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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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6. 旅仲間との出会い

そいつは所謂正義のヒーロー、熱血漢という言葉がまさにはまるような大男だった。

身長180cm超の大柄の身体に、バランスの取れた絞まった筋肉。

にかって笑うと魅力的なんだろうなと思わせる、柔らかな顔立ち。

そのやわらかな顔立ちを、燃えるような赤褐色の短髪が彩を添えている。

体のあちこちに古傷があり、幾多の修羅場を潜り抜けてきたベテラン戦士だと分かった。

ただどこからか、少し血の匂いが漂ってくる。

油断をして良い男ではない。


改めて周囲を見渡すと、この部屋は宿の裏方部屋のようだった。

蝋燭やシーツやら宿の備品が、色んな所に積み重ねられている。

ふと自分がつまづいた物体が目に入る。

それは受付の男だった。気を失って倒れている。


「あーそいつに案内してもらったんだよー」

「なかなか口を割らなくてなー 笑」


その男はあっけらかんとして笑っていた。

背筋がゾクッてする。こいつは相当強い。

ただ誰彼なくやみくもに殺す奴ではないようだ。

受付の男はまだ息をしていた。


「ンンッー!」

「あーちょっと待って。とってやるよー」


その男は猿ぐつわと手枷も外してくれる。

先ほど転んだときに出始めた鼻血まで拭ってくれる。


何なんだろうこの男は?!

こんなに親切にしてくれるのに、その顔に全く見覚えがなかった。


「あっ、ありがとう」


まだ完全に警戒を解かず、恐る恐るお礼を言う。

その男は微笑んだまま、無警戒に、わしゃわしゃと俺の頭を撫でてきた!

警戒モードのままだった俺の身体は、ビクッと反応するが、不思議と受け入れてしまっている自分が居た‥‥‥。なんか、あんなアクションシーンをやった後の展開じゃないよな。


「よしよし、よく礼を言えたな! エライぞっ!」

「っ、子供じゃない!」


男の間合いの近さに、完全に取り乱されてしまっていた。


「ぷっ、だって子供だろ」


その言葉は受付の男と大して変わらない。

でも何かが違った。

なんだろう、それが何かなのかは、このときの俺にはわからない。

ただその男の目には、昔の自分を憐れむような色が混ざっているような気がした。

それを見た瞬間、同類だというシンパシーを、勝手に感じてしまい、出かけていた感情が不発になる。


「っ、‥‥‥成人だって!」

「おいおい、そりゃね~だろ 笑」

「そんなことない‥‥‥」


この男は、相手の懐に飛び込むのがうまい。

会ってそうそう、こんな軽いやり取りが出来る奴なんてそんなにいない。

意図してなのかはよく分からないが、俺はうまく丸め込まれてしまっている。


「はぁー、まーいいわ。おめー魔導王国の人間だろ? 一人でいると狙われるぞ」


急に図星を突かれて俺はかなり動揺する。


「なんで?!」

「おめーなー」


まさに「はぁ~~」というため息が最も似合いそうなシチュエーションだ。


「そんな珍しい髪色は王国以外で見かけねーぞ」

「そ、そうなのか? 」


俺はしっかり行商人を装っていたつもりだったがまるでなってなかったらしい。

少し自分の間抜けさ加減が恥ずかしくなる。


「おめー魔術師の私生児か、なにかか?」


男はズケズケした物言いで人のことを探ってくる。

多分俺の髪の色と、宿に1人でいることからそう思ったのだろう。

そうでなければ、子供1人で宿に泊まる金なんて持てるわけがない。

そして魔術師本人だったら、こんな安宿に泊まらないし。こんな弱いはずがない。

類推できる時点で本当に悲しくなるが‥‥‥。


「俺は商人だ」

「ふぅ~ん? ガキンチョが?!」


はたから見るとどう見ても無理があったらしい。

しかしいまさら設定を変えるのも難しい。もう押し通すしかない。


「幼く見えるだけで立派な15歳だ! もう成人してるから!」

「わーったわーった。お前は大人の商人ってことにしとくよ 笑」


何度目か分からないこのやり取りに、そいつはにかって笑いながら、また俺の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。

思った通り笑顔が似合ういい男だ。不覚にもなんか嬉しい気持ちになってしまう。

まさか『チャーム』使ってんじゃないよな!? って無用な警戒までしてしまう。

半分照れ隠しだ。気にしてくれるな。


「で、お前これからどこに行くんだ?」

「俺は西のクォーレ火山を目指している」

「クォーレ火山?なんでそんなところに?」

「珍しい鉱石を仕入れて売りさばくためだ」


もう完全に向こうのペースにのせられていた。

一番隠さなきゃいけないことにもかかわらず、ついつい目的地まで話してしまう。


ちなみに火山に行きたいのは別の理由だった。

それは火属性魔力の開眼だ。


魔力は普通、その属性の魔法に触れることで覚えられる。例えば魔法学校では、先生が唱える火、風、水、土の魔法に触れることでその魔力属性を学んでいく。

事故後魔法が使えなくなった俺は、何度も様々な属性の魔法に触れてみた。

だが子供のころと違って自分の魔力回路が反応することはなかった。


ただ火山に行けば、火属性の魔法がまた使えるようになるかもしれない。

その根拠は何もない。凝縮された自然現象には高密度の魔力が伴っている。

例え1%未満の可能性であっても俺は飛びつく以外の選択肢は持ち合わせていなかった。

基本四元素の魔法が使えない魔術師なんて無価値だ‥‥‥。


「じゃあ、俺を雇わないか~?」


目の前のそいつはさらに変なことを言い出してきた。


「クォーレ火山までなら片道5日ぐらいだろー? 金貨2枚でど~だ?」

「お前傭兵だったのか」

「まー、はぐれだけどな」


正直リスクがあるのは理解していた。この男のことをほとんど知らない。

それでもこの男は信じられるという妙な直感があった。それだけ魅力的な奴だった。

旅を共にするならこんな奴がいいな~とぼんやり考えていたら、


「う~~ん‥‥‥まぁ、じゃあわかった」


つい承諾の言葉を口にしていた。

出会った時から本当に不思議な奴だった。


「よっしゃぁあ!」

「あっでも!金貨1枚に銀貨8枚だ。もちろん宿代・飯代はこっちで持つ」

「さっすが商人! 値切るねー。まあそれでいいよ。契約成立だな」


金貨1枚で銀貨10枚なので、俺は銀貨2枚分値切ったことになる。

そんなことも気に留めず、その男は満面な笑顔で本当に満足しているようだった。


「俺はアイテール・オルペだ。イルって呼ばれてる」

「俺はゲイルだ。よろしくな、イル」


――――――


そしてこのあと、俺たちは自分の部屋に荷物を取りに戻ることにした。

ゲイルは俺の隣の部屋らしい。道理であのドタバタに気付いたわけだ。


荷物のことはほとんど諦めていた。

強盗がリュックを持たずに逃げるなんてまずありえない。

でも部屋で見つからなければ、町中のゴミ箱を漁って探すぐらいのつもりで俺はいた。


あのリュックは二重底になっていて下に、白金貨2枚を忍ばせている。

白金貨は金貨50枚分の価値がある。

ほとんどの商業ギルドや換金所で取り扱えないし、そもそも身分を証明するものがないと、相手にもしてもらえないほどの貴重な代物だ。

俺が魔法軍で一生懸命働いて貯めた全財産でもある。


そして自分の部屋を開けた瞬間、彼らが戻ってこなかった理由を理解した。


彼らはそこで、心臓にあいた穴から血を流して死んでいた。

血しぶきは天井まで吹き上げたようで、天井から床まで血の海となっていた。

あ然として中を眺めていた俺の後ろを、ゲイルが声をかけながらすり抜けていく。


「あー荷物、血で汚れてたらごめんな」


荷物は元の場所にあった。いくらか血しぶきがかかっているが大した話ではない。

強盗たちの傷は一つだけだった‥‥‥。

つまり一撃でやっつけた、ということを示している。

防御痕のような跡も身体に残っていない。


この凄惨な光景を見て、金のことよりも、こんな化け物を相手にしなくて済んだことに、俺は心から感謝をするのだった。

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