91話 告白
アンディはヘンリーを睨みつけている
「それはどういう意味ですか?」
「言葉の通りです
俺は自分の気持ちに素直なだけです」
ヘンリーは笑っている
妻帯者でありながら他人の婚約者にちょっかいを掛けて、しかもこの言い草…
全く悪びれてもいない
師匠やロバート団長には悪いが、やはりヘンリーをこのままこの一行に置いておく事は出来ない
アンディはそう決意した
だがアンディより先にヘンリーが口を開いた
「ですが取引きをしましょう」
「取引き?」
この男は何を言い出すんだ
アンディは警戒した
「俺の欲しい物をくれるならば、ヴィクトリア嬢にはもう近づきません」
「欲しい物?」
「そうです
そしてそれは貴方にしか出来ない事です」
こんな交換条件を出して来るとは…
別に話しを聞かずにこのまま解任しても良い
でもこの男をこの騎士団に入れた師匠やロバート団長の面子もある
自分が一方的に解任してフレッドやロバート団長に心配を掛けさせるのも出来れば避けたかった
「聞くだけ聞こう」
アンディはとりあえず、どんな取引きを言い出すのか聞く事にした
ヘンリーは一歩前に出てアンディに近づくと、アンディの耳元でそっと囁いた
「貴方が欲しい」
はい?
ヘンリーはそのままの体勢でアンディの頬に手を添えた
「初めてお目に掛かった時から俺は貴方の虜です
貴方を抱く事を夢見てました」
「………」
フリーズしたアンディにヘンリーはそのまま口づけをしようとした
「いや、ちょっと待て!」
間一髪でアンディは我に返り、ヘンリーを止めた
「ぼ、僕?」
「はい」
「僕は男です」
「はい」
「………」
アンディが再びフリーズした
2人の様子を見ていたデイブは必死に笑いを堪えている
「ヘンリー卿は結婚されてますよね?」
「はい、妻はいます
俺達はお互い、同性が好きなのです
お互いそれを隠す為に結婚しました
もちろん彼女にも女性の恋人がいます
アンドレアス…俺の物になってくれ」
「……………」
デイブはお腹を抱えている
声には出さないが必死に笑いを抑えている
「いや、いや!いや!!
僕はそんな趣味はありません!」
「大丈夫だよ
最初は誰しもそうだ
俺が優しく可愛がってあげるよ」
ヘンリーはそう言うとアンディの耳から後頭部辺りに手を添えると、グイッと自分へと引き寄せた
もう少しで口づけをしてしまう寸前でアンディは何とか止めた
「や、止めて下さい!」
アンディは必死だ
「ああ、可愛いな
我慢出来ないよ」
おいっ!
アンディは思わず心の中でツッコんでしまった
すると何かがアンディとヘンリーの間に飛び込んで来た
ヴィッキーだ
ヴィッキーはアンディに抱きつくと、ヘンリーを睨んだ
「アンディは私のです!」
「「………」」
しばらくの沈黙の後、アンディとヴィッキーの顔が赤くなった
デイブはとうとう我慢出来ずに笑ってしまった
♪♫♬ ♬♫♪
アンディ達は村長の家へ帰ると、男子の部屋に集まっていた
「ひどいよ、デイブ!
ヘンリー卿があっち系の人って知ってたなら教えてよ!」
アンディは涙目だ
「忠告しただろ」
デイブはしれっと答えた
確かにデイブは忠告した
だが「ヘンリー先輩には気を付けろ」と言われてたら、ヘンリーのターゲットはヴィッキーだと普通は思うだろ
「わかる訳ないだろ!」
珍しくアンディが声を荒げている
「困ったわ
ヘンリー先輩はアンディを狙ってるわ
結婚式の祝賀行事を終えてライシャワー公国に帰るまでずっと一緒なのよ!」
ヴィッキーも青ざめている
ソフィアは机に突っ伏している
肩が震えているので、多分笑っているのだ
ダニエルとエマは呆気に取られている
「女性は知らないかもしれないが、ヘンリー先輩があっち系だってのは学生時代から有名だったな」
「じゃあエミリー先輩とはお互いの為に偽装でお付き合いしていたって事?」
ヴィッキーがデイブに聞いた
「そう」
「私にはちょっかいを掛けてたのは、アンディの気を引く為だったの?」
「恐らくな」
一同が黙り込んでしまった
告白したのでヘンリーは今後、押せ押せモードになるかもしれない
しかも男性なので、夜の警護などもデイブかアンディを担当する事もあるだろう
「だ、だめよ!危険過ぎるわ」
ヴィッキーは両手で頬を押えた
「デイブ!ずっとアンディの側にいてよ!」
「そうだよ、デイブ!頼むよ!?」
ヴィッキーとアンディがデイブにしがみつきながら叫んだ
ヘンリーの告白でデイブにまでとばっちりが来てしまった
♪♫♬ ♬♫♪
トンプソン辺境伯やアンディ達は1階のダイニングで夕食を取っていた
「ホワイト帝国の首都の方とはまた違った料理ですね」
アンディは初めて食べる料理が何点かあった
「この辺りは穀倉地帯ですからな
少し離れた所には羊や牛を放牧している村もあり、物流も盛んなんですよ
この香草と羊の肉の料理はこの辺りの料理です」
トンプソン辺境伯が教えてくてた
「辺境伯の領地は本当に素晴しいですね」
「ありがたいお言葉ですな
明日も別の村に滞在になるので楽しみにして下さい」
「はい」
お世辞抜きで本当に楽しみなアンディだった
トンプソン辺境伯は馬での移動だったので、食事を終えると早々に休んだが、アンディ達はそのままダイニングでぶどう酒を飲みながら話しをしていた
「そう言えばエマはベアトリス・ナイトレイ・ターナー令嬢を知ってるよね?」
アンディの問いにダニエルが固まった
「ベアトリス…ターナー男爵令嬢ですか?
皇太子妃選別の時に何度か夕食会がありましたので面識はありますが、親しいという程ではありません」
エマの返事にダニエルはほっとした
「ベアトリス?私の友人よ?」
ヴィッキーがキョトンとした顔をしなからそう言うと、ダニエルが驚いた
「ご友人…なんですか?」
ダニエルが恐る恐る聞いた
「そうよ
ホワイト帝国に帰ってすぐに友人になったの」
ヴィッキーがそう言うとダニエルが固まってしまった
ヴィッキーは「?」となってしまった
「何?何か悪かった?」
「いや、エマじゃなくてヴィッキーと友人ってのに驚いただけだよ」
デイブはニヤニヤしながら答えた
「ベアトリスがどうしたの?」
デイブは昼間のアンディの騒動があり、夜は夜でダニエルの想い人がヴィッキーと友達だと判明してなかなか楽しい事が起こる旅だな、と思ってしまった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




