メインストーリー
はじめまして。作品をご覧いただきありがとうございます。
この物語は、死後の世界「冥界」で出会った個性豊かな死神たちと、そこで生きる(?)少年のお話です。
シリアスあり、笑いあり、ちょっと切ない瞬間もあるかもしれません。
肩の力を抜いて、彼らの日常と冒険を楽しんでいただけたら嬉しいです。
ープロローグー
目が覚めると、目の前の男に、
「君は死んだんだよ。」
いきなり、そう言われた。
初めは、頭のおかしい人だと思った。
でも、その男には影がない。そして人にしては、肌が白すぎた…ーーー。
ーー序章ーー
「...て。...起きてよ。」
声が聞こえる。返事をしたくても、眠気がたゆたっており、それを許さない。
「起きてくれないと、困るなぁ。どーしよ。...そうだ、」
誰かが近づいてくる気配がする。
「お•き•て♡」
「ーー!!!」
耳元で気色の悪い声がして飛び起きる。
はっきりと目が覚めた。と同時に呟く。
「...なんだ、ここ。」
目に飛び込んできたのは、見知らぬ真っ白な広い空間と、見知らぬ黒い男だけだ。
さっきの気色の悪い声は、この男か。いや、それよりもここはどこだ? 病院にいたはず...。
頭が混乱している中、男が口を開く。
「目が覚めたようだし、移動しよう!状況は、ついてくればわかるよ。」
ここがどこなのか検討もつかないため、とりあえず、男についてくことにした。
ーーー歩き出してから少し経って、男が話しかけてきた。
「それいつまで持ち歩くの?笑
必要ないでしょ。」
俺の隣ーいつも持ち歩いている点滴を指差して言う。どういう意図の質問か分からず何も言えない。
「ありゃ、気付いてない感じ?」
男は立ち止まり、こちらを振り向く。
「君、もう死んでるよ。」
「...はい?」
「だから、君、死んでるよ」
……何を言っているんだ、こいつは。
冷ややかな目を向けると、男は
「信じてない?まいったな...。
説明するから、と、とりあえずその目、やめてくれる?」と言いながらまた歩き出し、話を続けた。
ーーー曰く、自分は死神であること。
死んだ俺を今、死神の世界に案内していること。 静かに話を聞いていると、男は、どこからか針を取り出し、自分に刺した。
「突然だけど見て、血も出ないし、傷もない!」
刺した腕を見せながら、こちらに針を渡してくる。
「君も、やってみると良いよ。きっと、嫌でも死んだって思うからさ。」
本当に突然すぎて一瞬、固まる。点滴で、よく針に慣れていたため、針を受け取ると躊躇なく、腕に刺した。
...血も出ないし、傷もすぐ塞った。おまけに、痛みがなかった。
「......信じるしか、ない、ですね。」
針を手渡しながら、ポツリと言うと、
男は針を受け取りながら
「良かった」と優しく笑った。
(前髪で目が隠れているため、正確には、
笑ったように見えた。)
一章 名前
第一章:冥界への扉と「クロ」
話をしているうちに目的地に着いたらしい。
目の前には大きな門があった。
ここに着くまでには、男と普通に話せるようになっていたため、門を見上げながら、「こんな大きな門、どうやって開けるんです?」と聞いた。すると、
「こんなデカい門、開けられないよ笑」
と笑いながら、移動する。
「泊瀬、こっち。」
「え?」
声のする方を見ると、門の端に、普通の大きさの扉があった。
「この門はね、...なんだろ、威圧?ほら、ダンジョンのボスの部屋の扉とかさ、こんなんじゃん!」
「...はぁ。」普段であれば、門の話をちゃんと聞いていただろう。だが今は、それよりも疑問に思うことがあった。
「ようこそ冥界へ。」
扉をくぐりながら、そんなことを言う男に疑問をぶつけた。
「あの、泊瀬って?」
男は一瞬、戸惑ったように見えた。が、すぐに
「え、っと、星宮泊瀬、君の名前。」
「...いや、俺はルッカ•サルヴァトーレっていうんですが?」
「それ、最後の名前でしょ?俺は、最初の名前で呼びたいから。」
最後の名前。最初の名前。意味が分からない。
「よく分かんないですけど、俺はー」
「...泊瀬じゃダメなの?」
さっきまでの、戯けた調子で放った言葉ではなかった。少し寂しそうな、男の素のに触れた気がして、思わず話題をそらした。
「...別に良いですけど。え、えと、、あなたの名前は?」
「へ?」
「名前、教えたくないなら良いですけど。」
「あ、いや、聞かれたの久しぶりで驚いただけだよ!名前ね。......たか。」
「え?」
さっきの雰囲気が嘘のように、また戯けた調子で男は言った。
「クロ!!!!」
「え、でもさっき違うこと言ってませんでした?」
「いいの!クロなの!!ほら、見た目黒いからわかりやすいでしょ!!」
その話し方に、安心して俺は笑った。
第二章:装備班のリーダー、ルキヴィア
「これから僕が、冥界を案内してあげるよ!」
そう言ってクロは嬉しそうに飛び跳ねる。
クロと一緒に行く場所は、武器庫、防具倉庫、食堂、遊戯室など。
冥界には娯楽が少ないのか、冥界にある全ての部屋が騒然としていた。
しかし、そんな中でもクロのテンションは高い。
「――それではお待ちかね、泊瀬の装備を作ってくれる『凄い人』に挨拶しに行こう!」
「…………え?」
クロが指差す先にいる人物を見て、泊瀬は固まる。
「やあ! 君がクロの言っていた子かい? 僕は装備開発担当のルキヴィアだ。ルキさんって呼んで良いぞ!よろしくね!」
そこにいたのは、見た目が中学生くらいの少女だった。
そして、その少女こそがこの装備班のリーダーである。
「よ、よろしくお願いします」
目の前にいる可愛らしい少女と握手を交わす泊瀬。
そんな二人のやり取りを見ていたクロは、「ふっふーん♪」と上機嫌な様子で口を開く。
「驚いたろ? あの子が僕の言った『凄い人』だよ」
「そ、そうなんだ……」
確かに、こんな幼い容姿をした人物がリーダーなら驚くだろう。
だが、そんな事よりも気になる事がある。
それは、先程から感じる視線だ。
なぜか少女はクロを睨んでいる。
「おいクロ、もう良いよな!?」
「あっ……。ごめんなさい、似合いすぎて……」
「まったく……。いい加減にしとけよ?」
「ギョエッ……」
頬を膨らませながら怒っている少女がクロをポカポカと叩いている。
...それから少しして、叩き疲れたのか、少女はため息をつきながら、近くの机に置いてあった小瓶を手に取った。
中には透明の液体が入っている。
それを一気に飲んだ、と同時に少女が消え、女性が現れた。
そして、少女が消えた事で、その女性が先程の幼女だと気づく。
少女は、身長180cmほどの大人の女性になったのだ。
しかも、かなりの美人である。
髪色は綺麗なワイン色であり、肌も雪のように白い。
瞳の色は深い青色であり、まるで宝石のような輝きを放っている。
「はぁ〜……、やっと解放されたぜ」
「ルキちゃん、いつも大変そうだよね〜」
「まあな。ったく、気がついたらあんな姿でよぉ...ってお前のせいだろ。」
「……えっと、どういうことですか?」
女性の会話についていけない泊瀬が尋ねる。
すると女性は、「ああ悪い悪い」と言って説明を始めた。
「こっちが本当の姿なんだわ。んで、コイツは暇さえあれば、オレと遊びたがる。まぁ、腐れ縁みたいなやつだな。」
「んふふ、やだなぁ、ルキちゃんで遊んでるの♡」
「は?...お前、黙っとけ。」
「……はい?」オレっ娘なのだろうか。
「信じてねぇ顔だな……。ところで。おいクロ、ちょっと耳貸せ」
なぜか少し驚いてから、微笑みながら
「ん? なんだい?」
そう言うとクロは女性に近づき、何かを話始めた。
最初は笑顔で話を聞いていたクロだったが、途中から表情が変わる。
そして、話が終わる頃にはクロの顔からは笑みが消えていた。
「……マジ?」
「嘘ついてどうするんだよ」
「うぅ〜、ルキちゃんのバカァ!!」
泣きながらクロが部屋を出ていく。
「え? は?……どゆこと?」
状況が全く読めていない泊瀬は困惑している。
そんな泊瀬を見た女性が口を開いた。
「まぁアレだ。アイツが悪かったってことで許してくれ。それよりアンタ、何か気になることがあるようだな?なんでも聞いてくれ。」
「はい……」
深呼吸してから、口を開き、疑問をぶつける。
「ルキさんは、どっちですか?」
「?何がだ?」
心底不思議そうに、ルキさんがそう言ったと同時に、いつの間にか戻ってきていたクロが大笑いした。
「ぶふっ!あーもうダメ!お腹痛い!!あー・・・ルキちゃんはねぇ・・・。」
そこまで言ってまた笑い出すクロに、ルキさんがため息をつく。
「お前らなぁ・・・オレだって立派な男だよ!」
「え!?...失礼しました。」
俺がそう言うと、クロが腹を抱えながら涙目で答える。
「そ、そうだよね~・・・うくくく・・・。」
俺は、そんなクロを少し睨みながら問う。
「ところでクロは、どこに行ってたの?」
すると、クロは真剣な表情になった。
「ん?聞く?聞いちゃう?怖い話だよ?」
それを横目に
「キピノォって奴のとこだ。俺たちはピノって呼んでんだけどさ。」
とルキさんが答えてくれる。
「キピノォ、さん?」
あぁ、とルキさんが説明してくれる。
「ピノはな、薬剤班のリーダーだ。危ない薬品とか色々扱ってるんだ。怪我した時とか、世話になるんだ。」
そうなんですね、と答えると同時に、今度はルキさんがクロに問う。
「んで?どうだったよ、クロ。」
いたずらっ子のような顔で、怒られたのか?などと言っている。
しかし、その問いに対してクロは苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った。
それを見て、ルキさんも同じような顔になる。
一体何があったのだろう……。
そして、クロが真面目な声音で話し出した。
「とてつもなく、怖かった。『薬品盗み1000回記念だね♪』って。」
「お前、よく生きて戻って来れたな。」
2人の会話についていけず、思わず聞く。
「キピノォさんって怖いんですか?」
「怖いってもんjー」
クロとルキさんが同時に話し出したところに、ノックの音が響き、ドアが開いた。
第三章:薬剤班のキピノォ
「失礼します。おや?お話中でしたか?」
「え、あぁ、いや。大丈夫だぞ。」
ルキさんが答えたあと、キピノォさんはこちらを見て微笑む。
「こんにちは。新入りくんかな?」
「あっはい!よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げると、彼は笑顔のまま自己紹介を始めた。
「僕はキピノォ。好きに呼んで良いけど、ピノはやめてね。薬剤師をしているよ。よろしくね。」
そう言って手を差し伸べられたので、その手を握り返す。
握手をし終え、手を下ろしながらキピノォさんは、俺の後ろに視線を向ける。
「で?僕がなんだっけ。怖いってもんじゃ、何?」
その声には、笑顔と一緒に『硫酸のような冷気』が混ざっていた。
笑顔なのに、どこか圧がある。
そんなキピノォさんを前に、クロとルキさんは
「いえなんでもありません……。」
「ごめんなさい……。」
謝っていた。
なんだったんだろうと思いつつ、俺は気を取り直して本題に入った。
「あの、ところで装備、とは何でしょう?」
俺の言葉に、3人はキョトンとした顔を見せた。
「なぜ君までキョトンとするのかな、クロ?」
「あれ?聞いてないのか?」
ルキさんの言葉に首を傾げると、クロが説明してくれた。
「君にドレスを贈呈します!!」
「え!?そうなんですか?」
初耳な内容に驚き、ほぼ反射的に答えると、キピノォさんも同意する。
「贈呈します。」
「クロ、お前が作るんじゃないだろ!キピノォ、お前も。悪ノリもそこまでにしてくれ。泊瀬が本気にするから。」
ルキさんが、呆れ顔で言う。
「オレたち死神はな、自分に合った服を装備班に作ってもらうんだ。だから、泊瀬にも、俺が作るぞ!どんなのが良い?」
「...えっと」
突然、聞かれて言葉に詰まってしまう。
もちろん俺は、服など作ったことがない。
「どんなの、とは?」
「なんでも良いんだが...そうだなぁ。白色が良い、紐をつけて、とか本当、なんでも良いんだ。それをまとめてオレが図にするから」
笑顔でルキさんが答えてくれる。
「わかりました。少し、考える時間をください。」
「おう!」
そうして、俺の服作りが始まった。
数分しても何も良い案が出てこず申し訳なくなり、ルキヴィアさんには「目立たない服がいい」とだけ伝えた。
なぜなら、病気(胃がん、鉄欠乏症)で髪がなく人に見られるのが好きではないからだ。死んだ理由もこの病気だ。
適当な提示にも関わらずルキヴィアさんは「任せとけ!」と太陽のような笑顔で対応してくれた。
「装備については、5時間でできると思うから、また後で来てくれ。ここにいても暇だろうし観光でもして来な!」
「じゃあ泊瀬、移動しよっか。お邪魔みたいだし♡」
クロが歩き出しながら言う。
「いや別に邪魔ってわけjー」
「ほらほら行こ!」
そう言われ、クロに連れられキピノォさんと共に団欒室に入った。
「ピノちゃん、暇なの?」
女子高生のようなノリで話し出すクロ。
「ピノって呼ぶな。」キピノォさんはツッコミを入れつつ
「薬の開発は今は落ち着いてるし、怪我人がいないのはいいことさ。今日は担当部署の死神が足りてるからのんびりしてていいし。それに、クロだけに任せとくと変な死神教育をしそうだからね。」と笑った。
第四章 死神とは
「あの、そもそも「死神」ってなんなんですか?」
一息ついてから、ふと思い出したように問いかけた。
「そんな泊瀬にぼくが教えてあげよーう!」
クロはぱっと顔を明るくして、立ち上がる勢いで説明を始めた。
「死神とは、冥界に属し、魂の回収・管理を任された存在。ただし、今の死神は人間ではなく、元は地上に生きていた動物たち!ちなみに冥界ってのはえーっと...あ、あったあった。」
クロは、どこからともなく辞書のようなものを取り出し読み上げた。
「あの世のこと。だって!」
「はぁ...。」
死神のことはわかるのに、この世界(冥界)のことはわからないのだろうか。
「天国や地獄とは違うの?」
「それは人間の妄想さ。ここには冥界しかない。」
キピノォさんがスッと会話に入ってきた。
「どうして?」
「そういう世界だから!」
クロの説明が説明になっていない。
冷ややかな視線を送るも、クロはにこやかに話を続ける。
「死神の仕事はね、魂の回収、仕分け、瓶への転送とノルマ管理。
死神候補の監視や “使い魔”の選定もあるの。最後の2つはやりたい子だけだよ。
死神の条件はねーー。」
キピノォが横から静かに言葉を継いだ。
「1. 生きていた存在であること
2. ある程度の意思疎通能力があること。2ができないやつは使い魔になる。」
「魂は自然に見えるようになるんですか?」
俺の問いにクロは
「良い質問なのである!」と答えた。
その語尾はいつまで続けるのだろうか...。面白くないし。
「ふぅ。」
説明をしてくれてたのはキピノォさんなのに、なぜかクロが一息ついて説明に入る。
「さて、"魂は自然に見えるようになるのか?"うん、なるよ!死神や使い魔になればね。」
「誰でもなれるんですか...?」
「今の泊瀬にはまだ早いよ!まぁ、死神候補や使い魔候補は世界中にいて、今も探してるんだよ。」
「じゃあ俺もその1人?」
「そうかも♡」
とりあえず、これから出会う物事は多そうだな、と思いながら頷くと、クロも満足そうに頷いた。
「OK!ではここで問題!デデンッ!死神は昔から今の状態だったでしょうか?」
「……違うと思います。」
「正解!では、いつから変わった?」
「...わかりました!」
「お、泊瀬わかったの?」
「はい!魂を外すと死神になるんですよね!」
(……ん?)
クロが一瞬固まった。
「そ、そうそう!よくできました!正解だよー。」
「違うなら違うって言ってやれ。」
「じゃあ違う!!死神には古代、中世、近代がある。」
急に怒り口調で捲し立てられた。情緒がわからない。
「昔の死神は、情を持っちゃいけなかったんだってさ」
クロは、まるで昔話でも聞いたかのように語る。
かつては「人工的に感情を排除した死神」が作られていた。しかし中世の革命以降、「生きていた動物の魂を擬人化する」ことで死神を生む方式が採用された。
近代では、擬人化では追いつかず、感覚・知性・意思疎通能力をもつ動物をそのまま死神として登用している。
「その作っていた人はどうなったの?」
「知らないよ。あの人嫌いだから。」
その冷たさは、ただの冗談ではない何かの痕跡のようで、泊瀬は驚きとともに少し引っかかるものを感じた。
「ちなみに、古代の死神を作ってたやつに革命を起こしたやつが今のトップだ。」
「そうなんですね!ちなみに、今のトップも...?」
「詳細は知らないよ!」
ですよね...。
呆れつつもふと疑問に思ったことを口にした。
「トップがいるのに誰なのか知らないって、どうやって統率を取ってるんですか?」
そんなことか、という顔で「いくつか組合がある。」とキピノォさんが教えてくれた。
「今のトップはいる。が統率の仕組みは一本じゃない。いくつかの組合があって、それぞれのやり方で連なってる。でも、やっちゃいけないことが一つある。」
「それはね...」と怪談話のようにクロが続ける。
クロによると、
ロマンス詐欺的な、死神界の『誘惑』。
死をそそのかしてノルマを消化する、不正の類。『辛いなら死んじゃえばいい、僕がいるよ』って囁く者がいる、ということらしい。
「不正とかあるんですね。」と納得しながら呟く。そして俺は別の疑問をぶつける。
「いくつか組合があるってことは、キピノォさんたちも何かに属してるんですか?」
キピノォさんは少し困ったように「組合があるとは言ったが、僕たちは違う。連んでたら勝手に周りに名前をつけられてた。」
クロが得意げに「二面相!」と口にした。
クロ以外しっくりこない名前だ。
何となくそう思った。
「他の組合はどんな名前があるんですか?」
流れに乗ってそんなことを聞いてみる。
「基本的に僕たちの世界には『名前』っていうのが浸透してない。識別したいと思った時だけつけられる。AとかBとか呼ばれてる。死神組合も死神自身も。」
今気づいたが、キピノォさん段々と口調が荒くなってる気がする。...それはおいておくとして。
「名前ないんですね、珍しいというか馴染みがないです。」思ったことをそのまま出すと
「そうなのか?逆に元動物の俺たちにしてみれば、名前があるほうが珍しいけどな。」とキピノォさんは不思議そうに語った。
でもその言葉に、なんとなく納得する自分がいた。
言葉や呼び名に執着がないというのは、ある意味自由なのかもしれない。
「でも……じゃあ、なんでキピノォさんは“キピノォ”なんですか?」
素朴な疑問がそのまま口から出た。
キピノォさんは少し沈黙してから、
「それは……」と一拍置いて、ふわっと笑った。
「みんなで名前を付け合ったんだ。クロに教わってな。ずっと昔の話だ。」
どことなく懐かしさを含んだような声だった。
「クロは……」と続けかけて、やめた。
言わない、というより、言えない何かがあるようだった。
「でも、今はこの名前、気に入ってるよ。」
そう笑ったキピノォさんに、何も言えなくなった。
それは「過去」に関わるものなのだろう。
死神になる前に何があったのか——そこまで踏み込むべきではない気がした。
クロが静かに口を開く。
「そういうのが、“名前”なんだよ。大切な誰かに呼ばれて、それが耳に残って、心に沁みて、忘れられなくなる。……それだけで、十分。」
「クロも誰かに……?」
「んふふ、それは内緒♡」
絶対、いるな。
思わず笑ってしまうと、クロも満足げに目を細めた。
そのとき、遠くの方から、誰かの声が響いた。
「おーい、泊瀬ぇー!」
ルキさんだった。
「あ、できたのかな……」
「おぉ、5時間も経ってたんだ。冥界の時間、なかなか不思議でしょ?」
「ま、目立たねえように作ったから、安心しな!」
ルキさんの声に導かれるように立ち上がる。
この冥界で、自分にしか着られない装備——
どんなものができたのだろう。
「じゃ、俺も行くかな。ちょっと油を売りすぎた。」
キピノォさんも腰を上げる。
クロは最後に一言、
「ようこそ、冥界の日常へ!」
そう言って、笑った。
第五章:実技
「どうだ?」そう言いながらルキさんは完成したての装備を見せてくれた。
黒ハイネックに黒ハイウエストコルセット風ズボン。白カーディガンに白ブーツ。頭には白生地に黒いリボン、レースや百合があしらわれたミニハット。
「凄くいいと思います!...が、帽子は俺、似合いませんよ。」
そんなことないぜ?と言うルキさんに手招きされる。
「ちょっと目を瞑っててな。」
「??」言われた通り目を瞑る。...フサッ。
頭に違和感を覚える。と同時に「もう目開けていいぞ〜」との合図。
いつの間にか鏡の前に立っていた俺。
「!?、??!」
髪の毛が生えている。カツラとかそういうのじゃなく、言葉通り"生えている"。
金髪に他の毛より少し長い黒のメッシュ。
「これが、俺...?」
「どうだぁ?気に入ってもらえると嬉しいんだがな。」
鼻をこすり照れながらルキさんが話しかけてくる。
「えと、あの、まだ飲み込めなくて...」
「まぁそうだよなっ、いきなりどうだ?って聞かれてもなぁ...っと、うわぁ!」
ルキさんの後ろからガバッとクロが現れる。
「とっても似合ってるよ、泊瀬!!」
なぜか俺より嬉しそうで...それが嬉しかった。
「俺も気に入りました。ありがとうございます、ルキさん!」
「おお、そうかぁ?そいつは良かった!オレも嬉しいってもんだ!」
そう言いながら人懐っこい笑顔を向けてくれるルキさん。
俺はしみじみと、いい人だなぁ、と思った。
お、そうだ、とルキさんが何やら大きいものを持ってくる。鎌だ。実際見たことはないが絵で死神がよく持ってるような大きな鎌。
「こいつもお前のものだ。大事にしろよ。……ま、お前の命より大事じゃねぇからな。無理すんな、って意味でさ。」
「あ、ありがとうございます。」
受け取りながら「何かと戦うのだろうか」とか「お代金は」とか考えたりした。
ルキさんは「お代はいらねぇ。生きて帰ってこいよ!」と優しくもあり怖いことを言う。
そんなに危険なのだろうか、死神の仕事は。
「んじゃ、早速行こっか。泊瀬♪」
クロに手を引かれ「いってらっしゃい!」と後ろからルキさんが手を振っているのが見えた。
え、俺どこに行くの?
......ーーーーー今、俺は現世に来ている。というか戻ってきた。
病室で育ったと言っても過言ではない。俺は外の世界をほとんど知らない。
知識は病室の中で読んだ本と同室だったご老人や先生の言葉のみだ。
冥界でも現世でも結局俺は右も左も分からない。けれど――きっと、もう一人じゃない。
「さぁ、実践だ!」
奮い立っている俺を置いてクロが話を進める。
「まずは、魂を探して、取って腰についてる瓶に詰めていこ〜う!」
「ちょ、ちょっと待ってください!いきなり実践なの!?」
「人手不足だからね〜。さぁ、ノルマをこなしてこっ!」
「ま、待って!ノルマって何?」
こんな短期間に「待って」を連発することがあるだろうか。慌てる俺をまたもフル無視で「あれ、教えてなかったっけ?」などと歩みを止めてくれないクロ。
緊張しながら聞いたのであやふやだが、クロが言うにはこうだーー魂はリボン状のものでピアスのように誰の耳にもついている。それを死神が回収する。1万枚の魂=液体1滴として死神のピアス状の「魂瓶」に自動で注がれる。
魂瓶の本数は部署ごとに異なり、回収対象の総量や難易度に応じて決定される。
1瓶(高さ5㎝×縦横2㎝)につき約4,000,000の魂を意味する。(ピアス自体は6㎝)
ブラックでは??
俺はそんな負の予感を必死に抑え込む。そんなことには目もくれず
「まぁ、部署はまた教えるよ〜」と話しながらに人に近づき、耳元に見える黄色いリボンをスルッと解き、耳とリボンの間に見えた細い糸のようなものを鎌で切った。すると取られた人間がいきなり倒れ動かなくなった。
そのリボンを瓶にぎゅうぎゅうと詰めながら、
「いやぁ、1万枚溜まったら消化されて自動で液体化されるけど、1万ギリギリいってない時って瓶に詰めづらいよね〜まぁ、良いけど!」
クロは愚痴のように笑って見せる。
それを見て、思わずゾワッとした。
……魂の扱い、雑すぎないか?
「これがぼく達の仕事」と振り返るクロ。
まるで日常のような顔。
でも、今見たのは――人の命を“切り取る”行為だったはずだ。
鎌で魂を断ち、瓶に詰める。
つまりあの人は、あれで死んだ?
……ってことは、俺たち、殺し屋なんじゃ……
「く、クロ...俺たち殺し屋なの?」
冷や汗をかきながら問うと「違うよ〜」とクロ。質問から察してくれない。
なんとか言葉にして伝えるとクロは答えてくれた。
「もう死ぬ予定の人しか魂は見えないの。だから見えたら取らないとね?」
「取らないと...?」
「お廻さんになる。」
「おまわりさんって、警察?」
変な質問だったかなと思ったが、つい口に出てしまった。
すると、クロからの補足が入る。
「確かに呼び名は一緒だけど、違うよ〜。成仏できない霊。基本的には思い入れのあるところや死んだ場所から動けない。同じ場所を廻るからお廻さん。」
「なるほど?」
「お廻さんは、魂が取れてないのに、体が消えてしまったモノがなる。そのモノの近くや思い入れのあるところに魂が落ちている。ちなみにその場所はお廻りさんしか知らないの。そしてこれが重要、魂を拾ってあげないと成仏できないんだ!まぁ、お廻さんについてはこれから仕事で出会うと思うからね〜。」
説明が終わるや否や
「そんなことより、ほらほら、泊瀬も早く〜。置いてっちゃうぞ♡」
少しイラッとしつつも魂を探す。
ーー数十分後「はぁ、はぁ。」やっと見つけた。
魂がついてる人を。
クロのように魂を取り、腰の瓶に入れる。
するとさっきまで寝返りを打っていた老人の息が途絶えた。住居侵入罪だが死神なのでOKということである。
慣れない。一生慣れない気がする。この仕事。
だって人の家に上がり込んだり、人を殺めたり......。クロに否定はされたのだけれども。
「はぁ。」思わずため息が出る。
「どしたの、泊瀬??」
いきなり耳元で声が響き、声にならない叫びと共に崩れ落ちた。
緊張と恐怖が最高点に到達したようだ。
「く、クロ。脅かさないでください」
「んぇ?脅かしたっけ?」クロは数字の7が連想されるほど大袈裟に傾げる。
見上げるとクロのピアス(魂瓶)がちらつく。
その中には血のような液体が入っている。
それだけ数をこなしたことになる。
「クロ、この仕事、慣れた?」
「ん〜?慣れた♡」
クロは笑ってそう言った。
けれど、その笑顔はどこか乾いているようにも見えた。
「……ほんとに?」
そう問い返すと、クロは一瞬だけ目線を逸らし、
「うん、本当♡」と、今度は目を合わせて返してくる。
けれど。
ほんの一拍、ほんの一瞬。
その“目を逸らしたこと”が、頭に引っかかる。
「……じゃあ、最初は、どうだった?」
クロは立ち止まり、泊瀬の方に振り向いた。
口元に笑みはある。けれど、まばたきひとつせず、やけに静かな顔。に見えた、前髪のせいではっきりとは読み取れない。
「最初?」
その言葉を繰り返してから、ほんの小さく笑った。
「何もわからなかったよ。最初はね。」
風が通り過ぎる。
都会の騒音も、地上の人間のざわめきも、今は聞こえないような静けさ。
「人の家に入って、人の命が終わる瞬間に立ち会って、魂を抜いて、持って帰る。
最初はさ、どうしてこんなことするんだって、何度も思ったよ。」
「でもさ、思い出すんだよね」
クロは空を見上げて、少しだけ目を細めた。
「思い出すの。魂を拾わなかった“その後”のことを。」
「……“その後”?」
「あのね、泊瀬」
クロは、冗談をやめたような口調になった。
「魂が拾われなかった人がどうなるか、知ってる?」
「お廻さんになるんじゃないの?」
クロは、首を横に振った。
「……すぐにはお廻りさんにならないの。
なりかけの時に“ズレ”るんだよね。」
「ズレる?」
「うん。時空が。記憶が。意識が。」
クロの声は静かで、それでいて痛々しかった。
「何度も同じ場所、同じ場面を廻るんだ。本人は気づかないけど、“もう死んだ”ってわかってないまま、同じ苦しみを繰り返すの。
……それを見てからだよ。死神が必要だ、この仕事に慣れようって思ったのは。」
泊瀬は、言葉が出せなかった。
そんなこと、想像したこともなかった。
「死神の役目は、命を奪うことじゃない。終わりを、きちんと“終わらせる”こと。」
クロは、泊瀬の顔を覗き込む。
「だから泊瀬も、大丈夫。怖くなっても、後悔しても、それでも“逃げなきゃ”大丈夫だよ。
この仕事は、きっと泊瀬の形になるから。」
……自分の形。
今の自分には、想像もできないけれど。
「……わかりました」
そう言ったとき、クロがぱぁっと笑顔になった。
「よーし!じゃあ次いこっか!」
「え、え!?まだやるんですか!?」
「当たり前だよ〜、まだ半分もいってないよ?」
「クロぉぉ……!」
泊瀬の絶望の叫びが、現世に響いた(ような気がした)。
第六章:LAP所属、ラールイ
それから毎日、魂を取ることを続けた。
そんなある日。
海辺を歩いていた俺は白い砂浜やどこまでも広がっている広大な海に感動していた。
というのも束の間、海の上に立っている人影が見える。
海というのは、水の上に立てるものなのかとワクワクしながら靴を脱ぎながら入ってみる。
浮かばない。あれ?じゃあ何であの人は浮いて...
「おい。」
突然、近くで声がした。
さっきまで遠くに見たはずの人が目の前にいる。
色黒で銀色の髪に一部、紺色のぴょこぴょこと動く髪の毛?のようなもの。それに加えて顔に魚のエラのような穴があり、ぽかんとする。
「おい、聞いているのか、人間。」
声をかけられ、はっとする。
「お、俺は死神でーー」
「死神でも、元人間は人間だろう。海に入るな、汚らわしい。」
憎悪に満ちた声でそう言われた。
いくらなんでも初対面で失礼な人だな、と思ったのが顔に出ていたのだろうか。
一層睨まれてしまった。
しかし、このまま引き下がるとモヤモヤするので会話を試みることにする。
「えと、あなたは人間、ではないですよね?」
「貴様に教えることなど何もない。」
ピシャリと言われてしまった。
「せめてお名前だけでも...」
俺が引き下がらないと察したのか、とても渋々に
「ラールイ。...わかったらサッサと出て行け。」と、流れついたゴミを目の前にしたように鼻を長い袖で塞ぎ、わずかに顔を背けながらも答えてくれる。
会話ができることに少し嬉しくなり、言葉を続けた。
「ここで何してるんですか?」
「出て行けと言っただろう。」
深海のように冷たく暗い声が耳に刺さった瞬間、息ができなくなった。
何が起こったのかわからない。
「忠告を聞かなかった罰だ。消えろ。」
俺の全身はいつの間にか水に覆われていた。
なぜ水がこんなふうに動くのか、という疑問すら浮かばないくらい、恐怖が全身を走る。
視界が黒くなっていき、意識が遠のいていく。
ここで死ぬのだろうか。
クロやルキさん、キピノォさんの顔が浮かぶ。
死神になってまでもすぐ死ぬ運命なのか...。
悔しくなって溢れた涙が水に溶ける。
そのまま気を失った。
......ーーーーここは?
目を覚ますと、天井が見える。今までのは夢で、病室に戻ったのだろうか。
そんなことを思っていると視界が黒いものでいっぱいになる。クロだった。
「泊瀬ぇ〜、起きてよ...。」少し鼻声だった。
泣きそうなことがうかがえる。
「クロ、俺は...」
クロが俺を見て驚いた顔をした、と思ったのも束の間、叫びながらどこかへ走って行った。
数秒すると、キピノォさんの顔が見える。
「大丈夫か?一応、手当てはしたが...。」
「泊瀬、泊瀬。泊瀬は元気?大丈夫?」
どうやらクロがキピノォさんを呼んできてくれたらしい。
「今は落ち着いてる。泊瀬くん、起き上がれるか?」
うまく力が入らないが、なんとか起き上がれた。
キピノォさんが心配そうに
「君、ラールイに会ったんだってね。クロから聞いた。」
ラールイ。思い出しただけで体が震える。
その時、ガラッと扉が開きルキさんも入ってきた。とても心配そうな顔だ。少し息も切れている。走ってきてくれたのだろうか。
「ラールイ、どうしようかね。」
突如、低い声が部屋に響く。
あまりに低い声だったのでクロから放たれた言葉だと気づくのに時間を要した。
「ど、どうする、とは?」
「泊瀬を傷つけたんだ。消えてもらおうか。」
普段のクロの様子とは明らかに違う。
その様子に気をされながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「大丈夫だよ。むしろ、俺が空気を読まずに話しかけてしまったから...。」
クロは少し不満げに「泊瀬が言うなら」と受け入れてくれた。
「ラールイさんって、一体...」
「LAPのリーダーだ。」
キピノォさんが答えてくれた。
「死神界には6つの部署でまわってる。クロ、冥界教科書を見せてやってくれ。」
クロが辞書のようなものー冥界教科書らしいーを取り出し、ページを開き部署一覧を見せてくれる。
一覧によると、
冥界の魂管理組織「VL」には、生き物の種類ごとに分けられた担当部署が存在する。
昆虫はLEI、爬虫類や一部の魚類はLORE、人間はLIP、鳥類はLAV、陸上哺乳類はLAB、そして水中生物はLAPと呼ばれる部署がそれぞれを受け持っている。
「じゃあ、ラールイさんは水中の生き物担当なんですね?」
「お、飲み込みが早えじゃねえか!」
ルキさんが頭を撫でてくれる。
ちなみに、とルキさんが続ける。
「オレはLABの所属で、ピノがLORE所属、クロはLIP所属だ。これは組合関係なく全員が振り分けられるんだぜ。」
「ピノって呼ぶな。」
即キピノォさんのツッコミが入る。
ルキさんは陸の哺乳類、キピノォさんは爬虫類、クロは人間担当ってことなのか。
「クロと一緒にいるってことは俺もLIPなんですか?」
クロは嬉しそうに
「そうだよ〜」と答えた。
「あの、もし違う部署の魂を取ったらどうなるんですか?」と素朴な疑問を口にする。
「申請した時やトップから指示がない限り、ノルマの足しにはならないんだよ。あと、期限付きで魂をとることを禁止されるんだ。」そうクロが答えてくれた。
「罰がないと他の部署の邪魔をすることができるからな。」
ルキさんが付け加えてくれた。
その時、この部屋のドアを開ける音が聞こえた。
「ピノ坊、悪いのだがこの子を見えやってはもらえないか。」
ラールイさんが魚を水で覆い、大切そうに連れてくる。
俺の体が反射的に硬直する。
ルキさんが俺の前に出て、大丈夫だ、と背中で語ってくれた。
「ラールイさん、見るのは良いが、泊瀬くんに謝るのが先じゃないのか?」
泊瀬?とラールイさんが不思議そうな顔をする。
「誰のことだ?」
「君が水で殺そうとした子だよ。」
「ああ、クロが邪魔をして消し損ねた奴か。」
ラールイさんが、どうでもいい、と言う風に語る。
「なぜ謝らねばならぬ?奴が先に、ぼくの"楽園"に入ってきたのではないか。」
「ルキたち結構、気が立ってるんだよね。ラールイさん?」
キピノォさんが微笑を浮かべながら言う。
あとピノ坊って呼ぶな、とツッコミを忘れない。
......ラールイさんは仕方なさそうにルキさんの後ろにいる俺に目を向ける。
「人間、悪かったな。...そら、これでいいか?早くこの子を見てやってくれ」
「おい、それで良いと思ってるのかよ。泊瀬と仲良くできないんじゃぁ、オレ達の輪から出てもらわないとな。」
ルキさんが怒った風に言った。
普段は温厚なルキさんなので、少し驚く。
「おや、ルキ坊は長く一緒にいるぼくより、その人間を選ぶのか。」
「ったりめえだ。仲間を殺そうとする奴はダメだ。」
ルキさんは仲間意識が高いのだろう。入ったばかりの俺のことも大切にしてくれる。
ラールイさんはまたもや仕方なさそうに近寄ってくる。けれど今までと違うのは憎悪を抑えようとしてくれているように感じた。
「悪かったな、人間...泊瀬。許せ。」
この人も歩み寄ろうとしてくれているんだと感じたら怖くなくなってきた。
「はい、俺も空気を読まずに質問してしまってすみませんでした。その魚の子、大丈夫ですか?」
ラールイは少し驚いたような顔をした。
「にんげ...泊瀬には関係なかろう?」
「でも、心配そうなラールイさんを見たら、気になってしまって。」
そうか、とラールイさんは小さくつぶやいた。
これから少しずつラールイさんと仲良くなれる気がした。いや、なりたいと感じた。
キピノォさんが魚を診ている間、ふと思うところがあったので話した。
「俺、クロには泊瀬って呼ばれてるんですが、一応、俺の本名ルッカ•サルヴァトーレなんですが...。」
クロ以外の皆が唖然とする。
「おいクロ、そういうことはちゃんと伝えろ。」
「クロ、お前ってやつは...。」
キピノォさんとルキさんのジト目がクロに注がれる。
「良いじゃん、泊瀬は泊瀬なの!」
クロは悪びれた様子もなく、言い放った。
他のみんなも「まぁ、呼び慣れちゃったし。」となぜか頷いていた。
俺、死神生では、一生「泊瀬」なのかな。
てか、そもそも泊瀬って誰だよ。
自分の中でツッコミを入れながら、この先のことに思いを馳せたのであった。
第七章:名前のない村と泊瀬
ラールイさんとも少しずつ仲良くなってる気がしてきてる今日この頃。
俺はみんなと(初めはクロを誘ったのだが、クロがルキさんたちを呼んだ)とある場所に来ていた。
たまたま、たどり着いた廃村。
貰った地図帳を見ても、名前が書いていない。
不気味に思った俺はみんなで来たというわけだ。
「部署が違うオレたちが現世で同じ現場にいるの、不思議な感だなぁ。」とルキさんが溢す。
とりあえず、廃村をバラバラに散策していく。
人の気配は全くない。
しかし、しばらくすると、壊れかけの家の前で1人の少女が、同じ動きを繰り返している。
家の中に入って、数分経つと腫れた目で外に出て来て、フッと泣きそうな顔に戻りまた家の中に...。
「何してるんだろ、あれ。」ふと呟く。
「あれが、お廻さんだよ」
いつの間にか隣にいたクロが耳元で話す。
突然近づかれるのにも慣れたので、驚きもしない。
それよりもクロの様子が気になる。
いつもと違い、とても静かだ。
「おお、こんなところにもいるんだなぁ。」
ルキさんもキピノォさんと近づいてくる。
「お廻さんって魂を回収すれば消えるんですよね?」
「そうだね。まずは探そう。」
キピノォさんが頷く。
数十分みんなで探しても見当たらない。
クロだけは探さず、ずっと少女を見つめていた。
「いつもこんなに時間かかるんですか?」
そんなことないぜ、とルキさんが話しだす。
「普段は周辺を探せば見つかるんだけどよ。今回に限っては難しいな。」
「探すしかないんですか?」
「うーん、諦めるしかないかもだな。」
「えっ」思わず声がこぼれる。
納得してない顔だね、とキピノォさんも加わる。
「僕たちは広く仕事をしなくちゃならない。だから、諦める時は諦める。次に来た時に見つかるかもしれないでしょ?」
結構適当だな、と失礼ながらに思う。
少女をこのまま見て見ぬふりはできない。
なんとなく他人ではない気がして。
「俺、あの子に聞いてみます。」
「おい!」ルキさんの静止を横目に、少女に近づき、話を切り出す。
「どうしてここにいるの?」
けれど少女は何も答えず、動きを繰り返すだけ。
もう一度話しかけてみるも、反応は同じ。
無視をしているというより、聞こえていないようだった。
諦めたくない、お廻さんになった理由を知ってあげたい。
強くそう願い近づくと、少女と目が合った。
瞬間、不思議な感覚に陥る。
ふわっと体が浮いたようなあとに、誰かの記憶が頭に流れてくる。
優しいお母さんに妹。それと男の子。
とても楽しそうで貧しくも笑顔あふれる生活。しかし一変し、その妹が亡くなって次にお母さん、その2人が眠る村の外れに男の子とお墓をつくった。
だんだんとこれが少女の記憶であることがわかってきた。
今、俺は少女に乗り移られているのか...。
数秒すると元の自分に戻った感覚があった。
「...せ。泊瀬!」
ルキさんの顔が近い。心配そうな顔で覗き込まれた。
「大丈夫か?しばらくぼーっとしてたみたいだけどよ。」
大丈夫です、と伝えてから今体験したことをできるだけ正確に話してみた。
「寝ぼけてたんじゃないのか?」
ルキさんに言われ、そうかも、と思ったが
クロが「いや、現実だよ。」と割って入ってきた。
「どうしてわかるんだ?」とキピノォさんが問うと、「泊瀬が、いや、ルッカが言ったことと少女の人生は一致する。ぼくは少女...泊瀬のことを知ってるからね。」とクロが答えた。
「こいつが、泊瀬なのか?」
「なるほどね」
ルキさんとキピノォさんは納得したようだったが、俺にはさっぱりだ。
そんな俺を察したようにキピノォさんが教えてくれる。
「クロは"泊瀬"が大好きで、よく話をしてくれるんだ。そしてその生まれ変わりが君なんだって、君がくる前にクロが嬉しそうに笑ってた。今度は絶対ずっと一緒にいるって。」
「俺が、泊瀬さん...?」
だからクロは俺のことを泊瀬と呼んだのか。
だからクロは俺のことをいきなり死神にしたのか。
謎だった答えがようやく出てきて、安堵したような、それでいて俺のことなど見ていなかったのか、という悲しい複雑な気持ちになった。
「泊瀬、あっち。」
クロに言われ村の外れのお墓に行くと、そこに魂が落ちていた。
魂はリボンのような形であっても風に飛ばされることはないんだな、と思った。
クロは魂を拾い上げると俺に渡してきた。
「なんですか?」
自分から出たとは思えないほど冷たい声音。
「泊瀬に返そうと思って。」
「俺は泊瀬じゃなくて、ルッカです。」
子供のような嫉妬心が溢れてくる。
今まで仲良くしてたのは俺が泊瀬さんの生まれ変わりだったからか...。
もう、泊瀬さんに出会えたから俺は必要じゃなくなるのかな。
涙が出そうになる。
「はつ...ルッカ?」
クロは不思議そうに見つめてくる。
いたたまれない気持ちになり、早く終わらせようとクロから魂を受け取り、瓶に詰める。
すると、ルキさんとキピノォさんが「泊瀬さん消えたよ」と教えてくれる声がした。
とたん、涙が溢れた。
「ルッカ、どうしたの?」
「俺、は。クロと仲良くなれたと思ってたのに、違かった。今まで病室に1人で友達もいなかったから、仲良くしてくれて嬉しかったのに。俺は、俺は...」
言葉がうまく紡げない。子供のように泣きじゃくる自分が恥ずかしい。
もう感情がぐちゃぐちゃだ。
しばらく俺の泣き音だけが響く。
......。
「泊瀬が大好きだったんだ。」
その状況を先に破ったのはクロだった。
その続きを聞きたくなくて耳を塞ごうとする俺の手をクロは握った。
「初めはたしかに、泊瀬の生まれ変わりだから世話を焼いた。でも、それはルッカが初めてじゃないんだ。」
「え?」
「今まで何度も泊瀬の生まれ変わりと関わってきた。色んな"泊瀬"と。
でもね、今までと違うことがあったんだ。それはね、」
少し区切り話し続けるクロは一生懸命、自分の拙い言葉で話している。
「だんだんきみといることが楽しくて嬉しくなってきたんだ。」
「ほんと?」
クロは深く頷いた。
「うん。信じてほしいよ、ルッカ。」
クロが握る手に力を込める。
死神に体温はないはずなのに温かく感じた。
「...わかった。」
しばらく気持ちが落ち着くのを待ってから、クロと目を合わせて「人間関係って複雑だね」と笑い合った。
零章:死神の始まり(過去編)
まだ誕生して幼い死神は作り手(産みの親)によって日本という国に落とされた。
作られた死神は人間と関わり自我を持つ、すなわち出会った人間が親代わりになるのだ。
「(じーっ)」
「...何してるの?」
「...(無言で見ている)」
「木の上から降りてきなよ」
幼い死神は木の上から人間を観察していた。
ほとんどの人間は気味悪がって素通りしていた。
たまに話しかける人もいたが、話が通じないと素通りした。
そんな中、痩せ細った少女が話かけてくる。
「聞こえてる?ずっとそこで何してるの?」
「...??」
少女は話が通じないと察したのか、隣の木に登り死神を一瞥すると木から降りた。
真似をしろということであるが、そんなことも幼い死神にはわからない。
少女は死神のいる木に登り、死神を木から降ろした。死神は特に抵抗しない。抵抗する、という思考すらもない。されるがままだ。
それから少女は死神を家に連れて帰る。
少女にとってそれは“拾った猫を連れて帰る”くらいの軽さだった。けれど、死神にとっては世界の始まりだった。
そして、言葉を教えた。
少女の名は星宮泊瀬。
死神が初めて発した言葉は「泊瀬」だった。
親がよく呼んでいたのを聞いていたのだろう。
「あなたの名前は?」
「泊瀬」
「それは私の名前よ。あなたの名前。」
「??な、まえ?」
死神は考える。まだ思考に慣れていない脳で考える。そこでふと、作られた記憶を思い出した。
「お前の識別番号は0001だ。まぁ、試作段階だがな。」
「...しきべつばんごう、0001」
「ばんごう...??よく分からないけど名前がないのね。どうしようかな...。」
ぶつぶつと少女が呟いてる間に家に着いた。
家族に泊瀬が死神について説明する。
「名前ねぇ...月みたいに綺麗な顔してるわね。」と母親が言う。
それに続いて「そういえば、初めて会った時、木の上にずっといたよね。何か待ってたの?」「月、待つ、」と少女と妹も話し出す。
結果、「月待玖稜」となった。
それから少女の家族と仲良くなった。
少女の家は少女と妹、母親の3人暮らしだ。
なので、死神は女言葉を学び、女の格好をした。
貧しいため家にある服を着させていた。
これでもかというほどに死神を溺愛していた。
ある日、死神はかんざしをつけられた。母親の唯一のお高い代物である。
「久稜くん、似合ってるわ。」
母親の言葉に2人も頷く。
「ありがとう。」と嬉しそうに微笑む死神。
そんな生活にも慣れてきた死神。
他の人とも関わるようになり、ある子供に
「悪口を言われても笑ってるおかしな奴と関わるのはやめた方がいいぜ。」と、死神は忠告されたが、死神には理解ができなかった。
「泊瀬、悪口って何?」
家に帰って早速聞いてみる。
「人の悪いところを話すことよ。良いことではないわ。」
「たとえば?」
「そうね、『お前は子供の癖に大人みたいな思考をして気味が悪い』とかかしら。」
「悪い、は良いことじゃない。どうして泊瀬は悪口言われて笑う?」
「悪口って、『俺はあいつのことをこんなにも知ってる』って自慢しているように聞こえるでしょ?私のことを知ってくれてありがとうって笑顔になるのよ。」
嘘である。少女も悪口に傷つき悲しむ。だが一々そんなことを気にしていられないため、そう考えようとしているのだ。
「そうなんだ。悪口は自慢。」
「どんな理由だとしても、悪口は良くないことだからしちゃ駄目よ?」
「...?わかった。」
死神は理解できていない。だが、泊瀬の言うことは正解だと信じ、従順である。
数ヶ月後
「泊瀬、ご飯とってきた。...泊瀬、、!」
この時、死神は初めて少女が泣いているところを見た。
「水、こぼれてる。」
水をこぼしたら拭く、そう習った死神は涙を拭う。
「...だ。」
「?聞こえなかっ」
「お母さんが、死んだ。」
「死ぬ...お空に飛んでいった?」
いつしか、母親が「人はね、いつか死ぬんだよ。『死』が何かって?お空に飛んで、みんなを見守ることだよ。」という言葉を思い出しながら聞いた。
少女は静かに頷いた。
「お空に手を振ったら、お母さん、見えるかな?」
死神は、少女の手を取り、一緒に手を振る。
「お母さんのかんざしは、玖稜にあげる。」
「いいの?」
「うん、その方が私もお母さんも嬉しい。」
「ありがとう。私も嬉しい。」
数ヶ月
「泊瀬。...泊瀬?いつまで寝てるの、起きて。ーー!!」
触れた瞬間、思わずひっくり返った。
少女が、とても冷たかったからだ。
「泊瀬、元気ないの?泊瀬の好きなお花持ってくる?」
心の奥底ではわかっていた。少女が死んだことを。でも、認めたくなくて暫く死神は話しかけていた。
そして、このまま放っておくと少女が消えてしまうことを知っていた。母や妹がそうであったように。
ただ少女を消したくない、ずっと一緒にいたい、気づいた時には少女を食べていた。
「死んだ動物は消えてしまうが、食べると血肉となり、一緒に生きられる。」という母親の教えがあったからだろうか...。
冥界から、迎えが来る。「0001、お前の第一学習は終わった。次だ。」
「誰?泊瀬の知り合い?」
「はつせ?あぁ、人間のことか。そいつのことは忘れろ。必要なのは言葉と、死だ。」
「その言い方、良くない。泊瀬は必要。」
「ちっ、失敗か。まぁ良い。とりあえず、さっさと第二学習に行け。」
死神は冥界に飛ばされ、檻が吊るされた部屋から穴に落とされた。
死神はその後もいくつもの世界を巡り、死神になった。苦痛や表情など様々なことを失った。
死神からすれば、それは『不要』だったからである。だが、唯一、失わなかったもの、それは初めて会った少女たちとの生活の記憶だった。
幕間:繰り返す記憶と再会
『僕の「ーー」(友達、家族、部下、兄弟、恋人)を助けてくれない?』
もう昔すぎて関係を覚えていないから、愛のある名前で呼んでみる。
その言葉で(彼、もしくは彼女の)目が覚めた。目の前には見知らぬ場所と黒い男(冒頭に戻る)。
魂の制約(神様とかが勝手に取り付けられる。合意の場合もある。人の約束と違って、生まれ変わっても同じ魂の場合、制約に縛られる。縛られた者は力、富、何でもありだが、極端に寿命が短い。神や動物になったとしても、かけた者が解くまで終わらない。短命のまま。)
クロは泊瀬に無意識に魂の制約(月待であるクロを覚えておくこと。ただしこれは、子供の姿である。)をかけてしまった。そのため、泊瀬は何度生まれ変わっても短命であった。
第八章:誘惑、ミェルツァ
「どうしたんだ!?」
ルッカの泣き腫らした瞼を見て、ルキヴィアとキピノォが驚く。
「ちょっとクロと話してただけです。」
ほんとか?、と目をむけてくるルキさんに、本当です、と答える。
「まぁ、お廻さんの件も片付いて、クロもなんか吹っ切れたみたいだし、一件落着だな!」
ルキさんが嬉しそうに笑う。
キピノォさんも同意しながら「冥界に戻りましょうか。」と言った。
現世と冥界を繋ぐ出入り口のような穴が、各地にいくつもあるので、その穴に向かう。
移動中、遠くから喧嘩のような会話が聞こえた。
「お前、もっと上手く魂を回収しろよ。手際が悪いんだよ。」
「はぁ!?あんたには言われたくないね!」
会話の内容からして5人組の死神だろう。
「お前は笑ってるだけでいいんだよ。話すな、ボロが出る。これじゃあ人間を誘惑できないだろ。」
ん?聞き捨てならないことが聞こえたような。
死神界で犯してはならないこと、誘惑。
それをしているのだろうか。
周りのみんなも顔をしかめている。
「大声で誘惑の話をするなんて、おかしいんじゃないか。」とキピノォさんが笑いながら言う。
こちらに気づいてない様子で喧嘩を続ける5人。
「あんたのせいで、10人の魂は逃した。ノルマ達成まで遠いんだから、ちゃんと働いてよね。」
「顔だけだからな、お前は。」
「まぁ、こんな奴にホイホイ騙される人間も人間だ。あははっ」
さっきから1人だけ、いじめられているように見えるのは気のせいか。
そのいじめられている?彼はオレンジ髪で瞳はすみれ色。とても美しい顔立ちをしていた。
ルキさんが「誘惑って聞き間違いかと思ったが...確実にやってるな。」と呟く。
「止めに行こうか〜」
クロの言葉にみんな頷く。
「おい。」
初めに話しかけたのはキピノォさんだった。
「やるなら上手くやれよ。バレバレだと止めなきゃいけなくて面倒だろ?」
そういう問題か、とツッコミを入れつつ、いつもの優しいキピノォさんとは裏腹に馬鹿にしたような口調に驚く。
「は、なんだよお前。威勢がいい割に小さいな笑」
プチンッとキピノォさんの堪忍袋の緒が切れる音がした。
「魂を自力で見つけられず、不正でしか集められない能力の小さい君には言われたくないね。」
笑っているが目が笑っていない。
ルキさんは「あーあ。」と呆れ顔。
「ピノちゃんはね、あれが素でドSなんだ。あとね、背が小さいことを気にしてるから、ピノって呼ばれることを嫌うんだよ。ほら、厚底でしょ?背を盛ってるの。可愛いね〜」
クロから補足が入る。
ピノとは小さいという意味なのだろうか。
そんなことより、キピノォさんと4人が喧嘩を始めそうなことに気がむく。
あと1人は、というとルキさんが話している。
いじめられていた人だ。
内容が気になり2人に近づく。
「オレはルキヴィアってんだ。あんたの名前は?」
「......。」ルキさんの質問に無言で笑顔を浮かべている。
「オレ、よく女に間違えられるんだよなぁ、参っちまうぜ!」
「......。」ルキさんの渾身の自虐ネタにも変化なし。
ルキさんが俺に近づきながら「おい、こいつ話ができねぇ。お地蔵さんか何かか?」と耳打ちしてくる。
「さっき話すなって仲間の人に言われてたからじゃないですか?俺、ちょっと話してみます。」
近づいてみると、ルキさんもなかなかの美形だが、この人は別格で気圧されそうになる。
「あの、少しお話ししませんか?お仲間の人たちは今こっち見てないんで、話して大丈夫だと思います!」
「ふふっ、ありがとう子猫ちゃん♪」
子猫、ちゃん...?
宇宙が見えた気がした。
落ち着け自分。これが彼の素ならあんな喧嘩にはなってないはず。
「素で話しませんか?俺、口説く対象じゃないですよね?魂ついてないし。」
しばらく考え込んでから「ふむ」と話し出す。
「爺に素を求めるのかえ?お主は変わっておるな。ははっ。」
爺...?どっちにしろキャラが濃い人なのだと感じた。
「俺はルッカ・サルヴァトーレって言います。あなたは?」
「?我々に名はないぞ。お主は名があるのだのぅ。珍妙じゃ。」
珍妙...。さっきから振り回されてばかりで、ツッコミ過多だ。
「あんたさ、自分が何してるか知ってんのか?」
ちょっと落ち込んでたルキさんが話に加わる。
彼はルキさんの質問に対し、
「生まれついて、どうすれば良いか分からず、言われるがままに過ごしてきたが、何か良くないことをしたかの?」
と本人には自覚がないようだった。
「あんたは死神界の不正を犯してる。」
なぁ、と言葉を一度切り、
「オレたちについてくるか?」
いきなりルキさんがそんなことを言う。
「不正したら捕まるんじゃないんですか?」
「捕まりはしないけど、しばらく外出禁止令が出るよね〜。」クロが間に入ってくる。
「オレたちがトップに報告しなきゃ現時点ではバレないだろ?こいつ、悪い奴じゃなさそうだし、このままってわけにはいかねぇだろ。」
ルキさんに「まあね」とクロが同意する。
「他の奴らは更生しそうにないが、こいつだったら大丈夫だろ、な?」
「そうなのかの?」
ルキさんの言葉に疑問系で返す彼。
「よし、決まりだ!おいキピノォ。喧嘩は終わりだ、帰るぞ〜。」
ルキさんはどんどん話を進めていく。
ーーーー冥界に戻り、相手の4人には、しばらくの間、魂回収禁止令が出たらしい。
残る1人は秘密にし、とりあえず彼に名前をつけることにした。
「あんた、元々はなんだったんだ?」
「蜂蜜じゃ。」
「マジか!無機物からも死神が造られてたのかよ。」
「そうじゃな?」
前のめりになるルキさんに、またもや疑問系の彼。
「ちなみにオレは猫なんだけどよ!」
新事実だ。ルキさんは猫っていうより犬っぽい。こうなると他のみんなも気になる。
「みなさんは何だったんですか?」
「僕はヘビ。」
「ぼくは死神〜。」
キピノォさんとクロが答えてくれる。
「ラールイさんは?」
「答えなきゃいけない流れなのか?」
うん、とルキさんと彼以外が頷く。
「魚だ。」
ですよね〜。あまり面白味はなかった。
「そんなことより名前だろ。」と珍しくツッコむラールイさん。
あ、そうだった。
みんなで考えた末、出た結果。
「ミェルツァ、かの?名前を与えられるなど不思議な経験じゃ。」
ミェルツァに決定した。彼も異論はないようだ。
「じゃ、ミェルツァも加わったことだし、改めて自己紹介〜!!」
クロが楽しそうに手を叩きながら言う。
「名前と所属、いつ生まれたか。それと元はなんだったか、武器も言ってね〜?」
最初に口を開いたのはルキさんだった。
「オレはルキヴィアってんだ!LAB所属で、生まれは、死神の歴史だと現代にあたる。元はソマリ、猫!武器は爪。」
続いたのはキピノォさん。
「キピノォだ。所属はLORE。ルキヴィアと同じ現代。マムシ、ヘビだった。武器は牙。」
「クロで〜す♡LIP所属で、ぼくは古代!生まれた時から死神だよ〜。武器は鎌!次はルッカ、どうぞ♪」
「ルッカ・サルヴァトーレ。同じくLIP所属。俺は最近。元は人間でした。武器はー」
鎌は装備であって武器なのだろうか。戦ったことないけども。
「鎌、鎌だよ〜」クロが耳元で囁く。
「武器は鎌です。」
「......ラールイ。所属はLAP。ぼくは現代。ピラムターバだった。武器は水操作。」
「爺の番だの。所属はLEI。生まれは現代。元は蜂蜜だった。武器は、なんだろうのう、ラーさん?」
みんなが驚いた。初対面でいきなり?と。
「ラーさんか。ははっ、初めて言われたな、ミェーさん?」
ラールイさんは案外ノリが良かった。思えば人間の俺以外にはとてもフレンドリーで
「蜂蜜ってことは、溶けることができるんじゃない?それが武器だと思うな。」と答えた。
「じゃあ、武器は溶けること、だの。」
改めて全員と向き合ってみると、みんなの耳元には奇妙なピアスが揺れていた。
動物の頭蓋骨(リボンで装飾されている)の下に瓶が付いていて、よく見ると中には液体のようなものが入っている。
「それって...ノルマの証ですか?」
「お、よく気づいたね!そうだよ、ピアスのデザインは、部署ごとに違うんだ〜」とクロが楽しそうに話す。
「液体の量が多いやつは、魂いっぱい集めてる証拠ってわけさ」とキピノォさんが笑った。
ルキさんの耳には猫の頭蓋骨で瓶が2本、キピノォさんの耳にはヘビで1本、と言う具合で。
自己紹介が終わり、なんとなく気になったことを口にした。
「みなさん、元の記憶ってあるんですか?あまり話聞かないので」
こんな疑問を投げたのは、
早くラールイさんと打ち解けるには、なぜ人間を嫌っているかを知っておきたいと思ったからであった。
第九章:蜂蜜色のぬくもり
少し空気がピリッとする。
聞いちゃいけなかったのだろうか。
そんな静寂を切ったのはミェルツァさんだった。
「ルー、そんなに畏まらなくて大丈夫だ。爺は記憶があるがの、皆はどうだ?」
ルーと呼ばれしまった。なんだかミェルツァさんがいると場が和む。
「オレは、体に刻まれたトラウマや喜びの記憶はあっても、脳の記憶はないぜ?」
「ああ。すぐそこにありそうなのに、思い出せない。」
ルキさんとキピノォさんの言葉に
クロとミェルツァさん以外のみんなが頷く。
「みなさん、気になりませんか?俺は気になります。」
「気になるけどよ、どうやって知るのか、さっぱりだぜ。」ルキさんが肩をすくめる。
はい!とクロが突然手を上げる。
「ぼく聞いたことあるよ。みんなの記憶が眠ってる場所、記憶の木!」
クロの情報源なんて怪しそうと思ったが、皆は違うようだ。少し体を前のめりにしながら話の続きを待っている。
しかし、ルキさんだけは少し困った雰囲気を出していた。ルキさんってあまり負の感情を顔に出さないから少し気づきにくい。
「ルキさんは気になりませんか?」と耳打ちすると「オレは知るのが少し怖いかな。」
何か深い理由があるのだろうか。
「ほら、もし飼い主に愛されてなかったら、とか飼い主がいなくて野良だったら、とか怖くないか?」
案外可愛い理由だったが、ルキさんにとっては重要なようだったので
「そうですね。」とだけ答えた。
気持ちを本題に戻す。
「その記憶の木ってどこにあるの?」
「わかんないや!」
イラッとした。やはり適当だったのか。
しかし、またもや皆は反応は違うようで「どこにあるんだ」と真剣に考えていた。
「冥界を探すか。」
キピノォさんの言葉に皆が頷く。
こうして記憶の木探しが始まった。
......ーーーー少し歩き疲れた頃。
そういえば、ここにきてからずっと食事をしていないと思った。
一応、ルキさんに聞いてみる。
「ルキさん、俺たちの食事って...。」
「ん?食事?オレたちには必要ないはずだが。...ははっ、さては出店に釣られたか?」
冥界には、遊戯室や団欒室といった施設以外に、出店というものが存在する。
商店街のようにズラッと並んだそれらはまるで「お祭り」を連想させる。衣食住から娯楽まで何でもありでどこまでも続いているようだ。
まぁ、お祭りには実際に行ったことはなく、本で読んだだけだが。
大抵、俺の記憶は病室か、本の内容くらいだった。
「別にお腹が空いてるわけじゃないんです。...必要じゃないのに出店に食事処があるのは何故ですか?」
ふと思った疑問を口にすると
「娯楽の一種だ。生き物を見ていて『ご飯食べてみたいな』と思った奴用だ。」
と答えが返ってくる。
なるほど。たしかに普段、魂集めをしていて生き物を見ているとなんとなく羨ましくなる時がある。俺の場合は特に遊んでいる人を見ていると。
出店にはゲームセンターから金魚すくいまで揃っていた。
「なんだぁ、やりたいのか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、いつか皆んなと遊びたいな、と思ったんです。」
そいつは良いな、とルキさんは笑ってくれた。
改めて良い人だな、としみじみ思った。
そういえば、とルキさんが話し始める。
「オレたちの部署名って、略称なんだぜ?」
「LAPとかですか?」
「そう。実はLAPは“Limbus Aquaticum Piscator”ってのが正式名称なんだけど、言いづらくてさ〜。」
「どこの古代語ですか…」とルッカが呆れたように言うと、ルキヴィアが得意げに笑う。
「ラテン語っぽいやつ!全部の部署に、そういう名前あるんだぜ」
ーーしばらくして。ルキさんとは離れ、探し回ったり、出会った死神に聞き込みをしたりと試してみたが見つからない。
「本当にあるのかな。」ついポロッと口に出た。
「たしかにのう。だが」
いつの間にか合流していたミェルツァさんが声をかけてくれる。
「焦るでないぞ。大丈夫だ。きっと見つかる。」
「そうですよね!」
やっぱりミェルツァさんといると場が和む。
「ミェルツァさんって長生きなんですか?なんとなく、病院で同室だったおじいちゃんに似てる気がします。」
ミェルツァさんと記憶の木を探していたらしいラールイさんが「ミェーさんは現代の中でも最近の方だよね?」と会話に混ざってくる。
「現代の中でも最近とかあるんですか?」
当たり前だろ、という顔をされてしまった。
「現世に時間の流れがあるように、冥界にも流れがある。少し考えればわかるだろう、人間。」
確かに考えればわかることだったかもしれない。
反省していると
「ラーさん。お主はルーにだけ冷たいのう?さっきまであんなに優しかったのに。」
ミェルツァさんが間に入ってくれる。
「ミェーさん、ぼくは人間が嫌いなんだよ。」
「ルーはそこらの人間と一緒かの?」
「まだわからないよ。」
「ならば、本当に憎むべき相手になったら、冷たくしてやれ。」
ラールイさんは驚いた顔をした。
多分、俺も同じ顔をしていたと思う。
「ミェーさんの言うことも一理ある。だが、体が拒否するのだ。」
「ならば、少しずつ慣れれば良い。のう?」
ふわっとミェルツァさんが笑う。
同時に、周囲にいた女性や男性が黄色い歓声をあげる。
すごい人気だ。男の俺でも普通に美しいと思ってしまった。
「たしかにミェーさんの言う通りだ。今まで悪かったな、ルー坊。」
「!?」あまりにラールイさんと早く打ち解けるチャンスに、頭がついていかない。
しかし、ここで逃すわけにはいかない。
「いえ、ラールイさんと仲良くなれそうで嬉しいです!」
「良かったのう、ルー。」
「ありがとうございます、ミェルツァさん!」
「爺はただ思ったことを口にしただけよ。」とミェルツァさんは優しく微笑んでくれた。
またもや周囲から黄色い歓声があがる。
「ミェルツァさんはすごい人気があるんですね」
「??そうかや?」
本人に自覚はないようだった。
ーーーー全員合流し、団欒室に入る。
「見つからないね。」
ラールイさんが開口一番に言う。
「結構ちゃんと探したんだけどよ?」
「ああ、何一つ手掛かりなしだ。」
ルキさんとキピノォさんが頷く。
「そうですね。」
「そうだのう。」
俺とミェルツァさんも頷く。
するとクロが、あっ、と何か思いついたように「なんでも知ってるパルラハンテに聞いてみようよ〜!」と言った。
「お前、最初からその手で行くつもりだったな?」
キピノォさんがイラつき気味にクロを睨む。
「違うよ〜♡」
絶対そうだ。ここにいた誰もがそう思った。
ミェルツァさんを除いて。
「パルラハンテさんってどこにいるか知っているんですか?」
そう聞くと、横からガタッと椅子を引く音が聞こえ、少年が近づいてくる。
誰だろう。誰かの知り合いだろうか。
「私がパルラハンテだ。」
灰白色の髪で、赤と青のオッドアイ、マントを翻した端正な顔立ちをした彼は、そう言い放った。
第十章:天才?パルラハンテ
この人がパルラハンテ?
ルキさんの時のように薬で小さくされているのだろうか?
「キミ、今失礼なことを考えなかったか?」
思考が見透かされていたようだ。今の言葉から察するにこれが本当の姿のようだ。
「頭のいい人が、七三、メガネだと思わないことですね。」
パルラハンテさんはボソッと呟く。
その声は俺の方までは届かなかった。
「キミたち、私に何か聞きたいことがあるんじゃないのかな?」
パルラハンテさんは何でもお見通しのようだ。
「はい、記憶の木を探してるんです。」
俺の質問に、そうか、と答えてくれる。
「文献に載っていたものを読んだことがある。たしか、今の死神の大半を占めている中世の死神の記憶が実っている木。情が湧かないようにという計らいだったはずだが...。
どうしてそんなものを探す?死神の仕事に支障はないだろう。」
「それはそうなんですけど、何となく気になってしまって。パルラハンテさんは知りたくないですか?」
パルラハンテさんは言う。
「さっきも言った通り、仕事に支障は出ていないのだから私は興味を抱かない。それよりもキミは、まだ一滴も魂瓶に入っていないようだ。うつつを抜かすのもほどほどにした方がいいんじゃないかな。」
バッサリ言われてしまった。
先ほどから横でソワソワしている皆さん。
笑いを堪えているように見える。
その中でクロが口を開く。
「ねぇねぇパルちゃん、パルちゃんの大事なひよこのコップとストロー、置いてきてるよ?」
少し離れた席を見てみると、両手用に2つ取っ手がついて、黄色地にひよこが1匹大きくプリントされたコップにストローがちょこんと刺してあるのが見える。
クロの言葉に皆が笑い出した。
「ダメだ、もう耐えられない!パル、お前いつから、そんなキャラになったんだ!」
珍しくキピノォさんがちゃんと笑っている。
「やめてやれ」と言いながらもルキさんも笑っている。
笑う要素なんてあったかな?
俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
それはミェルツァさんも同じなようでにこやかな笑みを浮かべているが、いつも通りだ。
パルラハンテさんは顔を赤らめて毛を逆立てている。
「お、お気に入りのコップでジュースを飲んで何が悪い!!」
ご立腹のようだ。
そんなパルラハンテさんは俺を見て、はっ、と表情を変える。
「んんっ。全くキミたちときたら...他鳥を笑うのはいかがなものかと思うが?」
「たちょう?」
思わず口に出てしまった一言に、また皆が笑う。
「僕ら鳥じゃないし!」
「オレら鳥じゃないし!」
もう笑いすぎて涙が出てきてしまっているキピノォさんとルキさん。
「どういうことですか?」
近くにいたラールイさんに聞く。
「パル坊はぼくと同じ人嫌いでね。だから『他人』って言いたくなくて『他鳥』になったんじゃないかな。」
「いや、そこも気になったんですけど、なぜ皆さん笑うんですか?」
「パル坊が背伸びをしているからだね。」
背伸び?別にしているようには見えない。
「精神的に背伸びって意味だ。」
少し冷たく言われてしまった。
そんな話していたら、いつの間にかコップとストローを持ってきたパルラハンテさんが近くに座っていた。
「キミ、記憶の木の場所を知りたくば、この笑い袋たちを止めるんだな。」
そう言いながら「ぢゅー」とストローでりんごジュースを飲む。
「ジュース、お好きなんですね。」
なんとなく言った言葉だったが、パルラハンテさんは癇に障ったようで
「ジュースと水しか飲めなくて何が悪い。キミも私を馬鹿にするのか?」
と睨まれてしまった。
「いえ、俺も好きですよ、ジュース。病院では飲めなくて、憧れてたんです。初めて冥界の出店で飲んだんですけど、美味しいですよね!」
そう言うとパルラハンテさんの顔が輝いた。
「キミ、わかってるじゃないか。そこの愚か者たちとは違うようだな。」
「単純馬鹿。」
キピノォさんが言う。
「な、何おう!?おい、聞こえたぞ!今、ボクを馬鹿って言ったな!!」
「"聞こえた"んじゃなくて"聞こえる"ように言ったんだよ。」
「なっ、なっ!?」
パルラハンテさんがキャラ崩壊した。
「これが素なんですか?」
「そうだな。」
ラールイさんとの会話に
「ずいぶんと可愛いのう。」
ミェルツァさんが混ざる。
「い、今、可愛いって言ったな!?ボクは天才なんだぞ!?」
悪気はないように見えたミェルツァさんだったが、パルラハンテさんはお気に召さなかったみたいだ。
「天才は自分で天才って言わないんだよ♡」
クロがツッコむ。
「そ、そうなのか!?前言撤回、ボクは天才じゃない!」
「単純馬鹿。」
「また馬鹿って言ったな!?もう、怒ったぞ!」
「さっきまでも怒ってただろ。」
キピノォさんがたたみかける。
「パルは頭は良いが、素直すぎる子なのかもしれぬのう。」
ミェルツァさんの言葉に納得した。
天才だけどお馬鹿なパルラハンテさん。
犬っぽいのに猫なルキさん。
王子スマイルなのに毒舌なキピノォさん。
人間嫌いだけど魚は大好きなラールイさん。
口調はおじいちゃんなのに生まれたてのミェルツァさん。
だんだんと皆『二面相』の名に恥じぬ人に見えてきた。
「二面相の人ってあと何人いるんですか?」
素朴な疑問にラールイさんが答えてくれる。
「これで全員だ。あと、2匹...いや、2人補充要員がいる。」
「補充要員?」
「補充要員はーー」
ラールイさんが言葉を探しながらわかりやすく説明してくれる。
「今の死神は人手不足なのは知っているだろう?」
はい、と答える。
「不定期だが、回収対象が増える時期がある。そういう時に補充要員が駆り出される。」
「その補充要員さんたち、普段は何してるんですか?」
「基本的に色々な部署を飛び回っている。仕事がない時は装備作りや怪我人の手当てを手伝っているな。」
「そうなんですね。」
「そうなんだのう。」
ミェルツァさんも勉強になったらしい。
「ミェルツァさん、あまり死神事情、詳しくないんですか?」
「そうだのう。爺は何も知らぬから、ここにきて色々なことを知れて、とても充実しているぞ。」
ミェルツァさんが微笑む。
なんだか仲間が嬉しそうだとこっちも嬉しくなる。
「そういえば、パルラハンテさんの部署や元ってなんだったんですか?知りたいです。」
キピノォさんとずっと言い争いをしていたのか、ぜぇぜぇ、と息を荒くしながら答えてくれる。
「ボク...わ、私はLAV所属で、元はヒヨドリ、鳥だった。」
「間違えても、ムクドリと一緒にするなよ」と付け加えながら。
「LAVって、ラールイさんやルキさんと一緒ですか?」
違う、とラールイさんが補足を入れてくれる。
「ぼくはLAPだから魚類専門だよ。パル坊は鳥類担当のLAV。ルキ坊は陸上哺乳類担当のLAB。」
「たしかに、分かりづらいかもの。
LAPは魚類専門、ラップみたいな名前だけど歌は歌わん。
LABは哺乳類、実験室みたいだが、実験はしない。おそらくな。
LAVは鳥類、愛の巣とでも言えば、覚えやすいかの?
まぁ、少しずつ覚えていけばよい。」
ミェルツァさんがフォローしてくれた。
「パルちゃんの武器は声なんだよ。戦う時は拡声器を使うんだ♪」
クロが割って入ってきた。
「そうなんですね。」
俺は、一呼吸置いてからパルラハンテさんへ話し続ける。
「なんだ?」
「もう素で話しませんか?俺は『ボク』って言うパルラハンテさんもいいと思いますよ!」
驚いた顔をするパルラハンテさん。
「キミは『ボク』と話す私を笑ったりしないのか。」
「??どうして笑うんですか?俺は笑いませんよ。『ボク』でも『私』でも、パルラハンテさんの良さは変わらないと思うんです。」
それは、と少し言葉に詰まりながらパルラハンテさんは話してくれる。
「確かにそうだな。出会って間もないキミに言われるとは...でも、ありがとう。」
パルラハンテさんは少し照れながら笑ってくれた。
そういえば、とパルラハンテさんは言葉を続ける。
「記憶の木について知りたいんだったな。教えてあげてもいいが、その代わりー」
一度言葉を切ってから
「ボクと友達になれ!そしたら教えてやるぞ!」
と大きな声(多分、これが通常)で言う。
「俺で良ければ、よろしくお願いします!」
「うむ、くるしゅうないぞ」
ふふん、とパルラハンテさんは得意げに笑った。
「んで、記憶の木はどこにあるんだ?」
キピノォさんが会話に加わる。
「記憶の木はーー冥界の中心部、トップの城にある。」
「「「「「トップの城?」」」」」
皆が疑問形で聞き返す。
クロだけは
「あー、皆んなを作ったトップがいるって噂のお城か!」
なんて納得しながら言った。
「え、皆さんの記憶だけじゃなく、ついにトップが誰かわかるんですか?」
ワクワクしながら俺は質問した。
記憶の木だけじゃなく……トップのことまで。知らなかった世界に一歩ずつ近づいてる気がした。
第十一章:トップの城と記憶の木
パルラハンテが告げた「トップの城」という言葉に、団欒室の空気は一瞬で張り詰めた。
今のトップ。それは、この冥界を創り、古代の死神を生み出したと言われる、伝説上の存在。に改革を起こした者。
その人物の居城に、自分たちの記憶があるという。
「行くのか?」最初に口を開いたのはラールイさんだった。その声には、いつもの人間嫌いとは違う、純粋な警戒心が滲んでいた。「行くなら着いてくぞ!天才のボク...じゃなかった、ボクが黙っちゃいない!」パルラハンテさんは、ひよこのコップをテーブルに勢いよく置いて、胸を張る。「オレは……」ルキさんが迷うように視線を彷徨わせた。
「正直、怖い。知りたくない過去かもしれねえ」ルキさんの言葉に、ミェルツァさんが穏やかに微笑む。「ルー2、案ずるでない。どんな過去であろうと、今のルー2はルー2だ。それは揺るがない」
「ルーにぃ?」
思わずツッコむ。
「ルー兄か。へへっ、悪くないな!」
ルキさんは良いようにとったようだ。ラールイさんが「ミェーさんの言う通りだ。だが、危険なことには変わりない」と一言。
キピノォさんが冷静に分析する。
「トップがどんな存在か、僕たちは何も知らない。下手に領域を侵せば、どうなるか」皆の視線がクロに集まる。彼は、この中で一番古く、トップの存在に最も近い死神のはずだ。「……行こうよ」クロは、静かにそう言った。
前髪で表情は読めないが、その声には確かな決意が宿っていた。「僕にも、確かめたいことがあるから」クロの言葉が、皆の心を決めたようだった。
俺は、ごくりと唾を飲む。
これから何が起こるのか、期待と不安で胸がいっぱいだった。
パルラハンテさんの案内で、俺たちは冥界の中心部へと向かった。
普段、俺たちが魂回収で訪れるエリアとは全く違う。
進むにつれて、死神の姿はまばらになり、空気は澄み渡り、シンと静まり返っていく。
まるで、世界の心臓部に近づいているような、荘厳な雰囲気だった。
やがて、俺たちの目の前に巨大な城が現れた。それはレンガで作られた見上げるほどの高さの古びた建物。おそらく古代の頃からのものだろう。
威圧的でありながら、どこか寂しさを感じさせる、不思議な城だった。「ここが……」誰かが呟いた。巨大な門には番兵一人おらず、俺たちが近づくと、音もなくひとりでに開いていく。
城の中は、外見以上に広大で、静寂に満ちていた。床も壁も天井も、同じレンガで、方向感覚が狂いそうだ。「こっちだ」パルラハンテさんが迷いなく進んでいく。
彼は文献で城の構造を知っているらしかった。俺たちは、奇妙な部屋々を通り過ぎた。
失敗作なのか、歪な形をした死神の試作品が山積みになった部屋。
全ての魂の生涯が記録されているらしい、果てしない書庫。
城の中庭のような、天上が吹き抜けた広大な空間。
そのどれもが、トップという存在の底知れなさを物語っていた。
中庭を見て、「見覚えがある。」とルキさん。
「たしか、試験会場だったな。」とキピノォさん。
「試験会場?」
あぁ、と俺の一言にパルラハンテさんが教えてくれる。
「死神には『死神試験』っていうのがあって、それに受かったモノだけが死神になれるんだ。」
みんなが、苦い顔をする。
「あの頃とは僕たち、随分変わったな。」
キピノォさんがポツリと溢す。
「1番変わったやつが言うセリフか?」
ルキさんが茶化し
「ボクは試験の時にキミたちとは会ってないね」
パルラハンテさんが混ざる。
「そういえば、ぼくもだ。そもそも、ぼくはここの試験会場じゃなかったな。」
ラールイさんも入り、
「爺は...受けたかの?」
ミェルツァさんがボケる。
「え...俺、試験受けてないんですけど」
ルッカが戸惑い気味に答えると、場が一瞬静まった。
「君は異例だ。」
城の奥の闇から、声が響いた。男でも女でもなく、老いても若くもない、感情の読めない声。その声がした瞬間、クロの肩が微かに震えたのを、俺は見逃さなかった。
その視線は、城の最も奥深く、一際濃い闇が広がる方へと向けられていた。その横顔には、今まで見たこともないような、深い悲しみと、静かな怒りが浮かんでいた。クロは、知っているのだ。この城の主のことを。
闇の中から、一人の人影がゆっくりと姿を現す。それが、この冥界のトップ。
闇の中から現れた人影は、その輪郭が定まらなかった。男のようでもあり、女のようでもあり、あるいはそのどちらでもない。星々を織り込んだようなローブをまとい、その顔には表情というものが存在しなかった。ただ、深淵を覗き込むような瞳だけが、静かに俺たちを捉えていた。それが、この冥界のトップ――「創造主であり革命者」だった。
「―――来客とは、珍しい」
感情の抑揚がない、ただ事実だけを告げる声が、広大な空間に響き渡る。「なぜ、過去を求める?」
少し余白を残してから「失われた記憶とは、不要ゆえに削ぎ落とされたもの。それを知ることは、必ずしも汝らに幸福をもたらしはしない」その言葉に、ルキさん、ラールイさん、パルラハンテさんが息を呑む。彼らが恐れていたことを、トップは的確に言い当てたのだ。
いつの間にかルキさんは半猫化して、イカ耳になっている。
いつしか、ストレスを感じすぎると耳と尻尾が生える、と装備班の補佐員が言っていた。
「うるさいな」静寂を破ったのは、ラールイさんだった。「ぼくがなぜ人間を憎むのか。その理由を知る権利が、ぼくにはある」「ボクも知りたい!ボクの過去も、知ればもっと強くなれるし、天才に近づく!」パルラハンテさんが好奇心に目を輝かせ、キピノォさんも「知った上でどうするかは、僕たちが決めることだ」と静かに同意した。
「どんな過去であろうと、ルー兄たちが揺らぐことはない。それもまた、彼らの一部じゃろう」
あ、いつの間にかルー兄にしてる。ミェルツァさんの穏やかな言葉が、皆の覚悟を代弁しているようだった。ルキさんは、迷っていた。仲間たちの決意と、自分の恐怖の間で天秤が揺れている。
だが、クロだけは、記憶の木に見向きもしていなかった。その思考は、ただ一点、トップにだけ注がれていた。「創造主」クロが絞り出すように呟く。その声は、憎しみと、悲しみと、そしてどこか子供が親を求めるような響きを持っていた。「なぜ、僕を創った?」トップは、クロをまるで価値のない石ころでも見るかのように一瞥した。「0001。感情というエラーを抱えた、最初の失敗作」その冷たい言葉に、俺の心臓が凍りつく。「お前が『泊瀬』と呼んだ魂の死も、世界の均衡を保つための必然。死神が個人の情に揺さぶられるなど、システムの欠陥でしかない」「欠陥だと…?」クロの声が震えていて、そのまま唇を噛んだ。「泊瀬は、僕に世界をくれた!名前を、感情を、生きる意味をくれたんだ!それのどこが欠陥だ!お前にとってはただの魂でも、僕にとっては…!」
「些事なんかじゃない!!」
気づけば、俺は叫んでいた。トップの無機質な視線が、初めて俺に向けられる。「クロの悲しみも、ルキさんの不安も、みんなが過去を知りたいって思う気持ちも、全部、些事なんかじゃないです!あなたにはただの『エラー』や『欠陥』かもしれないけど、俺たちにとっては、それが日常で全てなんです!」俺の言葉に、クロが、ルキさんが、皆がはっとした顔で俺を見る。「俺たちは、あんたが作った駒かもしれない。でも、ただの駒で終わるつもりはない。過去も今も、良いことも悪いことも、全部抱えて、それでも前に進みたいんです!」
俺の叫びが、静寂な城に響き渡る。その時、トップの感情のない瞳が、ほんの僅かに、揺らいだように見えた。「……面白い。ルッカ・サルヴァトーレ。人間の魂を持つ、新たな変数か」トップは初めて、俺の名前を口にした。
緊張で震えそうになる。
ーその時。
「合格だ。」
トップが言う。
何の話?周りを見渡すと、みんなも眉を顰めている。ただ1人を除いて。
クロだ。
「んふふ、合格だって!良かったね〜?」
「どういうことですか?」
「これは初の人間からの死神である君への試練だったのだ。」
トップが会話に混ざってくる。
相変わらず、声に圧があり、少し怖い。
「ということは、俺は今、初めて死神になったんですか?」
「正式にはな。今までは死神」
「(仮)みたいなものだったんだよ〜!」
クロが言葉を継いだ。
そして、ジャンプし、足場を転々としながらトップの元へ向かう。
「ねぇ、もう良いんじゃない?」と言いながら、幕のようなものをめくると、トップの姿が消えた。
いや、消えたのではない。元々、映し出された幻影だったのだ。
プロジェクションマッピングのようなものらしい。オズの魔法使いで見た気がする。
城の重々しい空気とはそぐわない1人の少年が出てきた。
「いや〜、昔のトップに似てて、思わず吐き気がしたよ♡」
「そうか。上手くできていたなら何よりだね。」
クロとトップがわちゃわちゃしている。
みんなが意味がわからないという顔をしている。
俺も同じ顔だったろう。
「おっほん。クロが考えついてな。どうしても人間を死神にしたいというものだから、今までの死神にも示しがつくよう、試験をすると言ったら、こうなった。」
みんながクロに視線を向ける。
「んへへ、びっくりした?」
その一言でみんなの怒りが爆発した。
「おい、オレの覚悟はどこへ行った!」とルキさん。
「おいクロ、流石に今回はやりすぎなんじゃないか?」とキピノォさん。
「クロ坊、ぼくの気持ちはどうすればいいのかな?」とラールイさん。
「皆、お怒りじゃな。」とミェルツァさん。
パルラハンテさんは「そうだ、そうだ!」とみんなの言葉に付け加えていた。
みんなに罵倒されているのに何故か照れるクロ。イラッとする。今回は本当に。
俺の睨みが効いたのかクロが弁解を始める。
「待って待って!トップはこんな少年でガッカリしたのかもしれないけど、記憶の木は本当にあるんだ!」
信じられないという目を全員がした。
するとトップが
「トップの姿に関しては騙すような形になったが、記憶の木は本当にある。」
クロの時とは裏腹にみんなの目が少し輝き始める。
「本当なのか?」
ルキさんが念を押す。
「本当だよ、信じて!」
クロを一瞥してから、トップに視線を戻す。
「真実だ。案内しよう。」
......ーー記憶の木に向かっている道中。
心なしかクロがしょんぼりしているように見えたので、「後で皆に謝りなよ」というと、
クロが「うん、今、謝る。」と頷く。
「みんな、悪いことしたとはあまり思ってないけど、ごめんね。」
俺は「は?余計なものくっついてない?」と思ったが、みんなは「もう良いよ」と許して受け入れてしまった。相変わらず優しいな。
「けどよ、試験やるぞって説明くらいしてくれても良かったんじゃないのか?」
ルキさんがクロに切り出す。
「んぇ?みんなソワソワしちゃうでしょ?だから内緒にしてたの。サプライズかも♡きゃっ」
「なんで大事な記憶の木のところで試験なの?
いつから計画立ててたの?」
今度は俺がクロに質問した。
「え、トップが近いうちにって言って連絡取れなくなっちゃったから、トップに会いに行けるチャンスだ!って思って?」
「あぁ、皆が来たのを察知し、急いでプロジェクターの準備と声の準備をした。」
あと、とクロがつなげる。
「もう一つの質問の答えは、ルッカと死神と使い魔について話してた時かな♪隠すの上手でしょ?んふふ。」
なんて、話しているとトップが扉の前で立ち止まる。
「ここが記憶の木の部屋だ。」
ミステリー解決に出て来そうな、木でできた扉に手をかける。
「...心の準備は良いか?」
トップが扉を開ける。
そこには、乳白色に包まれた空間がひろがっていて、その中央に、「記憶の木」はあった。
息を呑むほど、美しい光景だった。幹は普通の木のようだが、枝にはガラス細工のような透き通った葉が茂っている。そして、その枝々には、様々な色に輝く水晶のような果実がなっていた。あれが、皆の記憶なのだ。
俺たちが木に近づくと、いくつかの水晶が風もないのに小さく揺れた。それぞれのモノに呼応しているらしい。
ルキさんの記憶は、猫のシルエットが浮かぶ琥珀色の水晶。キピノォさんのは、蛇がとぐろを巻くエメラルド色。ラールイさんのは、魚が泳ぐ深い青色とそれにそぐわぬ赤色。そして、ミェルツァさんのは、自然の深い緑色の水晶だった。
あれ、ミェルツァさんは記憶があるって言ってなかったっけ?
ミェルツァさんの方に顔を向けると、不思議そうに見ていた。皆、自分の記憶を前にして、言葉を失っている。ルキさんは拳を握りしめ、ラールイさんは憎しみと好奇心が入り混じったような目で自分の水晶を睨みつけていた。
俺は、自分の水晶を探した。だが、それらしきものは見当たらない。俺は元人間で、記憶があるからだろうか。ふと、クロの方を見ると、彼は記憶の木には目もくれていなかった。「今ならまだ、引き返せる。過去を知って立ち直れなくなるのは、とても辛いことだ。それでも、見ると言うのか?」
優しさが混じる戸惑いの声でトップがそう言うと、記憶の木の水晶が、より一層強く輝き始めた。まるで、ルキさんたちを誘うかのように。
「……決めたぜ」ルキさんが、覚悟を決めた顔で言った。「どんな過去でも、今のオレはここにいる仲間たちと作ったオレだ。それだけは、忘れねえ」彼はそう言って、琥珀色の水晶へと手を伸ばす。それに続くように、キピノォさんが、パルラハンテさんが、ラールイさんが、そしてミェルツァさんが、それぞれの記憶へと手を伸ばした。
彼らの指先が水晶に触れた瞬間、まばゆい光が溢れ出す。皆の脳内に、失われたはずの過去の全ての光景が、奔流となって流れ込んでいった。
―――人間に可愛がられ、愛情をいっぱいに受けて育った猫の記憶。しかし、次第に猫のかまってちゃんアピールに嫌気がさし、彼は置き去りにされた。
―――海の中で楽しく泳ぐ兄弟の魚(ラールイと妹)の記憶。モリでつかれ、生きたまま焼かれた。妹を救えなかった上、美味しくないと捨てられた。彼の人間への憎しみは、生きるために植え付けられたものだった。
―――森の中で静かに生きていたが、美しい姿から人間に乱獲された蛇の記憶。
―――ただ暮らしていただけなのに、うるさい、道路が汚れる、害鳥だと罵られスプレーをまかれ、生活の場を奪われた鳥の記憶。彼の人間への憎しみもまた、生きるために植え付けられたものだった。
―――自然の中で生まれ、ただ在るがままに生きていた蜂蜜の木、ふもとでいつも何かを待っていた片腕の男性。現在のミェルツァの姿と酷似している男性と穏やかで平穏な記憶。しかし、男性に話しかけたくても話しかけられず、見守ることしか出来なかった。
光が収まった時、そこに立っていたのは、呆然と立ち尽くす仲間たちの姿だった。喜び、悲しみ、怒り、安堵。様々な感情が彼らの顔をよぎり、言葉にならない。
「これが君たちの選んだ道だけど、どう転ぶかな」
トップは少し悲しげに彼らを見つめる。
クロは、そんな仲間たちを見つめ、そして再び、静かにトップを見つめた。その目には、新たな戦いへの決意が燃えていた。俺は、己の過去と向き合い始めた仲間たちを、固唾を飲んで見守る。
もし今後、これで彼らが変わってしまうことがあっても受け止めよう。
俺を受け入れてくれたみんなのように。
死んでから始まった、二度目の人生。それは、ただ魂を回収するだけの日々では終わらない。それぞれの過去を取り戻した『冥界二面相』の、本当の物語が、今、始まろうとしていた。
『冥界二面相』裏話♡
第四章、団欒室にて。死神について真面目に話を聞いている泊瀬。しかしうまく集中できない。
視線と音が少々うるさいのである。
「ぢゅー、ぢゅー」
泊瀬はちらっと音のする方を横目で見てみる。
パルラハンテ:「何見てるんだよ!」
泊瀬:「えっ!?えと、なんでもないです...。」
両手で、取手付きのひよこ柄コップに入ったリンゴジュースをストローで飲んでいる。
やけに美しい童顔でオッドアイの子だった。
泊瀬:「(誰もツッコまないのかな?)」
気になりつつも、クロとキピノォの方に顔を戻し話を聞き続けた。
後にパルラハンテという子であることが判明する。これがパルラハンテと泊瀬の初めての出会いであった。
第六章、海にて。ラールイが魂回収にきている。
ラールイ:「あぁ、ここが楽園♡」
ラールイの近くに魚たちが近づいてくる。
ラールイ:「今日も美人だよ、オニカサゴちゃん。その毒もとっても可愛いよ!あ、大丈夫だよ、クラゲくん。きみのことも忘れてないよ。毒もとっても綺麗だ、毒の前にきみの容姿に痺れそうだ。」
ラールイはとても幸せそうだ。この仕事も転職と言って良いほどに。
ルキヴィアたちには、これが通常運転であることが知られており、後にルッカにも知られることとなる。
第八章、道端にて。
ルキヴィア:「おいキピノォ。喧嘩は終わりだ、帰るぞ〜。」
誘惑組「は?女のくせに、いきなり入ってきて仕切ってんなよ。」
ルッカ:「その考え方、古くないですか?」
ルッカが割って入る。珍しく他人と争う。
ルッカ:「女だから、とか今、関係なくないですか。」
誘惑組「関係ねぇ奴がしゃしゃり出てくんなよ」
ルッカ:「関係なくないです。仲間のこと助けたいだけなんで。」
誘惑組が泊瀬を殴ろうと拳を上げる。
泊瀬は怯むことなく、平然と堂々とそこに立っていた。
誘惑組「ちっ、もう行こうぜ。」
「『仲間』とか気色悪いんだよ。」
キピノォ:「案外やるな、ルッカ」
見ていたキピノォが呟く。
初めて敬称がとれた瞬間で、キピノォの中でルッカの存在が形を変える。
ルキヴィア:「いや、そもそも俺、女じゃないんだが...」
そんな言葉が風に溶けるのであった。
第九章、冥界商店街にて。ルッカが1人で記憶の木の情報集めをしている最中。離れたところから、ミェルツァたちの会話が聞こえる。
ミェルツァ:「そういえば、爺の武器は蜂蜜だったのう。」
ミェルツァが蜂蜜化し、ドロドロ状態になる。
ミェルツァ:「蜂蜜は万能って聞く。それって、〇〇したり、〇〇したり...」
ラールイ:「ほう?」
ミェルツァ:「試してみようkー」
キピノォ:「蜂蜜になっても話せるのか。こいつ、封印した方がいいんじゃない?封印。」
ルキヴィア:「こいつが入る瓶持って来い、瓶!」
屋台にいい感じの瓶が置いてある。
屋台のものは全て無料のため、瓶を貰う。
キピノォ&ルキヴィア:「封印。(瓶に詰める)」
ミェルツァ:「...おや?」
しばらくしてからミェルツァは外に出れたという。
ある日のこと。
補佐員A「ルキさん猫〜!」
装備班「はーい」
装備班の皆は淡々と仕事を続ける。
ルキヴィア:「うぅ...。慣れてくれるのはありがたいが、少しは心配もしてほしいぜ。」
ストレスを感じすぎると、ルキヴィアは、猫の耳と尻尾が生える。
初めは慌てていた装備班の人々も今では、自然と猫の耳と尻尾が消えるのを待つようになった。
装備班の日常である。
またある日のこと。
ルキヴィアは装備作成時や調整時など大切な場面では眼鏡を使う。
今日もいつもの通り眼鏡をかけて作業をする。
みんなの装備を調整中につき、みんながルキヴィアの周囲に集まっている。
クロ:「こうして見ると、なんかルキが頭よく見えるよね〜」
パルラハンテ:「おい!」
ルキヴィア:「いきなり大声を出すな、それに今は作業中だ。」
そうだぞ、と周囲の目。
そんなことには目もくれず言い放つ。
パルラハンテ:「この際だから言っておく。この中で1番頭がいいのはボクだからな!わかったか、ルキヴィア!」
ルキヴィア:「だから大声出すなって。」
キピノォ:「この際って、どの際だよ」ルキヴィアは至って冷静であった。対抗心を燃やしているのは、パルラハンテだけらしい。
月待 玖稜/クロ
性格・要素: 死神/口元は笑み/情を得た失敗作/隠しごとに♡/名前は大事
キーワード: 二面性、自由、気まぐれ、でも本質は孤独持ち
口元はいつも笑っている。ルッカ曰く「精神年齢が幼稚園生。」らしい。
隠し事、本心ではない時に語尾に♡をつける(無意識) 人をイジるのが好きだが、名前だけは絶対に馬鹿にしない。
•星座: 射手座 (12/1ごろ)
→ 無邪気・飄々・つかめない自由人。
深くて情熱的でもある
•血液型: B型
→ マイルール・気まぐれ・場をかき回す天才肌
星宮 泊瀬/ルッカ
性格・要素: 前世:女の子、家族思い、病弱/今世:男の子、クロの相棒?
キーワード: 優しさ→芯の強さへの変化/受け継ぐもの/再生
•泊瀬: 乙女座 (9月6日)× A型(きれい好き・繊細・優しすぎる)
•ルッカ: 獅子座 (8月8日)× O型(明るい・無邪気・でも情に厚い)
Lucivia
性格・要素: ワイン髪ヒール男子/猫系だけど犬っぽい/人懐っこく人気者/装備班リーダー
キーワード: 美意識/器用さ/愛され上手/江戸っ子気質
•星座: 天秤座 (10月3日)
→ 社交的・感性派・でもバランス型で器用
•血液型: A型
→ 気配り・丁寧・実は完璧主義
kipino
性格・要素: 薬剤師/毒舌あり/小さいは地雷/左目を失いAI化/過去に孤立
キーワード: コンプレックス/理知的/毒と美の両立
薬剤師。謎の液体も多い。よく月待玖稜に勝手に使用され、注意している。怒ると怖い。
「可愛い、小さい」などの言動は地雷。(頭を撫でるなど)隠しているつもりだが、バレてる。
左目を業務中に失った。どうせなら、仕事に役立てたい、とのことで左目を改造。AI搭載らしい。
もともと自分は美しい(わがまま王子みたい)、美しかったら何してもいいと思ってた。周囲から嫌われた。左目を失うまでは。
•星座: 蟹座 (7月5日)
→ 優しさと殻/守りと攻撃のギャップ
•血液型: B型
→ 感受性強め・自分ルールに忠実・ギャップの塊
rayry
性格・要素: 魚好き/顔にエラ/髪が動く/真面目だけど振り回されがち/好き嫌いがはっきり
キーワード: 自然体/感性/優しさと芯/魚
自他共に認める魚好き
魚を発見時、口癖は「ここが楽園♡」
真面目だが、怖さはない。基本的にしっかりしているが3人(クロ、ルキ、ピノ)に振り回されることが多い。
好きなものには「あの子」嫌いなものには「奴」を使う。人間嫌い。好き嫌いを表に出す。
•星座: 水瓶座 (2月8日)
→ 変わり者だけど博愛的、論理と感性が混在
•血液型: AB型
→ 二面性・理論と情熱を両立・一匹狼な優等生
mielcer
性格・要素: 甘い雰囲気/知識薄め/片腕喪失/いつも笑ってごまかす/瓶詰にされることも
キーワード: 魅了・哀愁・空虚・でも憎めない
雰囲気、声、表情が甘い。とにかく甘い。一目惚れ続出。
見た目はいつも自分(木)の下にいた
杖をつき、片腕をなくした。いつも何かを待っている、もしくは、見ていた男の人。
決めた子には溺愛する。よく笑って乗り切る。
「この爺にはなぁ...ははっ。」
知識があるようでない。子供みたいな発想しか出てこない。『爺さん、黙っててくれ/話す内容以外はカッコいいのに』と周囲から思われている。
ラールイがたまに悪ノリする。
酷い時は瓶に詰められる。(『封印』と言われてる。[ネタ])
•星座: 魚座 (3月10日)
→ ロマンチックで不思議/他人の感情に敏感
•血液型: O型
→ 包容力・どこか抜けてて愛される
parlajarnete
性格・要素: 頭が良いが素直すぎる/クロのおもちゃ2号/メガネ敵視/ストロー/ヒヨドリ
キーワード: 思い込みの強さ/真面目なのに抜けてる/頑固かわいい
•星座: 牡牛座 (5月15日)
→ 不器用・一本気・コツコツ型・五感重視
•血液型: O型
→ まっすぐ・情熱的・裏表なし