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第61話:神宮寺麻里
私は莉子のことを知らなかった。
名前さえ、今ここで初めて重みを持った。
これまで私は――保奈美はまだ子どもだと考えていた。
だから怖さはなかった。
亜紀と玲奈は確かに手強い。だけど、元カノである私の方が直也を一番知っている、そんな自負があった。
あとは時間が解決する。いずれ直也は、また私の知っている直也に戻ってくる。そう信じていた。
でも違った。
RICO――莉子。
彼女の存在は、私の想定を軽々と飛び越えていた。
ステージで直也を見つめるその瞳の熱さ。
そして、その強さ。
――あれは、これまで私には持ち得なかったものだ。
歌を通して、過去の私以上に直也と結びついている。
ただの幼馴染なんかじゃない。
直也の声を育て、その隣でずっと支えてきた人。
胸がざわめいた。
「元カノ」という肩書きに縋っていた私には、あまりにも残酷な現実だった。
全く想定外の事態に、言葉を失っていた。




