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真夏の夜に異世界転生したら「先輩」扱いされるんですが、スキルがYAJUなせいで空気が最悪です ~俺は健全に帰還したいだけ~  作者: 小鳥遊 千夜


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11/16

第11夜 魔王軍幹部会議――先輩は敵でも味方でもない

 

 ――魔王城・最深部。

 世界の裏側に穿(うが)たれた、黒の空洞。


 黒曜石の床は、もはや岩ではない。

 凝固(ぎょうこ)した臓物のように脈打ち、踏みしめるたび魔力が血管のように走る。

 その鼓動は、この城が“生きている”ことを否応なく理解させた。


 天井は見えず、闇の奥で、巨大な何かが呼吸している――

 そう錯覚させる圧だけが、絶え間なく降り注いでいた。


 この場に立つ資格を持つのは、

 世界を一度は終わらせた者だけだ。


 円卓を囲む四つの席。

 そこに座すのは魔王軍幹部達だ。


 そして、その奥には闇に沈む玉座。


 そこに、魔王は“在った。



 姿は見えない。

 だがそこが世界の頂点であることだけは、理屈抜きで理解させられる。


「――始めよ」


 その声が落ちた瞬間、

 円卓に刻まれた古代文字が淡く光る。


 議題は勿論、魔王軍に抗う勇者、”先輩”についてだ。



 ――魔王軍・第四災禍

 ――精神侵食・情報解体の支配者カーリー。 


 椅子にだらしなく腰掛け、指を絡めて笑った。

 舞台衣装のように改造された軍服。

 軽薄な仕草とは裏腹に、彼女の言葉は常に精神を解体する刃だ。


「で、その“先輩”やけどさぁ」


「何もしてへんのに、周りが勝手に意味付けして動くとか」

「ほんま、うせやろ?」


 くすり、と喉を鳴らす。


 それは慈悲ではない。

 破壊を先延ばしにする愉悦(ゆえつ)だった。




「俺の部下が言ってんだからほんとに決まってんだろ!

 それにしてもゾクゾクすんなぁ!」


 そう応じたのは――魔王軍・第二災禍

 ――奇襲・心理戦・破壊工作の支配者のタクヤ。


 金髪にサングラス。

 人間社会に最も溶け込む姿をした災厄。


 軽い声の裏で、目は笑っていない。


「それ最高やん!そんなレアな子、簡単に壊したらあかん」

 カーリーが、怪しく笑う。


「観賞用に欲しいわ~」


「流行らせコラ!」

 拳が卓を叩き、床の魔力が逆流した。


「観賞用なんて甘いこと言ってんじゃねぇよ。そんな面白いヤツ殴り合うしかないだろうが!」

 ――魔王軍・第一災禍

 ――前線制圧・殲滅戦の象徴 トオールが勢いよく答える。


 トオールは椅子に座らず、円卓の横に立つ。

 筋肉は鎧、傷跡は勝利の記録だ。


「Be Quiet!」

 ――魔王軍・第三災禍

 ――観測者・因果干渉管理者 アオが答える。


 その囁き一つで、全員の魔力が一瞬停止した。


「彼は意思ではない」

「“場”そのものだ」


「関わった時点で」

「敗北は始まっている」


 アオの言葉が、円卓に沈殿した。


 その沈黙を――

 最初に破ったのは、トオールだった。


「……待て」


 低い声。怒号ではない。

 だが、空間が軋む。


 トオールは、円卓から一歩前に出た。

 鎧代わりの筋肉が軋み、床の魔力が反応する。


「理屈は分かる…意味がどうとか、場がどうとか」


 拳を握る。

 その瞬間、城がわずかに震えた。


「でもな――」


 歯を剥く。

 それは笑みではない。

 獣が“獲物を定めた”ときの表情だ。


「――俺は前線だ。」

「考える前に、殴って確かめる側だ」


 カーリーが、楽しそうに目を細める。

「ほら出た~脳筋代表」


「黙れ」

 トオールは一瞥すらくれない。


 視線は既に

 まだ見ぬ“先輩”へと向いていた。


「強い相手が魔王軍に歯向かってる時点で、異常だろうが」


 一歩、踏み出す。

 円卓の結界が、きし、と悲鳴を上げた。


「俺は行く。」


 タクヤが、肩をすくめる。

「早すぎだろ……素材は寝かせたほうが――」


「関係ねぇ」


 即答。迷いはない。


「殴れるかどうか、……それだけだ」


 アオが、初めて視線を向けた。

「……愚かだ」


「上等だ」

 トオールは笑う。


「愚かじゃなきゃ、前線は務まらねぇ」


 そのとき、

 玉座の影が、前に出た。


 見えないはずの魔王が、

 確かに近づいたと全員が理解する。


「よい」


 声は低く、簡潔だった。


「第一災禍・トオール」

「好きにやれ」


 一瞬、

 世界の法則が書き換わった。


 円卓の結界が、音もなく解ける。


 それは命令ではない。

 許可だった。


 トオールがゆっくりと笑う。


 腹の底から込み上げる、

 久しく感じていなかった感情。


 拳を鳴らす。

 その音は、今度こそ戦場の合図だった。


「久々だ、前に出るのは……」


 一歩。

 闇の回廊が開く。


「相手がどんな特別な能力を持っていようが…


 背中越しに、歯を剥く。


「近づかねぇ理由は、ねぇだろ?」


 次の瞬間、

 トオールの存在は前線へと射出された。


 残された三者が、

 それぞれのやり方で、その背中を見送る。


 カーリーは、椅子に深く沈み込み、

 愉しげに指を組んだ。


「ええなぁ……一番オモロい役、持ってきよった」


 目が、きらきらと歪む。


「殴れるかどうか分からん相手に、殴りに行くとか…」


 くす、と笑う。


 どちらに転んでも、

 彼女にとっては“娯楽”だった。


 タクヤも、サングラスの奥で目を細める。


「……早漏だな」


 だが、その口元は緩んでいた。


「でもまあ、データは取れる」


 トオールが壊れるなら、それはそれ。

 壊れないなら、なお良し。


「壊れ方次第で、加工方法も見えてくる」


 アオは、何も言わなかった。


 ただ、

 すでに視線は“先輩”の座標へと固定されている


 トオールが勝とうが、負けようが、

 それは結果にすぎない。


 重要なのは――

 彼が、どんな意味を返すか。



 魔王は満足していた。


「世界は、すでに動いている」


 勇者でも、災厄でもない。

 ただ“そこにいるだけ”の先輩を中心に。


「――さあ」


「どんな意味を返してくれる?」


 その問いに、

 まだ誰も答えを持っていなかった。

 だが、

 運命だけは、すでに軋み始めていた。






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