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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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7. 突然の旅出

「なんだよ、まったく~。ゆっくり休む予定だったのに~」

「結局温かいご飯も、食べられなかったじゃんか~!」


やっぱ話し相手がいるというのは本当に違う、楽しい!

ゲイルに早速馴染んでしまっている自分がいた。

あの後俺らは宿からこっそり抜け出し、そのまま次の街へ旅立ったのだ。


今、俺たち二人は、麦畑の中を東西に真っすぐ伸びる街道上で、西に向かって歩いていた。

秋の始まりを感じさせる心地の良い風が、収穫後のすっきりした麦畑を吹き抜け、朝から歩き続けて暑くなってきた身体を冷ましてくれる。

頭の中も冷ましてくれたらいいものを、なかなか街への未練が、まだたちきれない。


「だから何度も言ったろ~? あのまま自警団呼んだって疑われるだけだって。それどころかあの宿から弁償金請求されて、損するだけって」

「そもそもあの強盗は宿の受付とグルだったんだぜー。俺がたまたま隣の部屋に泊まってて、本当にイルは運がよかったな!」

「なんだよそりゃ~。衛兵は?」

「あのな~、そんなのは相当でっかい都市だけだぞ~? イルはルクソン基準過ぎるわっ」


ルクソンとは魔導王国の始祖の名前でもあるが、同時に我が王国の首都の名前でもある。

ルクソンは確かに、世界に名だたる大都市の割に、治安が良いことで有名だった。

魔術師が治めていることに対して畏敬の念を持たれているというのもあるが、なにより ”衛兵隊” がいるのが大きな要因であった。


彼らは比較的独立した立場で、街の中で起きる事件や問題の対応に当たっている。

住民はもちろん貴族からも信頼されていて、彼らが下す判断に異論を挟む者はいなかった。

そんなしっかりした正規の治安維持管理組織があるということは異例中の異例だ。

外の世界で非常識と言っても間違いない。

普通は自己責任、当人同士で解決するのものだそうだ。

治安維持部隊っていうのは、ある所にはあるが、大体横領・癒着の温床になっているらしい‥‥‥。


ゲイルは傭兵として色んな都市を回ったおかげか、様々な世間を熟知していた。

世間知らずな自分にとっては貴重で、とてもありがたい存在。

そしてその上、なんやかんや言いながら結構お人好しであった。

特に俺みたいな子供には弱いみたいだった。


なんか良い人属性、てんこ盛りである。

これで傭兵って務まるんだろうか!? というのが目下の疑問 笑


俺は宿の一件もあり、自分の至らなさを痛感していた。

もう少し周りを疑わないと、本当にいつか痛い目にあう。

ゲイルだって本当の姿は違うのかもしれない。


例えば、

もしゲイルが途中で裏切ったら。

もし身ぐるみはいでどこかに売り飛ばそうとしてきたら。

もし、もし‥‥‥。


俺は薄気味悪い想像を払しょくするために、彼にこっそり『チャーム』をかけ続けている。

好感度を上げる魔法である。

好感度が高ければ裏切るような行動はとらないだろうと打算的な考えだ。


基本的に魔法による効果は一時的なものだ。魔法を止めれば効果も失われる。

ただ、長い時間同じ魔法をかけ続けると、その効能/変化は恒久的なものに変わっていく。

どれぐらいの期間というのは魔法によって異なるが、チャームを2日間かけ続けておけば、旅を一緒にしているぐらいは持つだろうというのが俺の目算だった。


ほんと、後から振り返ればなんてバカなことをしたんだって自分でも思う。

でもこのときは、これが最善の策だと考えていたんだ。


道中はゲイルの旅スキルのおかげで、本当に一人の時の苦労が嘘のように楽になった。

森の中で食べられる野草やキノコを採ってきたり、小動物を罠で捕まえたり、果ては自作の網で川魚を吊り上げることまで彼はすることが出来た。

そしてゲイルが何より凄いのはそれらの食材を料理が出来るってことだ!

はっきり言って尊敬ものだ! 男で料理できる奴なんて滅多にいない。

俺がこの一人旅で悩まされていたトップ2、安心な睡眠と食事、どっちもゲイルが解決してくれた。


「ゲイルは本当にすごいな! 俺も見習わなきゃな~。」

「こんなの旅生活が長けりゃ、みんな出来るようになるぞ」

「いや、そんなことないよ! 本当にゲイルは凄いと思う。尊敬する!」

「そっかー、そんなに褒められるとそれはそれで嬉しーな 笑」


ゲイルは照れて頬をかいている。

とても強い男なのに態度が柔らかいって本当反則だ。

男として勝てない気がしてくる。ぜったいモテる。


「なんでそんなに色んな都市を回っていたの? そもそもゲイルっていくつなの?」

「おぃおぃ、質問は一個ずつにしてくれよ 笑」

「歳は20半ばじゃねーか? ちゃんとは数えてねぇーからなー。孤児院育ちで帰るところもねーし、傭兵なんて、戦があるところを探して転々とするもんだからなー」

「‥‥‥なんか悪いこと聞いてごめん。」

「別に気にしてねーよ。気にしてねーから答えてんだよ 笑」


ゲイルはまた俺の頭をわしゃわしゃかき回してきた。

もう以前のような悪い気持ちにはならない。


「じゃあ、ゲイルは魔導王国に行くつもりでいたの?」


今ここら辺で戦をしていると言えば魔導王国ぐらいなものだ。


「まーどちらかというと魔導王国の敵方かな。魔導王国は魔法軍が強すぎて、傭兵なんか募集してねーからなー」


それを聞いて、俺は心底ほっとした。もしかしたら、俺の手でゲイルを焼き殺していたかもしれなかったからだ。

魔法軍はご存じの通り、第一王子であるミディエル・ルクシオン様が率いる、魔術師だけで構成された軍隊だ。

世界で唯一、巨大火球や巨大竜巻などを生み出すことが出来る。

そのおかげで魔導王国は連戦連勝を飾ることが出来ていたのだ。


そしてその仕組みを支えていたのがこの俺だ。

ミディエル様の力であの魔法を生み出しているかのように内外で宣伝されていたが、実は俺自身が裏から操っていた。この事実は魔法軍の中でも一部の人間にしか知られていない。

王家の尊厳を保つために、王家以上の魔術師は存在してはならないというのがあの国の不文律である。


「まー結局日和って、今はイルのお守りだけどな~」

「それはそれで良かったということだね」

「そう言うことにしておくか! よしっ、今晩はなにか温かいものでも料理するか!」

「やったぁぁぁ!」


ゲイルはにやりと笑いながら食物採取に出かけて行った。

本当に憎めない男だ。俺が本当の女だったら、惚れていたかもしれない。

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