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第29話:イベントの進行(神宮寺麻里)

 ――正直、ここまでの反響になるとは思っていなかった。


 保奈美ちゃんのクラスメートを中心に、せいぜい数十人規模のつもりだった。

 ところが告知を出した途端、あっという間に希望者が殺到。

 気づけば用意していた二百席は即日で埋まり、教師陣からも「ぜひ参加したい」と希望が相次いだ。

 最終的には人数を絞る調整が大変だったと、学校側も苦笑いしていた。


 それだけ「直也」という存在が、若い世代にも強烈な関心を持たれている証拠だ。

 その影響力を、私は改めて思い知った。


※※※


 会場入りすると――案の定、直也の周囲に女子高生が殺到した。


「直也さん、握手してください!」

「写真は……ダメですか?」


 彼は苦笑しながらも、丁寧に応対していた。

 一人ひとりに目を合わせ、笑顔で言葉を返し、握手を求められれば断らない。

 その落ち着きぶりは、ただの “エグゼクティブ” を超えて、もはや一種のアイドル的存在だった。


 私は少し離れた場所からそれを見ていた。

 ――ほんと、罪作りな人。

 そう思わずにはいられなかった。


 やがて開演。


 冒頭のトークイベントは、直也が用意したスライドに沿って進行した。

 内容は「GAIALINQって何をやっているのか」を、女子高生でも分かるようにかみ砕いたもの。

 未来のエネルギーの話や、AIと暮らしの関わりを、イラストや図解を交えながら軽妙に語る直也に、生徒たちはぐいぐい引き込まれていった。


「――だから、アメリカの地熱発電所の現場を視察した際は、あまりに遠い場所にあるので、ヘリコプターに乗って行ったんですよ」

「ええー! 本当に!?」


 会場がどっと笑いに包まれる。

 広報担当者も隣で「いいですね」と頷きながらメモを取っていた。


 質疑応答の時間になると、さらに盛り上がった。


「どうしてそんなに勉強できるんですか?」

「学生時代に一番つらかった経験は?」


 女子高生たちの熱心な質問が次々と飛び出し、そのたびに直也は真剣に答え、時にユーモアも交えて場を沸かせる。

 教師からも質問が出てきた。

「現場の合意形成の大切さを、若い世代にどう伝えていくべきだと思いますか?」


 なるほど、と私も思うような本質的な問いだった。

 直也はそれにも落ち着いて答え、広報がウンウンと満足げに頷いていた。

 会場全体が、ポジティブな熱気に包まれていくのが分かる。


 そして、ラスト。


「――せっかくライブハウスを借りているんです。

 最後にちょっとだけ、皆さんと音楽で交流して終わりにしましょう」


 司会の合図で場内の照明が少し変わり、スクリーンにはカラオケのセットリストが映し出される。

 歓声と拍手が上がり、生徒たちの顔がぱっと輝いた。


 カラオケ――といっても、これは余興に過ぎない。

 でも、この “軽さ” が良い。

 真剣な話のあとに、音楽で一緒に声を出すことで、距離が一気に縮まるのだ。


 私は会場全体を見渡しながら思った。

 ――うまくいったわね。

 広報的にも教育的にも、そして何より保奈美ちゃんの立場を守る意味でも。

 遠目に保奈美ちゃんが見えた。

 付近の友達たちを盛り上がっているようなので、ひとまず安心だ。


 そして、直也がここからどう関わるか。

 その瞬間を、会場中が楽しみにしているのを、私は肌で感じていた。


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