快速列車は止まらない Chapter8 ~交点、マイナス5cm~
chapter8 ~交点、マイナス5cm~
前のchapterで言われたように、私たちはハイジャックをする必要があった。
これが生徒のためだとはあまり思えないし、となるとだれが何のために…と考えたが分からないので自然と考えなくなっていった。
「ハイジャックって言ったって…どうすれば…」
三原先生がいなくなった後、みんなで1限目の先生が来るまで相談をしていた。
1限目の担当の科学の先生もどこかのクラスでデイリーミッションの説明をしてからくる関係で遅れているのだろう。
「なんか…案ある人とかいる?」
と、言い出したのはクラス委員の"近藤ひな"だ。
彼女は多くの人とコミュニケーションの取れる、優秀なとりまとめ役となっている。
「そうは言われても、今までそんなこと考えたことないし、授業をハイジャックなんてしたら、後々のテストとかに支障が出るんじゃ…」
「まあたしかにそれはそう…ね、しかも今回の雰囲気的にテストの日のミッションとかはテストに関連してきそうだし…」
「そもそもハイジャックってどうやるのよ」
「それを話し合うんでしょ」
「あと、何限目をハイジャックするの?」
「それも今、話し合って決めないと」
「でももし1限目をハイジャックするならもう先生きちゃうと思うけど」
「でも科学、実験するって言ってたじゃん。実験やりたぁい」
「実験なんて今回逃してもまたできるじゃん。それに実験だったら講義より支障ないと思うから俺的には、
ハイジャックするなら1限目にやるのが効率的な気がする。早めにミッション片づけたほうが、楽だし」
「まあたしかに嫌なことは早めに終わらせたいよな」「でも授業受けなくていいことはいいことじゃね」
「俺トランプ持ってきたから、ハイジャックしたら大富豪やろうぜ」
「ちょっと男子、勝手に話進めないでちょうだい」
「でも、近藤さん。男子の言う通り早めに片づける方針のほうがいいんじゃないかな」
「そうね…」
クラス内での話し合いの結果、このデイリーミッションは極力早めにこなすことがまず最初に決まった。
「次に…ハイジャックってどうやるの?」
「科学の先生を教室に入れない…とか?」
「罠でも作るか?」「え、それめっちゃおもしろ!俺バケツに水入れてぶっかけてやりたい」
「だから男子だけで勝手に進めないでって言ってるでしょ」
「じゃあ女子はなんかいい案あるのかよ」
しかし女子は誰一人として話さなかった。誰もいい案を思いつかなかったのだろう。
そして結局男子の提示した"罠"や"教室に入れない"という方針で固まった。
まず教室のドアや窓を施錠して机でバリケードを作った。
「これで入口は0だぜ」
「完璧だな」
「でもこれだけでほんとにいいのかな…」とひばりは誰にも聞こえない小さな声で言った。
あとは特にすることもなく科学の先生を待った。
科学の先生は2分も経たないうちにやってきた。
ドア越しで「何をやっている!」みたいなことを言っていたけど、誰一人として聞くことはなかった。
やがてチャイムがなって1限目が終わった。
すると科学の先生から話を聞いた担任の三原詩織がやってきて、
「今日のデイリーミッションはクリアだ。あとは自由にしていいぞ」
と告げて教員室に帰っていった。
一体このデイリーミッションは何のためなんだろうか。
その日の昼休み、校内ではどこもかしこもデイリーミッションの話ばかりで、ひばりたちも例にもれずデイリーミッションの話をしていた。
「なんで急にこんな意味の分からないことが課せられたんだろう?」
「何か意味があるとしてもそれが分かるのはきっと先のことだろうし、これを企画した本人もおそらく短期的じゃなくて長期的に考えて
影響が出るって思ってそうね」
「ある意味では影響出たけどね、今日の実験楽しみだったのに」
「みーちゃんずっと編み物して暇つぶしてたもんね」
「はぁ…」
「でもさぁ、なんでハイジャックなんだろう」
「うーん」
「ハイジャックされたら、授業をしなくても先生たちの給料が出る…とか?」
「それで高校合格実績とか内申が悲惨なことになったら元も子もないでしょ」
「たしかに」
その後も話し合ったがこの3人は結局
「まあいつか分かるよ」というみふゆの言葉でこの話し合いを終えた。
いつか、この世のすべての物事は分かる、なんて都合の良い世の中だったらいいなと、脳内に陽太を思い浮かべながらひばりは思った。
陽太はどこにいるんだろう、何を知って、何をして、何のために…?
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家のカギは自分用のものを持ったまま田辺に行ったので、家に着いたらすぐに鍵を開けることができた。
一応ただいまは言わずにあがったものの、もぬけの殻でありひばりはいなかった。
「まあ時間的に学校かな」
陽太は久しぶりに自分の部屋に戻ってみた。家を出たときからその部屋は時間が止まっていて、何も変わっていない。
「お茶でも淹れるか」
1階に降りて、ティーパックを使ってお茶を作ろうとした。
家に入った時から少し感じていたものがある。
「まるでこの家は人が住んでいないかのよう…」と。
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本当の感情の起伏は、2人以上の人物が刺激しあうことでしか求められない。離れ離れになった2つの物質は波を発せない。
しかしXY平面では、2直線の傾きが一致していない限り、その2直線はいずれ1点で交わることができる。
しかしその点の先はただ差の広がる永遠の無法地帯だ、と。
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『現在、○○電鉄△△線××駅での人身事故の影響で列車運転を見合わせています。JR線で振り替え輸送をしていますのでそちらをご利用ください。
運行再開見込みは…
chapter13です』
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また次回の"かいとま"で会いましょう!またね!