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第10話:一ノ瀬直也

 ――いよいよ、この時が来た。


 東京・五井物産本社、大会議室。

 磨き上げられた長大なテーブルの周囲に、五井物産の社長、副社長、取締役、執行役員が並ぶ。壁際の大型モニターには、ワシントン、ニューヨーク、サンノゼ、東京を結んだオンライン接続が投影され、日米の主要ステークスホルダーが一堂に顔を揃えていた。


 米国側からは、GBC本社の重役、州政府ファンドの責任者、グリーンファンド代表、CVCの投資責任者、そしてDeepFuture AIのイーサンと麻里、さらにAACの太田代表。日本側からはグリゴラの加賀谷さんと日本GBCの由佳さん。


 ――日米を跨ぐ巨大な会議の空気は、圧倒的な緊張感に包まれていた。


 社長が静かに頷く。

「……それでは、一ノ瀬くん。プロジェクト名称について、説明してもらおうか」


 オレは深く一礼し、ゆっくりと前に歩み出た。

 心臓は高鳴っていたが、声は澄んでいた。


「本プロジェクトの正式名称として――“GAIALINQガイアリンク”を提案させていただきます」


 その言葉と同時に、背後のスクリーンに新しいロゴが浮かび上がった。

 GAIAの文字を基盤に、中央にAIを強調し、最後のLINQが青白い光で結びつく。大地と叡智をつなぐ象徴的な意匠。


 オレは資料をめくり、一語ずつ丁寧に言葉を重ねていった。


「GAIA――それは大地そのものを意味します。

 本件プロジェクトの根幹は、EGS方式による地熱発電。地球の深奥から引き出す膨大なエネルギーです。私たちの基盤は、地球そのもの――GAIAにあります。


 そしてAI――未来の叡智です。

 地熱によって供給される膨大なエネルギーを活用し、次世代のハイパースケール・データセンターを駆動する。そこに立ち上がるのは、人類の未来を切り拓く人工知能群です」


 オレは一度区切り、全員の目を見渡した。


「最後にLINQ。

 これはLinkとUniqueに加えて、Quintessence――精髄・本質という意味を込めています。

 “GAIALINQ”とは、GAIA(大地)とAI(叡智)を唯一無二の形で結びつける、本質的な結節点。

 自然の力と人類の叡智を融合させ、持続可能な未来を築くための象徴です」


 言葉を重ねるごとに、自分の声が熱を帯びていくのを感じた。


「この名は単なるラベルではありません。

 地熱発電とAIデータセンターを結びつける我々の挑戦そのものを体現する言葉です。

 日米双方の政府が支援し、世界中の投資家と市民が注目する中で、我々のビジョンを示す旗印となります。

 “GAIALINQ”という名は、未来への誓いであり、共に歩む絆の象徴です」


※※※


 会議室に、一瞬の沈黙が落ちた。

 全員がその言葉を飲み込むように、静かにこちらを見ている。


 最初に口を開いたのは、スクリーン越しのGBC本社役員だった。

「――GAIALINQ。いい響きだ。大地とAIを結ぶ、唯一無二の架け橋……。我々が国際的に説明する時にも、強い説得力を持つだろう」


 州政府ファンドの責任者も頷いた。

「持続可能性と技術革新、その両方を同時に体現できる名称だ。我々としても支持できる」


 麻里が微笑を浮かべ、言葉を添える。

「Quintessence……精髄。本質。直也らしい表現だと思うわ。DeepFuture AI日本法人代表として全面的に賛同します。……イーサン如何でしょうか?」


 イーサンも力強く頷いた。

「OKだ。……カッコいい名前にした以上は、その名に相応しい成果を出すため、我々も全力を尽くすとするよ」

 いつもイーサンの発言は周囲を笑わせ、皆をリラックスさせる力を持つ。


 国内側でも、副社長が重く口を開く。

「これほどの規模の案件に相応しい名だ。――社長」


 全員の視線が、社長に集まった。


 社長は静かに立ち上がり、深く頷いた。

「……よかろう。ステークスホルダの皆様の賛同も得た事を踏まえ、“GAIALINQ”と命名いたします。本件プロジェクトは五井物産を代表するものであり、日米の未来を切り拓くものでもあります。その象徴として、この名をステークスホルダーの皆様と一緒に掲げましょう」


 その瞬間、会議室全体が大きな拍手に包まれた。

 画面越しに映る米国側の幹部たちも、深く頷き、笑みを浮かべている。


※※※


 胸の奥に熱が込み上げる。

 ついに、このプロジェクトが本当の意味で「名前」を持った。

 それは世界に向けて掲げられる旗であり、未来への約束だ。


 ――GAIALINQ。

 その名の重みを背負うのは、他でもない、このオレなのだ。


 オレは静かに拳を握りしめ、深く一礼した。


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