23. 久しぶりの再会
それから家財を売ったり譲ったり、お世話になった人に挨拶したり、旅立つ準備で大変だった。
この街で思い出の出来た服や本、
家具の処分はとてもつらいものがあり、
価値のあるものは親しい方々にお譲りしていく。
これが思ったり大変な作業で、
あーこの机は、ダビと1日かかって探してきたものとか、
この本はフローラと喧嘩のタネになったとか、
思い出話に花が咲き、なかなか作業がはかどらない。
たった四ヶ月。
それなのに、手放すのがこんなにつらいなんて思っていなかった。
ちなみに、フローラのあの恋愛小説本たちがどこに行ったのかは知らない。
お気に入りの一冊はカバンに入れていたようだったけど 笑
長く通ったディマ道場でも最後の日に、皆でお別れの会を開催してもらった。
今では道場は百名近い陣容になっている。
女子選手も十人以上増えていた。
私たちのショーが良い宣伝になったらしい。
そのせいでウーリャさんの厳しい指導が分散されて、私は内心ちょっとホッとしていた 笑
でも ―――
可愛い後輩たちの涙ながらの送り出しは、かなり心にぐっと来たものだ。
「先輩! 僕たちの成長を見に、また絶対戻ってきてくださいね!!」
ダビなんか、そのいぬ顔が、うるうるしすぎて完全に子犬になっていたもの 笑
「これ‥‥皆でつくりました!」
そう言って差し出されたのは、汗ふき用のタオルだった。
私とダビの名前が、刺繍されている。
私は思わず笑ってしまう。
「これ、使えないじゃんっ 泣笑」
「大切にするねっ!」
胸の奥が、じんわり熱くなった。
いつか別の機会に、道場の後輩達と色々やんちゃした話もしたいと思う。
この街で過ごした時間は、本当に私たちの心の糧になっている。
特にフローラはシスターとしての役目から離れ、
初めて一人の女性として暮らした場所だった。
貸家を返すときも、
最後に家の中を確認して、
いつまでも家を見続けていたのは、
フローラだった‥‥‥。
私はなにも言わない。
‥‥ただ一緒に、家を見上げていた。
私も、
どんどん思い入れのある街が増えていき、
もっともっと、
この世界が大好きになっていく。
「‥‥いこっか」
「‥‥‥、うん」
ありがとう、ロギース!
また来ます!
馬も乗り合い馬車も調達できなかったので、しばらくは歩きだ。
次の目的地は "大瀑布ローツ" 。
はるか遠く、
私の故郷ルクソンから北に100km以上行ったところにあり、
なんやかんやで2週間近くはかかる。
「このままゆっくり旅をするのもいいよね~」
「皆で旅もたのしいですよね~」
さっきまでの感傷深い雰囲気から一転、フローラとダビがのんきな会話をしている。
「キャンッ☆」
‥‥‥どうやら、私以外はみんな同じみたい 。
私だってほんとは、そうしたい。
でも ―――
私は知っている。
この先ルクソンで待っているものを。
まだ私は指名手配されているはずだから、すんなり通り抜けられとは思えない。
どうすれば通れるか。
どうすれば皆に迷惑をかけないか。
道すがら考えていれば、奇跡的になにかアイディアを、思いつくかもしれない。
少ないながらも、
その可能性に賭けるしか、
他になかった。
――――――
街を出てから2日ぐらい歩いてきて、だいぶ来た道を戻ってきた。
街道の両側にある麦畑では、寒い冬を越した若い麦が風に揺れている。
北に視線を向ければ、
まだまだ雪に覆われたウリアン山脈の、
白く輝く山々が目に入ってくる。
「ここら辺だよねー」
私はダビに話しかける。
「確か、宣教師たちの襲撃を受けて、ダビとロウに ―――」
と話していたら、
チリンチリン。
久しぶりに聞こえてくる、
懐かしすら感じる鈴の音。
魔力探知の波動。
えっ!?
まさか!
この4か月間、
ずーっとここで張り込んでいた!?
「うぁ‥‥‥宣教師様まだいたんだ」
さすがのフローラも呆れ顔‥‥。
宣教師が私たちの後を、東のロギースまで追ってこなかった理由は単純で、ここから東はタキオン教の信徒が少ないから。
神官は信徒の祈りの力を利用して神の奇跡を起こすので、教会の無い街では彼らは本来の力を発揮できない。
てっきり諦めて本国かディケイの街に戻ったのかと思ったけど‥‥‥、
毎日毎日4ヶ月、
ここで魔力探知を続けているとしたら、それはもう執念としか言いようがない。
宣教師って、そんな暇なの‥‥‥?
「フローラ、あなた預言者になったんでしょ? どうにか説得できないの?」
「それは無理」
「宣教師様達は教王庁の指示で動いているんだから、私の言うことなんて聞かないよ~」
「タキオン教徒なのに、タキオン神の意思に従えないってなんなの!?」
「主タキオン神が、この者を護るようお告げをくださるならまだしも、明確なお告げがない限り無理よ」
なんとも預言者というのも、
万能ではないらしい‥‥。
「ん~、わかった」
「結局、我々で決着をつけなきゃいけないみたいね‥‥‥」
私の発言に渋い顔をするフローラ。
「それなんだけど‥‥‥」
「宣教師様も上に言われてやっているだけなんだから、‥‥‥手加減してあげられない?」
難しいお題を追加される。
さすがに見殺しできないのは、よく理解できる。
フローラにとっては元上司なのだから。
――― そういうやり取りがあって、今実際、こうなっている 笑
地面にぽっかりあいた落とし穴『ピット』に4人の男達が仲良く落ちていた。
身長の3倍ぐらいで、
這い上がるにはちょっと難しい深さ。
「卑怯だぞ~、コラァ~ 怒」
下からギャグのように抗議の声が飛んでくる。
もう相手する気すら起きないんだけど‥‥‥。
さて、これからどうする?
これ?
「埋めて無かったことにする? ゾンビになって復活してきそうでこわいけど‥‥‥」
「師匠、さすがに生き埋めは残酷すぎるんじゃないかと‥‥‥」
「うーん、じゃあ‥‥‥このまま放置して飢え死にするのを待つとか?」
「悪魔か!?」
フローラが真顔で突っ込みを入れてきた。
いや~、と言われても、
本当にどうするのよ?!
私はダビとお互いの視線を交わして、
お互いに何か良い案がないか探り合う。
うーん、なにもでてこない‥‥‥。
しばらくの間、皆でただ沈黙の時だけを刻む‥‥‥。
この静寂の間をためらいながらも、破ってきたのはフローラだった。
「一つだけ、方法がないわけじゃないんだけど‥‥‥」
「えっ、どんな方法!?」
「うーん、でも‥‥‥教会以外の人に知られちゃいけない事なんだけど‥‥‥」
言い淀んでなかなか口にしない。
「じゃー、‥‥‥やっぱ生き埋めコースにする?!」
私はちょっとだけ声を低くして脅してみた。
「そうじゃなくてっ!」
「えーっと、ほんとーーに、ここだけの秘密ね!」
「ばらしたのがばれたら、間違いなく私、教会から消されるから‥‥‥」
どのみち消されようとしていたのでは? と
突っ込みしたくなったが、
大人しく話の先を促す。
「タキオン教神官は必ず持っているものが2つあって、ひとつは信者の皆さんとの絆を保つ神の護符」
「これはイリィも見たことがあるから、知っていると思うけど、もうひとつは神官が必ず肌身離さず持っていて、命より大事にしているもので ―――」
フローラは覚悟を決めて話し始める。
「それは単に御印と言われているもので、みな普段見えないところに隠して身に付けているものなの」
「それを奪ってしまえばきっともう追ってくる暇はなくなるわ」
ななな、なにそれーー!!!
そんなの聞いたことがない!
「神の御印とは違うものってこと? なにか意味があるものなの?」
「御印はその人がタキオン教神官であることを証明するもので、神との絆を表すものなの。それをなくすということは神との絆を断ち切ったと同じことになるのよ。そして ―――」
そこでフローラは話を一旦切る。
話してしまっていいものか、この期に及んでまだ悩んでいるらしい。
もー、今更、引き返せないって!
「どうなるの?」
「‥‥‥あらゆる奇跡が使えなくなるわ」
『おおおぉぉ! な~~んだっ、そんなすごい弱点があったんだ! それさえ知っていれば!!』
つい大声を出してしまう。
いや、これ!
大発見よ!
魔術師を苦しめている神官たちに、
そんな弱点があるなんて!
ちょっといやらしい顔をしてしまっていたかもしれない 笑
「あの~、私もタキオン教神官なのでそんな嬉しそうに言われると心外なんだけど‥‥‥」
「フローラさん、大丈夫です! 僕は誰にも話しませんから!」
「ありがとう、ダビ! でも心配しているのはイリィなんだけど~~ 泣」
わ、私? 笑
ダメ、
にやけ顔がなかなか、
直らない 笑
「え、え~~~!?」
「 ‥‥‥わかったわよ~、誰にも話さないって約束する」
「特に魔導王国の人には死んでも話しちゃダメだからねっ!!」
「わかったって~」
渋々フローラの要求をのんだ。
どっちみち戦いの場で、ひとりづつ身ぐるみ剥がしていくなんて、悠長なことはしようがない。
ただ今は別だ!
敵は身動きとれない、穴の中。
まさに腕まくりして、舌なめずりをしながら、
「じゃあ、彼らの身ぐるみ剥ぎますか!」
私は山賊のようなあくどい笑みを浮かべる。
「ダビぃ! やるよぉ~!」
「なんか師匠、楽しそうなんですけど‥‥‥」
イライラしていたとかじゃないよ 笑
ほんとゴキブリ並みのしぶとさに、
スリッパではたき倒したいとか、
思っていたわけじゃないよ! 笑
あくまで冷静に、死なない程度に、
上から物理攻撃で4人を痛めつける 笑
魔法は効かないしね☆
『ぎゃああああああああああ』
そして地面には、
気を失っている4人の男たちが、
丸裸で転がっている。
かわいい、ち〇ち〇たちもさらけだされていた 笑
ふっ 笑
ダビに下ぐらい隠してあげたらという視線を送られたが、
自分を殺しに来た人に優しく出来るほど、
人間出来ていない 笑
殺さない分、ある程度今までの恨みをぶつけてもいいじゃない!
"御印" というのは、聖なる糸で作った布に描かれたタキオン教の紋章であった。
上腕にバンドで挟んでいる人もいれば、
下着の裏に縫い込んでいる人もいた。
ついでに神の護符と、さっきからチリンチリンうるさい魔力探知の鈴を奪い取る。
「あらっ?」
さっきまで魔力探知に引っかかっていた私とダビが引っかからなくなって、
逆にうっすら4人の男たちから魔力の反応が出ている。
おっ!?
どうやらこの神の護符か御印が、
マジックスキャンを回避する機能を持っているようだった!
これも大発見!
ルクソンを通り抜ける目処がついたのであった。
『ファイア』
私は4人が他に何か隠し持っている可能性も考え、
持ち物を全部燃やしてしまう。
「さあ! しゅっぱーつっ! 今日中にディケイに着くよ!!」
「やっぱイリィは本物の悪魔かもしれない‥‥‥」
フローラのつぶやきに気付かないふりをして、西に向けて歩き始めたのだった。
ディケイのアレクサンドリア様や騎士団長様はお元気だろうか。
彼らの顔を思い出して、心なしか自分の心が浮かれているような気がしていた。




