86話 怒り
林の中をしばらく馬を歩かせていると湖に出た
「少し休みましょうか」
ダニエルはそう言うと、馬からヒョイと降りた
アンディも馬から降りると、ヴィッキーを抱き抱えて馬から降ろしてあげた
ソフィアもデイブに降ろしてもらう
「馬に水を飲ませよう」
アンディはそう言うと馬を湖に連れて行った
湖の水はとても澄んでいて湖底がよく見え、とても綺麗だ
こんな美しい湖に水の妖精・テウスを呼び出せたらなぁ、と考えてしまった
アンディと同じようにデイブとダニエルとエマも馬に水を飲ませている
少し離れた所でヴィッキーとソフィアが
「すごく綺麗な湖ね」
「透明度がすごいわ」
と喜んでいる
「あっ、魚!」
ソフィアが少し離れた所にいた小魚の群れを見つけた
「えっ!?どこどこ?」
「あそこ!」
ヴィッキーとソフィアはきゃあきゃあ喜んでいる
だが魚を探す事に夢中になってしまったヴィッキーが石を踏んでしまいバランスを崩してしまった
「あっ!」
離れた所で馬に水を飲ませながらヴィッキー達を見ていたアンディが叫んだ
魔法でヴィッキーを助けようとするが、それより先に動く者がいた
ヴィッキーは湖に向って倒れそうになったが、逞しい腕で支えられグイッと湖とは反対に引き寄せられた
ヘンリーだった
ヘンリーは側の木の枝に捕まりながら片手でヴィッキーを自分の胸の中に抱きしめると
「危ないですよ、お姫様」
とヴィッキーの耳元で囁いた
ヴィッキーは驚いて、両手でグイッとヘンリーを押し戻すと
「あ、ありがとうございます
ヘンリー先輩」
とお礼を言った
ヴィッキーは耳にまで真っ赤になっている
ヘンリーはニッコリ微笑むと
「どういたしまして」
と答えた
「ヴィッキー!」
アンディが慌てて駆け寄った
アンディはヴィッキーの両肩を支えると
「大丈夫!?」
と聞いた
「大丈夫よ、よろけただけだから
ヘンリー先輩が助けてくれたわ」
アンディはヘンリーに顔を向けると
「ヘンリー卿、ありがとうございます」
とお礼を言った
だがアンディの顔からは怒りを感じさせた
ヴィッキーを支えたまでは良い
だが、わざわざ抱きしめる必要はなかっただろう
更にヘンリーはヴィッキーの顔に近づき何か囁いていた
アンディは怒りが収まらない
だがヘンリーはそんなアンディを楽しげに見ると
「いえ」
と答えニヤニヤ笑っている
「ヴィッキー、一緒に馬のお世話をしてみる?」
アンディは少しでもヘンリーから離れたかった
「う、うん!教えて」
ヴィッキーも挙動不審になっている
ヴィッキーはアンディと手を繋ぐと、2人は馬の方へと歩いて行った
「ヴィッキー、ヘンリー卿にはあまり近づかない方がいいよ」
ヴィッキーにだけ聞こえるくらいの小さな声で言ったアンディの表情は固い
「そ、そうね」
ヴィッキーは乱れた髪を直しながら返事をした
ヘンリーの行動にも驚かさせたが、アンディが怒っている事にヴィッキーは驚いた
ソフィアも2人の後に付いて来ている
前からはデイブが近づいて来ていた
デイブはソフィアの側に行こうとしていたが、アンディ達とすれ違う時にアンディの肩にポンと手を乗せた
「アンディ、ヘンリー先輩には気を付けろ」
デイブはすれ違いざまにそう言いながら、そのままソフィアへと向かった
アンディは驚いてデイブを見た
やはりヘンリーはそういうタイプの人なのか
アンディは女性とあらば手を出す人物を嫌というほど見て来た
ホワイト帝国の前皇帝と皇太子だ
前皇帝と皇太子は仕事そっちのけで女性と戯れる事が好きで、毎晩数人の女性を侍らして楽しむのが常だった
皇太子はヴィッキーにも手を出そうとしていた
あの時はヴィッキーが魔法を使って撃退したが、ヘンリーは魔法使いだ
しかも話しを聞いているとかなり優秀だったようなので、ヴィッキーの魔法がどこまで通用するかもわからない
僕がヴィッキーを守らなければ
アンディはヴィッキーの手をぎゅっと握った
この手を片時も離したくなかった
♪♫♬ ♬♫♪
城に戻ると、ヴィッキーはソフィアの部屋を訪ねた
部屋にある応接セットのソファに座ると、侍女が温かいお茶とお菓子を準備してくれた
「驚いたわ」
ヴィッキーはお茶のカップを持ってじっと見つめながら呟いた
ソフィアはお茶がもう少し冷めるのを待っている
「ヘンリー先輩はスキンシップが派手なのよ
気にしなくてもいいわよ」
「それもだけど、アンディが怒っていた事が驚いたわ!」
「まぁ確かにね
あの温和なアンディが怒ってたんだもの、ビックリするわよ」
ヴィッキーはため息をついた
「ヘンリー先輩は悪気はないのかもしれないけど、なるべく近づかないようにするわ
伯父さまもそうだけど、普段怒らない人が怒るとビックリしちゃう」
ソフィアはようやくお茶を飲んでみた
程よい温度になっていたので良かった
「騎士団の副団長よ
一番、私達に近いポジションじゃない」
ヴィッキーは再びため息を漏らした
「アンディに悪いわ
もう、ヘンリー先輩ももう少し気を使って欲しいわ!」
「なるべく私やエマと一緒に行動しましょ」
まだ首都に向けて出発すらしていないのに前途多難だ
明日からの移動が心配になってしまった
♪♫♬ ♬♫♪
夕食も終え、アンディはお風呂から上がると、バスローブのままベットに寝転がった
城にいる間はたとえヘンリーが護衛に付いても、それは自分かデイブに付くから良い
だが外に出るとヘンリーはどこに護衛に付くかわからない
今日のようにヴィッキーの側に居る事もあるだろう
ヘンリーは護衛をしているだけだ
だけどこのモヤモヤというか、イライラというか…この感情は何なんだろ
ゴロンと転がって「うーん」と考えてみるが、わからない
アンディはわからないので気晴らしをしよう、と思いついた
ベットからガバッと起きると立ち上がり、バスローブから軽装の服にパパッと着替えた
着替えが終わると、アンディは移動魔法を使って消えてしまった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




