90話 カオス
ヴィッキー達は川原から村の方へと戻っていた
ヘンリーはヴィッキーの手を取って歩いている
「ヴィクトリア嬢の婚約者様はどんな方だい?」
なるべくヘンリーに関わらないようにしたいヴィッキーだったが、この状態で無視も出来ないので仕方なく答えた
「とても優しい方よ
私をとても大切にしてくれるわ」
「そうなんだ、妬けるね」
「ヘンリー先輩はエミリー先輩とご結婚されたのでしょう?
エミリー先輩はお元気ですか?」
アナタは妻帯者なのよ!という事を認識させようと、ヴィッキーはヘンリーの妻の話題にした
「エミリーも元気だよ
薬草から薬を作ったりする仕事をしていて、毎日忙しそうだよ」
「そうなんですね
お子様はまだなんですか?」
「お互い忙しくてなかなかね」ヴィッキーの問いにヘンリーは少し困った顔をしながら答えた
だがヴィッキーを見てニコリと笑うと
「こんなに美人のヴィッキーと婚約しているアンドレアス様が羨ましいよ
早まったかな」
「ありがとうございます
エミリー先輩も才女でお美しいですわ」
公女としてこういう風に言われた経験もあったので、ここはサラリと流した
ヘンリーとヴィッキーは当たり障りのない会話を続けていたが、ヘンリーはチラリとヴィッキーの足元を見た
ヘンリーはヴィッキーの足元に転がっている少々大きめの石を魔法を使ってヴィッキーの次の一歩前に出る足元に動かした
「あっ!」
ヴィッキーはその石を踏んで、よろけてしまった
ヘンリーはヴィッキーの肩を抱くように支えると
「大丈夫?」
と声を掛けた
「大丈夫です」
とヴィッキーは答え、自分を支えるヘンリーから離れようとしたがヘンリーが離さない
「ヘンリー先輩?」
「ゆっくり離れてみて
足を挫いてない?」
ヘンリーにそう言われて、ヴィッキーはゆっくりと離れた
「大丈夫です」
ヴィッキーはそう言ってヘンリーから離れようとした時に、背後から叫び声がした
「ヴィッキー!!」
ヴィッキーが振り返るとアンディが慌てた様子で走っで来る
意識をアンディの方に向けてしまったヴィッキーは油断してしまった
ヘンリーは支えていたヴィッキーの肩を軽く自分の方へと引っ張ると、ヴィッキーは簡単にヘンリーの方へとよろけた
「ああ、やっぱり挫いた?」
ヘンリーはそう言うと、突然ヴィッキーを抱きかかえた
いわゆるお姫様抱っこだ
「ちょ!ヘンリー先輩!?」
ヴィッキーは驚いて暴れるが、逞しいヘンリーには敵わない
「ヴィッキー!!」
アンディが怒りを露わにして駆け寄った
「何の真似だ!?ヘンリー卿!」
だがヘンリーはヴィッキーを抱き抱えたまま
「ヴィクトリア嬢が足を挫かれたので、お運びしようとしたのです」
「私は怪我なんてしてません!」
「怪我人はよくそう言うものだ」
「だから怪我はしてませんって!降ろしてください!」
「ヘンリー卿!!」
もはやカオスだ
3人の周りにいたソフィアやエマ、女性騎士達は顔面蒼白だ
「ヘンリー卿、とにかくヴィクトリアを降ろして下さい」
アンディが命令した
ヘンリーはやれやれといった表情でヴィッキーを降ろすと、ヴィッキーはアンディに抱きついた
「ヴィッキー、大丈夫?」
アンディはヴィッキーを抱きしめながらそっと顔を見ると、ヴィッキーも怒っているのがわかった
「ヘンリー卿、貴方はあちらに行って下さい」
再びアンディが命令する
「お断りします」
ヘンリーの返事に、その場にいた全員が凍りついた
アンディの顔からはもはや怒りを通り越して軽蔑の眼差しになっている
「主の命令に従わないと?」
酷く低い声でアンディが聞いた
アンディの胸の中にいるヴィッキーは恐くてアンディの顔を見れない
「自分は皆さまの護衛です
護衛せずにお側を離れる訳にはまいりません」
「貴方は護衛をしていない
もう一度言う
あちらへ行きたまえ」
アンディの殺気がわかったのか、ヘンリーはようやく一礼すると離れて行った
ヘンリーが離れるのを確認すると、アンディは抱きしめていたヴィッキーを少し離すと
「大丈夫!?」
といつものアンディに戻っていた
ヴィッキーはこの豹変ぶりに驚いてしまったが、可笑しくなってしまった
ニッコリ微笑むと
「大丈夫よ、アンディ
ごめんね、心配かけちゃって」
アンディはほーっと安心すると、再びヴィッキーを抱きしめた
「ごめんね、僕が一緒にいなかったから」
「アンディ、仕方ないわ
それに私は大丈夫よ?」
「僕が大丈夫じゃないよ」
そう言うアンディを見ると、今にも泣き出しそうな顔だ
さっきの荒々しいアンディは何処に行ったの?
ヴィッキーはぷっと笑ってから、アンディを抱きしめた
「心配かけちゃったわね
本当にごめんなさい」
アンディはヴィッキーの肩に顔を乗せると
「…うん」
と小さく呟いた
アンディはライシャワー公国の小公子だ
ヘンリーを解任する事も出来る
だがヘンリーを解任すればロバート団長に迷惑を掛けるだろう
アンディはヴィッキーを抱きしめたまま考えた
少し遅れてようやくデイブとダニエルがやって来た
この場の異様な空気に気付いたデイブは
「何かあったのか?」
と聞くが、誰も何も言わない
アンディはヴィッキーを抱きしめて、ヴィッキーの肩にもたれ掛かっている
「?」
少し離れた所にはヘンリーがこちらを見ている
デイブは何かあったな、と気が付いた
アンディは考えをまとめた
意を決すると顔を上げ
「ヴィッキー、ちょっと待っててね」
と言うとヴィッキーのおでこにキスをした
アンディはヴィッキーから離れると、ヘンリーに向って歩み出す
デイブはヴィッキーの側まで行くと、そこでアンディの様子を見守った
「ヘンリー卿」
「はい」
ヘンリーはニヤニヤしている
わざと自分を怒らせて楽しんでいるように見えて、アンディはムッとしてしまった
「僕は貴方を解任する事も出来る
だが貴方はロバート団長が副団長に任命したし、なにより養父上からの命もあるだろう
貴方が今後、行動を改めるならば今回は問題にしない」
黙って聞いていたヘンリーが口を開いた
「自分は騎士です
ですが騎士である前に一人の人間です
私は自分の感情に正直でありたいのです」
ヘンリーは真っ向からアンディに楯突くのだった
ご精読、ありがとうございます
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