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魔王就任と住民の不満

タケシが目を覚ましたのは、真っ黒な天井を見上げた瞬間だった。心臓がまだ早鐘のように鳴っている。最後の記憶は、無数の書類に囲まれた狭いオフィスで、終わりの見えない仕事をこなしていた場面。体は限界を迎え、意識が途絶えたはずだった。


しかし、今いるのはオフィスではない。目の前には、豪奢な装飾が施された玉座。そして、広大な玉座の間を取り囲む異形の魔物たち。


「……これは、何だ?」


混乱するタケシの前に、ひれ伏す黒衣の男が一人立ち上がる。その男は長身で、冷静な目つきをしていた。


「新たなる魔王様、ようこそ。この魔界を統べる者として、我々はあなたをお待ちしておりました。」


「え? ちょっと待って、俺が魔王?」


タケシは混乱したまま、周囲を見回す。自分は確かに過労で倒れたはずだ。しかし、ここは地球ではない。目の前の男は明らかに人間ではなく、その背中から黒い羽が生えていた。


「私はルシファード、あなたの側近を務めさせていただきます。これより、魔界の統治をお願いしたく存じます。」


「待て待て、俺はただのサラリーマンだったんだぞ? 魔王なんて無理だって!」


タケシの焦りに構うことなく、ルシファードは淡々と続ける。


「前任の魔王はその役目を全うできず、魔界は長らく混乱に陥っています。経済の停滞、治安の悪化、住民たちの不満……その全てを解決できるのは、魔王様しかおりません。」


「……まじかよ。」


タケシは深く息を吐いた。突然の状況変化に戸惑いながらも、どうやら逃げ場はないようだ。



---


魔王城の始まり


タケシはルシファードに導かれ、魔王としての最初の一日を過ごすことになった。だが、思っていたような統治の仕事がすぐに始まるわけではなかった。むしろ、日々の生活はのんびりとしたもので、配下たちはそれぞれの仕事に集中しているように見えた。


「今のところ、何も問題はなさそうだけど?」


「いえ、表面的にはそう見えますが、住民たちの不満は着実に募っています。魔王様、まずは現状を把握することが重要かと存じます。」


ルシファードに促され、タケシは魔王城の奥にある広間に連れて行かれた。そこには何人かの魔族が集まっており、明らかに不満を抱えた表情で待っていた。


「魔王様、新たな統治者として、まずは我々の話を聞いていただけますでしょうか。」


先頭に立っていたのは、筋肉質な体をした鬼の男だった。彼は腕を組み、じっとタケシを見据えている。


「えっと……まずは、話を聞かせてくれ。」


タケシは戸惑いながらも椅子に座り、彼らの話を聞くことにした。



---


住民たちの不満


最初に話を始めたのは、鬼の男・ガルゴスだった。彼は、最近の街の治安の悪化について語り始めた。


「前の魔王がいなくなってから、魔界の各地で盗賊や不良魔族が増えている。特に弱い者たちが狙われやすく、街の秩序が乱れているんだ。警備隊も人数が足りず、手が回らない状態だ。」


タケシは彼の話に耳を傾ける。治安の悪化は、地上でもよく聞く問題だ。しかし、魔界ならではの複雑な事情も絡んでいるようだ。


「そうか……それにしても、なんで警備隊の数が足りないんだ?」


すると、次に話を始めたのは、細身の吸血鬼の女性・マリアだった。


「原因の一つは、給料が低すぎることよ。警備隊員たちは仕事が危険なのに、それに見合った報酬がないの。生活が苦しくなって、辞める者が後を絶たないわ。」


「え、給料も俺が決めるのか?」


タケシはますます困惑した。確かに、魔王としての責務は大きいだろうが、こうした具体的な生活の問題にまで関与するとは思っていなかった。


「その通りです、魔王様。住民たちの生活が安定しなければ、魔界全体も成り立ちません。」


ルシファードの言葉が、タケシに現実を突きつける。彼はただのサラリーマンだったが、今や魔界全体を管理する責務を負っているのだ。



---


魔王としての決意


住民たちの話は、さらに続いた。ある者は、インフラが老朽化していることを嘆き、また別の者は、農地が荒れて食料不足が続いていることを訴えた。タケシはそのすべてを聞き、ため息をついた。


「なるほど……思った以上に問題が山積みだな。」


「魔王様、これらの問題を解決するには、まずは優先順位をつける必要がございます。」


ルシファードが冷静に助言を与える。タケシは考えた。これまでの人生で培ってきた「効率化」のスキルを、魔界でも活かすことができるかもしれない。


「わかった。まずは、治安の改善から始めよう。警備隊の給料を見直して、人員を増やす。次に、食料問題を解決するための農地改革だ。どうだ?」


住民たちは、タケシの提案に一瞬驚いたようだが、すぐに希望の光を見出したようだった。


「なるほど、やってみる価値はありそうだな!」


ガルゴスが満足げに頷く。マリアも微笑みながら、タケシを見つめた。


「さすが魔王様。期待していますわ。」


タケシは不安を抱えながらも、ようやく一歩を踏み出した。住民たちの不満を解決するためには、まだまだ多くの問題が待っている。しかし、彼はこの魔界で新しい人生を切り開く決意を固めた。



---


第一話 終


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