思いがけない呼び出し
「リシャール、お前、ラフォン侯爵家と何かあったのか?」
父に急ぎの用があると実家に呼び出された。何事かと思って駆けつければ思いがけない家名がその口から飛び出して、思わず面食らってしまった。
ラフォン侯爵家。我が国の筆頭侯爵家で、もしかすると王家よりも力があると言われている、正に我が国一の力を持つ侯爵家だ。血を残すための公爵家は簒奪を恐れて様々な制限がかかり大した力がないのは有名な話で、現王の王弟の一人の公爵ですらもラフォン家には遠く及ばない。しかも今の宰相はラフォン侯爵で、国家の中枢を握る人物でもある。
「何か…と言われましても…特にありませんが」
特にこれと言った接点はない。我がマルロー商会も自分で立ち上げたアルベール商会も、顧客リストの中にラフォン侯爵家の名はない。勿論、手広く商売をしている実家は多少なりとも関りはあるが、それも他家に比べたら僅かなものだ。そんな家の名が父の口から出てくるのは驚き以外の何物でもなかった。
話があると言われて伺った侯爵家で、我が家は耳を違うような提案をされた。侯爵家の総領姫が自分との縁談を望んでいるというのだ。その総領姫はつい先日、第三王子殿下に婚約破棄され、それに伴って自分とアネットの婚約も彼女有責で破棄された。そんな矢先に提示された話は、どう考えてもろくなものじゃないとしか思えなかった。
侯爵夫妻の間に座ったのは、侯爵と同じ髪色と、侯爵夫人と同じ瞳の色を持つ、十六、七くらいの少女だった。柔らかそうな髪と下がった目じりに大きな瞳、輝くような白い肌に、サクランボの様な小さな唇。元婚約者だったアネットも美少女と持て囃されていたが、目の前の少女はその更に上をいくだろう。総領姫の事は噂で聞いている。となれば…
(侯爵に隠し子が?)
愛妻家で有名な侯爵だったが、それ以外の可能性が浮かばなかった。しかし…意外な事に目の前の少女があの王子殿下の元婚約者だったのだ。
(縦ロールときつめの顔立ちと聞いていたが…)
下位貴族の自分が侯爵家の令嬢の顔を見る機会など、ないに等しい。そのため殿下の婚約者の顔を知らなかったのだが…噂とはあまりにも違い過ぎる容貌に、侯爵に騙されているのではないかと警戒心が湧き上がった。そもそも彼女との接点もないのに、縁談などあり得ない。
話が進むと令嬢は本当に王子殿下の元婚約者その人で、しかもすっかり忘れていたが、一度だけ接点があったという。
(そんな事があったのか…)
朧気にも覚えていない自分が恨めしくも思ったが、令嬢の話を聞いても思い出さなかったという事は大した会話はなかったのだろう。それにしても、目の前の令嬢はとても噂に聞いていた人物と同じには思えなかった。緊張のせいか恥ずかしいのか、かなり焦っているようで微笑ましくみえる。演技ではないのだろう。だが相手は百戦錬磨の上位貴族だ。警戒し過ぎても足りない事はないだろう。なのに…
「あ、あのっ!しょ、しょれでは…わ、私と結婚して下さいませんか!」




