17. 村の夏祭り
穏やかな陽気がつづく初夏のこの時期に、ピレオーツ村では恒例の夏祭りを開催する。
街のお祭りみたいに出店が出たり派手な催し物があったりはしないけど、
この日ばかりは皆仕事を休んで、お酒とちょっと豪勢な食事でゆったりとした時間を楽しむ。
女性陣はこの日ばかりのお洒落を楽しめるとあって、皆朝からウキウキしていた。
――なんだろう、この感じ。
村全体がちょっと浮き足立っていて、空気が軽い。
それだけで、なんだかこっちまで気分が上がってくる。
私は朝からミレイとロンドと集まって、どんな格好にするか相談している。
「イリィ、今街で評判の髪型ってどういうのなの?」
「うーん、地方によって変わるけど、最近は三つ編みを巻き上げるのが流行りかな~」
「ええー! それどういうの!?」
「こう、編み込んで、上で留めるという感じ?」
一生懸命、自分の髪を使って説明するものの、なかなかうまく伝わらない。
「ロンド、やってもらえばいいんじゃない?」
「確かに! イリィお願い!」
「ええーーっ?! うまくできるかな~‥‥‥」
「イリィならきっと大丈夫だから!」
この二人はなぜか私に対して絶対的な信頼感がある、うーん‥‥‥。
いや嬉しいけど、ちょっとだけ怖い。
フローラのやっていたことを、見よう見まねでやってみたら出来るかな‥‥‥。
そのあとも二人から懇願を受け、あんまり自信はないものの、やってみることになった。
ロンドの髪を何ヵ所か束ねて三つ編みを編み上げていく。
ロンドはきれいなブロンド髪でちょっとウェーブが入っているからやりがいがある。
触っていると、指の間をするっと髪が抜けていく感じが気持ちいい。
「人の髪で三つ編みを作るのってなんで楽しんだろうね~」
「ね~、なんでだろうね~」
ミレイときゃっきゃっしながら、複数の三つ編みを作り、
先端を髪紐でしっかり縛り付ける。
編んだ三つ編みは、頭上で交差させて、同じく髪紐で固定していく。
そのままだと素っ気ないので、三つ編みにツタになっている草を仕込んで、
最後は、ロンドの薄桃色のちっちゃな顔の左横を、白いエーデルワイスで飾り立てる。
おぉ‥‥‥、いいじゃないっ!
フローラルにやってもらったより、かなり質素になってしまったが、
ロンドの髪質もあいまって、かなり可愛く仕上げることができた!
そうだ、これだったら私の髪留めが似合うはず!
最後に家に帰って、持って来た深いゴールドの髪留めをセットする。
もうそれはそれは、お人形さんのような可愛いロンドが完成した。
ふぅっ! できたっ! 笑
手鏡で見たロンドの顔がぱあっと明るくなり。
「わぁー!かわいいっ!」
って花が咲くように、笑顔がこぼれる。
その顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりするのだった。
ああ、こういう反応が好きなんだな、私 笑
「ロンドだけズルいっ!」
ミレイが言い出したことなのに、あまりの出来に、
隣でミレイが少ししょげている 笑
ロンドの髪を結うだけでも一時間以上かかっていて、
ミレイの髪を結うまではちょっと時間が足りなそう。
私達若手女性陣は、この後、料理の準備に駆り出される予定となっていた。
「うーん、巻き髪にするというのなら出来ると思うけど‥‥‥」
ふと大工のラジーさんにもらった、小さな鉄の棒のことを思い出していた。
この間魔法で、鉄鉱石を生成して提供したら試しに作ってくれて、
なにかの役に立ててと、押し付けられたんだった。
あれをほんのり暖めて、髪を巻けばうまくいくかもしれない。
「えっ!? なにそれ! ロンドみたいにウェーブに出来るってこと!?」
ミレイの髪はブラウンのストレートで、よくロンドの髪を羨ましがっていた。
「うん、ウェーブというより、完全に螺旋状になると思うけど」
「!! それやるっ!」
ミレイの目が爛々と輝いていて怖い 笑
これは失敗出来ないなー。
家に戻って道具を取り寄せ、
細心の注意をしながら『ウォーム』で暖めて、ミレイの髪に癖をつけていく。
――――――
「わあーー!!」
手鏡を見るミレイは完璧な反応だった。
良かった~~~~~ 泣
ちょっと失敗したらどうしようって、内心ヒヤヒヤしてたし。
もう今日だけで2つもぶっつけ本番したせいで、2日くらい寿命が縮んだ気する 笑
「で、イリィの髪はどうするの~?」
ロンドが律儀に聞いてきてくれる。
もう私は自分の髪を、どうにかする気力は残ってない。
「私はいいかなー。もう十分楽しんだし」
心の底から、そう思っていたんだけど。
でも、二人は許してくれない。
「そういう訳にはいかないよー!! ねぇミレイ?」
「うんうん!」
逃げられなかった 笑
そのあと2人のおもちゃ状態にされて、ただ髪をまとめるだけでなく、
最終的に花冠までつけられてしまう。
さ、さすがにこれは、恥ずかしいんですけど‥‥‥。
「これ、うちらの最高傑作じゃない!!」
言い出せない‥‥。
2人で子供の頃の話をしながら、盛り上がっているし‥‥。
結局私は、そのまま、その格好で一日過ごすことになったのだった。
家に戻る道すがらで、出会うご近所さん皆から、
「あらあらまあまあ♪」という笑みで迎えられる‥‥。
なかなかない体験ですよ‥‥‥皆さま。
完全に「女の子」扱いーーーっ。
一旦うちに帰ったタイミングで、ばったりディストルにも出会う。
一瞬視線が止まったあと、なにも言わずに、満面の笑顔で微笑んで通りすぎていった。
こ、これってどういうこと!?
怖すぎて聞けない‥‥‥。
―――――
お祝い料理の準備も終えて、ようやく一息つけるはずのせっかくのひと時、
硬い顔をした若手メンバー、
リッキー、
リゥ、
ミレイ、
ロンド、
そして私で、村の片隅に集まっていた。
「演し物決まった?」
こういう横暴は街も田舎も、どこでも変わらないものみたい。
実は「今年も若者で余興してね」って村長に言いつけられてしまっているらしい。
せっかくのお祭りを楽しもうという気持ちが台無し‥‥‥。
あーあ、せっかく、さっきまで思いっきり楽しんでいたのに。
「去年はなにやったんだっけ?」
「え~と、ラジーさんの物真似だったっけ?」
その時のことを思い出しているのか、一瞬会話が途切れる。
「‥‥いやーあれは、黒歴史だから。ラジーさんに恨まれてしばらく冷たくされたもの」
「誰か、なにか考えてきた?」
『イヤ~‥‥‥』
皆、声を揃えて否定してきた。
だれか他の人が考えている可能性に、かけてきたらしい。
ちなみに私は、さっき聞いたばかり。
「今年初参加のミレイとリゥはなにか良いアイディアないの?」
「‥‥寸劇‥‥‥とか?」
「いや、それ、今からはムリっしょっ!!」
即座に、最年長のリッキーに否定される。
皆で黙り込んでしまっていいネタが出てこない。
私も含め、もう十何分も、アイディアをひねり出そうとうんうん唸っていた。
‥‥‥そんな時村のマスコット化して、
身体が少しだらしなくなってきたロウが目に入る。
子供たちみんなに可愛がられているせいで、
もう以前の様なシュッとした筋肉質の格好良さは消え、完全にもふもふのぬいぐるみと化していた。
その姿を見て「運動させなきゃっ!」と思っていたせいで、一つアイディアを思いつく。
「うーん、みんなでじゃないけど、見せ物という意味ならいいのが一つあるけど‥‥‥」
私がつぶやいた言葉に皆が飛びつく。
「なになに!」「どーいうの!?」「とりあえず言って!」
くいつかれた 笑
まー、久しぶりにあの頃に戻るのも悪くないか。
――― そして一夜限りのイリィ一座復活と相成ったのであった。




