14. 新年のお祝い
冬から春に変わるとき、年は新年を迎える。
街によって少し日付が違うことはあるけど、どこでも大体この時期に新年を祝うお祭りを開く。
お祝いの仕方は街それぞれ。
魔導王国では街自体が魔法の炎で照らされて、中央広場で盛大なショーや花火を打ち上げるのが定番だった。その日ばかりは遅くまで子供が起きていても怒られない。
飲み潰れている大人達と一緒に夜更かししていると自分まで大人になったような気分になったもの。
この街ロギースでも新年の祭りは盛大らしい。
広場に大きな焚き火が設置されるところまでは一緒だけど、皆で飲み食いしながらダンスするのが定番になっているらしかった。なんと費用は全部領主持ち!
そう聞くと行ってみるしかない!という気持ちになっていた。
「フローラ! ダビ! 新年のお祭り行ってみようよ!」
「ええ~~、私踊るの下手だし~」
「ぼ、ぼくも、踊るのはちょっと‥‥‥」
二人は、思いっきり腰が引けていた。
「ええー! なんでそんなに後ろ向きなの!? とっても楽しいって聞いたよ~。その上飲み食いが無料なんだよっ!?」
『でもー』
二人の声がきれいに重なる。
‥‥‥もうしょうがないな。
こういうときは、北風と太陽作戦でいくしかない。
「クライマックスで協力要請を受けているから、そもそも不参加は認めません! お仕事です 笑」
まだ不満げな顔の2人。
なら、もう一押し。
「それにフローラ! このお祭りでステキな恋が色々生まれているって聞いたよ」
「ほらお友達のキーラちゃんも、このお祭りで例の男の子を狙っているとか!」
「あっ? そ、そうだったっけ!?」
ふっふっふっ、
フローラがシスターなのに恋愛話好きなのは調査済みです 笑
こっそり恋愛小説本にはまっていて、自分の部屋に隠し持っているのも知っています!
私自身は、恋愛に対する拒絶反応がいまだに大きく、
恋愛小説であれ楽しむという気は全くおきないんだけど。
「ダビも人気あるんだから街の女の子に声かけられるかもよ~☆」
「そういうのは興味ないんで‥‥‥、ただお二人が行くなら行きますよ」
草食か!
って突っ込むべきなんだろうけど、
気持ちは分かるのでそっとしておく 笑
今一つダビが好きなものって分からないんだよね~。
だからと言って自分がないって訳ではなく主張するとこは主張する。
ちなみにお祭りのメインはダンスだ。
決められた流れがあるらしく、
最初は男女分かれて焚火の周りを円になって踊る。
女子が内側、男子が外側で逆回り。
踊り自体は普通のフォークダンスで、そこまで難しいものじゃない。
しばらくするとフリーに移行する合図があって、
そこからは皆バラバラにお目当ての相手にダンスを申し込みにいくそうだ。
フリータイムには何か決まりがあるわけでもないけど、
自由だからこその、様々な駆け引きが繰り広げられるらしい。
最初女子が人気の男子に集中するせいで、
もともと仲良くなっている仲じゃなければなかなかペアが成立しない。
あぶれた女子に、決まった相手のいない男子がアタックしていくことで、徐々にペアが成立していく。
女子の間で、なかなか誘われないと恥ずかしいと言われているので、
基本誘われたら断ることはしない。
よっぽど嫌いな男子だったら断るのだろうけど、
ほとんどのペアが今日一日の付き合いと割り切っている。
ただ ―――、
当日は戦いの結果であって、
前哨戦が全て。女子同士の牽制。
「あの人は私が狙っているから近づかないで」
「もし誘われても 断って」
みたいな事前のやり取りはあるらしく、
無言の圧力をかけ合って関係が険悪になる友達グループもいるらしい。
‥‥‥なんだかねぇ 笑
ペアを一曲だけにするか、最後までいるのかも含め、なにもかもフリー(自由)だ。
王国のダンスパーティなんて、男子が招待状を作って誘って、承諾をもらえたら会場までエスコートして、ずーっと一緒にダンスして、最後まで見送るのが礼儀とされていたから、それに比べればとても気楽なものだと思う。
相手がいないと、誰を誘うかだけで本当に悩む。
特に魔法学校にいたころは、女子との付き合いなんて日常的には無いので尚更だった。
よく幼馴染のリオと相手がぶつかって、口げんかしていたもの 笑
あー、いまは女子側だけど 笑
ちなみに既婚者達は、若者たちの青春を周りで飲み食いしながら楽しむか、
夫婦や親族でペアになって踊って楽しむとのこと。
ともあれ、一応みんなで、フローラの友達に踊り方を教えてもらう。
うん、そんなに難しくない。
これなら当日もそんなに緊張せずに踊れると思う。
ダビとフローラもちゃんと形になっていたし、不安に思うことは何もなかった。
何気に3人でこういうイベントを一緒に過ごすというのは初めてかもしれない。
その日が近づくにつれ、皆、自然と落ち着かなくなってくる。
指折り数えてしまうぐらい、私は祭り日が楽しみでしょうがなかった。
――――――
今日は年末最後の日、当日だ!
私はフローラに教わりながら軽く化粧をしている。
髪は三つ編みを編み込んで、踊ってもあまり崩れない形に整えた。
ドレスは二人とも、フローラの友達からの借り物だ。
私は少しぱつんぱつん。
フローラは少し大きめ。
まあ、そこは仕方ない。笑
色はおそろいで、白いブラウスに、濃紺のボディスとスカート。
前に付けるエプロンだけが淡いピンク。
春らしい色を入れるのが決まりらしく、これがこの街ではオーソドックスな組み合わせなのだそうだ。
一方のダビは白いブラウスに黒のパンツを履いたシックないでたち。
きれいな刺繍の入った深緑色のベストを着て黒いつば付きの帽子をかぶっている。
髪はワックスでオールバックにしていた。
‥‥あれ?
改めて見るとダビ! また背が高くなっている!
もう私の背では肩を並べられないぐらい、差が大きく広がっていた。
以前のヒョロッと感は、今は、跡形もない。
どんどんおいていかれるような、少し寂しい気分になる‥‥‥。
ダビも男なんだね~って改めて感心していた。
「ダビ、格好いいじゃん! 笑」
「ダビ、似合ってるよ☆」
「お二人ともやめてください‥‥‥恥ずかしいです‥‥‥」
‥‥うん。
中身は子犬のダビだった 笑 ちょっと安心。
犬じゃない本物の狼のロウは、お留守番である。
「くぅ~ん」
ごめんね 笑
――― 私達は日暮れ過ぎになってから広場に出かけた。
すでにあちらこちらでフードスタンドが始まっていて、すでに出来上がっている集団も多かった。
ちなみに領主様からのフードは、一足遅かったみたいで皆切らしていた。
「ちぇ、遅かったか~ 笑」
「ねーー。でもドリンクは樽で山積みだよ! 笑」
「すごっ、あんな量のお酒見たことがない‥‥‥」
軽食を買ってきて、ドリンクで腹ごしらえをする。
といっても少しだけ。
柔らかいコルセットみたいなボディスで、
腰回りをきつく締められているのでお腹いっぱいにすると、すぐに気持ち悪くなってしまう。
「あっ、こっちのソーセージもおいしいですよっ!」
ぬぅ、ダビが羨ましい‥‥‥。
ダビが遠慮なくもぐもぐ食べている。
もう最近は慣れたつもりでいたけれど、こういう時たまに、男に戻りたい欲が爆発する。
男の方が絶対気楽だと思うんだよね~。
まあ、
こういうのは無いものねだりなのかもしれないけど。
やがて日がどっぷり暮れる前に点火式が行われる。
広場の中央に組み上げられた井桁の薪に、火がくべられる。
大きな炎が上がって、広場いっぱいの盛大な拍手が沸き起こった。
無事領主様の始まりの挨拶も終わり、楽団が曲を奏でる準備を始める。
皆は今から始めるダンスを待ちきれないかのように、
浮かれて焚火の周りに集まり始めていた 笑
いよいよお祭りの始まりだ!
「フローラ、行くよっ!」
「えー、最初から参加するの!? そんなはしゃいでいるとバテるよ~ 笑」
お祭りで、はしゃがない方が絶対もったいない 笑
無理やりフローラの手を引っ張っていって、女子の輪の中に入れさせてもらう。
ちょうどフローラの友達がいたので後ろに入れさせてもらった。
ダビも馴染みの客に見つかって無事、男子の輪に連れていかれた 笑
‥‥回収完了 笑
そして、楽団の軽快な曲の演奏と共にダンスが始まった。
知らない人も多いけれど、皆と輪になって踊っていると、不思議とそれだけで一体感があって楽しい。
小さな子供達まで大人たちの周りでぴょこぴょこ真似っこして一緒に踊っていた。
ほのぼのして、見ているだけで笑ってしまうのだった。
みんな、本当に足しそうだった。
私もただ純粋に楽しいっ!
そんなにお酒を飲んでないのに、気持ちが上がりっぱなしで、
3週ぐらいしたら、少し汗までかいてきたのだった。
――― 曲の合間に輪を抜け出しきて、外でドリンクを飲みながら休憩することにした。
焚火の炎にあてられたせいもあると思うけど、身体がちょっと火照っている。
はー、冷えたエールが美味しい。
「イリィさん! 決めたパートナーはいるんですか?」
「あっ、ウロンガさんこんばんは~。特に決めていないですよ~」
「だったらぜひ! 私と踊ってもらえませんかっ!」
「はい! タイミングがあえばぜひ~」
‥‥これが前哨戦か~。
外で一人で休憩していると、色んなお客さんから声をかけられる。
私は適当に相手しながら、確約をかわすのに苦慮していた。
本当に決まっていない上に、皆大事なお客さんだから、角を立たないようにしないといけない。
ふと見ると、フローラも同じような目にあっていた。
休んでいたと思ったら、すぐに踊りの輪に戻ってきていた。
目配せしてフローラを呼び寄せる。
2人で話していれば、さすがに誘ってはこないだろう作戦!
「フローラお疲れ~」
「イリィもお疲れ様~」
『ふぅ~』
お互いのため息が被る 笑
顔を見合わせて何となく二人で笑ってしまう。
フローラはうさぎ顔でとても愛らしく、さらさらの黒髪で綺麗で、声も可愛い。
男受けが良いのは、まあ、そりゃそうだろうと思う。
でも彼女はシスターだ。
神に仕える立場で、独身を貫く。
なのに彼女がきちんと断れないことを良いことに、追いかけまわす男は結構多かった。
恋愛話は好きなんだけど、どちらかと言えば彼女が好きなのは現実の恋愛より、本の中の恋愛物語の方らしかった。
「そういえばフローラってどういう男の人が好みなの?」
単純に興味本位だった。
フローラはいろいろ街中を出歩いていて、街の人たちとの交流も多い。
だからてっきり、具体的な理想像が出てくるものだと思っていた。
「えぇっ!? 今のタイミングでそれぇ~~? 笑」
少し呆れた顔をしながら、顔をすこしだけ赤らめて、視線を泳がせる。
「――― そもそも恋愛は御法度なんだけどね。」
「う~ん‥‥‥優しい人かな~」
それかっ!
男子諸君、女子の「優しい人が好き」発言は要注意なので気を付けること。
女子の優しいとは「自分にだけ優しく接してくれる」だから。
お姫様扱いを期待している場合が多数!
「なるほどね~~。外見はどういう人が良いの?」
「う~ん、あんまりこだわりないかな~」
‥‥‥フローラさんや。
私のこじらせ女子センサーが今、ガンガン反応しているんですが、大丈夫ですか? 笑
優しい人で外見にこだわりなしっ!? それって褒めてくれる人なら誰でもってことじゃない‥‥。
シスターって、やっぱどこか浮世離れしているのかもしれない。
そもそも預言者じゃなかったんでしたっけ! 正反対すぎるし 笑




