57話 亡命
レイモンドは執務の合間にパトリシアの元を訪れていた
今日は天気が良いのでパトリシアと庭園を散歩する事にした
パトリシアは庭園に咲いている花や蝶を見て喜んでいる
しばらく経った頃、前方から一人の少女が近づいて来た
アヤカだった
だがレイモンドがその少女がアヤカであると気付く訳もない
レイモンドからすれば、見た事もない少女だ
少女はすぐに護衛騎士達に止められた
少し話しをすると、レイモンドに向って淑女の礼をする
そして何か再び騎士と話し始めた
「あの人、どうしたの?」
パトリシアも不思議に思ったようだ
ずっと騎士に食い下がっている
せっかくの娘との散歩の時間を変な空気にされたくないと考えたレイモンドは、侍従に何事か聞いてくるように言った
騎士と少女の元へ行き、少し話しをして侍従が戻って来た
「何を揉めていたの?」
レイモンドが聞くと
「それが…自分はボルジアから来たのだが、ホワイト帝国に亡命して親戚の元へ行きたい、と訴えてます」
「ボルジア?」
今、ボルジアの使節団が滞在している
多分、その中にいた人間の一人なんだろう
使節団は明日帰るので、亡命をする為に飛び出して来たのか
レイモンドはそう考えると、侍女にパトリシアを預けた
「パット、少し待っててね」
そう言うと、騎士と少女の元を訪れた
騎士はレイモンドを見ると一歩下がり、少女は深々と礼をした
レイモンドは少女の前まで来ると
「亡命をしたいと聞きましたが?」
と声を掛けた
「はい」
少女は顔を上げた
とても美しい少女だ
「ホワイト帝国に親戚がいるのですか?」
「はい
私の母の実家です」
少女はすがるような目つきでレイモンドを見つめた
「母が5年前に亡くなり、父はボルジアの女性と再婚したのですが、新しい継母はホワイト帝国の血を引く私を疎んじて、それはそれは辛く当たります
ですから私はお祖父様の元へ行きたいと考えたのです」
「そうですか、大変だったのですね」
「いえ…」
少女はうつむいた
引っかかった!
レイモンドは人が良いとローレッタから聞いていたので、お涙頂戴の生立ちを語れば見過ごせない
アヤカはニヤリと笑った
「お祖父様は何というお名前ですか?」
「バムフォード伯爵です」
「バムフォード伯爵…」
レイモンドは少し考えると
「わかりました
バムフォード伯爵には私から話しをしておきましょう
貴女はとりあえず、部屋に戻っていて下さい」
「えっ」
アヤカはこのままレイモンドの居城にでも連れて行ってもらえると思っていた
だが仕方ない
「ありがとうございます
では一度、戻ります」
「そうして下さい
貴女のお名前は?」
「ブリタニー・フェイ・ボーンと申します」
アヤカはニッコリと微笑んだ
美しい容姿を最大限に利用したのだ
レイモンドの後ろにいる騎士は、ぼーっと見惚れている
「わかりました
バムフォード伯爵には必ず伝えます
では」
レイモンドはそう言うとパトリシアの元へと戻って行った
アヤカはチッと舌打ちしたが、仕方なく部屋へと戻る事にした
♪♫♬ ♬♫♪
アヤカは部屋に戻るとベットへダイブした
枕を抱きしめると、ゴロゴロ転がる
魔法使いの使い魔と呼ばれる鳥にレイモンドが一人になったら自分を案内しろと頼んだが、昨日は何もなかった
もしかしたら魔法使いに伝わっていないのでは、と不安になっていたら、今日になって筒鳥が中庭へと案内した
そこにはレイモンドが居た
だが一人ではない
考えてみれば、皇帝がそうそう一人になる訳がないか
それで昨日は何も言って来なかったのかも…と考え、今中庭に案内したのはチャンスだからかもしれない
思い切って近づいてみて良かった
レイモンドと話しも出来たし、恐らく使節団から離れてホワイト帝国に残る事も出来そうだ
次はバムフォード伯爵の孫として宮廷に赴き、レイモンドと接触すればいい
ただレイモンドの結婚式は4ヶ月後だ
せめて結婚式の2ヶ月前くらいまでにはジェシカを蹴落とし、自分が婚約者となっていたい
あまり時間はなかった
レイモンドが出席する夜会が2ヶ月でそう何回もある訳でもないだろう
だがさっきの騎士を見ても、この容姿ならば大丈夫か?
「絶対に大丈夫よね
私はヒロインなんだから」
アヤカは枕を抱きしめると、再びゴロゴロと転がった
♪♫♬ ♬♫♪
アンディとヴィッキーはフレッドに呼ばれて執務室に来ていた
スザンナがこの大公家に来てから既に2ヶ月が過ぎている
今ではスザンナも大公家の事や、大公妃としての仕事をバリバリこなしていた
おかけで最近はギルバートが泣き叫ぶ事が随分減っている
フレッドも大公としての仕事を軽減出来たので、魔法使いの長としての仕事を以前より出来るようになっていた
「以前、話しをした奴隷市場だけど…」
とフレッドが話し始めた
「今度、潜入するつもりなんだ
アンディも一緒に来て欲しいんだ」
アンディは驚いた
「潜入出来るんですか?」
「うん
奴隷市場の場所が特定出来たんだ
一度どんな所か見てみようと思って
奴隷の中に魔法使いが売られていないかも確認したいんだ」
「わかりました
一緒に行きます」
「私は?」
ヴィッキーが聞いた
「ヴィッキーはダメだよ
君が奴隷市場に行くと目立ってしまう」
確かにそうだ
美しく長い金髪に水色の瞳
更に整った容姿なので、奴隷市場なんかに行ったら浮いてしまう
ヴィッキーはブスッとした
「それなら伯父様だってアンディだって目立つでしょ」
それもそうだ
フレッドとアンディは銀髪だ
とても珍しいので、奴隷商人に目を付けられる可能性は大いにある
「変装するよ」
フレッドはニッコリ笑った
「だからアンディ、魔法で変装出来るように練習するよ」
「変装なんて出来るんですか?」
アンディはまた驚いた
「呪いを使った魔法使いはルシル嬢に変装していただろ?」
そう言われればそうだ
呪いを使った魔法使いには結局、接触も出来なかったので、そんな変装する魔法を見たことがなかった
「なら私も魔法で変装して一緒に行けるじゃない」
ヴィッキーがそう言うが、フレッドは首を横に振った
「ダメだよ
奴隷市場に女性が近づくこと事態、危険なんだよ」
「え〜」
ヴィッキーが膨れてしまった
だがアンディはそれすらも可愛いと思えてしまう
「ヴィッキーはスーとここに残ってて
大公家の方を頼むよ」
ヴィッキーは仕方ないので諦めた
フレッドはアンディを見ると
「じゃあ早速、変装の魔法の練習をしようか」
と誘うのだった
ご精読、ありがとうございます
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次話もよろしくお願いします!
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