2話 愁い
本来なら、アンドレアスから話し掛ける事はマナー違反だ
だが皇太子の不躾な行動を止めるため、わざと声をかけたのだ
ウィリアムズ大公も皇帝もそれがわかっているので、あえてアンドレアスを責めたりはしない
すると皇太子がヴィクトリアの手を取ると口づけを落とし
「申し遅れました
ジェイムズ・リチャード・ホワイトです」
とようやく挨拶をした
皇太子は黒に近い茶髪だ
瞳は皇帝やウィリアムズ大公と同じく緑色をしていた
ヴィクトリアはニッコリ微笑み
「ヴィクトリア・フィアナ・ウィリアムズと申します」
「デイヴィット・レイ・ウィリアムズです」
続けてデイヴィットも挨拶をした
明らかに不機嫌な顔だ
「お2人は私とは従兄弟なのですね
これからも良き友であり臣下であって頂きたいな」
「はい」
デイヴィットが心のこもっていない返事をする
「特にヴィクトリア嬢とは親しくなりたいな
一曲、踊って頂けないかな?」
え?マジ?
ヴィクトリアは驚いた
この舞踏会は皇太子妃候補のお披露目会だ
それなのに、皇太子妃候補でもない自分と一曲目を踊る?
何、考えてんの
と言いたいが言える訳がないので、父親をチラリと見た
ウィリアムズ大公は
「皇太子殿下、今日は皇太子妃候補のお披露目でもあります
候補でもない娘と踊る事は、お控え下さい」
ジェイムズ皇太子はウィリアムズ大公を睨むが正論なので反論出来ない
「では今度お目にかかれたらぜひお願いします」
「はい」
ヴィクトリアは貴族スマイルで答えた
♪♫♬ ♬♫♪
アヤカは皇太子が皇帝に呼ばれたので、早くこちらに戻って来ないかと待っていた
皇太子は皇帝から人を紹介されたようだ
その中にとても美しい少女がいて、その少女の手にキスをしていた
あんなキャラ、見た事もない
モブだろうけど、皇太子にキスされるなんて…と考えていた
身分も高そうで見栄えも美しい
あ!よく乙女ゲームにいる悪役令嬢かも!と思った
悪役令嬢あるあるの高貴で美人!
間違いなさそうだ
だが自分がこのゲームをやっていた時には悪役令嬢なんて出て来なかった
まぁ、ゲームのストーリーは自分以外の候補者との戦いだから、あまりあの悪役令嬢は気にしなくて良いのだろう
候補者の6人の令嬢の内、3人は知っている
侯爵令嬢と伯爵令嬢と男爵令嬢は知っているキャラだ
あとの3人は始めて見るキャラだ
知らないキャラは、どんな行動をするか予測が出来ないので、注意しなきゃ
と、アヤカはライバル6人を観察した
♪♫♬ ♬♫♪
皇帝は皇太子とウィリアムズ大公を伴い、皇太子妃候補者へと歩み出した
やっと行ってくれた
ヴィクトリアはため息が出てしまった
「兄の皇太子が不躾な態度を取ってしまって、申し訳ありません
きっとヴィクトリア嬢の美しさに目が離せなくなったのでしょう」
アンドレアス皇子が皇太子に代わって謝った
ヴィクトリアは隣に立っているデイヴィットの上着の裾にキスされた手の甲を拭いている
「目が離せないというよりは、品定めされた気分です」
ヴィクトリアは気分を害した事を隠さずに言った
「ヴィクトリア」
デイヴィットが止めようとしたが、反対にアンドレアス皇子が
「確かにそうですね
父や兄は女性に目がない上に、それを止める人間もいないので困ったものです」
デイヴィットとヴィクトリアは驚いた
この帝国の、しかも皇后を母に持つ第2皇子が皇帝と皇太子を非難したのだ
2人の驚いた顔を見て
「ここだけの話で」
と言いながらアンドレアス皇子は口の前に人差し指を立てた
デイヴィットとヴィクトリアは「ぷっ」と笑ってしまった
♪♫♬ ♬♫♪
馬車はウィリアムズ大公の居城に向かって走っている
馬車の中にはウィリアムズ大公夫妻とデイヴィットとヴィクトリアが乗っていた
「父上の仰る通り、ジェイムズ皇太子は…」
デイヴィットがここまで言って、言葉を濁した
「クズね」
ヴィクトリアがハッキリ言う
更に母のティファニーも
「親子揃ってね」
とトドメの一言を放つ
「困ったものだ…」
ウィリアムズ大公はため息をついた
兄である皇帝陛下は皇后陛下以外に皇妃が8人いる
更に目に付けば、すぐに女性に手を出すのだ
同腹の弟である自分の妻のティファニーにも手を出そうと狙っている
そしてその息子である皇太子殿下も同じタイプだ
侍女に次々と手を付け、毎夜乱交を楽しんでいる
今日発表された皇太子妃候補も、すぐに手を付けるだろう
これで政治はしっかりとしているならばまだ良いが、そっちには全く興味がない
ほとんど宰相である自分の仕事だ
ウィリアムズ大公はこのホワイト帝国の先行きに不安を抱いていた
♪♫♬ ♬♫♪
皇帝の居所の後宮では、皇太子妃候補達を一室に集めて話しをしていた
「私はジェイムズ皇太子殿下の補佐を努めますケント・ジョンソンです
この後は皆様に充てがわれたお部屋へとご案内いたしますので、本日はこれでお休み下さい
妃教育は明日より順次始めていきます
そして皇太子殿下のスケジュールにもよりますが、毎日お一人すつ皇太子殿下と夕食を共にして頂きます
明日はガルシア侯爵令嬢を予定しておりますので、ご準備しておいて下さい」
などなど、長々しい説明かされた
この候補者7人は何をするにも身分で順番が決る
だからまず一番最初は必ず侯爵令嬢なのだ
アヤカはまずどの候補者を潰そうかと考えていた
やはり侯爵令嬢が一番厄介だが、この侯爵令嬢はなかなか難しい
なので男爵令嬢をターゲットにしようと考えた
この男爵令嬢は容姿は普通で身分も低い
だが多産系の家系という事で選ばれている
ゲームの中でもすぐに妊娠するのだ
この帝国は妊娠したから皇太子妃とはならない
ジェイムズ皇太子は皇后の子供だが、皇妃達の産んだ異母兄弟がたくさんいる
皇太子の兄や姉も何人もいるのだ
先に産まれたからではなく、誰から産まれたかで身分が違うのだ
男爵令嬢はあまり強いキャラではないので、大体ゲーム終了時は皇妃の一番下ランクだ
なのであまりムキになる程のキャラでもないが、ゲームと実際の違いを体験したいので、アヤカはまず男爵令嬢を潰す事にした
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