第74話:一ノ瀬保奈美
もう分かってしまった。
自分が直也さんに抱いている気持ちが、どんなものなのか。
このままでは、必ず誰かが泣く。
その現実からは逃げられない。
でも――。
私はもう、泣いて駄々をこねるだけの存在ではありたくない。
直也さんが、あれほどの素晴らしい女性たちを惹きつけてしまうのは、私からすれば当然のことだ。
だって、直也さんはそういう人だから。
そんな人を愛してしまったのなら、それに相応しい立ち居振る舞いを身につけなきゃいけない。
私はそういう女性になる。
ならなければ、直也さんの隣に居る資格なんてない。
勉強でも、おしゃれでも、自分を磨くためにするべきことはまだまだたくさんある。
これから全部やっていくんだ。
直也さんは、私にとって世界で一番素敵な男性。
だから――堂々とその隣に立てるように。
私は世界で一番素敵な女性になる。
その決意を胸の奥に刻んだとき、涙はもう出なかった。
皆を自宅に招待したその日の深夜。
片付けを終え、静かになったリビングで、私は勇気を振り絞って口を開いた。
「直也さん……私も、梨奈さんの弟さんのお墓参りについていきたいの」
直也さんは少し驚いた顔をした。
でもすぐに頷いてくれた。
もちろん、梨奈さんに了解をいただいた上でのこと。
それから、私はもうひとつ思っていたことを言った。
「サンタローザのホスピスのような施設が、日本にもっとできるといいよね」
ニュースでは海外からのインバウンドを呼び込む話ばかりが流れている。
でも、その前に、もっとするべき事があるんじゃないか――そう思っていた。
人生の残りの時間を安心して快適に過ごせる場所を用意するのも、その一つ。
直也さんは、少し驚いた表情をした。
でも考えるように視線を伏せ、それから穏やかに言った。
「保奈美の言うとおりだね。……本当にそのとおりだ」
その言葉が、胸にあたたかく広がった。
直也さんの手が伸び、私の頭を撫でようとした。
私はイヤイヤをして少しだけ直也さんを遠ざけた。
直也さんが目を丸くする。
「もう子どもじゃないんだから……」
困惑する彼に、私は言った。
「褒めてくれるなら……私と同じ目線の高さで、ギュッとハグして」
直也さんは少しため息をついた後で、少し屈んで私を抱きしめてくれた。
温かい腕の中、胸の鼓動が耳に届く。
思わず目を閉じた。
その瞬間、私は決意した。
少しだけ直也さんの腕を外して、逆に直也さんの頭を抱きしめた。
驚いた直也さんの唇に、自分から触れた。
「家族だからじゃない。憧れているからじゃない。この気持ちはそんなんじゃないの。
……本当に愛しているの。――だから義妹とか家族とかじゃなくて――一人の女性として見て」
小さな声でそう告げて。
心臓が破裂しそうなほど高鳴っていたけれど、迷わなかった。
私はそのまま踵を返し、自分の部屋へと上がっていった。
背中に残る直也さんの視線を感じながら――。




