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第60話:宮本玲奈
――信じられなかった。
いや、違う。
信じたくなかったのだ。
私は、ずっと莉子を侮っていた。
ただの幼馴染。
昔から一緒にいるだけの存在で、直也にとって特別な意味なんてないと思っていた。
けれど、違った。
本当に直也に一番近かったのは、莉子だったのだ。
私がまったく知らない領域で、彼と結びついていた。
彼の歌の力を育て、支えてきたのは彼女だったのだ。
――何で考えなしだったの、私。
胸の奥から、自分自身を責める声が響く。
彼女の存在を軽く見ていた自分を、許せなかった。
「愛してる。もうずっと愛していたの」
莉子の声が蘇る。
そして――直也の唇に触れた彼女の姿。
頭の中で何度も繰り返されるその光景に、完全に打ちのめされた。
心が軋み、痛みで立っていられないほどだった。
そして次に込み上げてきたのは――怒り。
こんな茶番を引き起こした、アパレル部門の人間たちへの怒り。
どうしてこんな馬鹿げた場に直也を立たせたのか。
どうして彼に、こんな重荷を背負わせたのか。
歯を食いしばった。
涙と一緒に、燃えるような感情が胸を満たしていた。




