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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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3. 初めての街

街道の先に街が見えてきたときは、目の奥がジーンと熱くなる。

ちゃんと皆が言っていた通りに街があった!

しばらく‥‥‥ゆっくりしたい‥‥‥。

本当にそれしか考えられないほど俺は追い込まれていた。


実は街道沿いに歩けば、基本的に1日単位で村や集落にたどり着く。

どんな所でも旅行者用の簡易宿泊所があって、銅貨10枚~50枚位で宿泊可能だ。

それでも俺は村や集落を避け、慣れない野宿を続けてきたのは理由があった。

万が一、王国からの追手がついていたとしても見つからぬようにするためだ。


今は最初の夜から2日経った夕方である。

初めての旅で、いきなりクマの先制パンチをくらったため、俺は四六時中周囲を警戒しながら、一人旅を続けていた。精神だけでなく体力的にも限界が近かった。

特に最悪だったのは、昨日降った雨‥‥‥。

レインコートを羽織っていても下着から靴までずぶ濡れになったし、乾かそうにも湿ってて火を起こせなかった。

湿った服で奪われていく体温‥‥、思い出すだけでも身体が、ぶるって震えてくる。


ようやく普通のベッドで寝れる!携帯食から脱出できる!

これだけのことが、どれだけ幸せなことなのか、ほんと知らない人は体験して欲しい‥‥‥。


辿り着いた街は、魔導王国から南に延びる街道が東西に分岐する要所に、位置している交易都市ナムルだ。

街壁で囲われている立派な街ではあったが、内側から見ると石組みの間に隙間があって簡単に崩せそう。

もともと拠点というより、交易のための中継地点であった。

街の広さは外周を30分程度で回れる程度で、中くらいの街といえる。

街の中に城はなく、真ん中にある商館がその役割を担っていた。

商館近くが富裕層の生活空間となっていて、外側つまり街壁近くが普通の平民たちが暮らす区域。


ちなみに魔導王国の南側の都市は、歴史的経緯から魔導王国と友好関係を結んでいる場合が多かった。

そのため魔導王国の戦線は北側にあり、南側は何ひとつ影響をうけてはいない。

俺がナムルを最初の目標地点としたのは、戦いを避けるためというのも、理由の一つだった。


とにかく今は宿を探そう!

まずは荷物を置きたい!


俺は街壁を沿いに安宿を探す。

半周ぐらい周ったの所で、ようやく良さそうな宿を見つけることができた。

そこは街壁に寄り掛かった3階建ての造りになっていた。

面白いことにこの宿は、外壁の内側を巡る木の回廊の床を支える構造となっていて、同じ高さの建物が左右にずーっと並んでいる。

宿屋のドアを開けて中に入ってみると、中ではカウンターで若い兄ちゃんが肘をつきながら客を待っていた。


「いらっしゃ~い! お泊りで?」

「あっはい。とりあえず二泊お願いできますか?」

「あーん? 良いけどうちは前払いの素泊まりだよ? 金持ってんの?」


兄ちゃんは少し怪訝そうな顔をして伺ってくる。

連泊は珍しいのか? 正直、宿に泊まったことは無いのでそこら辺の常識は分からない。

ちなみに俺のいでたちは、特徴的な銀髪を短く切り揃え、服装も旅行者用のごくサッパリしたシャツと厚地のパンツであった。顔はねこ顔で愛嬌がある方ではないけど、親しみを感じさせるよう振舞っている。


「はい、大丈夫です。前払いで構いません」

「僕~~、一人でこの街に来たのかい? 親はどーした?」

「俺は子供じゃないです! 一人です!!」


俺はさすがに15歳で子供はないだろうって思い強く反論する。


「プハッ、粋がるには早いぜ~~、僕 笑」

「なっ!!」

「声変わりもしてないじゃん 笑」


受付の兄ちゃんに完全になめられていた。

俺はカーっと頭に血が上り顔が真っ赤になる。


本当の俺はこんなんじゃない!

あんなことさえなければ!


俺は事故のあと、身体が縮んで子供の体格になっていた。多分10歳ぐらいの時と同じ位だ。

より正確にいうと、声帯も含めて子供の頃に戻っていたというのが正しい。

あの事故のあとのことは思い出したくないトラウマになっていた。

あのときの、あの人の、あの言葉が、どうしても耳から離れない。


『なぜこんな奴のタメにっ!なんでっ!なんでぇっ!!』


あの時思いっきり殴られた頬の痛みを、いまさらながら思い出す。

ようやく塞がった傷口を、ナイフでぐりぐり抉られるような感覚‥‥‥。


なんなんだよっ!

イライラして、おもいっきり金をカウンターに叩きつける。

宿屋の男は肩をすくめながら、いかにも金をくれるならとでも言いたげに、黙って部屋の鍵を渡してきた。

俺は奪い取るように部屋のカギを受け取り、荒々しい足取りで自分の指定された部屋に向う。


指定された部屋は廊下の突き当りから一つ手前の部屋だった。

俺は、部屋でようやく荷物を降ろすことができたその段になっても、溢れ出るとげとげしい感情に翻弄されていた。

それどころか、感情の扉は何かの拍子に壊れてしまって、逆にその勢いを増してくる!


「クソッが、(ピーーーーーー)」


俺は、感情のままに、誰にぶつけるでもなく罵詈雑言を吐き出していた。


本当の俺ってこんなんだったっけ? もっと落ち着いたキャラだったはずだ。

でもこのときの俺は、自分でも気付けていなかったが、相当精神的に追い込まれていて、自分でも自分を止めることが出来なくなっていた。

それは旅の疲れだけじゃない。

今までチヤホヤしていた周りの連中が波が引くかのようにサーッとひいていき、代りに今までの鬱憤をすべてぶつけられる立場になってみたらその辛みが分かる。

そして俺は、大切な友人の命を奪ってまで生き残ってしまったのだから‥‥‥。



しばらくして悪態をつく事にも疲れ果て、少しづつ落ち着きを取り戻してきた。

冷静な自分が気を紛らわせるための行動を促してくる。


とりあえずは久しぶりの湯浴をしよう!


街生活しか知らなかった俺にとって、数日間ではあったが、土と雨と葉と埃にまみれた生活は、最悪と言ってもいい過ぎじゃない。

気分を切り替えるためにも思いっきり贅沢をする。

全身汗くさく、かび臭い気がして、このままベッドに入るなんてありえない。


俺は受付で桶を借りてくる。

桶は無料だが、お湯は有料だ。

それなりの量のお湯を買ったら銅貨20枚ほどになってしまった。

ほぼ一泊の宿泊費と同額だ。


何度か部屋と受付を行き来して部屋の中に置いた桶にお湯を張る。

と言ってもお湯にどっぷり浸かるというわけではない。

腰までお湯につかりながら布で身体を拭くだけだ。


「はぁ~~~~~」


それでも十分天国の上にいるかのような心地良さであった‥‥‥。

ほんと外とは、天と地ほどの差である。


「幸せだ‥‥‥」


身体を綺麗にしたせいか、気持ちまでスッキリしてきた。

お湯のおかげで、つる寸前までこり固まっていた足の筋肉が、ゆっくりほぐれていく。

気持ちもだいぶ落ち着いてきて、改めて自分の身体を確認しとくかという気持ちになっていた。


確かに幼い‥‥‥。


子供特有のシミひとつない雪の様な真っ白の肌に、筋肉がまるでついていないほっそい腕。

脚はカモシカのようにすらりと細く、産毛すら目立たないきめ細かな肌だった。

どう見ても思春期に入る前ぐらいにしか見えない。

そして一番の問題は、股のあたりには本来あるべき男の象徴がなく、ただ滑らかな曲線が腰の奥へと続いていた。



俺は男だ。少なくとも事故前は15歳の立派な成人男性だった。

それがあの事故のせいで小さくなるだけでなく、こんな女の身体に変わってしまった。


よく成人向けの物語では「女になって、やりたい放題出来るようになって喜ぶ」ような描写があるが、あれこそ妄想だ。お前は自分のち〇〇に興奮するのかと言ってやりたい!

すまん、男にとっては夢の無い話だった 笑


あーただ、一つ変わった点をあげるとしもの仕方だ。

女だとあれがもっとお腹間近からこぼれ出てくる。

男の感覚からすると「えっもう少し先じゃない!?そこから!?」って感じになる。

使う筋肉も全然違い、今までと同じようにコントロールするのが難しい。

おかげで当初は何回か失敗して恥ずかしい思いをした。

そしてもっともビックリしたのが結構濡れるってことだ。

男の感覚からすると「チョンチョン、はいおしまい!」って感覚だったので、これはかなり意外だった。

逆にいうと違いなんてそんなもの。



ゆっくり湯に浸かり身も心もほぐれた俺は、睡魔と戦いながら、どうにか残りのお湯を使って洗濯をすます。

ただそのあとベットで少し休んでいたら、疲れがピークを迎えていて、俺は晩御飯を食べるのも忘れて早々に寝付いてしまうのだった。


もう少し警戒していたら、気付けたのだろうか‥‥‥。

いや多分、街には街で別のクマがいるなんて、想像は出来なかっただろう。

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