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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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1. 魔導王国の今昔

俺はアイテール・オルペ、魔導王国随一の魔術師で、王国の秘密兵器と言われた男だ。

いやだった、という方が正確かもしれない。

少し前まで、数多くの戦いで魔法軍を勝利に導き、魔導王国にミディエル殿下とアイテールありと他国に恐れられていたもの。


魔導王国とはルクシオン魔導王国のことを指す。

ただ、この世界で唯一無二の存在であるため単に『魔導王国』と略されることの方が多い。

魔導王国とは、その名の通り魔術師によって導かれる国である。

元来魔術師は、王国を建国するような、表に出る類の人々ではなかった。

それぞれ土地において、何かのきっかけで魔法を使えるようになった魔術師は、そのあまりに異端な力のせいで、周囲から迫害を受けて孤立化して暮らしていた。

魔術師自身も人目を避け、自分の時間を過ごすことを好んでいたので、それはそれで都合がよかったのかもしれない。

魔術師たちは皆、あまりある時間を活用して、自分の魔法の研究に没頭していたという。


そんな魔術師たちが、一つの村に集って定期的に交流を始めたことが、この王国が出来るきっかけになった。

このころの記録はほとんど残っていないので、どのような活動をしていたかは正確には分からない。

ただ年に数回、研究成果を持ち寄ってお披露目したり、酒を飲みながら相談したりする集まりだったことが口伝で語り継がれている。


そんななか、王国の始祖がある事を発見し、この村のコミュニティはその様相を大きく変えることになる。

その発見は始祖の名前から『ルクソンの大発見』と呼ばれている。

ルクソンの大発見は複数あるが、その中でも重大な意味を持つものは以下の三つだ。


 ⅰ. 魔術師は皆、人それぞれの「魔力回路」を自らのなかに持つ

 ⅱ. 魔法は魔力回路に自分の気である魔力波動を注ぎ込むことで発動する

 ⅲ. 魔力回路は親から子へ遺伝する


特にこの第ⅲ法則の発見が大きなトリガーとなった。

この発見を知った魔術師たちが、自分の研究成果を次の世代に残すために、自然と魔術師同士で夫婦になることが増えていったという。

今では、魔術師は基本的に魔術師としか結婚しない。俺の父も母も二人とも魔術師の出である。


そして、これまで何らかのきっかけでなるという存在から、生まれた時から必ずそうなることを運命づけられた存在となり、その数を2倍、4倍、8倍と爆発的に増やすことが出来るようになっていた。

その後、生活支援のために、農民、商人など魔術師以外の住人も、積極的に受け入れることになり、街は急速に発展していくことになったそうだ。

俺が生まれた時は、既に人口3万人を擁する都市国家として成立しており、政治体制も共同生活体から魔導王を中心とする絶対王政へと移行していた。


ちなみに、他の都市はほとんどが数千人の規模で、3万人以上を擁する都市となると、他にはタキオン神導国家の聖地兼首都であるタキオンぐらいしか知られていない。


これは脇道だが、重要な話なので伝えておく。

タキオン神導国家は魔女狩りを先導したタキオン教の元締めだ。

俺たち魔術師にとって、憎悪の対象である、絶対的な敵性国家だ。覚えておいて欲しい。

子供のころから、魔女狩りを描いたこわい絵本を読み聞かせられ、「悪い事をすると悪い神官が攫っていくよ」と脅されているものだった。



魔導王国の魔術師は、王政になったタイミングで全員貴族という立場に変わっている。

我がオルペ家は、代々強い魔術師を輩出してきたことから、上から二番目の侯爵という高い爵位が授けられている。そのおかげもあり、俺は生まれながらにとても豊富な魔力量を持っていた。


魔力量は本来、努力して増やしていく能力だ。

多くの魔術師の卵は魔法学校で地道な鍛錬をおこない、魔力量を増やしていく。

他の子が魔力不足で使えない魔法がたくさんある中、俺はイメージさえ教わればほとんどの魔法をすぐに使うことが出来た。


今なら分かるが、努力さえすれば成長できる、というのは本当は嘘だ。

自分より頑張っている子は沢山いたが、才能が無ければ結果が出ず、結局諦めて皆辞めていった。

俺の才能がたまたま魔法だったというだけ。人それぞれが持つ才能が何かを見極める方がよっぽど意味がある。


ただ、あの頃の俺はそれが分かっていなかった。

俺は周りの奴らを ”努力の足りない怠け者” とみなし、魔法学校卒業後に魔法軍へ入れなかった奴らを、バカにしていたものだった。魔法軍は魔術師にとってのエリートコースだ。


「俺に出来ないことはない!」


このころはかなり驕っていた。

魔法軍に入ってからも、先人たちが研究していた魔法集約の理論を形にして、若干一年目ながら参謀役という魔法軍No.2の地位につくことが出来た。


元々胸糞悪い奴と言われていたが、魔法軍に入ってからはさらに拍車がかかることになった。

目をひそめる様な傍若無人な振る舞いも数々繰り返すようになっていたのは事実だ。

このとき離れていった友人も数知れない。

幼馴染のリオからも、「お前、最近評判悪いぞ」と何度となく警告を受けていたものだ。

俺の黒歴史。


だからこそなんだと、今では思っている。

だからこそ、運命の怒りを買ったのだろう。

俺の輝かしい時間は、突然終わりを迎えることになった。


あるとき魔法事故にあい全てを失う。

この全てとは文字通り全てだ。

地位も誇りも家族も四元素魔法も、そして ”男であること” さえも。


その後、俺は今までのツケを払うように、多くの人から見捨てられ、蔑まされ、恨まれ、実家に引き籠って惨めな生活を余儀なくされることになった。自分の妹からみじめな目で見られるような毎日。

あっという間の凋落劇であった。


だからこそ俺は全てを見つめ直し、一から自分を作り直すために一人旅に出ることにする。

これは、本来の俺をもう一度自らの手に取り戻すための旅だ。

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