↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/83

第46話:イベント開始(神楽坂梨奈)

 ――イベント当日。

 10月最初の金曜日。


 池袋の、アイドルやV-Tuberイベントでよく使われるミニライブ会場。

 今日はまるまる貸し切り。

 ステージには照明、音響、スクリーン、全部フル装備。

 まるで本物のフェスみたいな空気を作らせた。


 ――私のために。


 経営幹部も、五井物産の偉そうな人たちも、そして他の3社――五菱商事、伊東注、雙日。

 みんな揃って会場の端っこに並んで、ざわついている。


(……いい気味だわ)


 私が「カラオケで決める」って言っただけで、社運を背負った社員たちが青ざめるんだから。

 弟のために必死に歌ってくれた大学生たちとは真逆。

 ここにいるのは、みんな保身と出世で動く大人たち。


 ――だから私は、とことんワガママにやってやる。


 午前中に各社で3曲ずつ。

 お昼休みを1時間30分程度。

 午後に各社2曲ずつ。

 そういうスケジュールで進行させる予定だ。


※※※


 最初にステージに立ったのは、雙日。

 30代後半くらいの営業マンが、緊張しながら選んだのは――

「小田和正/ラブ・ストーリーは突然に」。


 イントロが流れた瞬間、私は吹き出しそうになった。


「……平成かよ。バブル世代の合コンか?」


 歌自体はまあ、音程は外れてない。

 でも声が細いし、気持ちが全然伝わってこない。

 観客の女子高生バイトスタッフたちも、ポカンとしている。


「ハイ、次!」


 私はリモコンを取り上げて強制終了した。

 雙日の社員は真っ青。


※※※


 次は伊東注。

 スーツのボタンを外して気合を入れてきた40代。

「サザンオールスターズ/TSUNAMI」を選曲。


 ……会場の空気、完全に冷えた。


「いや、だから。親世代のカラオケじゃないんだから!」

「今どきの女子高生がサザンで盛り上がると思ってんの? バカじゃない?」


 観客席で吹き出す声。

 私も机を叩いて笑ってやった。

 彼は赤面しながら最後まで歌ったけど、終わった瞬間「古っ!」って大声で切り捨てた。


※※※


 続いては五菱商事。

 ここは若手を前に出してきた。

 20代半ばの女性社員が震える声で歌ったのは――「いきものがかり/ありがとう」。


 ……悪くない。

 曲も声も安定してる。

 でも――「朝ドラかよ」って突っ込みたくなるくらい、無難すぎる。


「うん、声は出てたけど…… “保険” の匂いしかしない」

「勝ちに来てないでしょ、これ?」


 拍手はあったけど、私の中ではアウト。


※※※


 そして――問題の五井物産。

 「総代理店を守らなきゃ」って気負いが透けて見える。

 でも出てきたのは40代半ばの、いかにも「接待部隊」って顔した営業マン。


 選んだ曲は――「B’z/ultra soul」。


 イントロで私は思わず頭を抱えた。


「マジか……“ウル、トラ、ソール!”とか、何年前だよ!」


 会場のバイト女子たちも苦笑い。

 しかもサビで声が裏返って、会場に微妙な空気が流れる。


「はい、終了〜〜〜〜!」

 私は両手でバツ印を作ってステージを遮った。


「五井物産、ダメダメ。

 全然刺さらない。

 古い、ダサい、勢いだけ。

 萎える」


 客席で五井物産の幹部たちが頭を抱えているのが見える。

 私は高らかに宣言した。


「今のところ、五井物産が最下位ね!」


 ――その瞬間、五井物産アパレル部門の人たちが本当に膝から崩れ落ちた。


 私はその様子を見ながら、口元を歪めた。


「……ザマァ」


 でも――心の奥ではほんの少しだけ、まだ期待していた。

 あの時の小児病棟でのカラオケみたいに。

 ナオヤさんみたいに、本気で人を動かす歌を聴かせてくれる誰かが現れない――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。