第12夜 砂漠の酒場で噂を集めていたら、警備隊が喧嘩を売ってきた件
――砂漠の街・バル=ラーム。
城壁の影に入った瞬間、
焼けつくようだった日差しが、少しだけ牙を引いた。
石と砂で組まれた街並み。
乾いた風が路地を抜け、香辛料と鉄の匂いを運んでくる。
街の中央に近い酒場。
看板は半分欠け、文字は読めない。
だが中は異様に賑わっていた。
傭兵、商人、流れ者。
情報と酒と愚痴が、同じテーブルで回っている。
「まずは情報収集っすね」
トーノが低い声で言う。
「魔王軍の動きと、元の世界に帰る手段」
俺は短くまとめる。
「どっちも、この街には転がってそうだ」
ミウラはカウンターに肘をつき、
水代わりの酒を一気に飲んだ。
「チカレタ……」
「砂は歩くだけで体力持ってかれるゾ」
俺は周囲に視線を走らせる。
そして噂話を盗み聞き。
「最近、警備隊が妙に増えた」
「魔王軍と繋がってるらしい」
「怪しい奴はすぐ消える」
――十分だ。
その頃。酒場の外。
屋根と屋根の隙間。
主人公達を睨む怪しい人影がいた。
砂色の制服。
警備隊章を弄びながら、下を覗く。
「……へぇ」
主人公たちが酒場を出るのを見て、
口元が歪む。
(あいつが噂の…こいつは当たり、引いたか?)
「偵察だけにしろ」と。
トオール様からは命じられていた。
――だが。
「偵察だけ、ねぇ……」
銃の重みを確かめる。
引き金に指を掛け、すぐ外す。
「目の前に功績が転がってんのに?」
「我慢しろって方が無理だろ」
男がにやりと笑う。
「ちょっと遊ぶくらい、バレねぇよな…」
酒場を出た俺たちは、
城壁沿いの路地へ向かっていた。
そのときだった。
――足音が、揃って止まった。
路地の先。
角を塞ぐように男たちが立っている。
砂色の制服。
胸には街の警備隊章。
「……警備隊?」
トーノが小さく呟く。
先頭に立つ男が、一歩前に出た。
やけに軽い動き。
だが、視線は鋭い。
「よう、旅人さん」
にやにやと笑う。
「この街、初めてか?」
「通過するだけだ」
俺が答える。
男は、俺をじっと見た。
値踏みするように。
――そして、口角を上げる。
「へぇ……」
「噂通りだな」
(来たな)
「名乗っとくか」
男は胸の章を指で弾いた。
「自分は警備隊のグチサカ。
……まあ、警備隊“でもある”って感じだけどな」
ミウラが、ぼそっと言う。
「胡散臭さが砂漠級だゾ」
グチサカは気にした様子もなく続けた。
「実はさぁ…ボスからは“偵察だけ”って言われてたんだよ」
その言葉に、トーノの空気が一段階引き締まる。
「……まさか…魔王軍?」
「そうそう」
グチサカは肩をすくめた。
「近づくな、刺激するな、様子見ろって…つまんねぇよな?」
にやり。
「でも、目の前に“当たり”が転がってたら――」
拳を、鳴らす。
「手柄、立てたくなるだろ?」
次の瞬間。
「てなわけでよ…警備隊だァ!」
グチサカの合図で路地の両脇、屋根の上、背後。
警備隊装備の人間たちが、一斉に姿を現した。
「……囲まれたっすね」
トーノが低く言う。
ミウラが前に出る。
「やる気みたいだな」
「へぇ…なかなかいいガタイしてるねぇ」
拳を構えるミウラを見て、
グチサカが不敵に笑う。
「しばらくホッとしたろう!!」
意味不明な台詞と同時に、銃を抜く。
「来るぞ!」
トーノが杖を構える。
「〆鯖ァ!」
グチサカの合図で、仲間が一斉に突っ込んできた。
剣戟。
魔力の閃光。
砂が舞い、街の静寂が引き裂かれる。
俺は一歩前に出た。
「……やめとけ」
低い声。
それだけ。
だが、グチサカは止まらない。
「ははっ!」
「そうこなくっちゃ!」
銃を撃ちながら、距離を詰めてくる。
「トオール様に言われてなけりゃ、
もっと派手にやってたんだけどよ!」
「こういうのも面白いだろ?」
(完全に私欲だな)
――交渉は、終わった。
「敵だからね、しょうがないね…」
俺は静かに呟く。
砂漠の街での戦いは、
魔王軍の“偵察”が、
“実戦”へと変わった瞬間だった。
そしてグチサカは、
自分がどれほど危険な相手に
喧嘩を売ったのか――
まだ、理解していなかった。




