撃波が遺跡を薙ぎ払い、
柱が粉砕され、壁画が剥がれ落ち、
砂漠の地形そのものが書き換えられる。
トオールの歯が剥き出しになる。
俺の足が、地面にめり込む。
「いい……!最高だろうが!!」
「ええ。王道って、こういうやつですから」
二つの力が、火花を散らしながら拮抗する。
衝突は、なおも終わらない。
仏地破と泥返泥が噛み合ったまま、
二人は一歩も引かず、力だけを押し付け合っていた。
遺跡が、限界を迎える。
柱に走る亀裂。
天井から零れ落ちる砂と石。
空気そのものが、悲鳴を上げていた。
「――っ、まだだァ!!」
トオールが吼える。
筋肉がさらに隆起し、魔力が濁流のように噴き上がる。
「馬鹿野郎!お前俺は勝つぞお前!!」
理屈も技もない。
ただ正面から叩き潰すだけの、暴力の信念。
その一撃を、俺は真正面から受け止めた。
足が沈み。肺が軋む。
視界が一瞬、白く染まる。
それでも――
「……やりますねぇ」
耐え切った、その瞬間。
体の奥で、
スキル《YAJU》が再起動する。
限界を越えた負荷。
だが、それこそが引き金だった。
(――ここだ)
魔力回路が、二重に展開される。
《YAJU》派生・二重展開
≪邪拳夜粋魔昇音!!!!≫
世界が、反転する。
仏地破が“押す力”から、
叩き返すためだけの純粋な衝撃へと変質した。
「本気出してどうぞ!」
低く告げた瞬間――
衝突点が、爆ぜた。
――ドォンッ!!!!
圧縮された魔力と衝撃が一点で解放され、
トオールの巨体が、後方へ弾き飛ばされる。
遺跡の壁を突き破り、
石と砂煙を巻き上げながら、数十メートル先まで転がった。
同時に、
ゴゴゴゴゴ……!!
天井が崩れ落ち、
支柱が耐えきれず、次々と倒壊していく。
「……チッ」
瓦礫の中で、トオールが立ち上がる。
口元の血を拭い、崩れゆく遺跡を一瞥した。
「なるほどな」
「このまま続けりゃ、まとめて埋まるか」
そこにあったのは、悔しさではなく――闘志。
「今日はここまでだ」
「続きは、もっと広い場所でやろうぜ」
背を向け、歩き出す。
「覚えとけ、次は、どっちかが倒れるまでだ。」
砂煙の向こうへ、
魔王軍第一災禍は姿を消した。
直後、遺跡は完全に崩落を始める。
――倒したわけじゃない。
だが確かに、
正面からぶつかり、押し返した。
次の戦いを約束するように、
砂漠の遺跡は音を立てて沈んでいった。




