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第53話:神宮寺麻里

 会場のバックヤード。

 人と機材でごった返す廊下を、私たちは何度も往復していた。

 「直也くん……どこ?」

 亜紀さんも玲奈も焦りを隠せない。私も同じだった。


 電話をかけても応答はない。

 心臓の鼓動が速くなっていく。

 各社の五人目が歌い始めていた。――次はいよいよ最後、五井物産の番。


 「直也……」

 気づけば、私も声に出していた。


 その時だった。

 裏口の扉が開き、空気が変わった。

 白と黒のコスチュームに身を包んだ二人が、迷いのない足取りでバックヤードに入ってきた。


 黒――直也だ。すぐに分かった。

 けれど、そこに立つ彼からは、もう声をかけられるような隙がなかった。

 サイバーグラスがその瞳を覆い、普段の柔らかさを完全に封じている。


 隣を歩く女性も、同じ装いだった。

 キャップに深く隠れた顔、大きめのフードパーカー、ダボダボのパンツ。

 誰なのか一瞬では分からない。けれど、二人は明らかに「ひとつのユニット」として完成していた。


 直也が足を止め、こちらを見た。

 低く、短く言葉を落とす。


「観客席から見ていてくれ」


 それだけ。

 私たちの問いも、不安も、すべて遮るように。


 そして二人は、そのままステージへ向かって歩いていった。

 背中から漂う気迫に、私たちはただ立ち尽くすしかなかった。


 呆然と――その背中を見送った。


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