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快速列車は止まらない Chapter0 ~皆無~

 この世の中にはありとあらゆるモノを手に入れる術が確立されている。市場、裏社会、そういった経済の根本をつかさどるモノが資産を持つが、それもモノの1つだ。

そんな価値の僅かな部分ばかりに着目すると、人は大事なものを見落とす。

「あぁ、今日もまた快速列車に乗ってしまった」


chapter0 ~皆無~


 夕ラッシュのさなか、僕は例の列車に乗って帰路に就いていた。少しだけ眠たいが人が多すぎて揺れるたびにぶつかり合い、とてもではないが眠ることはできない。最寄り駅の2駅手前の駅で降りて乗り換えて、最寄駅から歩いて、合計30分くらいで家に着いた。

「おかえりなさい。お兄ちゃん!」

 家に着くと妹の"ひばり"がばたばたと音を立てながら階段を駆け下りて出迎えてくれた。僕は作り笑いをしつつ、「ただいま」と一言だけ呟いて自室へと向かう。どうやら今日も両親はいないようだ。階段を上る途中で後ろにいる妹が何か言っているようだったが、疲れていて頭が働いておらず、何も入ってこなかった。

〈ばたん〉

 僕がドアを閉める大きな音が、静まった夜の家の中にこだまする。その後は「あぁ…」という妹の小さな声だけが残った。


_____


…プルルルルル


「朝か…」重い体を持ち上げる。

(昨日の夜の記憶がない…帰ってきてすぐにベッドで寝てしまったのか…)

 こうして僕…いや…俺の新たな日々が始まった。まさか1年後、あんなことになっているとも知らずに…


_____


「…おはよ~お兄ちゃん、あーねむ」ひばりはいつものように階段を下りてリビングへと入ったがそこには誰もいなかった。

「あれ?お兄ちゃん?いないの?」よく見てみるとダイニングテーブルの上に小さな紙が置いてあった。


 それは4枚の1000円札だった。なぜお金が置いてあるのか、ひばりは少し疑問を抱く。そう思ってあたりを見てみると兄の私物がない。箸、歯ブラシ、タオル…兄のものだけなくなっていた。ひばりは不安になって兄の部屋に向かった。中に入るとそこにはベッドと机のみが残されていて生活感どころか埃の1つすらなかった。

(もしかして私…お兄ちゃんにすら…捨てられたのかな…)

 誰もいなくなった家で一人気持ちをかみしめた。家に誰もいないとはいえ、時は留まることを知らない。学校に行く支度をして、そそくさと家を出た。


 8時になると同時にひばりは学校に着いた。

「あ!みーちゃんじゃん!」敷地内に入ると同時に後方から声が聞こえて振り向く。

「きーちゃんおはよ!」いつもと変わらない笑顔で返す。

 声の主は同じクラスで、親同士も仲が良く、幼馴染の木村梨花だ。その隣には同じく幼馴染の淵辺みふゆもいる。お互いそれぞれの苗字の一番最初の文字に伸ばし棒と"ちゃん"をつけて呼び合っている。

「あれ?ふーちゃん髪型変えたー?」ひばりはこれまた大きな声でみふゆに問いかける。そんな雑談をかわしていると、校門の隣にあるグラウンドの方で、陸上部の朝練の監督をしている、鬼教頭として有名な橋本先生がやってきて、

「うるさいぞ!朝早くから騒ぐんじゃない!」と言ってしかりつけた。おもわず「そっちの部活のほうが朝早くからうるさい」と言おうとしてしまったが、なんとか思いとどまった。


 8時30分になり朝のHRが始まる。もう中3になって6か月が経ち、文化祭や運動会などの主要な行事も終わり、あとはただ授業とテストをひたすら、ひたすら。ひばりは教室の窓に手を当てて静かにため息をついた。


_____


 何事もなくいつも通りの授業を受け、昼休みになった。ひばりは幼馴染らと裏庭に来ていた。何を隠そう、この3人はみんなとてもかわいく、教室で集まっていると周りからの目が気になってしまうほどだ。そうなると友達も多そう、と読んでいる人は思うだろう。

 しかし現実は非情である。天は二物を与えずとはよくいったものだ。この3人はみな、人見知りなのである。そのため保育園や小学校でも人気のないところへ隠れて、そこで密談のような雑談をすることが多かった。今までの中学校生活でもそれは同じで、2年半の間こうして過ごしてきた。あと半年の残りの期間もこんな生活をしていくのだろうなと、3人は信じて疑わなかった、と普通はそうなるのだろう。しかし本当に今も人見知りなのはこの中の1人だけである。


「そういえば、ふーちゃん」ひばりが顔を下に向けて小さな声で聞いた。

「何ー?みーちゃん」みふゆが聞き返し、梨花も聞き耳を立てる。

「もしも…もしもの話だよ?もしも生まれた時から自分の中でほんっとうに1番大切に想っていた人が、ある日…ある朝、突然いなくなっちゃったら、どうする?」ひばりは少し目を潤ませる。

「えー?それって私たちのこと?」梨花が返す。

「私たちはずー--っとずー--っと一緒だよね!きーちゃん!みーちゃん!」

「そうだよ!そんな余計なこと考えなくていいんだよ、みーちゃん」

梨花とみふゆは楽しそうに笑いながらそう言った。その言葉がその時のひばりには少し、いやかなり重かったのかもしれない。


 午後の授業が始まった。ひばりは相変わらず外を見ていて内容は頭に入ってこなかった。


_____


 孤独なとき、人間はまことの自分自身を感じる トルストイ


_____


 首都東京を出て普通列車を乗り継ぎ、かれこれ13時間くらい経った。ここは和歌山のとある田舎町だ。俺はここの町から少し山に入ったところにある神社に用がある。予定通り宅配便で多くの荷物が仮の家にすでに届けられていた。もう日が暮れる。長旅で疲れていたため、少し腰を下ろすことにした。

「そういえばひばりには"重すぎること"だから何も言わずに出てきたが、大丈夫だろうか。一応そんなにはかからないはずだけど」


_____


 学校の授業が終わり、ひばりたちは家に帰る支度をしていた。そこに同じクラスでひばりに好意を寄せている新村清がやってきた。清とは一応小学生からの仲だ。「今日、なんか様子変だったけど、どうした」少し照れながら清は聞いてきた。清は男子の中では人気があるものの、女子と話すことは慣れておらず、まあ一般的な男子生徒といった感じだ。ひばりは「ううん、なんもないよ」と頑張って作り笑いをして返したものの、少し無理があったようで清に見破られてしまった。

「正直に言ってほしい。お前が悲しんでるのにそのままにしておくのはつらい…から。俺の自己満かもしれないけど、話せる内容なら話聞かせて!」

ひばりは「いやほんとになんともないから」と言って教室から飛び出した。

ひばりは必死に無心で、見えない何かから逃げるかのように走った。涙が後方に散る。

「私の…ばか」


「あ、ひばり、ちょ、」清は手を伸ばしただけで動くことはできなかった。

そこに梨花が近づいてこう言った。

「多分、今はそっとしておいてほしいんだと思う」

そこに先生がやってきた。担任の先生は山田洋子という名前で45歳のおばさんである。山田先生は教室に残ってる人に

「この後20分くらいで雨が降り出すっぽいから気を付けてね」とだけ告げて教員室のほうへと向かっていった。

「やば、今日傘持ってきてないんだけど」みふゆがそう言うと梨花がバックの中をあさりながら言う。

「大丈夫、私は折り畳み傘持ってきて…あれ、どこだ?」がさがさと音を立てる。

「ない!ない!なーい!」梨花は両手を頭に当てて「清君持ってたりしない?」と聞く。

清は「1本ならあるけど…」と言うとみふゆと梨花が同時にきらきらした目を清に向けてくる。

かわいい顔が2つ、それも目の前に迫っている緊急事態に清は顔を赤らめる。

「ふーちゃん、これは勝負だよ」「もちろんわかってるよ、きーちゃん」

2人は顔を合わせてにらみ合う。どちらが清の傘に、つまり清と相合傘をするという謎の勝負が始まった。

「いやいや、まだ降ってないんだから今のうちに変えればいいでしょ」と清が仲介すると

「あ、そっか」とみふゆと梨花は同時に言った。

そうしてなにごともなく3人で帰り、それぞれが家に着いた後で雨は降りだした。


_____


「うわ、雨降ってきちゃった…家帰りたくないよぉ…」ひばりは公園の公衆トイレの屋根で雨宿りをしていた。

あたりはなぜかふにゃふにゃって感じ…というかぼやけて見え、とてもではないが何も考えられる状況ではなく、動けなかった。

「お兄ちゃんのバカ…」


これはひばりのエゴと成長、そしてその家族の物語だ。


ー快速列車は止まらないー 

続く

読んでいただきありがとうございました。

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また次回の"かいとま"で会いましょう!またね!

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