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淋しい混信(ジャミング)~彼女は海辺で待っていた~  作者: ウチダ勝晃
第三章 電波の中から少女が呼ぶ?
7/7

その一

気づいたら年も変わってましたね。いけないいけない。

次回のコンペを前に完結への一歩を踏むことといたしましょう。

一、

 それから数日は、何事もないままに平穏な日々が過ぎていった。もちろんその間、三人が何もせずに手をこまねいていたわけではない。毎晩、仕事が片付くと、大手口のはずれにある真樹の店・真珠堂の二階に集まっては、かき集めた情報や資料を前に、ああでもない、こうでもないと策を練っていた。その日も同じように、夕闇迫る真珠堂の二階で、三人は資料を囲んで集まっていた。

「――この一冊のおかげで、だいぶ進展しましたね」

 何年か前に買い取った、もとはアマチュア無線家の蔵書であった「日本電波史」という本の表紙を、坂東医師は微笑ましげに撫でる。

「全くですよ。おかげで、地域ごとの周波数なんかもわかったし……あとは具体的な送信所の位置が分かれば御の字、ですね」

 大牟田技師の言葉に、あとは出かけるばかりですからね、と真樹も応じる。もっぱら貸しガレージに放り込んであるばかりのライトバンも整備は上々、旅支度も済んでいつでも出かけられるということがあってか、真樹はいつになく威勢がいい――。と、

「真樹さぁん……いますかぁ……」

 三人があれやこれやと話をしているところへ、往来から真樹啓介の名前を呼ぶ声が響いた。迫りくるラッシュアワーの雑踏をぬけて聞こえてくる声に、真樹啓介は心当たりがあったのか、

「さては……」

 急ぎ足で窓辺によって網戸を開けると、真樹は眼下の相手へ目を落とす。

「――やっぱり君だったか。まあ、上がってきな。裏口の鍵、場所は知ってるだろ」

「――はーい。そんじゃ、お邪魔しますねぇ」

 遠巻きに聞こえる少年の声の正体に大牟田技師が首をかしげると、坂東医師が助け舟を出した。

「真珠堂の常連で、うちの医院がかかりつけの高校生の子なんです。どうやら僕らの元に面白そうなことの気配のするのを嗅ぎつけてきたらしい――」

「へえ、そんな子が……」

「――こんなお店に、とお思いなのはまあ、普通の反応でしょうね。どうも世の中、似た者同士引き合うように出来てるらしいんですな」

 真樹が苦笑いを浮かべて返すと、例の少年がどたどたと足を鳴らして二階へと上がってきた。

「あ、坂東先生も……こんばんは。親父から真樹さんにって、お中元を預かって来たんですよ」

 用事の種が割れると、真樹も坂東医師もちょっと拍子抜けしてしまった。しかし、デパートの包装紙にくるんだ四角いそれを前にして悪い気もしない。さして用事のないのもいいことに、真樹たちは手近に置いてあったウィスキーを開け、少年の父親が寄越した中元の酒肴詰め合わせを賞味することとした。

 純国産のオイルサーディン、ホタルイカの油漬けなど、小粋なものが缶詰としてみっちり詰まった箱は、さながら玉手箱である。

「へーえ、ラジオ渟足の技師さんなんですか。相変わらず顔が広いなあ、真樹さんは」

 大牟田技師が渡した名刺を眺めながら、少年は真樹の交友の幅に感心する。

「まあ、類は友を呼ぶって言うからね。惹かれあうように出来てるもんだよ、人っていうのは……」

「なるほど、つまり僕と真樹さんみたいなもんか」

 コーラ片手の少年が妙な調子でウィンクをするので、真樹はむせかえって喉を手で押さえた。

「あ、そうそう。変な話の好きな真樹さんに、うってつけのハナシがあるんですよ……」

「うってつけのハナシだぁ?」

 坂東医師に背をさすってもらいながら、真樹は怪訝な視線を少年にむける。

「悪いけどトラブル処理の手伝いならしばらく止してくれ。こっちも何かと忙しくってね」

「そういうんじゃあないんですよ。知りませんか、例の真夜中のラジオ放送の件……」

「知ってるよそれくらい。俗世と接触がなさそうに見えて、案外これで世情には通じてるんだぜ」

 議題になっている話の発端を今更持ち出されても、と真樹は冷ややかに応じた。しかし、少年がそれとちょっと違うんですよ、と言い出したので、真樹は思わず聞き返した。

「ちょっと違う、って言ったか? どういうことだ、それ」

「今話題になってるのって、夜中のラジオに雑踏の音が入るってやつでしょ。それと別に、その放送の向こうから女の子のすすり泣きが聞こえてくる、って噂がちょっと前から子供の間ではやり出してるらしいんですよ――」

 そこまで聞き終わらぬうちに、真樹は居住まいをただした。そして、メモ帳へ手をあてがうと、

「――詳しく、教えてもらおうか?」

 あらためて少年に、教えを乞うこととしたのだった。


噂についた尾ひれの正体とは果たして?

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